第三十三話 妖精騎士アイギスさんと百合百合んな日常(5)
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なんとかこのアイギス、娘アイリ含めた子供たちから朝っぱらからの情事を隠し終えた。
てかアイリ以外は3歳児の男の子と赤ちゃんだから。適当に言い訳を見繕えば取り繕うのは容易い。
……で、今は外で昼食を取った後、洒落たカフェテラスで一服中。アステリアと一緒にね。
もちろんアイリは傍に居てる。
赤ちゃんとアル君は午睡の時間になったのでベビーシッターが板に付きまくった魔神将ハーケルマインと家に戻って貰った所だった――
「ふぅ。やっと一息って感じかなぁ」
「がうがうがう」
「完全におまえを忘れてたわ、ケルヌンノス」
日傘を差したテーブルの席にもう一匹、角生やした子熊みたいな野獣が居るの。コイツもカフェの席で砂糖菓子をかっ食らってたわ。
「お前、喋れないのに食べるのは人間見たいに食べるよね。フォークも使えたり」
「お母さん。ケルヌンノスは人間みたいに喋れないだけで頭は良いの……他の獣の子よりは、だけど」
「でも、アイリ。それだとわたしの〈妖精言語〉で意思疎通できないとか……その理由が解らないのよね。古狼の方が頭が良いのかな?」
「ああ。それはですねぇ……推測ですけど神さまだからだと思いますよ? 〈妖精言語〉って精神感応系の一種の魔法言語だと思いますから無効化されてるのかも……パク」
「精神耐性に穴あるクセにわたしの技能には抵抗するのぉ……。てか良く食うよね? アステリア」
喋りながらバクバク食いやがる。そのデザート高いんだぞ。先進国のお手軽価格じゃないのよ。その十倍はするんだけど? パン屋の親父、お手製だぞ。
「奢るって言ったの誰ですかね……?」
「わたしに二言はないけどさぁ。この街の職人さんの月収4分の1をデザートに変えられて御覧なさいよ。それを遠慮なく食われたら言いたくもなるでしょう……せめてもっと味わいなさいよ」
「月収4分の1……銀貨で十何枚とかですか。いや、それくらい稼いでるでしょうアイギスさん。神祖の妖精王ともあろう方が」
「金の話をしてんじゃないんだよ……コレだから先進国の連中は。贅沢は敵だぞ」
「金銭感覚が庶民地味てますよね。……解らなくは無いですが」
で、以外って顔されるの、このアステリアって女に。
遠慮ってものが無いんだよ。後、慎み深さとか。聖女とか云われてるらしいけど、本当に血筋だけじゃん。
「……どう考えてもこっちで言う冒険者とかのそっち系の人間だよね? アステリアってさ。カタギじゃないでしょ」
「……まぁ、解ります?」
「金銭感覚が大雑把、稼いでるから。しかもがさつ、細かい所は気にしない。それで居て勘だけは鍛えられてんの。……斬った張った、それなりに修羅場潜ってんな、って解るよ。仕事人の典型的な生き方してるよね……」
「刹那的、って言われてるようであんまり好みの評価じゃ有りません〜」
「その言い方、自分で可愛いと思ってんの? 良い歳した美人がさ。二十歳くらいって、こっちの大陸じゃ良い大人なんだよね。で、実年齢」
「あのですねぇ……別に媚売ってる訳じゃ無いんですよ。素直に表現してるんですよ。正直年齢なんてどうでも良いじゃないですか。オンリーワンの自分で居たいんですよね、わたし」
「だから、彼氏とかできないんだよ。自分を取り繕ったりできないから。そのままの自分を認めて欲しいのは解るけどさぁ」
黒髪美人のお姉さんが口許を引き締めたの。何か言いたげな表情になった。
ほら、独り身なのは気にしてるのよね。
「……何が言いたいんです?」
「本っ当に、余計なことだけど言ってあげるね。借りが有るからさ。もう少し人のことを考えなよ。絶対にそれが良い人できない原因だから。……気を付けても性格は直らないとは思うけどね」
「…………。いきなりなんです? 私のこと気に掛けてくれて……。いえ、思い当たる節が有りますから余計とは言いませんが」
「お礼だよぉ。どうせアスタロッテにたちの悪い悪戯仕掛けられるだろうから。……善人なのは良いけどさぁ。いつまでも自由奔放には生きられないのよ……身を固めたいなら。普通はね」
「――」
図星告げられたのか、視線をわたしからずらすアステリア。解っちゃ居るけどやめられないってタイプだよね。居るんだよ、冒険者でさぁ。わたしも似たようなもんだし。
まだ、やんちゃしたい年頃ってね。ほら長命種とかだとティアエルとか千歳以上なのに性格あんなのでしょ。多分、歳とか関係ないの。
老化とか、肉体に引きづられないからずっと感性とかが若いんじゃない?
そのアステリアは、すぐに気を取り直してわたしを見直すのよ。人生経験長いから"自分"を取り繕ろうのに馴れてるとかそういうのでしょ?
偶にそういう人が居るんだよね。
「スケコマシ過ぎですねぇ……女誑しって言われません? 男でも構いませんが」
「誑す要素あった?」
「その、人のことが解るって点ですかね」
「逆にアステリアは鈍感そうだけどね。……ちなみにないわ。わたしがソッチって気付いたのシルフィちゃんと出会ってからだから」
「シルフィちゃんって最初の彼女さんでしたね……」
「良く知ってるよね……?」
そういや、アステリアとわたしの家族の交友関係だとかまったく気にして無かったの。今まで所詮は他人よ、くらいの気持ちだったわ。
「で、出会ったのが去年。……そして今、彼女が7人? 誑し込み過ぎじゃないですか。何人彼女さんを増やす気なんです……?」
「……」
今度はわたしが表情を強張らせる番よ。
次は、次はないと信じたいの。
この今の百合ハーレム体制は奇跡よ。こんな幸運続けて起こる訳ないじゃない。増やし過ぎたらどこかで破綻するに決まってるよぉ。
きっちりそれを指摘して来るアステリア。
「気になった子……ほっとけ無いんでしょう? 解らなくはないんですよ。彼女にしようとは私は思いませんが」
アステリアの癖に生意気ぃ。
自分と逆って言いたいの? そうだよ、その為にわたし、今日頑張ったのよ。みんなを幸せにする為に。
やり遂げたときはもう放心状態で感無量だよ。
わたしだって出来るって自分を褒めてあげたい気持ちになったの。予めその手の小説やらを読んで、予行演習は済ませてたのよ。
ちなみに体感的なのは結局、わかんなかった。
恥ずいと思う心を雰囲気で流しまくり、途中から攻めに転じたわ。そっちでもわたし鉄壁過ぎる。
ん? でも待てよ?
「……アステリアさぁ。妥協してわたしとやって見る?」
「!? どうして私とぉ!」
「おう、驚いてやんの。いや、愛が無ければ、肉体だけの関係なら有りじゃない? ほら、こっそりさぁ」
よほど突拍子も無かったのか慌てふためいてテーブルの椅子からずり落ちそうになるアステリア。美人がやると絵になるの。
「あ、あ、貴女! アイリちゃんの前で! トチ狂いました?!」
「半分冗談に決まってるでしょう?」
「半分本気じゃないですか!」
「いや。だって、どうせアスタロッテに狙われてるんでしょ。で、生き方は変えられないんでしょう? でも彼氏は欲しい。……わたしなら、ほら、全部受け入れる度量の深さがあるじゃない?」
「アイギスさん。今日の朝まで私と大喧嘩してたこと忘れてません? なんです、その気の変わりようは」
「いや、わたし妖精だから自分でも有り得ないくらい気分コロコロ変わるよ? で、一途なの。セフレなら有りかなぁ、って」
「だからアイリちゃんの前で、恥ずかしくないんですか、って言ってるでしょうが!」
って言うからわたしは娘を見つめるの。
アイリ……アイリなら解るよね、わたしのこと。
するとアイリは顔を傾けて、う〜ん。って少し考えてくれるの。栗色の髪と紅髪から生えた猫耳も動いてる。わたしの娘、獣要素もあってマジ可愛い。
ちなみにアイリだってそれなりに性知識は有るの。具体的な事は教えてないからまだ解んないんだけどね。つまり見せなきゃセーフ。
(バレなければ犯罪じゃない的発想)
「お母さんは……家族みんなを愛してるから。増えても、問題ない?」
「若干、疑問に思われてますよ。てかアイリちゃんはお母さんが増えるのは……ああ、問題はないんですね」
「うん。お母さん増えても、お母さんと一緒に居られれば……アイリは良いの。だってそれが愛なんだよね?」
わたしは思わずその解答に娘を、アイリを抱き締めるの。もう絶対に離さないわたしの娘。こんなお母さんの事を理解してくれる娘、どこの世界にも居ないよぉ。
「もう、アイリとはずっと一緒だよぉ」
「うん……アイリも」
アイリもわたしの事を抱き締めてくれるの。
相思相愛、母娘以上の絆すら感じられるの。他人から見たらちょっとヤバめの関係だけど。
それが何よ文句有る、アステリアと、わたし達の関係に釈然としない顔した美人を睨むの。
「もう娘の理解は得られてるんだよね。でなけりゃ増やせないでしょう……?」
「いや、それと私をセフレにするという発想が理解できないんですがね……恋人にするより不味くないです?」
「恋人の前段階、お試し的なヤツで、よ。まさか婚前交渉も無しだとか言わないでしょうね?」
「言いませんが貴女とはないでしょう、貴女とは。そもそも女性同士に興味有りませんって。逆に貴女、男性とは無理でしょう?」
「一切興味湧かない、恋愛方面ではね」
「私もですぅ。女性の肉体に欲情したことはないんですから」
「嘘付け、男にもないでしょ?」
「いやいやいや。そりゃ歳食ってるから反応はしませんがね。って、シャルさんには大反応したじゃないですか」
「それは男の娘という存在への動揺だよ、恋愛以前の問題でしょ。なにより、人を好きになることに本来は男とか女とかは関係ないのよ。好みが男か女に片寄るだけで……男と女かは後付けだよね」
でなけりゃ同性愛者とか居る訳ないじゃない。好きと実際にパートナーになるかは別にしても、好みはもうそれまでの人生経験だと思うんだよね。
「解らない話じゃ有りませんが、それでも貴女とはないでしょう。で、参考の為に聞きたいんですが私のどこに惚れたんですかね? 」
「肉体かなぁ。このわたしを誘って来やがる……」
「娘さんの前で億面もなくはっきり言いやがりますねぇ。返しやがれ私の配慮と気遣い」
眼の前の女、スタイル抜群なんだよね。
これを我が物としたい男子的な欲求? 微妙に若奥様的な容姿でもあるしさ。若干、わたしの母性を求める心にも反応すんのよ。
わたし、アイギス欲望に忠実な女よ。最近なぜかそういう欲求が心の中に芽生えるんだよね。
心の内側から、もっとやれ、って囁くの、わたしのゴースト的なヤツだと思う。
「初対面で人を誘惑しといて良く言うよね。で、心根も悪くないから相手してあげようってわたしの気遣いだよぉ。どうせアスタロッテに物にされたらわたしが相手しなきゃいけないんだしぃ」
「あの魔大公に堕ちる要素が一切、自分では皆目見当付かないんですが……?」
「堕ちるんじゃないの、堕とされるの。わたしがそうでしょ? もう完全に標的捕捉されてるよ。うちに預けてる時点で顔合わせじゃん。まず、こっちに慣れて貰おう、ってね」
顔を引き攣らせる黒髪美人のアステリア。知ってたでしょ? 嗜好をこっちに引き込む気なんだよ。アスタロッテに言われずとも解るって。で、頭良いからアステリアも知ってるの。
ただ、わたしも知ってるかは解らなかったな?
そりゃ犬猿の仲みたいな相手だからね。で、わたしが認めてしまったらもう準備は万端よ。最悪は無理矢理に手籠めにされるって意味で。
やろうと思えばわたし達ならできない事はないよね?
「立場悪いよねぇ……?」
「……何が望みなんです? わざわざ言いませんよね? 本当に身体が目当てとか言わないでくださいよ」
「いや、ただ単にお母さんが増えるかも、ってアイリに教えてるだけの話だよ。嫌なら頑張れ。ただ……」
「……? ただ?」
言うかどうか迷ったんだけど、結局言っちゃう事にした。
「うちの家族に入れてあげても良いかな、って思うくらいには妥協できる。貴女みたいなじゃじゃ馬、わたしくらいじゃないの、許容できるの。後、アスタロッテ」
「妥協って貴女……まぁ深くは聞かないで置きましょう。他のご家族さんと愛し合える自信もないのでお断りさせて頂きますよ」
と、アステリアが笑顔を見せて断って来たの。大人だよねぇ。わたしも無理矢理にしたい訳じゃないから。別に良いんだけどね。
それに家族との相性問題は確かにある。
「ま、今回の借りに対するお礼……警告だよ。せいぜい頑張んなよ。わたしからは手出さないから」
「あの、気遣うならアスタロッテさんどうにかしてくれません? わたしの独り身に対する配慮とか要りませんから。本当に余計なことですって」
「……さっきの笑顔どこいった。そこは大人な対応して断りなよ。気合い入れて捕虜生活を耐えなよ」
「せめて私の前でイチャイチャするのやめてくれませんかね。耐え切れそうにないんですって」
コイツよぉ。大人っぽいことする癖に臆面もなく弱音を吐くんだよ。
そこは耐え切って見せるとか根性見せる所じゃないの、ってわたしは思うんだど。
「だから言ったでしょ……こっそりわたしとどうよ? って」
「は……? って! そんな気遣い要りませんよ! 回りくどいにも程があるでしょう、後、娘さんの前!」
「いや、教育の一環も兼ねてんの。そういう関係も有るって。傷を舐めあったり寂しさを補って、慰めあう関係、みたいな? 大人の世界は色々あるって教えなきゃ」
「娘さんへの情操教育がいきなり高度過ぎませんかね。なんで身体張ってるんです?」
「いや、わたしの娘よ。すぐに解るって。真実の愛との違いをしっかり教えなきゃ。でもそういうのも必要な人居るの。――アイリ、そういうことだから。アステリアは可哀想な人だからね、喧嘩するのも愛を求めるがゆえなんだよ」
「……アステリアさんは……お母さんが、ううん。アイリのお母さんじゃなくて、愛する人が欲しいの? でも、居ないから他の人を愛したら良いってことかな?」
「娘よ……大正解。ちなみに愛する気がないのに愛してそのまま真実の愛に目覚めるとかそんなパターンとかも有るよ。わたしとアスタロッテとかはそれと似た恋愛かな」
アイリにはそれこそ色んな恋愛の形を知って欲しいの。大人になるまでにね。その上で、わたしを選ぶならそれは仕方ないよ。
……最低限、選ぶ自由があるって知って欲しいの。わたし一辺倒じゃ良くないと思うしさ。
もう本能でわたしを求めちゃうからわたしと離れるのは難しいらしいけど……
「わ、私を教材にしないでくださいよ。……あ! だからわたしと! 貴女、破廉恥過ぎませんかね!」
「今頃、気付きやがったの……」
もちろん、このアイギス。営みの経験値にする気であった。そこに気付かないのが子供だよねー。
「でも潔癖にもほどがあるじゃない。子供じゃないんだから一度や二度は失敗して見ろって」
「だ・か・らそれが余計なお世話なんですって。どうしてわたしの恋愛観に揺さぶり掛けてくるんですか!」
「だって、アスタロッテが惚れてんでしょ。貴女に。興味ない子には入れ込まないよ、あの娘」
「……それが最悪ですねぇ。魔女王と天使王の娘に、マジで入れ込まれてるんですか。それ、謀略とか無しでですかね?」
「込み込みだよぉ。でも、惚れてるのは確かだと思うよ。じゃなきゃこんな手の込んだ真似しないでしょ。そういう娘なのアスタロッテは。どういう答えを出すか、見守ってるぞぉ……アステリア。――アイリやったね、家族が増えるかもよ」
「増えませんよ。ですが、その節はよろしくお願いします」
「最後まで抵抗しなよ……でも、やけに殊勝じゃない? その弱腰なのはどういう意味?」
「いや、洗脳されるとかそういう可能性も有りますからね。最悪は考えますよ。その時はぶっ飛ばして正気にさせてください。……ですが、どうして毎度、毎度こんな厄介なことになるのか……はぁ」
アステリアが益体もないって、辟易したように溜息付いて落ち込むの。
でも、それはね。色んな事に首突っ込む主人公気質だからとわたし思うの。まず、善人でしょ?
冒険者ギルドにわたしの代わりに派遣したら評判良いし、凄く美人。しかもやたら強くて性格もやんちゃだけど人当たりも悪くなくて良いしね。
今日の件もお節介焼くしよぉ。惚れられない訳がないのよね、その優しさに。
「まぁ、諦めなよ。わたしも同情しない訳じゃないけどそれはもう身持ち固めて人生守りに入るしか逃れる術がないわ」
「……クッ」
アステリアも歳食ってるから解るでしょう……それくらい。やんちゃを控えるしか無いってね。
そのままの自分を受け入れてくれる人って中々居ないよぉ。厄介事に巻き込まれる体質なんだから。
そしてわたし達はその後は街を回って夕方まで時間を潰してお家に帰った。




