第三十三話 妖精騎士アイギスさんと百合百合んな日常(4)
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朝食のあと、私、アステリアはやっと開放され2階の自室に引き篭もることができました。
まぁ、一応捕虜ですからね。勝手に出掛けたりはできないんですよ。外行くにしても当然見張りが付きますし、なにより家の増築の為の大工仕事やあまつさえ魔物退治の冒険者稼業にさえ駆り出されますから。
ある程度の自由はあるとはいえ虜囚の身です。
……逃げ出したいんですが、逃亡が失敗した時の危険を考えると逃げたくても逃げれませんし……お仕置きと称してトンデモないことされそうですから。
「でも、それ以外は楽ですねぇ。家事しなくても良いという点が」
これが実家住まいというものか。と私、この囚われの生活でも美点を見いだしますよ。家事とか不器用でやりたくないんですよね。
世の女子がみんな家事できるとか大間違いですよ。
ロクス教国では山奥に住んでるので人とか雇えませんし、召喚魔法で家事できる魔物とかそうそう居ませんし。
転移魔法とか使えて経済力があれば外食仕放題ですからね。ですが、持ち帰りとかするとゴミが溜まる訳ですが……
哀しい独り身の労苦を思い出すのはやめましょう。
ですが……休日でも一体何をすべきかと暇を持て余してると、廊下の階段から複数人がぞろぞろ上がってくる気配に気づきました。
まず、何人かがヴィリア姫さまの自室に行って彼女を連れ出したようです。
近くだと気配だけで位置取りとか解りますから。
私、元々は掃除屋、殺し屋稼業とかやってたんですよ?
今は聖女なんて呼ばれてますから自重して、なんでも屋みたいなお仕事してますけどね。自称、解決屋。
ん〜? でも、どっか家族でお出かけかぁ?
私はベッドで横になりつつ耳をそばだてます。
すると隣の部屋にみんな入って行きました。
その部屋にはセレスティナさんがまだベッドでお眠りの筈ですが……
私はベッドの上で耳を壁に当て、壁越しに様子を伺います。やっぱりセレスティナさんが寝息を立ててました。
『んん……アイギスさぁん。ダメですよぉ、そこはぁ』
とんでもない寝言を言ってますねぇ……まぁ寝言じゃなくてとんでもない事をシルフィさんとやってたりするんですが。
私の部屋、元々使用人の部屋だったのか狭くてしかも壁薄いんですよね。なのにベッドをその壁越しに置くんですから、まる聴こえですよ。
……そう、まる聴こえなんですよね。自重してくれませんかね。
そしてベッドが軋み初めました。
最初は連れ出すのかな? と思って聞いてると……
『ほら、セレスティナさん。起きないと悪戯しちゃうぞぉ。起きてもしちゃうんだけどね』
甘ったらしい憎きあんちくしょうの声が聴こえて来ます。またか、と思ってると……なぜかその場の雰囲気が盛り上がるような気配が。
なんだ? ナニをやっている……まさか!
『あ……んぅんんん!』
『う〜ん。夢の中かなぁ? まぁ本当に夢心地でも良いけど、……』
この朝っぱらから……だと!?
甘ったるい声がやたら聴こえて来るんですよ。
家族の前で!? いや恋人大勢で!
なによりも隣の部屋に私が居るのに!
普通やるにしても配慮しませんかね。防音の魔法くらい使えるでしょう……
然し、使えても精神世界面はどうにもなりません。
急激にピンク色に染まるかのように隣の部屋が蕩ける雰囲気に包まれ初めます。もちろん愛を囁き求める恋人たちの雰囲気に。
――う、クッ。コレはきつい。
精神攻撃としては大した事有りません。ですが、外からの攻撃は防げても私の内面世界からの攻撃――欲求不満を刺激しまくって来るのがなによりも辛い。
しかも、思春期の女の子が目覚めたばかりの頃に求め始めるような初々しい要素が満載ですからね……
なんですか、その青春、私には有りませんでしたよ。くそう、くそう。(過去から来る悔恨によるダメージ)
『うわぁ……こうなってるんだぁ』
『……アイギスさん。起きない内に……そのしちゃうのは』
『うん、そうだよねぇ……シルフィちゃん。じゃあ……』
『わ、わたしが……ですか?』
『うん。いつもセレスティナさんと一緒でしょ? だから……わたしとは初めてでしょ?』
『わ、わかりました。それじゃ……』
微かに聴こえる衣擦れの音。そして囁く声、聴こえて来るのは甘く蕩けるような吐息――
……ぉぉぉい。弄り合うような焦れったい感覚が伝わって来るようなやり取り。マジですか、初夜ならぬ初朝ですか。え、本当に?
魂と精神の世界、精神世界面は幻術とか通用しにくいのは常識……なにより多少の違和感があれば私、見破れますから。
そしてなにより更に色香漂うように包まれる隣の部屋の雰囲気。甘酢っぱい感じにお互いを求め合うそれは……マジだ。マジでここで初めてを……。
アイギス神の事情をそれとなく聞いてましたが、あ、あの人ついに!? 人生経験は9年しかない筈ですよね、あの人。実質9歳で!?
ア、アステリア! 正気を保て! 負けるな!
少女同士が少女の前でベッドの上でナニしてる状況に嫉妬を感じるんじゃない。
耐え切れずに私が悲鳴をあげそうですよ! 心が、心が切ない。
やめて、やめてください。その、初めて、って感じが私の乙女心に致命傷を与えて来る感じは。
『―――あ――』
くそう、くそう。しかも本格的に及び始めた。アイギス神、貴女、もう一人がベッドで寝てる状況で――
と思ってるともう一人の、セレスティナさんの声も聴こえて来るんですよね。おまっ、いつ起こした?
いや、起こさずにか?
何がどうなってるんですか!? 聴いてるだけだから解りません。
……そしてそのまま致してました。悶え苦しみますよ私。攻めたり、攻められたりしてたみたいですね。てか、アイギス神、攻められるのはイマイチ解らないみたいで……
やめてください。リアル過ぎます。解らない子は解らないんですよ。
そして1時間ほどしてやっと終わった……と思ったのも束の間……
『……? あ、二人とも寝ちゃた? ……やり過ぎ?』
『いえ、アイギスさまぁ。これは初めてなんでちょっと幸福感ありすぎた感じですねぇ……。ってヴィリア姫さまが見てるだけで昇天してる感じなんですが……』
『じゃあ、次はヴィリアさんかな。セレスティナさんと同じで途中で起きるでしょ』
第二ラウンド始まる。
アイギス神の言った通り、途中で姫さまが起こされました。
『あ……う。私、あ、あ』
『言葉は要らないよ姫さま、わたしを感じてよ』
甘酢っぱさに拍車が掛かるやり取りした後、また姫さまが果てました。
アイギス神。スケコマシ過ぎる。
良くそんなセリフ吐けますね。ヤバい、私がキュンと来た。王子様みたいな女の子……悪くない?
いや、負けるなアステリア。おそらく罠だ。
てか、アイギス神、結構ハードなことしてません?
ハイペースで女の子が落ちてますが……
『じゃあ次は二人かなぁ?』
『あ、やっぱりボクたちも……』
『ふ、二人で?!』
『いまさらよねぇ……二人で姉妹仲良くやってんでしょ? わたし気付いてるんだからね。ほら、努力の成果を試しなよ。先行は譲ってあげるわよ?』
『…………』
お互いが顔を見合わせるような間……姉妹でか。
この二人は恥ずかしいのか致してるのに私が気付いた事は有りませんが、多少イチャ付いてるのは知ってますね。
てか、ティアエルの方は実は以前から知り合いなんですが……。まさか、先を越されるとは。
そして新たに空間収納からベッドを配置して、及んだようでした。第3ラウンド始まる。
ちょっと遠いので壁越しでは会話が聞き取れません。囁くように会話してますから。
ただ、色々と最中のは聴こえて来ましたけどね。
もちろん私、冷静では居られません。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!
敢えて嫉妬して自らの精神状態を保ちますよ。敢えてですよ、敢えて。
溜め込むより、吐き出した方が心を保ちやすいんですから。厳しい軍事訓練でも折れるのは愚痴も言わないヤツと聞きますしね。
心の中にサンドバックを配置してブン殴ってましたよ。実際にやると家を破壊しますから。
でないと身悶えして流される自信しか有りません。
聖女だとか言われてても私も人間なんですよぉ。
魔女にもそういう、欲求とか有るんですぅ。イチャイチャしたい。(本音)
特に熟れて来てる所が憎い! アイギス神めっ、爆速で経験値を上げて来てるのが。
そして最後に残った悪魔も食べ終わったようですね。てか、あの悪魔。可愛い顔して可愛い声出してそのままなんの抵抗もせずに倒されたようです。
『わたしを……して見れば?』
『得意じゃないですが、できない事はないですよ? アイギスさまぁ、悪魔を舐めないでくださいよぉ』
とか最初の前振りなんだったんですかね?
聴こえて来るのはゴモリーの声だけだったんですが。雑魚にもほどがある。
ですが、やっと地獄が終わりました。隣は楽園、天国かも知れませんが。
もう、最悪ですよぉ。
どうしてこんな場面を聞かされるんですかぁ。しかも長い。四時間くらいしてましたから――
って。不味くないですかね。
もうお昼ですよ。昼食の用意……は、ともかく、娘のアイリさん含むお子様組が戻って来る頃合いでは。
もちろん、アイギス神の家族は全滅してます。
あれだけやればそうもなるでしょうよ。隣近所まで聴こえてないですか? かなりハードでしたけど。
私はスッとベッドから立ち上がりました。そして狭い室内から出て廊下へ。
おっとアイギス神さまも同じタイミングで出て来ました。私の顔見るなり、頬を赤らめて驚いた様子でした。
「なっ! なんでアステリアが居るの!」
「なんで居ないと思っていたんですか!」
くそう、そうじゃないかと思ってましたが完全に私のこと忘れてましたね。致すことに浮かれて私のことなんて脳裏を掠めもしなかったんです。
べ、別に悔しい訳じゃ有りません。
私が頬を赤らめてるのはそういう理由じゃ有りません。
「て、てか居たなら気ぃ利かせてどっか行きなよ! めっちゃ恥ずかしいじゃん」
「むしろ気を利かせて別の部屋でしてくださいよ……」
アイギス神の子供みたいな、年頃の女の子みたいに頬を赤らめて羞恥心で顔を真っ赤にしてる姿を見ると嫉妬心も鳴りを潜めます。
それに部屋から出てきた瞬間恋する乙女って顔してたんですよ一瞬。こう呆然としながら夢を見てるような表情で。
こっちが恥ずかしいんですが。
てか、素の表情を初めて見ましたが神さまとは思えないくらいただの可愛い女の子ですね。
いつも眼光鋭くて戦士みたいな立ち居振る舞い、そして男の子口調で喋るので普段はそうは思えませんが。
口悪いし生意気ですしね。
そしてまだ明けっ放しのドアから部屋の惨状を垣間見ました。見るに堪えない様子でしたね。(好奇心に負けた)
その私の視線を遮るようにアイギス神が咄嗟にドアを勢い良く閉めます。焦ってて可愛いです。
「見んなよ。デリカシーないの!」
思春期の子供みたいな反応……本当に印象変わりますねぇ……こっちが素の性格なんでしょう。
「あの様子だと当分、みんな起きれないでしょう……どうするんですか、もうお昼ですが?」
「え!?」
アイギス神が廊下の壁に掛けてる時計を見て十二時過ぎてることに動揺してますよ。
他人が動揺してると冷静になるって言いますが私のささくれだった心に平穏が訪れます。
「ど、どうしよう? 今から作れば……」
「間に合いませんって。そもそもアイギスさん、家事できないでしょう。私もできません。これはもう外に食べに行くしか有りませんね」
「赤ちゃんは……」
「まぁミルクくらいなら私がなんとか」
「……出せんの?」
アイギス神の視線がなぜか下がりました。
「どうして出せると思った!?」
人の胸元見てどんな思考したんですか、動揺が激し過ぎる。こっちが動揺しますよ。
「材料くらいはあるでしょう……。それよりも、早く連絡を取って外で待ち合わせした方が良いですよ。……家の中だと異変にアイリちゃん気付くかも、あの年頃の子って敏感なんですから。……バレたくなければ取り繕うしかないですよ?」
「ぐ……。そ、そうだね」
そして慌てて通信機を取り出すアイギス神さま。私も急いで台所に向かいます。
四の五の言ってる場合ではありません。
さっすがに子供にこの現状を察知されるのはマズい。なにより娘のアイリちゃんさえハーレム入りすると私の情緒が持ちません。
せめて、もう少し大人になってからで。そこは大人として譲れない一線ですからねぇ……
でも、台所で慌ててミルク作って何してるんですかねぇ……私。
なにより……アイギス神が及んだ部屋から出てきた時の表情が脳裏から離れないのはなぜなのか。
羨ましいとも違いますし、恋に堕ちた訳でもないんですが……
この私とした事が自分のことが解らないとは。
何かの精神汚染じゃ、ないですよね?
結局、理由がまったく理解できずに、そのまま家を出てアイギス神と外に食べに行きました。
さて……で昼食を終えたは良いんですが。当然すぐには戻れません。そのまま戻ればあの惨状の恋人たちが居ますからね。
結局、夕方頃までヴェスタの街を子供たちと一緒にぶらつく事になったんです、が……
これ、家族でお出かけ見たいになってません?
自意識過剰ですかね? 街の人からアイギス神の彼女みたいに見られたのが何とも言えないんですよね……




