第三十三話 妖精騎士アイギスさんと百合百合んな日常(3)
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「まったくさ、アステリアには困ったものだよね。脱ぐのはないでしょ、脱ぐのは。シャルさんが目覚めちゃったらどうすんのよ」
家族みんなで朝食が終わって、一息付いたあと、わたしは愚痴を居間のテーブルでシルフィちゃん相手にブチまけてたのよね。
当のシャルさんは休日だと言うのに故郷のハイデリアンの森に出掛けるって言うし、ついて行こうかって聞いたらやんわり断られちゃった。
休日ですからご家族と思いのまま過ごしてくださいってね。
あんな良い子をアステリアには渡せないよね。
あの女……自覚が無いからな。
「ま、まぁアイギスさん。アステリアさんも悪気があった訳じゃないんですから」
「シルフィちゃん。問題なのはそれなの、あの女……素で人を誘惑して来んのよね。人当たりは悪くないでしょ。で、善人でしょ? そりゃ恋心を抱かれても1人や2人じゃないって。なのに三百年も生きてるのに独り身なのよ? ……性格に問題が有るんだって、わたし解るんだよね」
わたしの女の勘が冴え渡るのよ。切った張ったの争いごとや冒険者稼業してるとわたしの女子部分が鳴りを潜めちゃうんだけど、あの女に関してはわたしの乙女心が警告を与えてくんのよ。
「えぇ、そうなんですか? わたしにはまったく……聖女さまってこういう方なのかと思ってましたけど」
「アステリアを聖女の標準にするのは無理があるでしょう……。てか、それが原因なのよね。アイツが恋人できないの」
「聖女さまらしくないのがですか? ん〜逆に聖女さまらしい方がモテづらい気もしますけど?」
「なに言ってんのシルフィちゃん……わたし、シルフィちゃんの超絶聖女感に一目惚れしたんだけど……聖女というより聖母よ。わたしの母になってくれると直感したわ」
そしてわたしは思わずテーブルの角の席同士のシルフィちゃんの手を握るの。もう、この手を絶対に離さないって思いが込みあげて来るのよ。
「あ、アイギスさん……」
「ずっと一緒だよう。ね、一緒に生きて行こう。シルフィちゃんが居なくなったらわたし死んじゃう」
「……は、はい。解りました」
「もう、頬を赤らめるシルフィちゃんも素敵。――」
想いを告げて幸せに顔を赤らめる黒髪の女の子の横顔にもちろんキスしちゃう。わたしの想いはあの頃から何一つ変わらないの。
その様子を台所で食器を片付けてたティアエルとレティアさんが見てるけどお構い無しだよねー。
「ほら、二人ともシルフィちゃんを抱き締めてあげて。わたしの愛する人なんだから。みんなもだよ。わたしは家族みんな本当に好きなの」
でもティアエルがわたし達の様子に頬を手で掻いて恥ずかしがるのよね。
「いやぁ、アイギスさんのシルフィちゃんへの愛情には負けちゃうかなぁ……」
「えぇ、まだ私達来たばかりですから……そのシルフィさんは良いんですか? 不躾なんですけど私達とその」
「……? あ、あ。そういうことですか! すみません、気付かなくて。だ、だいじょうぶだと思います。セレスティナさんとはその……。あとアスタロッテさんも……上手くいってますから」
「ティアエルは胃袋掴めば良いよ。それよりレティアさんの方は、だいじょうぶなの?」
「いや、ボクの扱い雑じゃない?」
「ティアエル……一度相手してもらいなさい。わたしの勘だと四の五の言わずに堕ちるわ。でも、レティアさんはどうかなぁ、って」
シルフィちゃんとレティアさんの相性が気になるのよね。ティアエル? おそらく勝手に堕ちるわ。シルフィちゃんのお母さん分に魅了されるから安心よ。まったく心配してない。
「そうですねぇ……。いえ、悪くはないと思うんです、私的には。家族で恋人同士……というのがまだピンと来ませんが……愛しあうのでしたら」
「その点シルフィちゃんは大丈夫だよぉ。レティアさんが押し倒せば」
「アイギスさ〜ん。わたし寝取られそうなんですけど」
なんで、どうして! シルフィちゃんがジト目でわたしを見るの。セレスティナさんやアスタロッテともそんな関係じゃない。
いや、これは肝心のわたしが手を出してないからよね。鈍感なヤツと違ってアイギスすぐに解るの。
「……シルフィちゃん。ごめん、ごめんね。その、夜はまだ自信がないの。イヤって訳じゃないし、もう今晩でも良いの……ただ。多分、その雰囲気出されても解らないのよ……」
で、わたしの恋人たちが本当に困ったな。って顔するのよね。
「いや、本当に。解る人には解るかも知れないけどさぁ……どうやったらそんな気分になるの?」
みんなこの質問すると恥ずかしがるんだけどわたしには切実な問題なんだって。風呂場でアステリアの肉体をガン見してたのもそういう気分になるかな、って思ってたからだし。
結局、良い肉体してんな。とは思ったけど、そういう気持ちにならないのよね。ピンと来ない……具体的に言うとわたしの身体が反応しないの。
そしてこの話を初めて聞いたレティアさんが一番、戸惑ってた。
「こ、これは難しいですねぇ……。そういうことだったんですか。人生経験が9年しかないとは聞いては居ましたが……」
「心の問題と思う? ほら、身体はそれなりに育ってるでしょう? アイリさえそういう気分になるんだから、神さまだからとかではないと思うんだよね」
「で、ですね。そしてアイリちゃんが居る時にはこんな相談できませんね」
現在、アイリは獣精王と3歳児の男の子アル君を連れて散歩中よ。
我が家に毎度やって来る魔神将ハーケルマインも一緒について行ってる。ヤツにはお昼頃まで帰宅を引き延ばせと伝えて置いた。
「そうよ。つまりやるなら今よね。二度寝したセレスティナさんも起こすけど?」
「って。夜じゃなくてもやる気あるじゃないですかアイギスさん」
「いや、そろそろレティアさんにも話さないといけないし、もう試して置こうかなって。で、食器の片付け終わるまで待ってたの」
って話聞いたらティアエルが食器を機敏に片付け初めた。
「それは最初に言って欲しかったよ、アイギスさん。いきなり言うんだから」
「だって、今決めたもの。即断即決よ。あれ……でもヴィリアさんは……?」
「あ、夢心地になって自室で……寝てる? ベッドに座らせて来たけど……」
「朝っぱらからやり過ぎちまったか……。アステリアは大人しく部屋に居るでしょうから、ってそういやアステリアの話が最初だったわね、シルフィちゃん」
「ああ、そうでした。って赤ちゃんが」
「おんぎゃーぎぉああ」
隣の部屋から聴こえて来るのはまだゼロ歳児の赤ちゃんの泣き声。わたしが引き取ったシルフィちゃんの親戚の赤ちゃんだよ。
「大丈夫、シルフィちゃん。抜かりはない。赤ちゃんあやし用の赤子の天使、二体目の手配はして置いたの」
そして聴こえて来るのは「キャッキャッ」っと赤ちゃん語を話し、ガラガラ二刀流で赤ん坊をあやしに掛かる天使の声。奴らはおむつも替えることができる。見た目は赤ん坊なのに。
但し、一晩張り付かせると力尽きるの。
うちの赤ん坊、あやす難易度高すぎてさ。シルフィちゃんが聖母のようにあやすから、それに慣れちゃってね。幾ら天使でも疲れるらしいのよ、だから、二体目よ。
「……1人増えてる。って思ってましたよ……そういうことだったんですか」
「そしてもう1人は昼まで力尽きてるけどね。でないと本格的にイチャイチャできないでしょう?」
居間の隣のベビーベッドが置いてる部屋――その隅で背を壁に預けぐったりしてるキューピット。精神的に来るものがあるらしい。夜通しだもんな。
「アリーシャちゃんには借りが多すぎて立てる顔しかないのよね……」
キューピットは天使王の部下の天使だけど、借りて来るのはアリーシャちゃんなんだもの。
我が家に取って、キューピットは生命線よ。赤ちゃん育てるって本当大変なんだから。
「これで日の高いうちからやりたい放題できるよね、シルフィちゃん」
「笑顔で言わないでくださいよぉ。雰囲気とかないんですから……で、アステリアさんの話は……?」
「そうそう、それ。アステリアに恋人できないのって、理想高すぎなのよ。相手の理想が高すぎる場合も有るんでしょうけど、最初から基準が高いのよ、あいつ。選り好みしすぎだし、そもそも人に合わせることしないでしょう?」
「……そうなんですか? ん〜でもそんな人には思えませんけど……」
「最低でも、相手のこと解らないと手を出さないのよ。あんなズボラそうなのに身持ちは固いってね。なんとなく解るのよ相性悪いから、逆にね」
おそらくあの女、恋愛に関しては当たって砕けるってことしない。いや、した事がない。本当にこれ、わたしの直感だけど……当たらずも遠からずだと思うのよね。
だからシャルさんを渡せないのよ。
しかもあの女、恋人いようが必要があったらその恋人でも置いてくでしょう……家族が欲しいシャルさんを悲しませるのは絶対に許さん。
「はい。食器片付け終わったぁ……って良く考えたらこんな早くから……?」
「そうよ。しかも昼食の用意も有るからあと三時間しかないんだよねー。じゃあヴィリアさんにセレスティナさんも起こして、いやどっちか襲う?」
「ちょ。アイギスさん雰囲気とか!」
シルフィちゃんに嗜められるこのアイギス。がっつき過ぎだと思う? でもね。
「シルフィちゃん……今、わたしに必要なのは自信なのよ。次々に置いて行かれるわたしを哀れんで……もう色々試させてよ」
「……そ、それを言われると弱いですけど」
「う〜ん。実はボクも少し自信ないんだよね……」
さて、そうと決まれば押し込みます。普段忙しないヴィリアさんに押し掛けるのは気が引けるからセレスティナさんかな。
いや、セレスティナさんも神殿の仕事で夜遅くまで忙しかったりするから寝てたりしてるけど体力は有るから。冒険者稼業で鳴らした〈鉄血聖女〉の二つ名は伊達じゃない。
と思ったら台所の勝手口から紅髪の少女悪魔、悪霊ゴモリー侯爵が丁度良い所に顔を出して来たの。悪魔の癖に清々しいくらいの笑顔で。
「ちぃーす。アイギスさまぁ。今日も増築の家造りに来ましたよぉ」
「休日だってゴモリー。この日に朝から大工仕事したらご近所さんに迷惑でしょう?」
「いや、〈沈黙障壁〉だとかの魔法で防音すれば問題なくないですか?」
「天使王の教えにもさぁ。休日は休めって書いてない? 冒険者稼業とかしてるとなおざりになりがちだけどさぁ」
「悪魔だとか天使は二十四時間フル稼働の例外なんですよね……。完全にシフト制です。改めて言われると悲しくなりますよ……」
「ゴモリー。夜はうちの報復戦艦修理してるって言ってたな……良いだろう。今日は楽しい事しよう。わたしが許す、休め」
「マジで。良いんですか、何するんです?」
悪魔なのに屈託のない笑顔を振りまくのよ。
本当に悪に悪を重ねる悪霊か、って思うのよ。まあ、司るのは色欲らしいけど。
「ゴモリーの大好きなこと。じゃあセレスティナさんの所に押し掛けよう」
もちろん、皆で。丁度アスタロッテ以外のわたしの恋人が揃ったしね。
……アスタロッテはまだ通い妻枠だから良いでしょう。こう、一番あの娘とイチャイチャする、ってのが、難易度高いからね。
恋人攻略としては最後よ。一番最後にするの。
経験積まないとヤバそうだもの。天使王と魔女王の娘は。
そしてわたし達は寝てるセレスティナさんを襲撃し。全員でイチャイチャを開始するのだった。
隔日連載に戻るのだ。寝込みを襲うのは2月4日から。
(´・ω・`)〈 というより現状は偶数日連載かの。




