第三十三話 妖精騎士アイギスさんと百合百合んな日常(1)
このアイギス、今幸せの絶頂期であった。
恋人たちがみんな仲良くイチャイチャしてるの。
これを幸福と言わずして何を幸せって言うの。
今日も朝から黒髪の村娘って感じのシルフィちゃんにセレスティナさんが抱きついてた。
「ん、セレスティナさん。まだ朝食の支度中ですから……そんなにくっつかれると」
「んん〜シルフィ……お母さん。むにゃ」
「アイギスさ〜ん。セレスティナさんをどうにかして下さ〜い」
セレスティナさんが朝早くに起きて来たと思ったら寝惚け眼でそのまま愛と温もりを求めて、台所に立つシルフィちゃんを背後から抱き締めるの。
「セレスティナさん。無意識レベルでイチャ付くとか、求めすぎでしょう……」
「アイギスさん、早く助けて下さいよぉ。朝からマズい事になりそうなんです」
「はぁ、シルフィ……愛してますよ。今日はどうしますかぁ……」
金髪碧眼のエルフ少女が寝惚けて夢現にシルフィちゃんに愛を囁くの。
何よりも困ってる筈のシルフィちゃんが頬を赤らめてたら、満更じゃないって一目瞭然よね。うちの家族は朝から何をしているのか。
「ちょ! どこ触ってるんですか、セレスティナさん」
「……」
セレスティナさんの手がシルフィちゃんのエプロンに潜り込んでるの。大胆にもほどがある、羨まけしからん。
でもこのアイギス、朝一から迷う。
シルフィちゃんの困ってる姿を愉しむか、わたしも仲間に入れてもらうか。
ただ、……娘のアイリも思いっきりこの現場をわたしの傍で見てるの。そのアイリに動じた様子はないけど、わたしの顔を伺ってる感じで――
「アイリ……どうすれば良いと思う?」
「ん〜。解らない。でも、ご飯の支度の邪魔しちゃったら悪いと思うけど……」
我が娘、至極まっとうなこと考えてた。
もう片方の母親バーギアンの血かな。わたしより真面目ぇ。妖精的な悪戯気質はないのよね。
「だよねー。仕方ない、助けてあげよう。――ほら、セレスティナさん。シルフィちゃん分を朝からいきなり補給しちゃ戻って来れなくなるでしょ。わたしの母親成分を入れな」
とわたしが近づいてセレスティナさんを引き剥がすと素直に離れる。そして今度はわたしに抱き着いた。
「…………アイギスお母さん……むにゃ」
金髪碧眼のエルフ少女がわたしに抱かれてぐっすりそのまま夢の世界に入る。
「解せぬ。わたしに抱き着いたら寝るとか……。わたしにも愛を囁やきなよ。弄りなよ」
「……そのすいません。アイギスさん……実は昨日――」
「いや、知ってるから良いよ。……家の増築を急がないとね……」
家族と居候が増えて部屋数足りないんだもの。シルフィちゃんとセレスティナさんで相部屋して貰ってるの。
ただ、相部屋なのを良いことに……(確信)
通称、真の百合ハーレム。
つまり……みんな仲良くイチャイチャしてるんだよね。わたしと恋人になると他の恋人とも愛を紡ぐことになるの。
最初はさ、わたしもその家族ルールどうなの? って思ってたけど……
家族みんなで仲良くなってるから受け入れることにしたの。なにせ、恋人が増えたことに寄るギスギスした関係がないのよ。恋人同士で微妙な関係になる事が回避されてるのよね。
わたしにしてみればこれほど嬉しいことはない、感無量よ。だって、わたし、家族でそんな微妙な関係になるのは嫌なんだもの。
だから、恋人同士でイチャ付かれても何も問題はないと己の精神を律したのよ。
これは大人になったってことなのかな?
ちょっと解らないんだよね。わたしを置いてく感じに少しはジェラシーを感じちゃうけどね。
でもそれは恋人を増やしまくるわたしへの罰だと思うことで乗り越えている。このアイギス、そんな感情は女々と切り捨てる。
このアイギス、妖精の騎士よ。なぜか日本の武士道並に厳しい道徳観念がわたしの心の中に有るの。女の子なのに。
そしてわたしは抱き着いて、また寝たセレスティナさんを居間の食卓のテーブルの席に座らせる。
でもセレスティナさんがテーブルに突っ伏して寝入る姿も可愛いのよね。
愛おしさが溢れて来る。仕方ないので頬にキスをして置いた。このアイギス、欲望に忠実な女である。
武士道どこ行ったとか言わない。
男の子みたいな所と女の子の感性を併せ持つのがわたしなんだから。
「セレスティナさんには内緒だよ、アイリ」
「?」
この可愛いらしいやり口はまだアイリには解らないのよね。いや、自分で可愛いかな、って思ってるだけなんだけど。
今のあざといやり口で誰でも落とす自信がある。
実際一人墜ちてる。アルビノ見たいに白皙の肌と白い髪のエルフのお姫様がね。
本当に居間の床にヴィリアさんが崩れ落ちてるの。
「アイギスさま……いけませんわ。私、崩れ落ちて立てなくなりましたの」
女の子同士が和気藹々、組んず解れつしてる姿が何よりも好きな困った子、ヴィリアさんに見せ付ければこうなるのも自然よ。
わたしはさらに妖精の血が疼いて悪戯するの。そのお姫様に手を差し出したよ。
「さ、立ち上がってわたしのヴィリア姫さま。このくらいで腰砕けになってたら保たなくなるわよ」
「あぁアイギスさま……いけませんわ。まだ、今日という日が始まったばかりなのに。夢の世界に誘われてるようで」
「良いじゃない、朝から夢心地で。……それに今日は休日でしょう。まる一日夢に浸かっても良いのよ。さ、お姫様、どうぞ」
ヴィリアさんは普段、この国シルヴェスター公国の政を一手に引き受けてるお姫様なんだよ? まだ独立したばかりでめちゃくちゃ急がしいんだしさぁ。なら休日くらい幸せになっても良いじゃん。
そしてわたしはヴィリア姫が差し出した手を取って立ち上がらせると、白一色の美しい彼女の唇に温もりを与えるの。
ご褒美だよぉ。受け取ってね、って想いを込めて。
口づけが終わって、改めて彼女を見ると、もう幸せ過ぎてどうにかなりそう、って表情してた。
頬とか赤らめてヴィリアさんが幸せオーラを満開にするの。
……ちなみにヴィリアさんはわたしの事、大好きらしいから。出会う前は夢にまでみた白馬の王子さまだったらしいよ、このアイギスさんが。
で、その王子さまと結ばれてわたしん家に居るって訳。わたしも満更じゃないんだけど……
良く解らない内に姫さまのハートすら射止めてしまった、と。
このアイギス、勝手に美少女に惚れられる系異世界主人公である。7人の恋人の内、5人はなぜかわたしも良く解らない内に惚れられた。
恋人が居ない時はそんな展開、馬鹿な男子が見る妄想だよねー、ってこの異世界で冒険してたけどね。それを実現してしまった美少女エルフ、妖精騎士アイギスさんを羨んでくれて良いよ。
見せ付けるの大好きだから。
そして脳を完全に蕩けさせて行動不能になったヴィリアさんもテーブルの席に座らせてあげたよ。
女の子は余りに幸せが過ぎると動けなくなるの。
多分、並の人間じゃ耐えられないくらい幸福を感じてる。
「でも、わたしも罪な女ね……今日も朝から女の子を幸せにしてしまった」
「うわぁ……朝からとんでもない事になってるよ」
って、階段から降りて来たティアエル、レティアさんと一緒に居間に降りて来て開口一番、朝からの惨状を口走っていた。
「なに、言ってるのよ。ティアエルだってコレくらい散々やって来たでしょ。女の子口説きまくってんだから」
「いやいや。ボク、女の子とキスしたのはアイギスさんが初めてだって。てか、ヴィリアさん見たいな状態異状ははじめて見たんだけど……」
「状態異状言うな。……冒険者なら通じるけどさぁ。――レティアさんはどう? 甘々って恋愛はしてなさそうだけど、堕ちる感じの恋人同士の距離感は知ってるでしょ?」
ボクっ娘金髪ポニテで性格が男の子っぽいティアエルには恋に堕ちる感じは体感した事が余りなさそう。いや、なぜかわたしには墜ちてんてだけど。
でもレティアさんは赤毛でちょっと大人っぽい落ち着いた雰囲気あるから。あるでしょ経験。
「そうですね……墜ちて燃え上がって……そのまま燃え尽きましたね」
おっと、レティアさんが顔を俯かせて沈んだ表情に。この反応はわたしの予想外だった。
でも、レティアさんって、はじめて付き合った彼女と別れたのがトラウマらしいの。
レティアさんも女の子が好きな人だったんだけど奥手だから、なかなか彼女とか作れなくて……
そしてやっとできた彼女とは三年付き合ったのに一年前に別れたとか。……で、そんな傷心の彼女に出会ったのが、わたしなのよね。
「何がいけなかったのか……いえ理由は解ってるんですが。どうしたら良かったのかと……いえ、すいません。距離感とか解らなくて」
「……話したくなったら聞いてあげるよ。わたしで良ければさ」
「あ、すいません。偶に鬱スイッチ入るんです。切り替えます、余り気分を落とすのも悪いですし……今はアイギスさんが居ますしね」
「そうだよ、わたしに甘えなよ。昔のこと考えてもどうにもならないって。今を楽しもうよ」
「……でもわたし、考え込む癖があってあまり気分を変えたりできないんですよね。……やはりコレが悪かったのかな、とか考えてしまうんですよね」
「いや、でもこの家族だと逆にそれが良いんじゃない? むしろ蕩けるくらいじゃなきゃレティアさんは堕ちないんじゃない?」
「ああ、なんとなくは解ります。……少し気分が上向きになって来ましたよ。すみません、朝弱いんで、感情的に成れないものですから」
レティアさんっていつも冷静なんだよ。
もう少し活発な人かもって思ってたけど付き合って見ると結構、淡白なの。でも……
おもむろにそんな彼女をわたしは抱き締める。
「……あの、アイギスさん……?」
「……どうせならわたしの事を考えなよ。前の女を忘れさせてやる、とかは大切な想い出だろうから言わないけど……でも好きでしょ、こういうの」
「それは……。その、あの、そうなんですが……」
いきなり不意討ちで囁くと体温あげるんだよ。
解るんだよね、わたしと同じタイプだから。
人との繋がりをどうしても求めてしまう人でしょ、って。最初に会った時、わたしと同じだな、って直感が働いたのよね。
こう影があるタイプだから見過ごせなくて。セレスティナさん並みに不器用そうだし。こういうタイプにわたしって弱いのかもね。
「アイギスさんって、敢えてやってるよねぇ、あざといなぁ」
「ティアエルには言われたくないなー」
「ええー。ボクは違うよ、つい本音がでちゃうだけなんだって」
「レティアさんと違って考えてないもの、天然過ぎ。それはそれで悪くないけどさぁ……で、二人して何処までいってんの? 言ってみ」
「?? いや、頑張っては居る……?」
するとレティアさんがセミショートの赤毛を揺らして顔を背けるの。極自然に口走るボクっ娘エルフの女の子持ち上げトークは地味に効いてくる。
こう何とも言えない感じになるんだよね。
好きな娘は嵌るぞ、って感じなんだけど、そうじゃなくても褒められて嬉しくない女の子なんてそんなに居ないし。
レティアさんもその例外じゃないって訳なのよ。
むしろ、恋人同士になれ、と謎ルールが有るから意識もしちゃうの。レティアさんはマジメだからねー。
「ちょっと……ティアエルさんは……こう、まったく私の想定外の人で……血の繋がりもありますし、その……」
「なるほど。レティアさん的には悪くはないのよね。背徳感もあるし」
燃え上がるのも時間の問題か……
実際仲は悪くない、一緒に冒険してるし。後はレティアさんが堕ちるタイミング……おそらくその時は燃え上がる。
「ボクの妹だとは思えないくらい素敵な人だよ、レティアさんは。ボクと違って気が利くし、お姉さんだし、頼り甲斐あるし。でも良いのかなぁ……? アイギスさん。その、お父さんが同じ人なんだけどボク達」
「そんな父親は居ないと思え。あいつ碌でもないからな。実際、二人ともお母さんが逃げ出してんじゃん。むしろ丁度良い禁断の恋と考えるの、神祖の妖精王が許す、後、天使王も」
元から碌でもないのに女も幸せにできないとか極潰しだよぉ。この、アイギス。いずれ挨拶がてらに父親をブチ殺すと決めている。
初めまして森陽王、お前の娘は貰った、死ね、ってな。慈悲はねぇよ。
「……アイギスさん。父親を居ないものと思えば結ばれて良いとか、ボクでも暴論だと思うよ」
「逆に意趣返しと思えば良いじゃん。娘二人でイチャイチャやってます、しかもライバルのわたしに貰われてさ。親孝行だと思うなぁ、これ以上ない感じに」
「う〜ん。何か違う感じなんだけど……でも、ま、いっか。ボクも不良娘って言われてるくらいだし」
「でも、お互い仇敵なのにその娘と結ばれる、ですか……」
「レティアさん、悪くはないでしょう? そう言うの好きでしょう?」
「ま、まぁ。恋に障害があるほど燃え上がるとは言いますが……なぜ、その事が」
「以外に恋愛小説とか読むって聞いたけど? セレスティナさんとヴィリアさんから」
「な、なるほど。それは趣味嗜好がバレますね……」
レティアさん、背徳感有るの大好きらしいよ。
あ、待ってレティアさん、自分は照れくさいからってアイリを見ないでよね。
「まぁ……嫌いじゃないですね……」
「アイリを狙ってる……?」
「いえ、え? アイリちゃんは違うんですか?」
「おっと、まさかの意思疎通トラブルが。イエスロリータノータッチの教えに引っ掛かるよ……」
話したらマジメにアイリ狙ってた。いや、娘だから例外に決まってんじゃん。アイリとくっついても結局、わたしとくっつくじゃん。
困ってたから私が手を出したらどうなんだろう的な忖度してる様子だった、気を回し過ぎだよぉ。
でも、お母さんとアイリちゃんの組み合わせは例外だと思ってました、って。
至極まっとうな返答来たから返す言葉が出ないのよね……。我が家の百合ハーレムにそんな例外は存在しないの、有るのは年齢制限よ。
「背徳が過ぎるでしょう……」
「すいません。直接聞いた訳じゃなかったんで……。ゴメンね、アイリちゃん」
「ううん。お母さんと一緒なら良いから……でも、まだ駄目なんだね……」
「もう少し大人になるまで待ってね、アイリ。――って、何かあったの?」
「い、いえ! まったく何でも! やましい事はしてません!」
「アイリ……レティアさんと何したのかなぁ。怒らないから言って」
「……? 一緒に遊びに行った……かな?」
「準備が、準備が必要かな、と。後、いずれは……とか思ってました。実はやましくてすいません」
「考え過ぎ……」
そして真面目過ぎる。レティアさんって貴重面で気が利くんだけど配慮が過ぎて明後日の方向に行くことがあるタイプなの……
そして背徳ものが好み……我が家のダークホースな気がする。ティアエルとは別方向に困りものな予感がするよね? 姉妹だわ。
けど、こんな感じで毎日わたし達は楽しく過ごしてるの……幸せだよ。
……ただそんな仲睦まじい家族が居る居間に、唯一家族でない奴が二階から降りて来るの。
我が家の居候、そしてわたしが立ち上げた組織〈妖精連盟〉預かりの捕虜、ロクス教国の至尊の聖女ことアステリアよ。
艶のある綺麗な黒髪を腰近くまで伸ばしたこの聖女さまはわたし達を何とも言えない表情でじっと見つめてた。
……観念したのか階段から降りて来たけど。
「おはようございます。今日も相変わらずですね……」
「愛を紡ぐのが日常なの。アステリア……僻むのは良しなさい」
「価値観が違い過ぎて付いていけないだけですよ。僻んでる訳じゃないんですよね……」
「なら羨ましい?」
「ですから、もうとっくにそのレベル超えてますって。……まぁ他所のご家庭ですからとやかくは言わないですけど――ね」
って、言いながらわたしと口論するのも面倒って態度なの。まぁ、わたしといつも口喧嘩してるからね。
そして、そのまま洗面所兼洗濯場の部屋に入るアステリア。この時を待っていたよ。
ヤツは遂にこのアイギスさん家、恒例イベントに突入した。洗面所は浴室の着替え場にもなってんのよ。
そして今、わたしの家族の数少ない男の子、シャルさんが朝一番の入浴中で、丁度いま出てきたタイミングよ。
精神感知の能力があるから解るんだよ、わたし。
シャルさんは容姿が儚げ系美少女エルフなの、そしてアステリアは実はシャルさんが男の子なのを知らない……
「さて、どういう反応見せてくれるか楽しみ!」
「うわぁ、悪趣味だ〜。でも本音を言うとボクも気になるんだよね」
「キャ。声にならないとんでもない精神波動が迸った。さすが軍艦ぶっ飛ばす聖女」
そしてわたしはこの時の為にアスタロッテに頼んで仕込んでいた聖魔帝国諜報局謹製の盗撮映像システムをタブレット端末で立ち上げた。
で、聖女さまともあろうお方がどんな醜態晒すかな? 大人な対応を期待してるぞぉ、アステリア。




