第三十二話 妖精騎士アイギスさんとアウレリア王国での決着を付ける者たち(2)
そして遂に戦いは佳境へ。
夜通し戦い続けた獣精王ボコスカ部隊により、ケルヌンノスの体力……生命力が相当に削られ切っていたの。
魔神将二人により、大剣や忍者刀で斬りきざまれ、アスタロッテの蛇腹剣の剣身が鞭のように襲い掛かり、アステリアが相手が巨神だというのに顔面ブン殴ったり、腹に蹴り込むを入れる。
体格差を考えれば針を突き刺すような攻撃だけど一撃一撃が伝説級の魔物を吹き飛ばす技の威力よ。
現代戦で言えば一撃一撃がミサイルをブチ込んだくらいの威力とかかな。物理攻撃じゃそれでもケルヌンノスには効かないけど、魂縛にそれ相応のダメージを与えてるんだから、地味に効いてるの。
でも、ケルヌンノスの動きに明らかな疲労の兆しだとかは見られないんだけどね……
「まぁ、大体三分の一以下には削ったな。暴れ回ってるが生存本能……最後の足掻きのようなものだ」
「ジェラルダイン。最初からあいつ怒り狂ってるからイマイチ解んないだけど……? それ何処で判断してるの」
「精神世界面から観察すれば一目瞭然だぞ? お前の最高位の妖精の眼なら生命力の減少を直接見れるだろう」
「なる……」
ジェラルダインと一緒に見てるけど、次元潜航艦から送られてきた映像だからね。星幽界側は直接見れないのよ。
余りに遠すぎるといくら近接次元も見渡せるわたしの妖精の眼でも解らん。
「でも、やっぱり神さまでも生命力がなくなればこの世界には居られなくなるのか……」
と、わたしは不滅の存在だとか言われてるのに倒される儚さを感じてると、隣のジェラルダインがなんでもないように口走るのよね。
「その辺りの理屈は実は通常の生命体と変わらないんだがな」
「……神さまなのに?」
「神でも人でも魂が星幽界に有るのは変わらない。違うのは"生命"という資源を精神体でも補えるという点、後はその精神体のエネルギーが馬鹿デカいこと、魂が通常の生命体と違って近接次元の星幽界の表層に留まって居ない点だな」
「……つまり神々は魂が別の場所にあるの? それってわたしも同じなの? 自分の魂が別にあるって実感がないんだけど」
「世界そのものが神の本体でこちら側には召喚体と同じくその分身体が送り込まれている。……というのが通説だな。魂が別の領域に有るのは、そうでも無ければ一個の世界と言える存在が、この世界では顕現できないからだが……」
……神さまなんだからなんでも有りになる。という事かな? 確かに世界がめちゃくちゃになりそうだよ。その辺りは制限されてる感じかな。
「……実感が伴わいのはそうだな。心と身体の違いだと考えれば別におかしくは有るまい? 肉体を操作してるのはその精神だが、誰しもがその意思を自分では確認できないからな。なに、正真正銘、お前が神の領域である事には間違いはない。……しかも神祖と呼ばれるほどにはな」
「ジェラルダイン、前にわたしの心の中を探ろうとして失敗してたな。じゃあわたしの本体は確認してるんだ」
「ああ、心に繋がりが有るのは確認してる。」
「……ふむ」
となるとあそこで暴れ回ってるケルヌンノスも本体、魂は星幽界に居るってことになるよね。
「なら、あいつを倒しても再召喚できる……?」
「召喚に応じるかどうかが問題だな。そもそもお前を主人として認識してるのかどうかだが……さて」
とジェラルダインがその闇妖精で男前とも言える麗人の顔をアイリに向けるのよね。
「……なるほどそっちの可能性が有るのか。アイギス、納得」
「?」
アイリがジェラルダインに見つめられてきょとんとした顔をしてるの。大丈夫、惚れてはない。
――けど、マスティマが余計な茶々を入れて来た。
「ジェラルダインさま、マズいっすよ。アリーシャさまともあろうお方が居るのに」
頬を一瞬だけ引き攣らせるジェラルダイン。その反応で苦労してんな、とアイギスさん解るぅ。
「……子供の面倒を見るのは手一杯だな」
その一言に万感の想いが詰まってる感じがした。
良いコンビだわ。なぜかそう思えるの。
「――まぁ、つまりそういう事だ。殺戮神の大斧を使えるのなら、召喚の契約が受け継がれてる可能性はある。シャル殿は何か聞いていないのか?」
「いえ……お眠りを妨げないよう代々言い伝えられていた事でしか……。お父さまなら何か知っていたのかも知れませんが……」
「と、なればやって見るしか無いな。どのみち倒さねば話が進まん」
「迂闊にやって良いの? 倒すのはともかく召喚するのはさぁ。従わなければまた倒す羽目になりそうだけど?」
「……それはそうだな。次に戦うなら苦労しそうだな」
ジェラルダインが珍しく微笑むんよ。元が美人だから、わたしの頭の中がクラッと来るのね。
でも、理性良く考えて、何か悪巧みしてる感じもするよ。待て、理性、そこが良いとか言うな。
さては、てめぇ、女子理性だな。
と、わたしの心の中で男子部分と女子部分の心が久々に喧嘩し始めたわ。この戦い永劫に解りあえん。
でも喧嘩中に、次元潜航艦からの中継映像が切り替わって、アステリアが画面に出てきた。
『ど、どうです! 大体削ったでしょう、これならそろそろ倒せませんかね』
綺麗だった黒髪とか乱れて、表情にも焦りが出てる。わたしの代わりにジェラルダインが応対してた。
「いや、聖女殿。今で獣精王の生命力は十分の三といった所、五分の一にはしておきたいからな。でないと仕損じる可能性があるだろう? できれば十分の一がベスト」
もちろん、わたしが超大技で最後は仕留めるから。
ガツンと一撃食らわして有終の美とするの。それに呪いを誘導するけど、その為にもわたしが倒した方が良いらしいしさ。
「わたしが最後の取りなんだからさぁ。きっちり仕事しなよ、ほらもうちょい頑張って」
『もう夜が白み初めたんですよ。そろそろ頃合いなんじゃないですかね。神祖の妖精王さまなら倒せるでしょ』
「倒せはするだろうけど動けないんだって。しくじったらどうすんのよ。泣き言言わずにほらぁ、ギリギリまで削りなさいよぉ」
『削り切る前に魔神王が来ちゃうんですよ! こっちも体力の限界を無理矢理魔法で回復させられて、夜通しやってたんだから良い加減休みたいんですよね。ほら、あの魔神将の二人も』
『うおおおおぉぉぉ! 死ねい、この獣が! メテオフォールストライク!』
『絶技・多重分身、乱れ斬り乱舞!』
魔神将二人が大剣と忍者刀でそれぞれ大技をケルヌンノスの顔に放ってる映像に切り替わった。
頭頂部に彗星が衝突するように大剣を突き立てる魔神将エプスタイン。もう一人の忍者っぽい魔神将が数百体の分身と共に忍者刀でケルヌンノスを斬り刻む。
「えらく気合い入ってんな……?」
『仕事できないと消滅の危機らしいですよ、刻限は魔神王さまが来るまでらしいですね。……で、アイギスさんがゴーサイン出さないんであの魔神将ともお別れのようですが……』
「さすがデーモンの軍勢を率いる魔神王。容赦がない。――この妖精騎士アイギス、お前たちの犠牲を決して忘れないぞ」
『人の心とかないんですか!?』
「所詮、デーモン族の哀しい定めよ。妖精の王さまが口出すのも気が引けるじゃない」
私が世知辛いデーモン族の生き方に想いを馳せてると映像にタブ・ルーズのヤツが映るの。
『アステリアの嬢ちゃん……ここはもう諦めてじゃなぁ。魔神王と見合うぐらいは覚悟するしかないのぉ……』
『なんでタブ・ルーズさまがバラすんですか?! 諦めたらそこで試合終了ですよね!?』
『五分の一はともかく十分の一を日が昇るまでには無理じゃろ。なに、嬢ちゃんならこの程度乗り切れるじゃろうて……三百年喪女だった実力が甘くない事を魔神王に見せ付けてやれい』
『喪女違いますぅ! モテますぅ。男性経験とか有りますぅ。何かの間違いで気に入られたらどうするんですか!』
『いや、ほら魔神王にも選ぶ権利があるし。――会って駄目だったらお断りはさせて貰えるんじゃろ。そこは当然の権利として』
するとアリーシャちゃんが画面内に移動してくるの。なんで魔神王との見合い話が持ち上がってんのかこのアイギスさん、サッパリ解らないんだけど?
『もちろん、ご当人同士の意思が尊重されます。大丈夫、ラジャイオンは少しやんちゃなくらいの人と相性が良いように思える。きっと上手くいく』
『上手く行ったら困るんですがね!? タブ・ルーズさま』
『だから、そこは全力の喪女力を発揮してのぉ』
『喪女違いますって!』
「ジェラルダイン……何となく状況は解ったけど」
「タブ・ルーズが思いっきり手を抜いてた気はするがまぁいいだろう。……やれやれだな」
「多分、微妙に呆れてるポイントがジェラルダインってズレてる気がするんだけどね。じゃ、魔神王さまが来るまで待つってことで」
「まぁ、念には念を入れてな」
そりゃそうでしょ。念入りに戦力の増強を図るのは。何が有るか解んないんだしさぁ。アステリアの見合い話と魔神将二人の犠牲なんて安いもの。
コレって戦争なんだよ?
『ちょ! 本当に良いんてすか、見捨てるんですか! 魔神王さまの手を借りちゃっても良いんですかね』
「人は一人では生きられないのよ、アステリア……天使王の愛を知るが良い……」
そして無情にも通信を切るようにわたしがジェラルダインに言おうとすると獣精王の咆哮がまた空に響き渡るの。
天に楯突くような巨神の雄叫び……何度目かのその咆哮がハイデリアンの森全体に轟音となって響き渡る。
ただ、一つ気になる……いや、マズい事が。
「ジェラルダイン……魔力の流れがこっちにまで眼で視えるんだけど。ヤバくない?」
「……この規模ならレベル11真理級の極大攻撃魔法だな。だが、アイギス。お前なら防御魔法を貼れば無傷でやり過ごせるだろう? 向こうは、アスタロッテやアリーシャが居るから心配は無用だ」
「いや、防ぐことはできるけど……。ケルヌンノスの魔法を止めないとこの森ごとどうなるのかが……」
獣精王との神話級の魔法の応酬で、ボコスカ部隊が戦ってる場所は森の影も形もない更地も同然の状況なのよ。
だと言うのに森そのものを範囲に収めるような真理級魔法が撃たれたら。
「……都市を一撃で滅ぼすのが神話級――戦術核なら、真理級の威力は小国を滅ぼす戦略核の威力なんじゃ……?」
「その認識で大体合ってるな、この森ごと焼き払う気だろう。――シャル殿、この森の封印結界を犠牲に食い止めれそうか?」
「…………わかりません。ですが結界自体に魔法が衝突するというなら、一撃だけなら結界を犠牲に威力を弱められる筈ですが……」
「そうか。第四艦隊が封印が破られた際の配置に付いている。破られても外には被害が出ないようにな。想定内だ。……では、あれを撃たせてから最後の締めと行くかアイギス」
「いや、待ってよ。ジェラルダイン」
わたしが止めるとジェラルダインが横目でわたしをチラ見すんの。無表情だけど解ってるって顔をして。
「先に言っておくが……呪われたこの森に関してはもう手遅れだぞ? 呪いをお前に引き受けさせて浄化しても、狂った生命体と魂自体はどうにもならない。呪いの効果自体は長年に渡って侵食してるからな」
「それは……元に戻すことはできないって事? 狂った獣達だとかを」
「召喚された存在ならおそらく復元可能だ。別世界の魂の根源を侵食するほどの呪いではないからな。だが、分身体とは言え獣精王さえ侵食する呪いだぞ? この世界に魂がある現地の生命体の存在情報に干渉されてはお手上げだな」
と、実際に肩を竦めて見せる暗黒騎士。様になってんだけど憎たらしいね。シャルさんの前でやらなくても良いじゃん。
「…………」
そのシャルさんは何かに耐えるように表情を強張らせてるの。この森はシャルさんの故郷で、大切な人たちの、お父さんやお母さんの想い出だってある場所なんだから……
例え、もう狂ってしまっていて、何もかも捻れていてしまっていて故郷には違いないのに。
「……良いんです。覚悟はして居ました。浄化が無理なら焼き払うことも考えた事が有るんです。この森の呪いは解いても森とそこに住まう者たちは元に戻せないとは解っていたのですから……なら、最初から」
「やり直すにしても今居る森の連中が死ぬ事になるな……」
「ですが、方法が……」
「一か八か、手が無い訳じゃないんだよ。元に戻せるかはそれこそやって見なくちゃ解らない。でも、前に言ったじゃん、方法は有るって」
「有るのですか、そんな方法が」
シャルさんが表情を、感極まったのか涙さえ目の端に浮かべて緩めるの。そんな顔されたらそれこそ試さずには居られないよね。
「任せてみなって、このわたしにさ」
この妖精騎士アイギスさんに。ただ、わたしは動けない。先に真理級魔法を止める必要が有るんだけど――と思ってたら通信装置から浮かび上がった映像に幼女の姿が。
『つまり、あの魔法を止めれば何とかなる?』
「何とかできる、アリーシャちゃん? 空にどデカい雷球浮かべてるけど」
真理級魔法の正体は〈開天闢地の万雷〉。
物凄い雷の嵐ですべてを薙ぎ払う魔法だよ。空に浮かぶ雷球が完成した瞬間に森を含めた空間が雷ですべて埋め尽くされるのよ。この森すべてが消し炭になる高火力で。
『……良い。なんとかしてみよう、アスタロッテが』
『あら、いきなり振られるのですね』
『ん〜アスタロッテの本気が見てみたい。それに魔法の発動までに時間が無さそう』
そりゃ悠長に話してたからね、極大範囲の魔法なんて発動まで時間が掛かるのが常識だから。
ただ、その魔法を止めようとすれば当然それなりの難易度になる。大分時間を食ったから、それこそ急がないと間に合わないのよ。
「じゃあアスタロッテ、手早く頼むね。しくじらないでよ」
『それはもちろん。ただ結界の方もおそらく弾けますのでそれはご容赦下さいね』
「元よりそのつもりよ。……ジェラルダイン。文句は?」
「特に無いな。好きにしろ」
「……そう言うと思った」
自分に都合が悪く無ければ文句言わないのがジェラルダインよ。自分勝手なんだけど一周回って人に勝手やられても怒らないのよね、この人は。
自分も好きにやってんだから、他人も好きにしろってさ。自由という意味では完全にフェアなんだよね。但し、都合が悪ければ何でもしやがるが。
「じゃ、勝手にやらせて貰いますか」
少しばかり獣精王の元気が余ってるけど、最後に引導を渡してやろう。
そしてアスタロッテの凶悪な真理級魔法を超える攻撃で、天地を埋め尽くす予定だった天雷球が破壊される。
そして――獣精王の最後の突進が始まる。




