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My Fair Vampire  作者: 九重ゆえる
第8話 『海の上のヴァンパイア、狙われた眠り猫』パーティー編
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第8話 パーティー編2

 そしてあっという間に目的地に到着した。ここはもう船の中のようだった。端と端で会話をするには大声を出しても不可能なほど、かなり広いホールだった。装飾も派手で豪華絢爛だ。

 招待状の確認などは先に済ませてあるので、チェックなしに直接船に入れたという訳だ。ハルカもチヒロもエミリオも、みんなハイコ個人の招待客ということになっている。理由をチヒロに訊いたら、“すべてはそのうち分かる”だそうだ。

 多くの言語が飛び交う、シフトを終えたばかりの多国籍ヴァンパイア達がごった返すホールで、ハルカ達を運んでくれたトランスポーターが話し出す。

「お待たせ致しました。念の為、紛失物がないかご確認をお願い致します」

 ハイコがみんなを見回し、代表して、「大丈夫です」と言うと、トランスポーターは微笑み、

「私の案内はここまでです。その他分からないことはこちらのバトラーにお訊き下さい」

 バトラーとはイギリスの上級使用人──つまり執事のことだ。

 トランスポーターが示した先にはハルカ達を待っていた様子の一人の若いバトラーがいた。ハイコ達の若干上くらいだろうか。白人で髪は短めで、金髪だった。

「お待ちしておりました。ヴェインリッヒ様、ハルカお嬢様。ご友人の方々もお会いできて光栄です」

 案の定いきなり英語だった。しかしハルカはしっかり聞いた。バトラーが“ハイコと自分の名前だけ”言うのを。

 なんで? どうして? と疑問が増えるハルカだったが、とりあえず今は黙っていることにした。リスニングは得意だが話すのは苦手──というのもあったし。

「豪華客船スリーピング・キャット号へようこそ」

 生き生きとした笑顔でバトラーは告げた。

(ご、豪華客船……だったんだ……)

 そんなことまったく聞いていなかったハルカはパーティーの規模に放心した。初めて学園を見た時と同じような感覚だ。

 もっとちゃんと訊いておくんだった。

 反省してももう遅い。

「私の名前はチャールズ・ピットマンです。皆様のお世話をさせて頂きます。以後お見知りおきを」

「僕はいいです」

 気のない声でさらっと言い、ふいっと踵を返したのは、黒い帽子をいつもより目深に被った眼帯少年──エミリオだ。エミリオは人混みをどんどん進み、ホールを出て行ってしまった。

(エミリオ……どしたんだろう……)

 いつもと様子が違うことにはなんとなく気づいていたハルカだが、追い掛けることはしない。……迷子になるのは目に見えてるから。でも心配は心配だった。

「気にしないでください。反抗期なんですよあいつ」

 チヒロが穏やかに言うと、「そ、そうですか」と多少困惑気味のチャールズは続ける。

「ええと、スリーピング・キャットはイギリス船籍ですので、ただいまの船内時間はイギリス標準時と同じ、午後0時になります。標準語は英語になっております。また法律もイギリスのものに従って頂くことに──」

 それからチャールズは両替場所の説明や娯楽施設の簡単な紹介などをしていった。

 チャールズに渡されたスリーピング・キャット号の地図の表紙には、大海原を走るスリーピング・キャット号が写っていた。かなりの大きさだ。“SLEEPING CAT”の文字が眩しい。ハルカはさっそく蛇腹状の地図を広げてみた。

 総トン数11万トン、全長300メートル、全幅42メートル、全高58メートル、乗客定員2360人、乗組員数1128人……。

 そんなのを読んでも、漠然とすごいとしか感じないハルカであった。

 ラグジュアリークラスのサービスを提供する船らしく、スイートに宿泊するゲストには希望すればバトラーが付くそうだ。

 プール、テニスコート、ゴルフ場、カジノ、コンサートホール、映画館、プラネタリウム、水族館、高級レストラン、ショッピングプロムナード、美容室、高級ブティック、医務室、フィットネスクラブ、エステティックサロン──等々、施設も充実している模様。

 気がつくと、チャールズの説明は終わっていた。

 その後ハルカ達はチャールズの案内でホールを出て、部屋に行くことになった。

 どうして自分の名前まで呼んだのか? という疑問をまだ抱えたまま。






 上昇したエレベーターが開くと、そこはまさに高級ホテルの廊下だった。ふかふかの絨毯が敷いてある通路には、ぽつぽつと広めの間隔でピカピカのドアがいくつも並んでいた。その一番奥で立ち止まったチャールズはカードキーで鍵を開け、ドアも開けた。

「こちらがハルカお嬢様のお部屋、マーメイドスイートルームになります」

 え? マーメイドスイート?

 ハルカはその名前に覚えがあった。さっき見た地図だ。この船では3等客室がスタンダード、2等がミニスイート、1等がスイートという呼称になっていた。さらにスイートには女性を意識して造られたマーメイドスイートと、男性を意識して造られたオーシャンズスイートの2種類がある。

 つまりマーメイドスイートとは女性用の1等客室ではないか。数日前ハイコは“みんな2等客室”と言っていたはずなのに。

 なんで? 何かの手違い?

 部屋に入らずハイコを振り返って訊こうとしたら、

「ごめんっ! ハルカちゃん!」

 突然チヒロが手を合わせて謝りだした。ハルカはとりあえずチヒロを見て話しを聞く。

「俺嬉しくてさ。ハルカちゃんがパーティー行くって言ってくれて。だからさ、話しちゃったんだよね。主催者に。今ドイツを騒がせてる噂の人間が行くって。そしたらさ、主催者もめちゃくちゃ喜んでくれて。もう泣きながら、生きててよかった──とか言ってたよ。もちろんこのバトラーもハルカちゃんのこと知ってるよ」

 チヒロに見られたバトラー──チャールズは、日本語は分からないようだったがただ微笑んで待っていた。

 ハルカはぽかんとしていた。こんな大規模なパーティーを主催する人物が、自分なんかが出席することを喜ぶなんて……。信じられない。

「あっ! ハルカ違うからね!?」

 ハイコが急に慌てたように弁明を始める。

「喜んだっていうのはハルカの血をどうこうするって意味じゃなくて、特別な血を持ったハルカが、“人間のハルカが、ヴァンパイアだらけのハロウィンパーティーに”来てくれるっていうことを、喜んだのだよ?」

 次はチヒロが続ける。

「そうだよ? 普通の血を持つ人間もそうだけど、“ハルカちゃんが”このパーティーに来るっていうことは、実はすごいことなんだよ? 自分の血が世界で一番おいしいって知ってて、それでもヴァンパイアだらけのパーティーに来てくれる──。これは“俺達みたいなヴァンパイア”を信じてくれてるってことだからね。俺達みたいなヴァンパイアが今一番欲しいのは、人間からの“信頼”なんだ。だから主催者も信頼してくれたハルカちゃんにプレゼントがしたくて、この部屋を──」

 マーメイドスイートを見渡すチヒロにつられ、ハルカも部屋を見る。

「用意してくれたんだよ。ぜひとも最高の部屋に泊まって欲しいってさ。初めに予約してたヴァンパイア夫婦に説明したら、夫婦もぜひにって譲ってくれたみたいだよ? 光栄だって言ってたって」

 話しは一通り終わり、どうして自分の名前まで呼んだのか? という疑問も解決したが、ハルカはぐるぐる混乱していたのですぐには何も言えなかった。

「ご、ごめんなさい……」

 結局口から出たのはそれだった。

「どっ、どうして謝るんだい?」

 ハイコはおろおろしている。ハルカは小さなショルダーバッグの肩紐を胸の前で掴み、下を向いてもじもじとしゃべる。

「だっ、だって、わたし、自分の血のこと、忘れてたから……。ヴァンパイアが、たくさんいるところに行くとか、そういうの、全然考えてなくて……。初めて旅行することに頭、いっぱいで……。だから……」

 なんだか申し訳なさすぎて、最後は消え入りそうな声になってしまった。

 そこでハイコとチヒロが控え目に、けれど楽しそうに笑いだした。

「そっちの方がもっと嬉しいよハルカ」

「どうして?」

 ハルカが小首を傾げると、チヒロが説明してくれた。

「“無意識の信頼”に勝てるものはないってことだよ。ありがとう、ハルカちゃん」

 チヒロが頭を撫でてきた。続いてハイコも碧い瞳を細め、撫でてきた。

「“考えもしなかった”ってことは、当たり前に信頼してくれた最高の証明なのだよ? 私からも、ありがとう、ハルカ」

 “無意識の信頼”とか“考えもしなかった”という意味を真面目に考え、二人の手が頭から離れた時、ハルカはゆっくりマーメイドスイートルームへ入って行った。そして振り返って尋ねる。

「ホントにいいの? ここに泊まろうとしてた二人はどこに泊まるの?」

 ハルカが最初に泊まるはずだった部屋は一人部屋だ。交換という訳にもいかない。

「ミニスイートにならまだ空きがあるから大丈夫だよ」

 チヒロのその言葉にホッとする。

 それから部屋についての簡単な説明をチャールズにしてもらった。ここは高層階の角部屋という眺望が最高の場所で、一人で使うにはあまりにも広すぎる部屋だった。メゾネットタイプだし寝室やトイレは二つずつあるし、リビングもハルカのマンションと同じくらいはあった。

 ベッドはキングサイズで、バスルームは大理石のが室内に一つと、ジャグジー付きのがベランダに一つあった。ハイビジョンテレビにブルーレイ&DVDプレイヤー、電話機、金庫、冷蔵庫、エアコン、テーブル、ソファー、クローゼットなどもしっかり完備されている。

 豪華客船が“海に浮かぶホテル”と言われるのがよく分かる。

 荷物とコートを置いて部屋を出ると、次はハイコ達が泊まる中層階のミニスイートに案内された。“ミニ”はついているがやはり“スイート”なので、ハルカの部屋には劣るが贅沢な部屋だった。ちなみにハイコとチヒロは同室。エミリオは一人部屋だが。そしてハイコの使い魔である空色の小鳥──エリザベスがエミリオを検索したところ、彼は部屋にいるそうだ。

 ハイコ達は荷物とコートを置くと、エミリオも誘って船内を回ってみようと言った。チャールズとはここで一旦お別れ。用がある時はフロントに電話して呼び出せばいいそうだ。バトラーといってもコンシェルジュのようなもので、常にくっついている訳ではない。

 エミリオは機嫌が悪そうだったが、ハルカも行くと言ったら一番後ろからついて来た。帽子を目深に被って。

 移動中、ハルカはふと気になったことを訊いてみた。隣のハイコを見上げて。

「そういえばさ、どうしてバッグとかも一緒にシフトできるの? 自分のならともかく、中身が分からない物もどうして運べるの?」

 素朴な疑問だった。

「シフトというのは現在地と目的地の空間をチェンジすることです」

 それを言ったのは後ろのエミリオだ。いきなり聞こえてきたのでハルカは心臓が止まりそうになってしまった。

 エミリオは淡々と続ける。

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