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My Fair Vampire  作者: 九重ゆえる
第5話 『はじまりの……』恋編
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第5話 恋編4

「着方分からないなら手伝うよ~ん」

 再びカーテンの向こうからモモの声。

「……ごめんヘルプ」

 ユカリの敗北感と屈辱感の漂う声が左側から聞こえてきた。「りょうか~い」とモモが嬉しそうにユカリの試着室へ入っていく。

 袖口が無駄に広い長袖ワンピースタイプの真っ黒な衣裳を着たハルカは、また背中を見てみた。後ろは編み込みになっていて、僅かだが肌が直接見えるようになっている。しかし爛れの部分は上手く隠れたのでほっとする。

 縁に赤いリボンが縫い込まれた黒いニーソックスと、甲にストラップが付いた若干ヒールのある黒い靴を履いたハルカは最後に、白のレースと黒い薔薇で飾り付けられたヘッドドレスをぎこちなく付けた。

 しっぽはスカートの内側に、猫耳はヘッドドレスに、それぞれ丁寧に縫い付けられていた。そして本物さながらの質感だった。しっぽは内部に針金が通っているようで、自在に形を変えられた。

 準備が終わったハルカがカーテンから出ると、ちょうどモモとユカリも出て来た。

 ユカリはそわそわと落ち着かない様子だった。しきりに猫耳を触っている。

「いや~ん!」

 モモが悲鳴に近い甲高い声を上げた。

「ハルカたん萌え~! やっぱりモモの見込み通りよう! ゴスロリ似合いすぎぃ~」

 身体をくねくねさせたモモが満足そうにハルカを見て言った。

「ごすろり?」

 知らない言葉にきょとんとなったハルカがきく。

「ゴシックロリータのことよぉ! ゴスロリの基本は黒なの。ハルカたん黒似合いそうだから絶対ゴスロリ着せたかったの! ホントは血のり付きの包帯とか眼帯とか付けて、さらに綿が飛び出したウサギさんとか持って欲しいんだけどぉ、出し物飲食店だからさすがにそれはまずいかなぁ~って思って断念したんだぁ」

 笑顔でなにやら分からないことを言うモモに、ハルカは、「そ、そうなんだ」ととりあえず相槌を打つ。

「あ゛ー……意味分かんない」

 頭を押さえたユカリが、

「てゆーかなんで私だけこんなに露出度高い訳? これも倉田のこだわりなの?」

 確かにユカリの衣裳は露出度が高かった。スカートの丈も3人の中で一番短いし、ノースリーブでアームウォーマーだし、胸元もかなり開いていたし。

「もちろん!」

 得意げに腰に手を当てたモモが続ける。

「ユカりんはセクシー担当だもん。だって背ぇ高いし足長いし胸大きいしぃ」

 ユカリは恥ずかしそうに胸元を隠して、「あんたはどこぞのエロおやじか!」と突っ込む。

「──でぇ」

 気にしていない様子のモモが、

「モモとハルカたんはロリ担当なの。モモが甘ロリでぇ、ハルカたんがゴスロリ! ちなみに猫耳としっぽの色にもこだわりがあるんだよ? モモは甘ロリっぽく毛の長い白猫でぇ、ユカりんはクールにロシアンブルー! それからハルカたんはミステリアスな黒猫をイメージしてみたの。もうっ! みんな似合いすぎっ! 萌え~!」

 心底楽しそうなモモがハルカとユカリの腕に抱き着いた。モモの衣裳は白とピンクを基調とした幼い雰囲気のものだった。 大きなリボンの付いたピンクの靴を履いている。






 被服準備室から出ると、ハルカ達は地鳴りのような歓声と雷のようなフラッシュを浴びた。まるで有名芸能人の婚約記者会見場みたいだった。

 被服室にいたのは全員男子生徒だった。「すっげー! 夢みたい。ありえねー!」とか、「あの黒いのが“姫”だよな?」とか、「ねぇねぇ、誰が一番いい? 僕は──」とか。みんな生き生きとしゃべくっている。

 顔をしかめたハルカはすぐに腕で光りを遮った。

「ちょっ──! 眩しい! 何勝手に撮ってんの! はいはい、違うクラスの奴はすぐ帰る! 見たかったら多目的室Bの1Gメイド喫茶へどうぞっ」

 ユカリは頼もしかった。取り囲む生徒達を叱咤し、自ら率先してハルカとモモを廊下まで引っ張ってくれた。

「ただし、セクハラは禁止だからね? 私の友達に変なことしたら許さないから」

 最後に捨て台詞を吐いたユカリが被服室の扉を閉めた。

「あーびっくりした。まさかあんなに盛り上がってるとは思わなかったぁ」

 驚いた様子のモモが扉を振り返って言う。

 ハルカは瞬きをしながら、

「……まだ目がチカチカする」

「ホントだよまったく。もうこうなったらさ、飲食部門売上1位取らない? 今の私達って見た目だけで評価されてる気がするし。なんかそんなの嫌じゃない? 他のクラスの女子に調子乗ってるって言われたらもっと嫌だし。ちゃんと出来るってこと見せ付けてやろうよ」

「うん……。やってみようか?」

 少し迷ったがハルカは賛成した。確かに見た目だけで評価されるのは嫌だったから。

「なんか二人ともノリノリ? じゃあモモもがんばるーっ!」

 モモが楽しげに片手を高々と上げた。

「女子の先輩いなくて良かったねぇ。絶対いじわるされたよモモ達。だってこんなにモテモテなんだもん」

「……え? やっぱり女子ってこの学年にしかいないの? 今年から共学になったのって本当だったんだ……」

 薄々気付いてはいたものの、ハルカはずっと気になっていたことをついにきいた。

「えぇーっ!? ハルカたん知らなかったのぉ?」

「ちょっとハルカ大丈夫!? てゆーかどうやったら知らないでいられる訳っ!?」

 ハルカは二人に肩を揺すられ責っ付かれた。驚きつつも、学校案内をよく読まなかったから──と言おうとしたら、

「うわすっげー!! 猫だ猫!」

 美術館のような廊下の角から、リュウト、ケイタ、カズキが現れた。

 モモとユカリがそれぞれ彼氏に衣裳の感想を貰っている中で、ハルカは邪魔しないようにとさりげなく少し離れて窓辺に寄った。空は今日も高く青く澄んでいた。

 まるであの小鳥の羽根のように。

 まるであの人の瞳のように──。

「分かる? こんな風にいっつも俺一人ぼっちになるんだよ……。居場所に困るっつーか」

 肩を落とした様子のリュウトが話し掛けてきた。

「……そっか。それって淋しい?」

 ハルカはリュウトを振り返って真面目にきいてみた。奇抜な格好をしているので威厳は無いが、黒い服のせいでミステリアスさは倍増していた。

 きいたことに特に深い意味は無かった。あまのじゃくの気まぐれに近かった。まさに猫だった。

「えっ?」

 リュウトは目を丸くしている。しかしすぐに、照れ臭そうに頬を染めながらそっぽを向いて、

「……うん。すっげー淋しい」

(……リュウト……)

 リュウトの素直さにハルカは小さく心を打たれた。するとそんなリュウトがいきなりハルカの腕を取り、幸せオーラを大量に発している2組のカップルに向かって、

「あのさ、俺達生徒会室行ってくるからさ、みんなはメイド喫茶初めててよ」

「モモも一緒に生徒会室乗り込み大作戦行くー!」

 いつの間に大作戦になったのか。ハルカは少し驚いた。

「目上の権力者に抗議する──。将来の為の良い経験になるかもしれないし、俺も参加したいな」

 カズキが不敵に微笑みながら言った。ユカリとケイタも行きたいと言う。しかしリュウトは窘めるように、

「ちょっとちょっとみんなで行ってどーすんの。特に女子は接客班だろ? いなかったらハイコちゃん泣くぞ? 暇なのは当日仕事が無い装飾班の俺だけじゃん。つー訳で行って来まっ!」

 片手を上げて屈託なくにっと笑ったリュウトは、「後でさ、絶対みんなで写真撮ろうなっ? 思い出!」と言った後、ハルカの右手をぎゅっと握って廊下を走り出した。

「ちょ、ちょっと?」

 突然のことに驚いたものの、ハルカはすぐに、慣れない靴で転ばないように走ることを考えるだけで精一杯になった。







(おや? あそこに見えるは衣裳を着たハルカではないか。かわいー)

 多目的室Bの窓から外を眺めていた1-Gの担任ハイコは、中庭を走っている見慣れた自分の女子生徒──ハルカを見て微笑んだ。

 しかしすぐに複雑な感情が生まれる。人ごみで見えづらいが、ハルカは誰かに手を引かれていた。

 間宮リュウトだった。

 リュウトもハルカと同じくハイコにとって大事な生徒の一人なのだが、リュウトが男子というたった一つの事実が、ハイコの心を小さく締め付けた。

 そんな自分自身に戸惑ったハイコは窓の外を見るのをやめた。

 一人の生徒に特別な感情を抱くなんて。そんなことあってはならない。生徒は皆平等に愛さなくてはならないのに。それなのに……。

(ハルカ……)

 ハイコは恐る恐るまた窓の外を見た。なぜ臆病になっているのか疑問に思いながら。

 ハルカとリュウトの姿は見当たらなかった。しかしすぐに人ごみからリュウトが出てきた。リュウトの左手の先にはハルカの右手が。

 困ったように人ごみを振り返った後ハルカは、引っ張り出してくれたリュウトにお礼のようなものを言っていた。その時のハルカの表情は、微笑みこそないものの穏やかだった。それが、自分が一度も見たことが無いくらいのものだった気がしたハイコは、焦りのようなものを感じた。同時に心が軋む音も聞いた。

 自分のことがますます分からなくなったハイコは、感情の変化に無理矢理気付かない振りをして、急いで窓に背を向けた。

 その後ろの中庭にいる二人は、そのまま手を繋いで宮殿のような校舎の向こうに消えた。







 生徒達に囲まれて揉みくちゃにされながらも、リュウトはなんとかハルカを守り、生徒会室前まで連れて来ることが出来た。

 満足感の中には優越感と興奮もあった。今現在高等部で一番人気間違いなしの女子生徒──相澤ハルカの手を取って人ごみを駆け抜けたのだから。

(やばい。俺ちょっとかっこ良かったかも)

 リュウトがそんな事実に少しだけ酔っていると、ハルカが話し掛けてきた。

「ここが生徒会室?」

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