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My Fair Vampire  作者: 九重ゆえる
第5話 『はじまりの……』恋編
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第5話 恋編3


 大方読み終えたハルカは嫌な予感に襲われていた。モモが大騒ぎしていたのは後夜祭が鬼ごっこだからではない。恐らく“姫”というのは──。

「あ、相澤さん?」

 恐る恐るといった具合にきいてくるリュウト。

「ちなみにエーデルダークHの“H”はエロい意味ではなくハイスクールの“H”だから安心してっ?」

「そんなことはどうでもいいの!」

 ハルカの気持ちを代弁するかのようなユカリのツッコミ。

「スタートは明日の午後6時からだって。それから8時までの2時間ノンストップらしいよ?」

 ケイタがパソコン画面をスクロールさせながら言う。

「本人に了承取らないで勝手に公表するなんて、うちの生徒会って強引──っていうか自己中すぎ? がっかりだな」

 軽蔑したような声は、ユカリの彼氏でありクラス委員長のカズキだ。

「なに冷静に分析してんの!」

 ユカリがカズキを叱咤する。

 ハルカの嫌な予感はだんだん現実味を帯びてくる。やはり“姫”というのは。

『高等部の皆様、おはようございます。生徒会より呼び出しがあります』

 その時校内放送が入った。

「来たわ来たわ生徒会! お出ましよ!」

「はいはいうるさいから」

 モモの口を塞ぐユカリ。皆スピーカーに注目している。

『1年G組相澤ハルカさん。開会式終了後、クラスの準備が終わり次第、至急生徒会室までお越しください。繰り返します。1年G組──』

 教室中の視線が自分に集まるのをハルカはひしひしと感じていた。また透明人間になりたくなってくる。逃げたい……。

 感じた頭痛にハルカが額を押さえていると、リュウトが張りのある明るい声で、

「でっ? 生徒会室ってどこにあんだっけ?」

「リュウトくんてば何する気ぃ?」

 自由になったモモが目を丸くしてきく。

「決まってんじゃん。相澤さんは俺が最初に目ぇ付けたんだぜ? どこの馬の骨とも知れない奴に1週間もいいようにされてたまるかってーの! 生徒会だろうが何だろうが関係ねぇ。絶対文句言ってやる。もちろん相澤さんは断るつもりだよねっ?」

 こくこくと頷くハルカ。当たり前だ。しかしその前に確認を。

「その、“姫”っていうのは本当にわたしなの?」

「これが嘘じゃなければね~」

 ケイタが、“ここ”と表示されているリンクをクリックした。

 一瞬、自分の画像が表示されるかと思ってひやりとしたハルカだったが(明らかに犯罪なので)、実際はクラスと名前だけだったのでとりあえずほっとした。文字サイズは5メートル離れていてもばっちり見えそうな程に大きかったが。

 自分が“姫”だという事実に軽い眩暈を覚えたハルカが、再び額を押さえていると、

「ハルカ! どうしたんだい!? 頭痛いのかい!?」

 ハルカ達の担任、プラチナブロンドのハイコが心配そうな顔で駆け寄って来た。その時リュウトが小声で、「くそ~。ハイコちゃんめ。俺だってまだそう呼んだことないのに。職権濫用だぜ」とぼやいていた。

「……別に。なんでもない」

 素っ気なく答えるハルカ。ハイコは心配性すぎるのだ。特にハルカには。

 ハルカが居眠り(もちろん休み時間)をしたり、ちょっと咳をするだけでどこからともなく飛んで来る。はっきり言ってハルカはうざいと思っていた。というかむしろ怖い。

「……そうかい? 無理してはダメだよ?」

 叱られた子供のような顔をした後、ハイコは、「生徒会はハルカに何の用だろうねぇ? ちなみに生徒会室は校舎の中ではなく外にあるから注意が必要だよ?」と言いながら黒板に“第1講堂へ”と書いていた。

「みんなそろそろ第1講堂へ行ってくれ給え。エーデル祭の開会式が始まるよ」

 その後ハイコは、忙しいのか、「ほんとに無理はいけないよ?」と早口に言い、後ろで一つに纏めたプラチナブロンドを翻し、小走りに去って行った。

「もしかして──」

 ハルカは一つの確信を口にする。

「先生達はこのサイトのこと知らないの?」

「知らないよ」

 カズキが眼鏡を押し上げながら言う。

「生徒達はみんなおもしろいイベントを企画する生徒会が好きだから、誰もばらさないんだよ。もしバレても生徒会はこれといった処罰を受けないと思うよ。サイト内容に関しては健全だし──まぁ、許可無く個人名を掲載してるのは別として、生徒が個人で作った非公式裏サイトに比べれば百倍ましだし──先生方は真面目で活動的な生徒会を高く評価してるし。……それにこのサイトを公にしたら生徒会から復讐されるって噂があるからね。生徒だろうが教師だろうが」

「復讐?」

 物騒な言葉にぴくりと反応するハルカ。

「実は生徒会メンバーってバックボーンに支えられてるの」

 ユカリが答えてくれた。

「会長は理事長の息子だし、その他は教育委員会とかPTAの役員に親がいたり。だからこのサイトのこと生徒以外に話したり、悪く言ったりしない方がいいの。でもね──」

 そこでユカリと目が合うハルカ。

「友達が──ハルカがこのサイトのせいで嫌な思いをしたなら、私は抗議するつもりだよ?」

「……ユカリ」

 ハルカは思わずユカリを見つめて呟いた。心に響くものがあった。温かい何かが湧き上がってくる。……嬉しい。

「お、俺も! 相澤さんの為なら何だってするし!」

 勢い込むリュウト。

「モモもモモもっ! ハルカたんのことだぁーい好きだもん」

 便乗したように言ったモモが笑顔で抱き着いてきた。「あ! ずりぃ!」引き剥がそうとするリュウトにモモが膨れっ面で、

「ダメぇ。男子禁制だもーん。乙女の友情に入って来ないでぇ」

「んだとコラッ! おまえはケイタに引っ付いてればいいんだよ」

「何その言い方~!?」

「他人の彼女を勝手に“おまえ”呼ばわりしないでくれる?」

 ノートパソコンを静かに閉じたケイタがゆらりと立ち上がる。

「嬉しい! ケイタくんがモモの為に怒ってる!」

 瞳を輝かせるモモ。

「ちょっとやめなって! その前に倉田はそろそろハルカを放しなさい」

 止めに入るユカリにカズキがあっさりと、

「ユカリ、ほっといて講堂行こう?」

「えぇ!? カズキ委員長でしょ? てゆーか弁護士になるんでしょ? これくらい綺麗におさめなさいよ」

 眉を潜めて詰め寄るユカリ。

「こういうのはほっとくのが一番。それにこれをおさめたって俺には何の得も無いだろう?」

 切れ長の目でにこりと微笑むカズキに、ユカリは呆れたように言った。

「……あんたのそういうとこ嫌い」

「おぉ! 険悪ムード! 別れてしまえ!」

 リュウトが嬉々として茶化した。

「こんなことで別れないし。ハルカ行こっ?」

 怒った様子のユカリがハルカの手を取る。ハルカは何も言わずに従った。何て言えば“姫”を辞退できるかを上の空で考えていた。






 第1講堂に行く時も、開会式中も、教室へ戻る時も、ハルカはあらゆる方向から視線を浴びた。指をさされてこそこそ話しをされたりにやにや笑いをされたり。男子だらけの学園なので圧迫感はかなりのものだった。

 ユカリ達が傍にいなかったら、ハルカはとっくに帰宅していた。

「二人ともまだぁ?」

 カーテンの向こうから、モモが待ちきれないといった具合で呼び掛けてきた。

 広々とした被服準備室には、カーテンで出来た即席試着室が3つ程設置してある。その試着室の真ん中で、ハルカはエーデル祭の衣裳に着替えていた。ハルカの衣裳はほぼ真っ黒で、メイド服というよりは黒いドレスだった。

「倉田と違って私はこーゆー服に慣れてないの。それに“猫耳としっぽ付き”なんて聞いてないよ。もうちょっと待ってっ」

 ハルカから見て左側のカーテンの向こうにいるユカリは、少し機嫌が悪そう。それもそのはず、衣裳に“猫耳としっぽ”が付くことを知ったのはさっきだ。

「わたしも、もう少し待って」

 ハルカは“姫”のことで頭がいっぱいだったので、衣裳の奇抜さについては特に怒っていなかった。

 ふとハルカは身体を捻って鏡に映る自分の背中を見た。そこには遠目でも分かるくらいにはっきりと、肌が爛れた痕がある。火傷や擦り傷などが度重なって出来たものだ。

 まるで羽根をもぎ取られた天使のようだった。

 見るのをやめたハルカは伏し目がちになる。背中の痕が自分に対する母親の憎悪に見えてしまったのだ。

 ハルカは慰めるように自分で自分をきつく抱きしめながら俯いた。

(お母さん……)

 今母親は自分のことをどう思っているのか。ハルカはそれが知りたかった。

 愛してくれているだろうか。それとも……やはり殺したい程疎ましく思っているのだろうか。

 しかし入院中の母親と会う術は無い。未だに面会も電話もハルカだけ許されていないのだから。

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