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My Fair Vampire  作者: 九重ゆえる
第8話 『海の上のヴァンパイア、狙われた眠り猫』パーティー編
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第8話 パーティー編20

「うーん……」

 チヒロは眉間に皺を寄せ、

「上は無理だから、とりあえず下だな。ついでに情報収集もしよう」

「そうだね。何か状況が変わったかもしれないしね」

「俺ちょっと下にある設備とか、ざっと訊いてくるよ」

 そう言ってチヒロが治療室を出て行くと、エミリオが着ていた黒のロングジャケットを脱いだ。そして、「はい」とだけ言ってハルカの肩に掛けてくる。当たり前のように。

 ぽかんとしてエミリオを見上げたら、コートを脱ぎ始めたハイコが、

「いいよエミリオ君。私が貸すよ」

 今度は靴を脱ぎ始めたエミリオが、現実的なことを言う。

「ヴェインリッヒのじゃ大きすぎるんですよアホですか。靴も僕が貸します」

「……う……うぅ……」

 二の句の出ないハイコが渋々といった具合に情けなくコートを着た時、靴を脱いだエミリオがベッドを迂回して右側に来た。そしてハルカの足元にネイビーブルーのスニーカーを揃えて置く。

 そのスニーカーを見下ろした時、ハルカは近くに置かれた自分が元々履いていたミュールを見つけた。

 誰かが拾ってきてくれたんだ。

 ハルカはミュールを指差してさらっと、

「これあるし、靴はいいよ」

「それじゃ走りづらいでしょうっ」

 台詞と同時にエミリオのチョップがハルカの頭頂部を直撃した。威力はそうでもなかったが、ハルカは思わず、「痛っ」と口走る。

「なんてことするんだいエミリオ君!」

 ハルカをかばうように間に入ってきたハイコが、微笑みながら頭をそっと撫でてきた。

「大丈夫。ハルカは私がおんぶして行くからね? まだ身体変でしょ?」

 背負ってもらうだなんてとんでもない。そんな迷惑はかけられない。

 内心焦ったハルカは、「もう大丈夫だよ」と言ってリノリウムの冷たい床に素足を降ろし、立ち上がってみた。しかしやはりというかなんというか、眩暈に襲われた。視界がチカチカして意識が遠のく。

「ハルカ!」「ばかっ」

 後ろに倒れそうになったハルカを、ハイコとエミリオが同時に支えた。

 後ろはベッドだから倒れても問題ないのに、二人の反応は機敏だった。

 過剰に守られている自分に情けなさを覚えたハルカは、ベッドに座り、肩を落とした。

 無力すぎる自分が恥ずかしい。二人の優しさがくすぐったすぎて気持ち悪い。そんな風に思ってしまうひねくれた自分が悲しい。

「ハルカ? 大丈夫かい?」

 気遣わしげなハイコの声。背中をさすってくれた。

「ヴェインリッヒが嫌なら僕が背負って行くので安心してください」

 言いながらエミリオが脱いだスニーカーを履こうとしている。

 なにやらおんぶ決定になっている現状に再び焦ったハルカは、倒れそうになったことなどなかったかのような落ち着いた口調で、「ごめん。今の冗談。だからおんぶはいいよ」と言ってみた。

 嘘ついたことは簡単にバレると思った。それでもおんぶは本気で嫌だったので、言わばこれは苦し紛れの抵抗。

「遠慮しないでいいのだよハルカ?」

 ハイコの優しい言葉に、ハルカは下を向いて首を横に振った。もはやわがままな子供みたいになっているが、どうしてもおんぶは回避したかった。だって恥ずかしいし絶対相手に負担がかかるし……。

 短くため息をついたエミリオが、「めんどくさい奴……」と呟きながら、再びハルカの足元にスニーカーを揃えて置いた。そして上目遣いでこっちを見、

「せめて靴は履いてください。次倒れそうになったら殴って気絶させてでも背負いますよ?」

 物騒なことを言うエミリオは、声色からも明らかに怒っていると分かる。右の赤眼も鋭い。

 ピタッと閉じた膝の上で両手を丸めたハルカは、目を逸らしながら怯え気味に答えた。

「……わ、わかった」

「そんな言い方しなくてもいいだろう?」

 困り顔でエミリオにそう言ったあと、ハイコは微笑みをハルカに向け、

「大丈夫だよハルカ。そんなことさせないからね?」

「う、うん……」

 ハルカは緊張気味に頷いた。性格の違いすぎる二人に戸惑っていたのだ。

 でも、ちょうどいいのかもしれないとも思った。例えば、エミリオがマイナス5でハイコがプラス5だとすれば、結局その二つはハルカに届いた時に相殺され、ゼロになる。

 ハイコのお陰でエミリオの恐怖に怯えないで済むし、エミリオのお陰でハイコの優しさに溺れないで済む。

 どちらかに影響されすぎないことが、健全に成長する近道になる。

 ハルカがエミリオのスニーカーを履き、紐をきつく締めていると、チヒロが戻って来た。

 肩にかかっていたままのエミリオのジャケットに腕を通し、ボタンを留めると、ハルカ達は治療室を出、医務室も出た。

 医務室を出る時、セシリアと言葉を交わした。セシリアは、治癒術の使えなくなった今自分が医務室にいる意味はなくなったので、とりあえず一緒にこの船に来たパートナーと合流すると言っていた。最後にハルカは、セシリアにもう一度治療のお礼を言った。

 セシリアと別れたハルカ、ハイコ、チヒロ、エミリオ──それから使い魔の2匹は、チヒロの提案で、まずは人が大勢集まっていそうな吹き抜けショッピングプロムナードを目指すことにした。











◆第8話『パーティー編』◆

◆END◆

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