第5話〜黄色い 柚
木枯らしが吹き抜ける季節、ふと立ち止まりたくなるような寒さの中で、私たちは誰かの小さな優しさに救われることがあります。
本書は、そんな冬の日に出会った二人の、静かで温かいひとときを描いた物語です。庭先に実る黄色い柚子、シュンシュンと音を立てる古い鉄瓶、そして手渡される一杯の温かい柚子茶。特別な出来事は起こらなくとも、そこには冷えた身体と心をじんわりと溶かしていく確かな温もりがあります。
凍える季節にそっと灯りをともすような、優しく穏やかな時間をお届けできれば幸いです。
「ずいぶんと冷え込んできましたね、秋弘さん」
冬子は、庭の片隅にある小さな柚子の木から、黄色く熟した実をふたつ、そっと収穫した。手のひらに包むと、冬の寒さの中でそこだけがぽっと灯火のように温かい。
「本当に。そろそろ雪がちらついてもおかしくない寒さだ」
秋弘はかじかんだ手をこすり合わせながら、庭の落ち葉を掃く手を止めて微笑んだ。
「ちょうどよかったです。母屋で、温かい柚子茶を淹れますね。少し、雨宿りならぬ寒さ宿りをしていってください」
台所の古い鉄瓶が、シュンシュンと白い湯気を上げている。冬子が手際よく柚子を刻み、蜂蜜と合わせてお湯を注ぐと、甘酸っぱく、どこか懐かしい香りが部屋いっぱいに広がった。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます……。あぁ、身体の芯まで温まりますね」
湯気の向こうで、秋弘の表情が柔らかくほぐれていく。二人が手にする湯呑みから立ち上る温もりは、静かに、けれど確かに、冬の寒さを溶かしていった。
本作をお読みいただき、ありがとうございます。
木枯らしが吹き抜ける庭先から、湯気の立ち上るあたたかな台所へ。静かに流れる時間の中で、柚子茶を挟んで向かい合う冬子と秋弘の、言葉に合間にある小さなしあわせを描きました。
冷え込む季節、読者の皆さまの心にも、ふっと一灯の温もりが灯りますように。




