第3話〜小さな春のひとくち
:冬の庭に咲く、小さな春
借りていた一冊の専門書を返すため、夕暮れ時の野上庭園で待ち合わせた冬子と秋弘。
冷たい木枯らしが吹く冬の庭で、手渡された本と、そのお礼にと差し出された色鮮やかな贈り物。
ほんの少しの照れくささと、お互いを思いやる温かい気持ちが、凍てつく空気を優しく溶かしていく——。
二人の距離がほんの少し縮まる、穏やかな夕暮れのひととき。
「これ、どうぞ。預かっていた本です」
夕暮れ時の野上庭園。冬子は、丁寧に包まれた一冊の専門書を秋弘に手渡した。
「ありがとうございます。わざわざ持ってきていただいて」
秋弘は恐縮したように、受け取った本の包みを愛おしそうに撫でた。そして、少し躊躇うように作業着のポケットから、透明なフィルムに包まれた四角いものを取り出した。
「あの……これ、もしよかったら。昨日、近所のパン屋で見つけて。冬子さん、甘いものは大丈夫ですか」
差し出されたのは、真っ白な食パンの間に、たっぷりの生クリームと、大粒のいちごやキウイが美しい断面を見せて並ぶフルーツサンドだった。
「わあ……! フルーツサンド、大好きです。ありがとうございます」
「果物屋がやっている店らしくて、美味いと評判なんです。俺みたいな男が買うのは、少し恥ずかしかったんですが……いつも温かいお茶をいただくお礼に」
秋弘は耳の裏を少し赤くしながら、そっぽを向いた。
「嬉しい。お皿を持ってきますね。半分ずつ、一緒に食べませんか?」
「えっ、でも」
「一人で食べるより、その方がずっと美味しいですから」
冬子は弾むような足取りで母屋へと向かった。冷たい風の吹く冬の庭で、手渡されたフルーツサンドは、まるで小さな春の塊のように、二人の間で優しく色鮮やかに佇んでいた。
第3話をお読みいただきありがとうございました!
冬の寒さのなか、不器用な秋弘が差し出したフルーツサンドは、まさに二人の心に咲いた「小さな春」ですね。次回、お皿を携えて戻ってきた冬子との、少し照れくさくて温かい「もぐもぐタイム」もぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです。




