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冬が来たから  作者: 孑孑(ぼうふら)
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第2話〜小さな温もり

厳しい北風が吹き抜ける、ある冬の始まり。

寡黙な庭師・野上秋弘の手によって、冬子の祖父が愛した庭に美しい「雪吊り」が施されます。

凍える寒さの中で交わされる、一杯の温かい珈琲。

職人としての頑なな手と、それを優しく見つめる冬子の眼差しが重なるとき、二人の心に小さな、けれど確かな温もりが宿り始めます。

第2話:小さな温もり

火曜日の朝から、野上庭園の作業が始まった。

冬子が図書館での勤務を終えて帰宅すると、すでに秋弘の姿はなかったが、庭の空気は一変していた。五葉松の幹から放射状に張られた真新しい縄が、夕闇の中で美しい円錐のシルエットを描いている。北風に耐えるための「雪吊り」だ。

「……綺麗」

思わずため息がこぼれた。ただ木を保護するだけでなく、まるで庭全体が一つの美術品になったかのような、丁寧で凛とした佇まい。不器用で寡黙なあの男の、指先の繊細さと木への愛情が、静かに伝わってくるようだった。

土曜日、秋弘は仕上げの作業のために再びやってきた。

冷え込みが一段と厳しくなった午後、冬子は台所で丁寧に湯気を立てる珈琲を淹れ、お盆に乗せて庭へ出た。

「あの、野上さん。少し休憩にしませんか。温かいものでも……」

脚立から降りた秋弘は、一瞬だけ躊躇うような仕草を見せたが、すぐに作業用の手袋を外して頭を下げた。

「……すみません。いただきます」

縁側に並んで腰掛け、湯気の立つマグカップを手に取る。秋弘の指先は、絶えず土や木に触れているせいか、あかぎれて小さくひび割れていた。

「手が……痛そうですね。この季節は特に大変ではありませんか?」

冬子の言葉に、秋弘は自分の大きな手を少し縮こまらせるようにして、自嘲気味に笑った。

「職人の手ですから。放っておけば勝手に固くなります」

「私の職場にも、古い和書の修復をする人がいて、同じような手をしていました。でも、その手が生み出す仕事は、いつも本当に美しいんです。野上さんの雪吊りも、今朝見たとき、胸が打たれました」

秋弘は驚いたように動きを止め、それから照れくさそうに視線を庭の松へと移した。

「……前の親父の代から、この庭の木は見ていました。じいさんが大事にしていたって聞いていたから、格好悪くはできないなと、それだけです」

「祖父も、きっと喜んでいます」

冬子は、ふと思い立って言った。

「そうだ。もしよろしければ、今度、古い日本庭園の図面や修復技術が載っている写真集をお貸ししましょうか。図書館の閉架書庫に、一般の棚には出していない面白い本があるんです」

「本、ですか」

「はい。野上さんのようなお仕事の方にこそ、見ていただきたいなと思って」

秋弘はゆっくりと珈琲を飲み干し、マグカップを冬子に返すために手を伸ばした。

「……じゃあ、お願いしようかな。そういう本なら、少し興味があります」

差し出されたカップを受け取る瞬間、秋弘の温かくゴツゴツとした指先が、冬子の冷え切った指先に触れた。

ほんの一瞬の、しかしお互いの体温をはっきりと意識させる確かな熱。

二人は小さく息を呑み、どちらからともなく視線を外した。冷たい風が庭の木々を揺らしていく中、二人の間にある空気だけが、春を待つ土のように、静かに熱を帯び始めていた。

本作をお読みいただき、誠にありがとうございました。

第2話では、冬子と秋弘という不器用な二人の距離が、「職人の手」と「一冊の本」をきっかけにほんの少しだけ近づく様子を描きました。張り詰めた冬の空気の中に漂う珈琲の湯気や、指先が触れ合った瞬間の小さな熱量が、読者の皆様にも心地よく伝わっていれば幸いです。

一歩ずつ、しかし確かに変わり始める二人の関係を、これからも温かく見守っていただければ嬉しいです。次話もどうぞお楽しみに。

ライニ

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