破
「ヒューゴー様!」
「ベラ!」
そして訪れた、オルブライト伯爵家でのホームパーティー当日。
僕は愛人であるベラと、いつも通り人通りのほとんどない裏路地で会っていた。
ホームパーティーは夕方からなので、まだ三時間ほど余裕がある。
最近は僕も何かと忙しくて、この時間しか空いていなかったから、せめてこの三時間で、ベラとたっぷり楽しまないとな。
「会いたかったです、ヒューゴー様」
「ああ、僕もだよ、ベラ」
この数日、ベラの豊満な肉体を思い出すたび、僕の男の部分がうずいて仕方なかった。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
僕たちは裏路地を進み、行きつけである『ニャッポリート』という名前の隠れ家的なホテルへと向かった。
「いらっしゃいませ」
ニャッポリートに入ると、背の高い絶世の美女が僕たちを出迎えた。
おぉ……!?
いつも受付はデブのババアだったのに、今日の受付は随分な上物じゃないか……!
……こりゃ、何とかしてこの娘とも楽しみたいところだな。
今度機会があったら、食事にでも誘ってみよう。
……でもこの女、どこかで会ったことがあるような?
まあいいか。
「二人で」
「承知いたしました。ではこちらにお立ちくださいませ」
美女に促されるまま、魔法陣の上に立つ僕とベラ。
「それでは、ごゆっくり」
美女が会釈しながら手元のスイッチを押すと、僕とベラの身体は光に包まれた――。
「わあ! 今日のお部屋は、いつもより豪華ですね!」
「そうだね」
そして気が付くと、僕らは窓やドアすらない、白い壁に覆われた広いベッドルームへと転送されていた。
このホテルはこうして転送魔法陣で、窓すらない完全な密室に送ってくれるので、僕たちのような密通目的の連中に重宝されているのだ。
ここなら僕らの関係がバレる心配もないしな。
――さて、と、では早速。
「……ベラ」
「――! ヒュ、ヒューゴー様……」
僕は後ろから、ベラの身体を抱きしめた。
嗚呼、このベラの柔らかい身体……!
いつもながらの、堪らない抱き心地だ――。
「愛してるよ」
「わ、私もです、ヒューゴー様……。――きゃっ!?」
そのまま僕は、ベラをベッドに押し倒す。
「も、もうするんですか……?」
「ああ、ずっと君と愛し合いたくて今日まで我慢してきたんだ。――だから、いいだろ?」
何よりあまり時間がないんだ。
ゆっくりベラの機嫌を取ってる余裕はないからな。
「……ええ、でも、一つだけ訊かせてください」
「ん? 何だい?」
ええい、まどろっこしいな。
「――本当にエイミー様との婚約は破棄して、私と結婚してくれるんですよね?」
「――!」
……またそれか。
「ああ、もちろんだよ。実はもう父上には話は通してあるんだ。だからあとはタイミングを計って、オルブライト家に婚約破棄の打診をすれば完了さ」
「まあ、そうなんですね!」
バカが。
そんな話、僕が父上にするわけないだろ。
僕とエイミーの婚約は、上級貴族の家同士が決めた政略結婚なんだから、僕の一存で破棄なんてできるわけがない。
ましてベラみたいな下級貴族の娘と、侯爵家の跡取りである僕が結婚するなんて、天地がひっくり返っても有り得ないことだ。
そんなこともわからないなんて、これだから栄養が胸にしかいってない女は……。
こりゃ、ベラとの付き合いも、そろそろ潮時かな。
あと二、三回楽しんだら、適当な理由をつけて、さっさと別れよう。
「ヒューゴー様、私、嬉しいです!」
ベラにギュッと抱きしめられる。
ククク、チョロいな。
「……ベラ」
「ヒューゴーさま……んっ」
ベラに濃厚なキスをする。
こうすれば、すぐにベラは従順になるからな。
「ハァ……ハァ……ヒューゴーさまぁ……」
徐々にベラの服を脱がせていく。
嗚呼、やはりこの女の服を一枚ずつ脱がせていく過程は、リンゴの皮むきみたいで快感だな……。
「「…………!?」」
その時だった。
ゴゴゴゴという不穏な音が、頭上から聞こえてきた。
何の音だ……?
ふと天井を見上げると、そこには――。
「………………は?」
いつの間にか天井が綺麗サッパリなくなっており、雲一つない空が顔を覗かせていたのである。
んんんんんんんん????
「「――!?!?」」
が、次の瞬間、更なる衝撃が僕を襲う。
何と四方の壁が、まるで張りぼてみたいに外側に倒れ、実に開放感溢れる空間になってしまったのだ。
こ、これは――!!!
「なっ!? ヒューゴー、何をしているんだ、お前ッ!?」
「きゃあああ!!! どういうことなの、ヒューゴーッ!?」
「ち、父上……!! 母上……!!」
僕は目の前が真っ暗になった。
何故かそこには、僕の両親が立っていたのだ――。
「うふふ、如何ですかヒューゴー様。私の用意した余興は、楽しんでいただけましたか?」
「――!」
そして両親の隣には、エイミーの姿も――。
エイミーだけじゃない。
この場には、アシュビー侯爵家と、オルブライト伯爵家の親族一同が、全員集まっていたのである。
よく見れば、ここはオルブライト家の中庭。
夕方からの、ホームパーティーの会場だ。
ま、まさか――。
「これは、君が仕組んだことなのか、エイミー……」
「ええ、その通りですわ、ヒューゴー様」
妖しく微笑むエイミーが、僕には悪魔に見えた――。




