45話 忙しない
俺は王様から家事スキルを認められ、部屋の掃除から炊事当番と着々と使える者へと進化していった。此れで将来は安泰間違いなしだぜ。その後独りでに呟いた。最初は使用人からのひどい叱責があってやめてやるなんて思っていたんだが徐々に俺の努力が認められ始めると賞賛に変わっていた。今は使用人の方とも仲がいい。
「果たして俺の望むべき姿だったのだろうか」
と......
今日も今日とて、仕事を1段落終えると、部屋のソファーに突っ伏す。働くのは気持ちがいいものだな。
「二斗さん。いらっしゃいますか」
扉腰に聞こえるのは使用人の声だ。風呂場の掃除以来これといった接点が無く、少し驚いた。
「王様がお呼びです」
そう一言を告げると、いなくなってしまった。なんのようだろうか。
「おう、二斗きたかのぉ」
王冠を輝かせて玉座にすわっていらっしゃるマルベス国王を見上げる。
「王様。どのようなご用件でしょうか」
隣にいた警備兵にカバンと小包み袋をこちらに渡される。
「これは一体......」
「なーに。食料が切らしておってな。買い物をたのみたいのじゃ。何を買ってくるかはカバンの中に入っているメモをみて探してのぉ」
「分かりました。ではすぐいって参ります」
王室から去ろうとした時。
「1つ言い忘れておった。一人で街中を歩くのは危険じゃぞ。セリナと一緒にいきなのぉ」
忠告を受け取り王室を後にする。
◇ ◇ ◇
「俺の都合で付き合わせてしまって申し訳ない。嫌だったら断ってもよかったのに」
本心は断りさえしたらこのガラスのハートは割れやすくヒビガ入りやすいとても受け止める事のできないもろい心が引き剥がされてしまう。俺は両手を身体に前に合わせて謝罪の意を表する。
「二斗って案外被害妄想が強いのね。私が嫌々付き合ってるように見えるの。その......私は普段ひとりで行動する事が多いからむしろうれしいぐらいなのよ」
序盤ははきはきと答えていたセリナだが、後半に行くにつれて尻すぼみのように呟くように小さく言った。
「え、最後の方なんていったの?」
「な。なんでもないわよ!それより父上から長い時間街をうろつかない様言われたんでしょ。ささっと買い物を済ませてしまいましょう」
「ああ」
彼女の気迫に押されてこれ以上は追求する事ができなかった。
「果物か」
ふと脳裏に浮かんだ人物はシュナイダーだった。
「どうしたの二斗。具合でも悪いの」
彼女は心配そうにこちらを見つめる。
「路地で戦っていた、男はここの果物屋さんの店長だったから」
彼女はハッと驚いた様子で、
「知り合いだったの!私が救えていればッ」
「でも、キグナスの命令に従って俺を抹殺しようとした事実には変わりないしどちらかが死ぬ事は避けられなかった。
「でも.....」
彼女を困らせたかった訳ではなかったが結局困らせてしまっていた。果物屋さんにはアルバイトの女の子が元気に接客をやっており少々居た堪れない気持ちになった。
「これとこれください」
「はーい」
俺が注文したのは、キッコロというメロンのような果物。それからシナという梨みたいな果物を一つづつ買い店を出る。お店を訪れるのは今日限りにしておこう。
◇ ◇ ◇
買い物をしていたらすっかりよる遅くなってしまった。早く帰らないと。
「ちょっといいですかな」
身長は150cmほどで全身を黒いスーツを身に纏っているいかにも怪しい奴に話しかけられる。




