26話 盗賊幼女④
ベッドの下で疼く待っていたリストに声をかける。
「さっきのやつらはいなくなったぞ。出てきても大丈夫だ」
こちらの様子を見ると他に誰かいないか、丸まった姿勢からキョロキョロりと辺りを見回す。
いない事を確認できたのか静かに出てくる。
「あんたら、わたしを捕まえに来たと言っていたな。どういう事。話が違うでは無いか」
先程のにこやかな笑顔が消えて、今は敵対したかのような鋭い目つきを見せる。
外の灯りはポツポツと消えていき、部屋の中は薄暗さを増していく。
「お前の言う通り俺たちはリストを探しにグランド王国からこのスカヌハ国に来た。そして身柄をグランド王国で預かるために」
俺は彼女の眼差しを全て受け止めるつもりで、決して目線を外さない。セリナは焦った様子でこちらを見入る。
「なんで二斗。あなたはどうしてそんな言い方しかできないの」
俺の頬は赤く腫れて、痛みは後から付いてくる。セリナの瞼からは少し涙が見えていた。
「二斗の言ったことは正しい。だけど、リストの盗人としてしか生きてこれなかったその痛みを知っているからこそ私たちはリストを仲間に誘ったの」
「私の何がわかっているの?」
リストの表情はますます嫌悪感に満ち溢れていた。
「あなたたちには分からないわ。私がまだ職業にすらついていないころの話をしてあげるわ。私の父は盗人として働いていた。決して裕福な家庭ではなかったわ。1日1食が当たり前の生活をしていた。それでも、父のやさしさは私にとっては、かけがえのないものだった。でもあるとき、いつもの時間になっても父は帰ってはこなかった。心配した私は家から飛び出して街の至るところを探したわ。でも結局見つけられなかった。
次の日には、警備兵が私たちの家を訪ねてきたわ。「あなたの父親を捕まえました。盗むことは犯罪であり、この国では許されるものではない」と。母は何も抵抗はしなかったわ。多分わかっていたんだろう。何時か捕まってしまうということが。じゃあ、盗人の職業を言い渡された人たちはどうやって生きていけばいいの。そんな思いが湧いてくるようになった。だから、私は警備兵を許すつもりはない!」
そう言うとリストの姿は2階の窓へと消えていく。
「待って!」
セリナの声は彼女には届くことはなく、言葉が壁に反射するだけだった。
「リストを追わないと」
俺たちが騙していたとはいえ、今逃げ出してしまうと警備兵に捕まる恐れがある。
「そうね」
2階の部屋を飛び出て宿から外へと出る。雨が降り出しそうなどす黒い雲が頭上を埋め尽くしている。
「どこにいったかは分からないが、とりあえず探そう」
「ええ」
街はきたばかりだ。地図もないため探すのには苦労するだろう。おみせはほとんどが閉まっており、明かりはないのに等しい状況。噴水前にはライトアップがされておりそこだけが唯一明るかった。
「リスト見つけたぞ!」
警備兵5人が、一人を囲んでいる。「まさかっ」
「リストはあそこにいる!」
噴水前に人だかりが出来ている。俺を指を指しセリナに伝える。
「ほんとうだわ。それに警備兵の方もいるわ」
「急がないとまずいことになる。つかまってしまったらどうなるか分からない」
走って向かう。リストは抵抗をするがこの人数相手だと分が悪い。
「ちょっと待ってくれ!」
警備兵がこちらを一斉に向く。
「なんだ、君たちか。たったいまリストを見つけたんでなこちらで預かることにする」
「私たちで預かるわ。そのためにきたのだから」
「なにー。確かに協力要請をしたわけだが、この国のルールに乗っ取り処罰されるべきだろう」
向こうは一歩も引かない。
「だから、キグナスが預かると言っているじゃないか」
「キグナスなら信用できるわ」
唸るようにして頭を抱え込み考える警備兵たち。
「仕方ない。あなたたちに預けよう」
「兄やん、ありがとな」
リストは照れくさそうに髪をいじる。
「さっきは嘘をついていて悪かった」
「私もリストの事を知ったつもりでいろいろとお節介なこといってしまったわ。ごめんね」
二人してリストに頭を下げる。彼女は怒ってはいなくやさしい表情をしていた。
「助けてもらったのに今更謝るひつようもないわ。顔をあげて」
リストとは仲直りができて良かった。警備兵の人たちは帰っていき3人だけ夜の街に取り残されたような感覚だった。
「宿に戻りましょうか」
セリナの声を筆頭に各自宿へと戻り始める。




