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白薔薇は、誰のために咲く  作者: 乾燥しいたけ


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第五章 継母の告白

 三日後、ザフィレーヌが七番街を訪れた。


 黒い喪服に似たドレスをまとい、護衛も連れず、たった一人で時計塔の扉を叩いたのである。


 メルキオルは彼女の姿を見るなり、露骨に顔を歪めた。


「……よくもまあ、ここへ来られたものだな」


「お久しぶりね、メルキオル。相変わらず口が悪いこと」


「何をしに来た」


「娘を迎えに来たのよ」


 ザフィレーヌは室内を見回し、奥に立つオルフィリアを見つけた。


 その瞬間、彼女の表情がわずかに緩んだ。


「……無事だったのね」


 オルフィリアは答えなかった。


 継母はゆっくり近づいてきたが、少女が一歩後退すると、それ以上距離を詰めようとはしなかった。


「お義母様」


「何かしら」


「白薔薇の選定について、すべて聞きました」


 ザフィレーヌは目を閉じた。


「……そう」


「本当なのですか? 選ばれた女性は、百年間も生きたまま魔物に食べられ続けるというのは」


「ええ。本当よ」


 あまりにも簡単な肯定だった。


 オルフィリアは胸の奥が冷えていくのを感じた。


「……では、なぜ私を参加させたのですか?」


 ザフィレーヌは答えなかった。


「私が供物になると、知っていたのでしょう?」


「……」


「お願いです。何か言ってください」


 継母は長い沈黙の後、静かに口を開いた。


「あなたのお母様は、白薔薇の乙女になるはずだった人よ」


 オルフィリアは息を呑んだ。


「……母が?」


「ええ。十八年前、王家は次の供物としてリュシェル・ディルヴェインを選んでいた。彼女は当時、王国で最も高い美質を持つ女性だった」


 ザフィレーヌは窓のない部屋の天井を見上げた。


「けれど、彼女は逃げたの。お腹にあなたを宿したまま、王宮から逃亡した」


 メルキオルが低く唸った。


「……まさか」


「そう。あの人は、自分の魂を娘へ分け与えたのよ」


 オルフィリアの手が震えた。


「……どういう、ことですか?」


「白根の樹は、選ばれた供物の魂を追い続ける。たとえ王国の外へ逃げても、契約からは逃れられない。でも、魂を別の人間へ移せば、追跡を誤魔化せる可能性があった」


 ザフィレーヌは娘を見つめた。


「あなたのお母様は、自分の魂の半分を、生まれてくるあなたへ移した。そして、その影響であなたは鏡に映らない体質になったの」


 オルフィリアは唇を噛んだ。


 母は自分を守るために、そうしたのだろうか。


 それとも、自分が助かるために娘を利用したのだろうか。


「……母は、その後どうなったのですか?」


 ザフィレーヌの表情が曇った。


「死んだわ。あなたを産んだ直後に」


「……」


「魂を半分失った人間が出産に耐えられるはずがない。それでも、あの人は最後まであなたを抱き締めていた」


 継母の声がわずかに震えた。


「私に、あなたを守ってほしいと頼んだのよ」


 オルフィリアは顔を上げた。


「……では、どうして……」


「守ろうとしたわ!」


 突然、ザフィレーヌが声を荒らげた。


 それは、オルフィリアが初めて見る継母の姿だった。


「あなたが十六歳になったときも、王宮からの測定を拒否した。十七歳のときも、伯爵家の財産を使って鑑定官を買収した。王家に疑われないよう、あなたを社交界から遠ざけ、縁談もすべて断った!」


 彼女は胸元を押さえ、苦しそうに息を吐いた。


「でも、もう限界なのよ」


 ザフィレーヌは小さく首を振った。


「白根の樹が目覚め始めている。王都の地下では根が暴れ、すでに何百人もの人間が行方不明になっている。このまま供物を捧げなければ、王国全土が滅びるわ」


 オルフィリアは何も言えなかった。


「王家は、あなたを差し出さなければディルヴェイン家を反逆罪で処刑すると通告してきた。領民も、使用人も、すべてよ」


 継母は涙を流していた。


「……私は、どうすればよかったの?」


 オルフィリアは初めて理解した。


 継母は、自分を嫌っていたのではない。


 愛していたのかもしれない。


 ただ、その愛は。


 最後まで、自分を守り抜けるほど強くはなかった。




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