いざ九州へ
10月中旬
V部隊の面々は大和国南西部、輸送機にゆられ向かっていた。
北九州最前線、海を隔てスライムの侵攻を食い止めている山口0区のPWT部隊と合流する為だ。
スライムの特性として海水での長時間の移動は不可能なこと、動きも鈍くなる。それゆえに九州と最短距離の場所を0区と位置付けた。
九州奪還作戦
山口0区が大きな作戦をうちだし、V部隊にお声がかかった。ここのところ東京の治安情勢がかなり安全になり安定している。SEGの組織的破壊と、アジュラム教徒を殲滅したのが大きい。そうは言っても油断はならない。この遠征部隊に選ばれたのはキクリ、キンジ、ミツカ、ハルナ、4名を送り出す。輸送機にはキクリのバイクを始めキンジのバギーに装甲車が2台、オウカが開発した人型無人機が5体ほど積み込まれている。この無人機が面白く、戦闘時以外はボール型でコロコロと動く。
「お兄様、今回のこの作戦どれくらいの見通しなのでしょうか?」
隣の席のミツカからキクリに問いかける。
「うーん、長くて4ヶ月はかかるんじゃないかなぁ…長くてうんざりするよね。リカの成長も見れないのは辛いなぁ。」
「そうですね、こんな時に長期遠征なんて…。」
子供の成長を見守れないのは少し気の毒に思うが、ミツカは内心ガッツポーズを取る。4ヶ月もキクリと時間を共にすることができるのだ。親密な関係になることもできるかもしれないと。
「そういえば、疑問に思っていたのですが何故、わざわざ人を送り込む必要があるのでしょうか?爆撃機でくまなく一掃っていうわけにはいかないのでしょうか?」
「コストと環境の問題だよね。まずコスト面だけど爆弾1発数億円、地上を真っ平らにするにはあまりにもコストが高すぎる。一般的なPWT隊員1人なら、遺族への補償も考えると役1億円。俺たちV部隊なら、専用装備なんかも加味して1人あたり5億円。どっちが安く済むかって言えば後者なんだよね。次に環境問題だけど、建物は植物に飲み込まれ自然との境界線なんてものは無くなってる。てことは野生動物なんかもそこらじゅうにいる。無事、九州を奪還できれば今や失われた動植物達の生態やなんやらを調べる、貴重な場所になる。まぁそんなところかな。」
「なるほど、よくわかりました。」
キクリは話し続ける。
「それに適合者や人を送り込めば、勝手に寄生体や変異体の方から集まってくるしね。ピンポイントで叩ける、そこから安全圏を広げていく感じかな。連戦になるから頑張ろうね。」
「が、頑張ります!」
長い戦いになるとキクリは悲観していた。心配性でネガティブ。物資の補充は随時山口0区から送られてくるが、弾薬や食料、医薬品。戦場ではいつも足りなくなるものだ。キクリの抗うつ薬も切れるのが目に見えている。V部隊の面々は全員近接戦闘をメインとするメンバーだ。弾薬切れの心配は無いが、体力切れの心配がある。そして自ずと最前線での戦いになる。
そうこうしているうちに、山口0区の軍用滑走路が見えてくる。輸送機は着陸体制に入り、タイヤが滑走路を走る音が聞こえ停止する。
貨物機のハッチが開き無人機がコロコロと転がり貨物機を降りていく。装甲車にミツカが乗り込み、バイクはキクリが乗り搬出される。他の装備品や武器弾薬はPWT部隊のものが搬出を手伝ってくれる。
すると1人の佐官がキクリの元へ歩み寄ってくる。
「キクリ少将、お久しぶりです」
安藤ウタハ中佐、歳はキクリと同じで、東京PWT部隊の元小隊長である。V部隊へ志願していたが山口0区の前線へ派兵された。切れ長の目に姫カットに藍色の髪色をした男装の麗人だ。身長は175センチ前後でキクリより背が高く履いているヒールのおかげで更に高身長に見える。
「わざとらしい挨拶だよ、まったく。」
アハハと声をあげ笑う安藤
「久しぶりキクリくん、子供産まれたんでしょ?」
キクリのイリスタグラムフォローワー14人のうちの1人で、キクリが木戸家に来てから出来た数少ない友人の1人だ。
「相変わらず小さくてかわいいね。ほら昔のようにハグさせてよね。」
キクリは安藤のハグをあの手この手で躱すが、捕まってしまう。ヒールでなければいいのだがヒールを履いた安藤とハグすると胸が顔にあたりなんともいえない気持ちになるのだ。
「お二人はどう言った、ご関係なのですか?」
ミツカが突然2人の間に割って入る。目が死んだ魚のようになり2人を交互に見やる。
キクリは安藤の胸に顔を埋めたまま話し始める
「元カノカレの関係かな、1番付き合いが長くて最後に付き合った人だよ。」
「ちょっとキクリくん、くすぐったいよ!それで今はSNS相互の親友でーす。」
「じゃあ、その手を離してくれ。」
安藤はその言葉を聞くとより一層抱きしめる力を強くする。
「へー、そうなんですねー。私、皆さんの装備下ろすの手伝ってきますね。」
ミツカは抑揚のない声で返事をする。
キクリはやっとの思いで安藤のハグから抜け出す。
「もう、逃げないでよ。せっかく久しぶりに会えたんだから。」
安藤はそういうとキクリの後ろから腕を回し、包み込むように再びハグをする。
キクリも諦めたように、ため息をつきそれを受け入れる。
「キンジくん、あの人はいったいだれだい?キクリくんと随分親密に見えるけど。」
遠目にみているハルナがキンジに問いかける。
「高校時代のキクリの元カノ。それで俺の同期だ。」
「それはまた随分とこじれた関係だね。」
「V部隊に配属されるはずだったが、キクリとの関係がわかると山口0区、つまりは最前線に異動させられた、なんて噂だ。」
「木戸家も婿養子が、昔の女になびくのを恐れたんだろうねぇ。あのキクリくんの満更でもない顔。」
ハルナは腕組みをしニヤニヤしながらキクリと安藤を眺めている。
「あいつらはほっといて荷物を運び終えよう。」
「いいよいいよ、同期なんでしょ?少し話してきたらいいさ。アタイが運んでおくよ。」
「生憎、ただの同期というだけで、会話もろくにしたことがない。」
「それでなんで、安藤はスーツ姿なんだよ。PWTの戦闘服はどうしたのさ。」
「えー、昔みたいにウタってよんでよ〜。質問に答えると私は強いからね、多少のわがままは通ってしまうのよ。特注の戦闘服よ。」
「なるほどね、今川中将はどこに?」
「ねぇ、ウタって呼んで。」
キクリは話が前に進まないと諦めのため息をつく。
「ウタ、今川中将はどこにいらっしゃいますか?」
「よく言えました〜。」
安藤はキクリの頭を優しく撫でる。
「中将だけど一個師団つれて前哨基地で指揮を取ってるよ。」
「ここが前哨基地じゃないの?」
「九州奪還作戦が打ち出されてから、北九州の揚陸作戦で、北九州の一部を奪還。砦を設置して寄生体と変異体と進退出処を繰り返してるよ。」
安藤はキクリの手を取り指と指を絡める。
「なかなかの手腕だな、それで副官とここの責任者は?」
「両方とも私だよ。」
「あぁ、マジか…、あとナチュラルに指絡めてくるのやめてくれない?」
「だって好きだったでしょ?こうやって耳を…」
安藤はハムっとキクリの左耳を甘噛みする。
「やめろってぇええ!!」
キクリは思わず大声を出してしまう。その声にPWT隊員達とキンジ達の視線を集める。
「盛り上がってるねぇ。」
「アイツがあそこまで…手玉にとられるとは。」
「お兄様…」
キクリは安藤を振り解き、煙草に火をつける。
安藤は煙草嫌いだ。
「あー、煙草吸ってる。いつからそんな不良になったの。」
そういいながら安藤はポケットから電子タバコを取り出し吸い始める。
「自分も吸ってんじゃねーか!」
「いいよいいよ、優男じゃない頃のキクリくんがでてきてるよ!」
「お願いだから、これ以上遊ばないでください。」
「アハハハ、いいよこれくらいにしといてあげる。」
「よし、じゃあ本題に入ろう今川中将との通信は?」
「ウチの通信手がテレパシーでギリ前哨基地と連絡取れるよ。ショウカさんみたいに同時に複数人かつ長距離で連絡取るのは無理だけど。」
「あれは…規格外だから。流石に東京からここまでは届かないみたいだけど。」
「…へぇー。」
キクリは煙草の火を消し携帯灰皿に入れる、安藤にも差し出すが自前のがあるから大丈夫だと返される。
「ここが通信指令室」
どうしても情報統括部と比べてしまうが、通信指令室と呼ぶにはあまりにもお粗末に見えてしまう。機器類が所狭しと並べられ、配線は一度抜けたらどこに刺さっていたのか探す羽目になりそうだ。
情報統括部は据え置き型ゲームの様に整然としている。
さっそく通信手がテレパシーで相手方の通信手へと繋いでもらう。
「こちらV部隊、木戸キクリです。今川中将に繋いで頂けますか?」
『承知しました。少々お待ちください。』
数秒のうちに今川中将がでる。
『キクリ少将、今回の作戦ご一緒できること、大変光栄に思います!』
声を聞く限り老齢を思わせる
「こちらこそ、いろいろお膳立てしていただきありがたい限りです。すぐにでもそちらに応援に伺いたいのですが」
『承知しました!受け入れ態勢は万全です!』
「ここまでの手腕、お見事です。正直驚いています。」
『勿体なきお言葉、ありがたく頂戴致します。』
「細かい作戦のすり合わせは現地に到着したらでいいでしょうか?」
『はっ!よろしくお願い致します。』
「それでは後ほど。」
通信手にお礼を言い指令室を後にする。
「っで、どれくらいで出発準備にかかる?」
「キクリくん達が持ってきた荷物が運び終わり次第すぐに出航できるよ。」
「ほんと用意がいいね。」
「私達からすれば、ようやく前線から解放されるチャンスだからね。先に打てる手は打っておかないとね。」
やる気になれば山口0区の人員だけで九州奪還も可能だったのではないだろうか、この時はまだそう思っていた。
ーーー
安藤の言う通り揚陸は容易なものであった。
前哨基地とは思えないほど大規模なものであった。それこそ小さな町が一つ作れるくらいには広い。
「あの遠くにそびえ立ってるのが、北九州制圧区域だよ。」
安藤が指を刺し方向には見事な砦が完成しているのが見て取れる。
「でさ、ウタはこっちにきてよかったの?0区の責任者でしょ?」
「そうだよ!大丈夫、優秀な上官に任せてきたから!」
「あぁー、そう…」
キクリはしばらく弄ばれるのを覚悟しなければいけないのかと憂鬱になる。
オウカが作ってくれた無人機5機が、戦闘モードになりその姿を現す。4脚の中心に体が生えている右腕にガトリング、左腕には金属製のブレードが取り付けられている。ショルダーには誘導ミサイルを装備している。
「さてはて、今川中将はどこにいるのやら」
「私が案内するよ。0区とここをしょっちゅう行き来してるからね。」
「それで、責任者をほっぽり出せたってことね。納得。」
キンジとハルナ、ミツカと別れ、今川中将の元へと安藤と2人砂浜を歩く。
「ハハ懐かしいね、こうやって砂浜歩いたよね。」
「そうだね、よく覚えてるよ。その日にフラれた。」
「アハハハ、卒業式の後だったよね。あれはもう仕方なかったよ。だってキクリくんは卒業したら木戸家の人と結婚しなきゃいけなかったんだし。いつフラれるかなーって待ってたら卒業式、終わっちゃうし。こりゃ私から言わなきゃダメだなってね。」
「ウタへの気持ちは本物だったからな。」
どんな暗い話でも笑顔で聞いて、最後には笑い飛ばしてくれる安藤に心を救われたのは本当だ。ショウカの様に全てを包み込むのではなく、その場で蹴り飛ばしてくれるそんな関係が心地よかった。
「今もまだ好きだったりして?」
「いいや、ウタとの恋愛は後悔はないよちゃんと終わった。今は良き友人の1人だよ。」
「うーん、私的にはちょっとショック。もう少し引きずってて欲しかったなぁー。さ、ついたよここが前哨基地作戦本部です!」
案内されたテントを安藤と2人で潜る。
「おぉ、キクリ少将。お会いできて光栄です。今川と申します。」
キクリは今川の握手に答え、さっそく本題へと入る。
「現状の進行状況を教えてください。」
「今は中隊規模を編成し数部隊、砦より外側で駆除にあたっています。残りの部隊は砦の警備に当てています。そこの安藤がいる時のみ、少数精鋭で部隊を組み遠征を行っていました。それで、見つかったのがこれです。」
タブレットに録画された映像を見せられる。
「これは…繭ですか?動いてますよね?」
「これを発見した途端、大量の寄生体と変異体に襲われ部隊は壊滅。私だけ生き残ってこの映像を持ち帰ったの。」
キクリはタブレットの映像に釘付けになる。
「…何か聞こえる」
キクリは僅かに振動する様な共鳴音を聞き取る。
「音量あげられますか?」
部隊員の動揺する声が大きく聞こえる中、音量を上げたことで安藤には聞こえた様だ。
「うん、聞こえるちょうど襲撃を受ける前に。」
「歳のせいか私には聞こえませんな。」
安藤に聞こえて今川に聞こえない、モスキート音のような高周波の音がキクリの耳には不快なほど響く。
「これは俺の根拠のない勘なんですけど、これはレベル2の蛹なんじゃないでしょうか?」
「東京で確認されたとんでもなく硬い変異体だっけ?でもそいつは自分で動いて攻撃してきたんでしょ?」
「これも勘なんだけど、環境・行動の適応なんじゃないかな?東京はスライムが発生すればすぐに警察やPWTが動いて処理される。それに対抗する為に体は硬く、自立することが求められた。一方で九州は150年人類の手が入らず外敵がいなかったことにより蛹というよりは繭に近い形でその場に留まり柔らかい外皮に覆われた姿になったのではないかという。あくまで勘ですけど…」
「なるほど、変異体βってところかな?」
安藤が腕組みをしながら左手を宙で人差し指をクルクルと回す。
「そー、なるかもな。変異体βレベル2」
「特性としてαの様な直接的な攻撃はしてこないが、多分高音波を発して他の寄生体、変異体に攻撃を差し向けることが出来る、ってところかな」
「なんにせよこの目で見るのが1番はやいな。場所は?」
作戦モニターに九州の地図が表示され、地図上に遠征したルートがいくつか赤く表示される。
「随分奥地というか、もう鹿児島のラインに達してるじゃん。その気になれば時間はかかっても今川中将と安藤と一個師団でなんとかなったのでは?」
2人は顔を見合わせ、にやりと笑う。
「そこは費用対効果ですな。」
アハハハと安藤が笑い声を上げる。
食えない2人だとキクリは頭をかかえる。
「4ヶ月かかるってのもだいぶ盛りましたね。」
「堅実な兵站を確保しつつ、完全な奪還となると4ヶ月、ですかな。もちろんV部隊のお力を借りしてですがね。」
「またまた〜。」
「いやー、この繭が見つかるまでは本当に盛ってたんだけどねー…」
「因みに繭が見つかった場所は?」
「えーっと」
安藤がモニターの地図に丸をつける。
「まって、遠征のルート上にもろ被りしてる箇所もあるし、繭って1つじゃなくて3つもあるの!?」
「アハハー…最初の繭との遭遇以外は、事前に察知してスルーしながらルート確保できたんだよね。」
「どうやって察知したの?」
「繭の周りだけ、生えてる植物が地球上のどの植物共一致しないんだよね。」
そう言って先ほど見た繭の映像と植物図鑑を渡される。
「植物図鑑を見るまでもなく、違うのはわかるよ。」
「調べた感じだと繭の半径1キロから、こういう植物が生え始めるの。」
なるほど、キクリは爪を噛む。安藤に注意され直した癖が、安藤に感化され再発した。自分で気づき、タバコを口に咥える。
「あ、ここ禁…煙じゃないですね。」
気がつけば今川は葉巻、安藤も電子タバコを吸っている。いつもなら情報統括部が完結した内容を伝えてくれる為、自分の頭で考察する事に没頭してしまった。
「そういうことで、キクリ少将率いるV部隊とウチの安藤の部隊で是非とも繭の破壊を最優先していただきたい。」
キクリは思った、それこそ爆撃機の出番であろうと。
安藤は見透かした様にキクリに煙草の煙を吹きかける。
「EMP攻撃ってわけじゃないけどミサイルや戦闘機なんかは全部おじゃん。ウチの装甲車は問題なく繭まで辿り着けたのを考えると、EMPではなく何か他の要因が考えられるかなって感じ」
「それじゃあ、作戦はどうします?」
「まずは繭の破壊を最優先に動きたいと思ってるよ。」
「その後、後続に師団を展開し、九州の奪還する。キクリ少将には私から降り言ってお願いがあります。」
「なんです?」
「この作戦、全ての繭の破壊に成功したあかつきには、安藤中佐をV部隊への入隊を推薦していただきたいのです。降格せずに」
「まぁ、ウチは階級なんてお飾りなんで、そこは問題ないですけど。入隊は出来るかどうか…今は俺が隊長ですけど、一応上官に相談しない事には確約出来ません。」
「おねがぁい」
安藤は両手をくみ首を傾げ、わかりやすくおねだりと言った様子だ。
「猫なで声で頼まれても俺には、そこまでの権限は無いんだ。東京の部隊に戻りたいだけなら、なんとかなるかもしれないけど。」
煙草の灰がタブレットに落ちそうになり、慌てて灰皿に落とす。考える事が多いと手元が疎かになる。
いかに普段から情報統括部に世話になっていることがわかる。
「俺達がやる以上、作戦らしい作戦はありません。部隊4名で片っ端から蹴散らす、ウタの部隊は援護をお願い出来れば」
「えぇー私も最前線で戦うよ。てかその為のスーツと専用武器まで作ってもらったんだから。」
「それ誰に頼んだのよ…」
「大阪の兵器開発チーム。」
キクリは胸を撫で下ろす。オウカのチームの名が出てくると思っていた。
「わかった、そういうならアサルト5名…じゃなかった。アサルト3名、デストロイヤー2名で対応しよう。明朝一つ目の繭の破壊に向かいます。それぞれ準備をお願いします。」
「承知しました。部隊全体に周知させ、繭破壊後は我々にお任せを。」
今川は葉巻を置き、キクリに敬礼する。
年上の上官に敬語を使われるのはむず痒いが今更だ。
「じゃあ、難しい話はこれくらいにしましょう。考えるのは苦手なもので。ウタ連れていく隊員の編成よろしく。」
「りょうかい〜」
キクリはテントを出て新しい煙草に火をつける。
テントの中では話す事に必死でろくに吸えず灰を落とすだけに終わった。
「頭を使う仕事はお終いか?」
キンジがテントの外で待っていた。
「どうした、急に俺が恋しくなったの?」
「本当に恋しがってる妹様の元に戻ってやれ。俺はメッセンジャーとでも思ってくれ。歩きながら少し話そう。」
「いいよ、珍しい。」
東京では聞けない穏やかな波のさざやきが心地いいとキクリは耳を傾ける。
「おい、話に聞く気あんのか」
キクリの目の前でキンジの指パッチンが炸裂する。
「あぁ悪い。それで?」
「なんてこたない、世間話だ。恐らく任務中に子供が産まれるそろそろ10ヶ月だ。」
「あぁ、立ち会いできなくて残念だね。まぁ俺も立ち会えなかったけど。」
「父親になるってどんな気分だ?」
「うーん、わかんない。感じ方は人それぞれじゃないかな。俺は覚悟がより深まったかな。」
「なんの覚悟だ。」
「地球外生命体との戦争を終わらせる。」
「戦争ってフロムスライムとのことか?」
キクリは煙草をひと吸い短く答える。
「うん」
「簡単に言ってくれる。」
キンジも煙草を吸う、キクリの言う様に自身の子にはスライムとの恐怖に晒されることはないに越したことはないが雲を掴むような話だ。
「まずは大和国の領土をすべて奪還してだな。世界のことは後だよ。」
「そうだなせめて自国くらいは、俺達が生きてる間には…な。」
九州奪還作戦がうまくいけば、次は北だ。生きていられればだが。今回の作戦が上手くいく保障はどこにもないが。今川と安藤の手腕は見事だが好言、魔多しだ。繭の破壊がそもそも出来るのかはわからない。見た目には柔らかそうだが、実際は変異体α並みに硬いかもしれない。何せ誰も直接触れてはいないのだから。
煙草の火を消し宿舎テントの外にある灰皿代わりのバケツに放り込む。
テントに入るとハルナとミツカが待っていた。
「お兄様!」
ミツカの顔がパッと明るくなる。
「話し合いは終わったかい?」
作戦本部での話を一通りする。
「作戦の決行は明日、とりあえず今日は早く寝て備えましょう。」
それぞれ自分のベッドに潜る。
キクリはベッドに潜って2時間が経過したが寝付けずにいた。睡眠薬を飲んだがなかなか効いてこない。午前1時をまわった1人ベッドを抜け出し、テントの外に出る。生憎、夜空は曇っていて星も月も見えない。腰を下ろし煙草に火をつけ、煙を夜空に吐き出す。
「1人で考え事するには遅い時間なんじゃない?付き合おうか?」
暗闇の中から安藤が現れる。
「ウタか…何してるのさ、こんな時間に。」
「ふっふっふ私も不眠症でね、夜の見回り兼暇つぶし。」
安藤は吸っていた電子タバコのカートリッジを交換し、大きく吸い込み吐き出した煙は闇の中に霧散する。
「どうせ、寝られないんでしょ?散歩しようよ。」
「こりゃ朝まで寝られませんな。」
煙草を大きくすいジジジと燃える音が聞こえる。
バケツに吸い殻を捨て、立ち上がる。
「それで、ただ旧交を温めにわざわざ、俺を訪ねたわけじゃないでしょ?」
「随分疑り深くなったね。旧交ではなく、親交を深めにきたのさ。」
安藤は電子タバコを吸うのをやめ、キクリの唇に自分の唇を重ねる。
「木戸家の監視が行き届かない今かなーって。」
再び電子タバコを吸い始める。
「お前も悪い奴だな。」
※18禁同人誌の様な展開。
この作品はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。




