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パラライズ  作者: 柳
東京編
2/13

相入れぬ者達

スライムを信仰する宗教団体が存在する。その中で特に危険思想が強い団体がある。略称「SEG」スライムが天からもたらされた神として崇め適合者を天使の上位存在として崇拝し、寄生体や変異種のことを最下級の天使としている。スライムに寄生されることは名誉なことだとのたうちまわっている。

無論国内に留まらず世界各国でこのカルト宗教が根付き滅んだ国もある。これらを調査、監視を行い未然にテロを防ぐこともPWT部隊やV部隊の任務となっている。

そんな組織に潜入捜査するものがV部隊にもいる。


萩野カオル。通称ドッペルゲンガー

対象の脳をスキャンすることで、記憶や癖までコピーし顔や身体を変身させることができる。聞くと強そうに見えるが、対象者が死亡又は脳死状態でないと行えない。そのうえコピーまでに数時間かかり、万能というわけではない。だが一度コピー出来れば何度でも再現可能だ。

現在SEGに信者として紛れ込んでいる。


そんな中、緊急事態とばかりにカオルが本部に舞い戻ってきた。

すぐに全員に召集がかかった。

「カオルの調査でSEGがスライムによる同時多発テロを計画していることがわかったわ。詳細はカオルの方から話があるわ」

「端的に状況を説明すると3日後、ここ8地区を狙った同時多発テロを行うと教団内で声明がだされ、準備がはじまりました。SEGの教祖であり適合者の池上コウガイによる信者への意図的なスライムへの感染を行いはじめました。これが儀式として行われています。」

カオルはいくつかの写真とりだす。見るもおぞましい儀式の写真が並べられる。

「彼の能力は自ら生み出したスライムを他人に寄生させることで、他者の意識を乗っ取り、また感染させたものを自由自在に発症させることができることです。」

キクリはため息をつく

「これだから、宗教ってのは厄介だよ。何処に潜んでるかわかったもんじゃない。」

「何がなんでも国家転覆を望むなら第8地区を壊滅させるのが手っ取り早いっすよねー。」

8地区残りの半分は国の機関や国会議事堂などが含まれている。日本の心臓部だ。

「ユキの言う通り。国家転覆を狙うなら、ね。」

「シュウカさんは他に狙いがあると?」

キクリの問いかけにシュウカが答える。

「いんや、皆目見当もつかないよ?」

シュウカはお手上げとばかりにジェスチャーし続ける。

「皆目見当も付かないが、国取りよりウチらへの攻撃が狙いだったりするかもね。」

「ワタクシもそう思いますわ。」

シュウカとショウカの意見が合致する。この2人の言葉になると嘘でも真実に聞こえるほどの謎の説得力がある。

「どうあれ、少なくとも3日は猶予がある訳だ。それがわかっただけでも御の字だよ。」

そう、いつ起こるかわからないテロの予測ができただけましだ。

「そうときまれば、動いたもん勝ち。たとえ後手に回ったとしても最低限の被害で済む様に下準備するわよ。ショウカは公安のデータベースにアクセスして過去のテロ攻撃の事案から寄生体を扱ったテロのファイルを調べてちょうだい。」

「わかりましたわ。」

「キクリとユキ、アビーは悪いけど車両と武器の整備を頼むわ。キンジとミハルは即応体制をカオルは、また潜って監視を続けて動きがあれば直ぐに報告ちょうだい。私は各方面に極秘で動くようにお偉い様方と話をつけてくるわ。」

さてと、俺は席から立ち上がるとさっそくロリポップを取り出し口に入れる。喫煙者もゾロゾロと屋上へ向かっていく。ミハルさんは付き添いだけだろう。

「アビー、ロリポップ食べるか?」

「おぉ!ありがとうございます!糖分が脳に染み渡る!」

「随分喜んでくれるね、甘いもの好き?」

「好きかどうかで言えば、大好きです。」

アビゲイルはしまったとハッと気づいたような顔をする。

「その顔、子供っぽいと思われるのが嫌って顔だね。」

「そ、そんなことないです!ありがとうございます!」

図星だった様だ。

10歳も年が離れていると、どう接したらいいものだろうか。社会で言えば、中堅社員と新人と言ったところだろうか。彼女からすれば充分オジサンだろう。

「年長者ばっかりでやりづらいと思うだろうけど慣れた?」

「この一年伊達に皆さんと任務に就いていませんよ!連携もバッチリ勉強させていただきました!」

こちらの心配のしすぎのようだ。

「そっかそっか今回の任務、激戦になると思うからよろしくね。」

手を出して握手を求める。

「セクハラですよ。…あ、今困ったなって顔になりましたね。冗談ですよ。よろしくお願いします。」

ハニカミながら握手に応じてくれた。

一本取られたなと笑う。

「そうだアビー少し一緒に出かけないかい?」

「いいですよ。どこにいくんですか?」

「ついてからのお楽しみ、かな?」


ーーー


屋上喫煙所

「カオルさん、随分長いこと潜ってましたね。」

キンジはタバコに火をつけ、肺いっぱいに吸い込む。

妻から誕生日プレゼントでもらったジッポライターを愛用している。

「まぁ、またあっちこっちの組織に潜るんだけどな。」

「アタシ達は戦うことしか出来ないから、あんたみたいな人材は貴重よ。あとユキも車両や武器のメンテナンス普段からしてくれてるんだから、あんたらみんな感謝しなさいよ。」

カオルが続けて喋る。

「その気になればキクリくんも潜入捜査、出来そうだと思うんだけど、その辺はシュウカさん的には無しなんですか?」

「確かに隠密行動、施設への侵入なんかは、この隊の中で適任だけど、あんたほど深く潜って今日みたいな情報を手に入れることは出来ないわ。」

泥棒はできても、スパイは出来ないというところだろう。

「そういえば、ユキとカオルはこれが初顔合わせかしら?」

思い出したかの様にシュウカさんが問いかける。

「そうっすね!よろしくッス、カオルさん!喫煙仲間が増えて嬉しいッス!」

「随分とハツラツとしたお嬢さんだ。そういえばもう1人いたよね。随分と若そうだったけど。」

「15歳、最年少の天才よ。ユキも22歳。」

「そっかー、部隊最年長は相変わらずかー。もはや15歳の子とは親子でもおかしくない年齢に突入してるし。」

カオルさんは35歳、部隊最年長だ。

元PWT部隊の小隊長でのらりくらりと、していたところをシュウカとミハルにヘッドハンティングされたと聞いている。その異質すぎる能力はPWT部隊では発揮させず、うまいことV部隊に選出されない様にしていたようだ。

「スライムの適性事態が若ければ若いほど定着率、適合率の高さになってますからね。これからカオルさんより年寄りは入隊しないと思います。」

「キンジくん、キクリくんがいないと辛辣だねぇ…」

「え、あぁすみません。いつもキレる時以外は大体あいつが言いたい事、言ってくれるんで。」

「いや謝るところそこじゃないでしょ、キンジ」


ーーー


アビーと2人夕暮れの街へ繰り出した。ビルに夕陽が反射し眩しい。

足を運ぶ先はオフィス街を抜けて、住宅街に入る。

しばらく歩くと白塗りの壁の喫茶店に辿り着く。

喫茶店の名前は「小鳩」、1階が店舗で喫茶店と雑貨店が一緒になっている。2、3階はアパートになっている。

「ここが目的地ですか?」

「そっ、俺も久しぶりにきたんだ…」

「もっとアングラでヤバいところに連れていかれるとばかり思っていました。」

「アビーから見た俺のイメージどんなんなのよ。甘いもの好きみたいだから、ここのパフェ思い出してさ。」

「パフェですか、いいですね。」

見るからに恍惚な表情を見せるアビーに、年相応の反応をしてくれてよかった、こちらまで嬉しくなる。

扉を開けると店内に入店を知らせる鈴が鳴る。

「いらっしゃいませ〜。」

店の奥から女性が現れる。店長のコバトさんだ。

「あら久しぶりだわ、キクリくん。そちらは新しい彼女さんかしら?流石に年の差がありすぎて、警察に通報した方がいいかしら?」

「この子は職場の上司のお子さんで、時間やるから外に連れ出してくれって頼まれたもので。それに俺、結婚したんですよ。子供もつい4ヶ月ほど前に産まれたんです。」

左手の薬指の結婚指輪を見せる。

「あら、おめでとう。ようやく身を固めたのね、今度は奥さんとお子さんもぜひ連れてきて。席は好きなところ座ってちょうだい。キクリくんはコーヒーブラックでいいかな?お嬢さんは何がいいかしら?」

「アビゲイル・クーパーです。アビーと呼んでください。」

「アビーちゃんよろしくね。」

「コバトさん昔よく頼んでたパフェってまだやってますか?それ食べさせてあげたくて。」

「材料があったかしら、当時のままとはいかないと思うけど有り合わせでよければ作れると思うわ。」

「はい!ぜひ食べてみたいです!それと飲み物はダージリンティーでお願いします!」

「はい、かしこまりました。じゃあ少し待っててね。」

コバトさんはカウンター越しの厨房の方へ向かいエプロンをつけて、テキパキと用意をはじめる。

「しかし平然と嘘をつきますね、人間性を疑いたくなるほどです。それに店長さんからの口振からして彼女出来るたびにここに連れてきてたみたいですし。」

視線が痛い。木戸家に引き取られシュウカさんの稽古もひと段落ついた頃、何か埋まらない心の穴をどうにか埋めようと色々な女性とお付き合いをした。同級生から先輩、後輩、と付き合ったりしていた。短期間の間にコロコロと変わるもので荒んでいたといえば都合がいいだろか。

「お待たせしました〜」

コバトさんがコーヒーとダージリンと例のパフェを運んでくる。

「キ、キクリさんこれは…」

「すごいでしょこれ、でもご安心を2人で食べるからこの量なんだ。」

「何言ってるんですか、私1人で食べますよ!すごい!こんなに大きいの初めて!しかもフルーツも色とりどりで目でも楽しめますね!」

「あら、そんなに喜んでもらえると嬉しいわ〜。」

よかったアビーも気に入ってくれた様だ。ショウカも甘いものが好きだがお家柄なのか、和菓子などを好んで食べているのでここには連れてきたことはない。

足を運ばなくなったのも、ショウカと付き合うようになってからだ。気がつけば数年が経ち、すっかり自分もおとなしくなったものだとコーヒーを啜りながら思う。


ーーー


「すみませんご馳走になって。」

「いいんだよ、誘ったのは俺だし」

アビーは1年ほど前から木戸邸の一室を住まいとしている。部屋は余るほどあるので大歓迎だ。特例で8区内であれば未成年でもアパートも借りることが出来る。だが未成年を1人で住まわせるわけにはいかないと、シュウカさんがなかば強引に住まわせている。

帰宅したら帰宅したでショウカからすごい勢いで詰め寄られた。

「お二人で喫茶店行かれたのですね!イリスタグラムにアビーちゃんがすごいパフェを載せていましたわ。今度はワタクシも一緒に連れて行ってくださいまし!!」

「えぇ、何それ怖い〜SNSほとんどやらないからわかんないんだけどぉ」

「キクリさん今日は本当にご馳走様でした。お二人とも、お先に失礼します。」

アビーはキクリ礼を言い自室へ向かう。

キクリはスマホにアプリはインストールはしているが殆ど活動していない。最後の投稿は娘が生まれた時に看護師さんに撮ってもらった、娘を抱っこしている写真をアップした4ヶ月前のが最新だ。フォローワーも14人のみだ。

「この喫茶店、実は前から気になってましたの。雑貨も可愛らしいものがたくさん飾ってあって。ほら見てください、お店のアカウントにもこんなに沢山可愛らしいものが。」

「本当だ、コバトさんマメに更新してるんだな。すげぇ」

「コバトさん…?どなたですの?この喫茶店アビーちゃんと行かれたのが初めてですよね?」

まずった…妻が知らない女性の名前をだしてしまった。

「そのー、あれだまだ俺達が付き合う前の知り合いで数年ぶりに来店したんだよ。」

妻はクンクンと鼻を鳴らしながら、俺を一瞥する。

「…嘘はついていない様ですわね。」

どう言うわけか妻は匂いで嘘をついているかどうかわかるそうだ。スライムの影響で五感は確かに鋭くなってはいるが、そんなことが出来るのは妻だけだ。

「でしたら週末3人でお店に行きましょう。」

「3人?リカもつれて?」

「えぇ!このお店赤ちゃん大歓迎とありますわ!」

なんかそういえば、そんなことコバトさんが言っていたことを思い出す。

喫茶店件雑貨屋であり2階、3階は父、母から譲り受けたアパートで賃貸料金だけでも元が取れているからできる余裕というやつだろうか。

「じゃあ、週末は3人で出かけよっか。」

「ありがとうございます♪」

ショウカはギュッとキクリの胸に飛び込みハグをする。

「楽しみですわ、とっても」


ーーー


真っ昼間の交差点で、学校で、駅で、会社あらゆる場所でそれは起きた。発生場所は予想通り8区である。

突如人々が発狂し寄生体による攻撃が一斉に始まった。

ここまでは予想通りだ。

厳戒態勢の警察とPWTで市街全域の封鎖にあたり、住民達は保護シェルターへの避難が開始された。

だが、カオルさんの報告にあったほどの規模ではない。

情報統括部でモニタリングしているが、木戸邸及び関係施設への攻撃もない。その上そのような大規模な移動が見られるエリアも無い。

「この程度ってことはないよね?カオルさん」

「そんな目くじら立てられても困るよ。」

『こちらPWT第3部隊αチーム、シェルター内でバイオハザード発生。』

「お、雲行きが怪しくなってきたんじゃない?」

「こちらも動きがありました。木戸邸正面映像出します。」

情報分析官の1人が映像をピックアップする。

巡礼者の格好をした3人と信者が数名、まるで巡礼でもしているかの様にこちらへ向かってくる。

「おっと、アタシたちの勘が冴えてたね、ショウカ。」

「ですわね。それとシェルターの中にスライム保有者が感知器をすり抜けているあたり、他のシェルターも同様の事態が起こるでしょう。」

「各シェルターで同様のケースが確認されました。」

情報分析官から報告があがる。

「応援が必要ならウチから2人派遣するわ。」

「第1〜3シェルターからの通信途絶えました。恐らくもう事態は手遅れかと…」

「第8地区-4と6から通信あり!応援要請です!他シェルターは事態の鎮圧に成功したとのこと。」

キクリに目配せする。"行け"というサインだ。ユキの肩を叩き、2人で指令室を出ていく。

「ミハルとキンジにアビー、2人が無事ここからでられるように、あの巡礼者気取りの足止め。ミヤ達も防御陣形を」

統括部からそれぞれに指示が出される。

「アタシも出るわ、ショウカ悪いけどあとは頼んだわよ」

「お任せください、お姉様。」


ーーー


「ユキいけるか!?」

「バッチこいです!!行きましょう!!」

ハヤテのアクセルを全開にしピットを飛び出す案の定、外は紛争地体と化していた。キンジはガトリングガンを右手に、バズーカを左手に持ち、実写バイオ◯ザードのネメ◯スにしか見えない。人のことは言えないが。

巡礼者気取りの3名は天使の様な翼が生え、顔はマネキンの様に顔の部位の凹凸があるだけだ。それぞれが槍を携えた変異体になる。信者数名は手を握り合うと、スライム状に溶けたかと思うと巨大な変異体へと姿を変えた。下半身は無数の腕が付いた蜥蜴の様な形状になり上半身は腕が翼の様になり、ドラゴンのなり損ないの様な姿へと変身した。

「うわ、すっげーグロい…」

「キクリさん、前!前!」

天使の1体がこちら目掛け槍を投擲してきた。

凄まじい金属音と共に槍が弾き飛ばされる。

ミハルさんの狙撃だ。続け様に天使にも命中させるが、こちらは弾き飛ばされただけで撃墜とはいかなかった。

その攻防の中ハヤテのハンドルを握り弾丸と敵の攻撃をやり過ごす。なんとか紛争地体を抜け出すことに成功するがその先に待っていたのは寄生体の群れだ。

「なんて数だよロードキルはできるけど、露払いは頼むぞユキ」

「無理っす!無理っす!標準が合わせられないッス!」

「大丈夫!俺よりあたる!!」

「確かに!!」

ユキはSN-800を構え飛びついてくる寄生体に向かって発砲する。弾は見事命中し吹き飛ばす。倒す必要は無いのだ、当たりさえすれば後ろへ退け反らせる事が出来る。それなら俺以外なら余裕で当てられる。

「一旦リロード!!」

ユキの掛け声と共に後方支援が届く。ミハルさんの超射程でのスナイプが決まる。

「さすがミハルさん、ナイスアシスト。」

「装填完了!」


キクリとユキはシェルター6に到達する。

「ショウカ、シェルター6の隔壁を開けてくれ。」

『承知しました。』

ガコンと音を立てて隔壁が開く。

『シェルター4応援要請が途絶えました。』

『キクリ様シェルター4へ単独で向かってください!』

「えぇ、単独行動ですか!?」

「ハヤテ置いていくから、あとたのんだぞ」

そんなぁ!という声がすぐに遠のいていく。

ビルの屋上までSFGで飛び上がり、前回同様ビルの屋上を駆け回る。


シェルター4までたどりつく。いつもの様に薬を飲み隔壁へと近づく。

「ショウカ、シェルター4との通信は?」

『未だ応答がありませんわ。隔壁を開きます。』

全滅したか…シェルターの中はやけに静かだ。

ハンドガンを片手に踏み込む。

「誰だ!」

ライトの明かりが目に入る。

どうやら生存者のようだ。

「よかった。生存者がいた。」

「キクリ様ですか、応援感謝いたいします。」

格好を見る限りどうやらPWTの隊員だ。

「申し訳ありません。応援要請を行いましたが、なんとか事態を収拾する事ができました。ですが寄生体との戦闘で通信設備が破壊されてしまって。」

「キクリくん…?」

PWT隊員の背後からコバトさんが姿を現す。

「コバトさん…ご無事な様で」

「え、えぇ、ありがとう。」

「じゃあ、俺はすぐシェルター6に戻らなきゃいけない。ここは任せていいかな?」

「ハッ!」

「それじゃあ失礼するよ。」

「キクリくん、待って!!」

コバトさんの静止を振り切り再びビルの屋上へ。

シェルター6への道を戻る。


ーーー


シェルター6

ユキはかつて無いほどの孤独感に苛まれていた。

かつては狂犬と名を馳せたが、自暴自棄ではなく理性的になり臆病になっていた。

「だ、誰かいませんか〜」

震える声で呼びかけるが返事はない。

「ショウカさん本当に応援要請を受けてるんスヨネ?」

『はい、間違いなく。それとキクリ様がシェルター4に到着しました。通信設備が破壊されてしまい、応援は不要との連絡が出来なかったとのことです。直ぐに戻ってきてくれますわ。』

今年1番の孤独感と安堵感がいっぺんに押し寄せてくる。

《前方より、熱源反応》

「ヒィぃぃいい」

間抜けな声がシェルター内に響き渡る。

「何いまのこえ!」「やめてよ、静かにしてよ。見つかるじゃない。」「助けが来たのかもしれないぞ。」

避難民の声がする。

「み、みなさんV部隊エンジニアの斉藤ユキ准尉です。」

「助けが来た!」「みんな救助部隊よ!」「V部隊?聞いた事ないぞ。」

あちこちから人の声と影が現れる。

「すみません、救助ではありません。こちらに公的機関、PWTの人はいないっすか!?」

「救助じゃない!?どういうことだ!」

あちこちから苦情の声が聞こえてくる。

ハヤテがユキの前に立ち状況の説明をする。

《皆さん落ち着いてください。現在地上はまだ事態の収拾がついておりません。私達は応援要請を受けてここにきました。どなたか公的機関の方かPWTの方はいらっしゃいませんか?》

「はい、私、警察官です。」

1人の女性が手を挙げ前へ出てくる。

「佐野巡査と申します。すみません私だけが生き残りです…。」

見たところ新米といったところだろう。ユキの心に再び安堵が訪れたと同時に、冷静さを取り戻し視野が急激にひろがった。おかしい。

戦闘の爪痕、弾痕、血痕は残っているのに遺体が一つもない。片付けた?一般人が?ありえない。

「佐野巡査、応援要請を行ったのはどなたッスか?」

「私が出しました。1人になってしまい心細くて。」

『嘘です。すぐにそこから離れてください。』

いつになく厳しい口調のショウカさんに全身の毛がぶわっと立つのを感じる。

『私が受けたのは、PWTdチーム篠原大尉からです。』

『てことは、この佐野巡査は…』

『SEGの関係者、最悪適合者です。』

額に汗が滲む。次に自分がどう動くかで事態が最悪な方向に傾くかもしれない。

「鼓動が速くなったね、気がついちゃったかな?」

「え?」

それはあまりにも突然の事で、事態が飲み込めないまま体は冷たいコンクリートの上に倒れる。


ーーー


「隊列、狙撃兵前へ!発砲!」

ミヤの指揮する侍女さんのみで組まれた1中隊それぞれがシールド、銃剣による遠近両方で戦う守りに特化した部隊だ。

「前線維持!」

寄生体の処理は任せることができる。

最前線はもはや怪獣バトルだ。キンジがドラゴン擬きをぶん殴っては投げてを繰り返している。

天使三体はミハルの狙撃、アビーとシュウカで食い止めている。

「アビーあんた結構動けるじゃない。」

「この数ヶ月、皆さんの動きを見させて貰いましたからね。連携も任せてください。」

15歳とは思えぬ慧眼だ。

『お姉様!8区内のシェルターから複数の巨大変異体が出現。それとユキちゃんのバイタルが確認できません…。』

まさかと思うけどユキが死亡した…?

各地で巨大変異体の出現。

「アビー、ここ任せていいかしら?」

「はい、お任せください。私とミハルさんでねじ伏せてやります。」

「頼もしい!それじゃあ、任せるわ。ミハル離脱の手伝いをお願い。」

『承知しました。』

続け様に2発の発砲音を確認後、敵が怯んだ隙に飛び出し救援に向かう。

「ショウカ、ユキのバイタルが最後に確認されたのはどこ!?」

『シェルター6です。』

アサルトとして、走力なら誰にも負けない自信がある。

ユキの生死についても、気になるがキクリが向かっていることをシュウカは認識している。優先事項は巨大変異体への対処だ。


ーーー


最前線を任されたからには期待以上の戦果を残さなければ。後ろにはミハルさんにミヤさんの部隊、それにショウカさんのナビゲーションもある。大丈夫やれる。

盾とアビゲイル専用武器のレールガンを構える。アビゲイルのスライムには帯電能力が備わっているそれを利用した武器になる。レールガンとは名ばかりで、殆どゼロ距離での発射を想定した近接装備だ。銃は寄生体や変異体に対しても一定の効果は期待できる。が一部の変異体、適合者となるとそうはいかない。万が一に備えフォトンブレードを腰に携えている。

天使達はミハルさんの狙撃を嫌がり遮蔽物の多い低空にとどまっている。

瓦礫を飛び越え、いっきに前に出る。

天使の一体が、飛翔し槍を構えたがそこにミハルさんが放つ弾丸が頭部をまるで彫刻が抱ける様に粉々になる。対変異体狙撃用ライフル、凄まじい威力をしている。

ミハルさんの援護もあり天使との距離は、わずか数メートルのところまで詰め寄ることができた。

距離はあるが充分射程圏内、1発お見舞いしてやる。

天使の左腕を破壊した。速殺は出来ないがダメージを与えることができた。

盾で槍の攻撃を防ぎ懐に潜り込んで腹部に銃弾をぶち込む。上半身と下半身がバラバラになり、脊椎まで攻撃が届き破壊する。最後の一体にむけフリスビーの様に盾を投げつける。攻撃を避けられるが、避けた先に銃を構え待ち構える。避けてきた天使型の腕を引っ張り頭に向け1発ぶち込む。

『アビゲイル、期待以上の働きです』

「はっ!ありがとうございます!ミハルさん!」


ーーー


到着した時には既にユキは冷たいコンクリートの上に倒れていた。頭が180度曲がっている。

ユキの傍に座っている女を見やる。

「どうもウチの後輩がお世話になったようで。」

キクリの頭は務めて冷静である。

「随分冷静なんですね、お仲間でしょ?全然心拍がかわらないなんて冷たい人なのね。」

「1人2人死んだくらいでいちいち気にしてたら、ウチの部隊じゃやっていけねーんだよクソアマ。」

唾を吐きすてる。我ながら口汚いが、頭はクリアだ。

「クソアマって、そんな風に言われたの初めて。私、結構かわいいと思うんだけど。」

「俺の妻と比べたら天と地程の差があるな。」

『やだ、嬉しいですわ。』

余計なチャチャがはいったが、眼前の女の顔には見覚えがある。SEGで預言者として崇められている適合者の1人。カオルさんの情報で、名前は確か二宮ヒサコ、教団のNo.2的なポジションだったと記憶している。

「愛妻家きどりかよ、気持ち悪いんだよ!」

先に動いたのはヒサコだ、物凄い速度で間合いを詰めてきたかと思うと上段蹴りを繰り出して来る。左腕で受け右手で足を掴む。

「案外大した事ないのね、左腕折れたでしょ。」

ヒサコの言う通り蹴りの衝撃で左腕は折れた。

だからどうした。右手で捉えた足に、折れた左腕を足に絡ませ右手と一緒に思いっきり力を込める。ボキボキと骨の折れる音が鳴る。ヒサコは苦悶の叫び声を上げる。

「悪いな骨が折れたくらいじゃ一瞬で再生出来るもんでな。お宅はそうじゃなさそうだけど。」

地面に這いつくばるヒサコを見下ろし、その顔を蹴り上げ、SFGの糸でヒサコを引き寄せ、更に顔面に2発お見舞いする。これがキンジだったら顔を蹴り上げた時点で、首と胴体がさようならしていることであろう。残念ながら自分には手心ぎある。そこまでのひどい状態にはならなはい。そのまま顔面を掴みコンクリートに叩きつける。ピクピクと痙攣し動かなくなったが死んではいない。両手を後ろに回し、抑制剤を投与する手錠をかける。これにより受けたダメージはすぐには回復せず、スライムの力も行使できない。

一息つく間もなく、シェルターの奥、暗闇の中で何かが蠢く気配がする。犠牲になった人達と寄生体として潜り込んだ者達が集まり一体の変異体となって動き出したのだ。

すぐさまユキの遺体とヒサコを糸で引き寄せ抱き上げる、シェルターからの脱出に頭を切り替え全力で走り、なんとか脱出に成功する。シェルターからは凄まじい破壊音と共に地面をぶち抜いて地上に現れる。

全長10mはあるであろう異形の怪物が姿を現す。

トカゲの様な爬虫類の頭。その巨体を支える人間のような両腕が2本生え指は6本、六対の鉤爪をつけた足が生えている。

『ショウカまずい事態になった。』

『えぇ、他のシェルターからも巨大な変異種が出現しましたわ。』

『マジかよ…』


ーーー


気にいらない。

何度殴っても殴っても殴っても殴っても殴っても砕けない。鱗の様でそれでいて甲虫の様な装甲が厄介だ。

ミハルさんみたいに同じ箇所を狙撃し続ければ壊せるだろうか。ダメだ殴った箇所なんていちいち覚えていない。

「キンジさん援護します!」

アビゲイルが天使を片付け、援護に駆けつけてくれた。

ミハルの狙撃もこちらに向けられている。

気にいらねぇ。

自分向きの敵であろうに一人で倒し切る事ができない自分に腹が立つ。さて、このデカ物をどう処理したものか。

キンジにはキクリの様にトリッキーな動きも剣捌きもない。あるのは突出した身体能力と誰よりも頑強な体が取り柄だ。ならそれを生かして戦うしかない。

アビゲイルが援護に回ってくれるが、キクリ以外との連携はあまりうまく行く気がしないのがキンジの本音だ。

「アビゲイル、しばらくあいつの気を引いてくれ。」

押してダメなら引いてみなって。そんなキクリの言葉が頭をよぎった。なら押してダメなら更に強い力で突破するのみ。

アビゲイルがレールガンを連射し、そちらにきがそれた隙に、グッと足に力を込め腕を後ろから殴るのではなく、投擲するように殴りかかる。衝撃だけで地面が揺れ、どれほどの衝撃であったか物語る。

そして続く2打目

「うぉぉぉおおお!!!」

渾身の雄叫びと共に左腕が振り下ろされる。

ついにドラゴン擬きの装甲をぶち壊すことに成功する

壊れた装甲部に両腕を突っ込み、ミチミチと音を立ててドラゴン擬きを真っ二つにする

「押してダメなら引けるほどアイディアマンじゃないんでね。』

千切れた部位がトカゲの尻尾のように動き続ける。

すっかり大人しくなった変異体の頭部に昇り、頭を掴み力いっぱい引き抜き脊椎ごと引き抜く。

変異体の沈黙を確認する。

『キンジさん、アビーちゃん街に巨大変異体が出現しました対処をお願いしますわ。』

まだ街にはこれと同等かそれ以上の敵がいるのかと思うと、少々気が滅入りそうになるが、タバコに火をつけ一服つけタバコを放り投げ街へと歩き出す。


ーーー


「っぷはぁ!死んだかと思ったッス!!」

ユキがキクリの腕の中で起き上がる。

「おかえり。やっぱり生きてたか。」

ユキもキクリには劣るがかなりの再生力がある。キクリの様に折れた直後に再生するほどではないが(もはや折れていないのでは無いか)他のものなら致命傷になる傷を負っても受けてもしばらく待てば生き返るくらいにはユキの再生力は強い。

「今どんな状況っすか!?この拘束されてる女はウチの首折ったやつじゃないっすか!?」

「元気な様でよかった、今の状況は、そうだなー、簡単に言うと…大怪獣パニック映画だね。あいにく現実だけど。」

街のあちこちで巨大変異体が大暴れしている。

情報統括部から通信が入る

『キクリ様、ユキちゃんのバイタルが戻りました。近くにいらっしゃいますか?』

『ユキは今蘇生した。意図的に心拍止めてたみたい。それとシュウカさんにはシェルター4の防衛に向かってもらった方がいいかも。』

『承知しました。ご武運を。』

「さてと、こっちはこっちでなんとかしますかね。」

目の前の巨大変異体の排除を行うことにする。

「ユキ1人でデカブツ相手出来るか?」

「無理っす!!」

「だよねぇ…、とりあえずヒサコの身柄確保したし一旦安全圏までコイツと離脱して。デカいのは俺に任せて。」


ーーー


『お姉様!シェルター4に向かってくださいまし!それとユキちゃんは一時戦線から離脱しますわ!』

『ユキ生きてたの!?』

『意図的に心拍を止めていたらしいですわ。きっとキクリ様の入知恵ですわ。』

そんな器用なことは確かにキクリしか出来ないし、教えたのはキクリで間違いないだろう。ユキも中々に器用なことをする。

『シェルター4の件は了解。そっちの前線状況は?』

『今の所、問題ありませんわ。ミヤさんの部隊が完璧な連携を見せていますわ。』

割り込みで他の情報管の通信が入る。

『失礼します。シュウカさん、南東より巨大変異体が向かっています。』

『オーケー、任せなさい。』

建物の破壊音と共にそれが姿を現す。

キンジが戦っていた変異種とは違う様子だ、両腕はカマキリの様になっており全体的に昆虫に近い見た目だ。

「うっわ、気持ち悪っっ!!」

カマキリ擬きが腕を振り上げシュウカ目掛け振り下ろす。振り落とされた腕に飛び乗り頭部まで一気に駆け上がる。狙うは首の関節から頸椎を狙う。正に一閃。薙刀による一撃で巨大変異体を倒す。切り口から大量の体液が吹き上がる。

「変異体のグロさだけで精神的ダメージ受けるわ。」


ーーー


「やっぱり請け負うんじゃなかったッス!!」

バックから取り出したスケートボードに乗り瓦礫だらけの街を爆走している。

バックの中には様々なガジェットがはいっている。正確に言えばバックはスライム製だ。どういうわけかユキのスライムの特性は極小の次元拡張能力がある。吸収したものを自由自在に取り出すことが可能なのだ。もちろん限度はあるし、重さも本来の4/1程度の重量になるが詰めれば詰めるほど重くなる。

そんなこんなで手榴弾を大量に投げながら、その爆風を利用して加速しつつ足止めとして投げ続けるが変異体の勢いは衰える様子がない。逃げてるだけじゃダメだ戦わないと。でもどうやって!?シュウカに言われたことをおもいだす。背を向けたら反撃の機会を失うっと。まさにこの状況だ。だがキクリさんにはこうも言われた。自分に今どんな手札があって何ができ、何が最優先事項なのか思考し続けろと。今、自分に課せられた使命は二宮ヒサコと戦線を離脱する事だ。

「意地でも逃げ切ってやるっす!!」

巨大変異体は鹿の様な姿をし、四足動物の体をしているが、人間の手が前後の足となっており、かなり気色悪い。変異体は人間の様を一部残しているものが多い。人面プラス獣の体なんてのはもう気持ち悪くて仕方ない。

直後、ビルを突き抜けてキンジが現れ、巨大変異体を殴り飛ばす。それにより巨大変異体はビルを一棟丸々破壊し、瓦礫の下敷きになる。キンジは巨大変異体の角を掴み、首をへし折ると脊椎ごと頭を引き抜く。本日2度目の人生で最高の安堵感を得る。

「キンジさん助かったッス」

「礼はいいキクリの奴はどうした?」

「シェルター6で怪獣と戦ってるはずッス。ウチは確保したコレと戦線から離脱していたところッス」

「なら援護は…必要ないか。」

キンジは煙草に火をつける。ユキはキンジのことが苦手だ。キクリとの会話を聞いていると、こっちがヒヤヒヤさせられてしまう。

『情報統括部より救援要請。巨大変異体の亡骸より新たな変異体が出現。αと呼称します。現在ミヤ様の部隊が対応にあたっていますが、戦況が芳しくありません。』

『なら俺がすぐに向かう。』

キクリさんから割り込みの通信が入る。

『こっちは片付いたよ。すぐに援護に戻るよ』

『キクリさん、ここからならウチらの方が近いっす。キンジさんと援護に…』

『機動力で俺に勝てる人いないでしょ?ほらもうつくよ、じゃあね』

一方的に回線が切られてしまった。

『キンジ様、ユキ様、市街の巨大変異体への対処をお願い致します。』


ーーー


まさか巨大変異体の中にこんな怪物がいたとは、まったくもって想定外だ。V部隊と同等の近接戦闘に射撃訓練を行っているうえに、人数も一個中隊の規模だ。Vの方々が攻撃の要であるのなら、こちらは防衛の要だここで隊列を崩し防衛ラインを突破されるわけにはいかない。

「第一陣、近接戦闘用意、第二陣、三陣は交互に射撃による援護を行うように。銃弾の雨を喰らわせてやりなさい。」

だが、現実は非情だ。第一陣は壊滅、次ぐ第二陣三陣も近接戦闘に切り替えての防衛戦となる。

ミヤは銃剣を握り戦闘に参加する。

αの動きはこちらの動きを予測したものである。

「あっ…!」

部隊員の1人が隊列から、投げ出されてしまう。

思わず腕を差し伸ばしてしまうが、隊員の腹部とミヤの右腕をαは切り裂く。

「っ!!」

αと目があった、明確な殺意がそこにあった。

まずい、殺される。

そう予見した時、軽薄ながら待ち望んだ声が聞こえる。

「いやー、危機一髪。間に合ってよかった。」

その人は腹にαの手の甲から生えたブレードの様なモノで貫かれこういった。

「お待たせしました。」と


ーーー


腹に骨で出来たブレードの様なものが突き刺さっている。

痛みはしっかりあるが、これくらいなんとも無い。

「てい」

手刀で腹に刺さっているものを粉砕し腹から残った分を引き抜き、ミヤに声をかける

「随分いじめられたみたいですね。」

「お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。」

「お礼は今日の夕飯でいいですよ。美味しいハンバーグ作ってください。」

変異体αに向き直り大剣を引き抜く。

αはカタカタと骨と骨がぶつかり合う様な音を立てて首を横に傾げる。

グッと脚に力を込めαに飛びかかる。

両腕をクロスさせ受け止められるが、外骨格にヒビが入るのが確認できた。この大剣を受け止めるとはなかなかの強度だ。さらに力をかけ腕を斬り落とそうとする前にαが腕を引っ込め膝から棘の様なものを伸ばしてくるが、当たってやるつもりはない剣で軌道をずらし、こちらも頭、目掛け上段蹴りを入れる。流石に蹴りで壊れる様な外骨格では無い様だ。だがこちらの刃をぶつけ続ければ確実にαの首を取ることはできそうだ。腕を見るにひび割れた箇所の修復はすぐにはできない様だ。αは手の甲をブレード状にしてこちらの様子を伺っている先ほどの様にブレードを伸ばして来ないのは伸ばせば伸ばすほど強度が落ちるということだろうか。腹に突き刺さったブレードは手刀で簡単に折れたのだからそうなのだろう。

様子見をしているあたり、知能も発達していそうだが休む間など与えない。再び距離を詰め大剣を振るう、αは回避行動を取るがキクリの剣の方が速い。肩の外骨格に刃がめり込む。すぐさま引き抜き、続け様に斬りつける。

逃げようとするαをSFGの糸で無理矢理動きを制限し、何度も何度も同じ箇所を斬る。もはや斬るというより、刃を叩きつけている感覚に近い。何度目かで右肩の外骨格を完全に粉砕し肉に刃が通るが肩を斬り裂き胸の辺りで刃がとまる。発声器官がないのか叫び声はあげないが、体はキクリから逃げようと必死にもがいている。もがけばもがくほど糸が絡まっていき、徐々に動きが鈍くなっていく。こうなってしまえば終わりだ。頸椎に向け3回ほど刃を突き立て首を刎ねる。αは活動を完全に停止し、遺骸が倒れる。

「キクリ様、お見事です。」

切断された腕を止血したミヤさんがヨロヨロと、倒れそうになるのを受け止める。

「お礼、よろしくお願いしますね。」


ーーー


今回の襲撃、SEGによるテロ行為であるのは明白。即時解体を言い渡されたが、教祖は逃走、地下組織となると懸念される。公安がやっきになって捜索している。それとは別に教団No.2の二宮ヒサコの逮捕は大きなニュースとなった。

 

それはさておき、4月1日になり新人の入隊日となった。

入隊人数は5名。

木戸家から木戸ミツカが入隊し下士官の伍長となる。

PWTから西村マヒル中尉、塚沢ヒビヤ准尉が候補者の中から選ばれた 。そしてなんと一般人枠から2名の入隊者が現れた。男女1名づつ、真田ナナと北乃コウが入隊となった。V隊は独立部隊のため全員が階級などはリセットされ、全員が下士官の伍長からスタートになる。

かつてないほどの人数が一度に入隊したため、木戸邸で歓迎会件宴会をすることになった。 

「それでは改めまして、新人歓迎会を開催しま〜す!」

シュウカさんがシャンパンを開け、それぞれに注ぎにいく。

「あ、未成年はお酒もタバコも禁止よ勧める奴がいたら遠慮なくアタシにいいなさい。」 

既存メンバーは全員簡単に自己紹介を済ませ新人達の番が回ってくる。シュウカさんの指名でミツカからスタートする。

「木戸ミツカ、18歳です。木戸家の末妹です。お兄様とお姉様方の様な活躍をしたくこの部隊に志願しました。趣味と言えるかわかりませんがバイオリンを少々嗜んでいます。」

続いてPWT出身の2人に回る。

「西村マヒルです。年齢は30。前部隊ではサポーターでした。趣味は川釣りです。妻と娘が2人います。」

「塚沢ヒビヤ、32でさぁ。前部隊ではアサルト担当兼指揮官でした」

更に続き一般人二人へと番が回る。

「真田ナナでーす。大学生やってました!20歳です。趣味はカラオケです。一緒にいける人がいたら嬉しいです。」

「北乃コウです。22歳で高校卒で電気屋やってました。弟の学費のために今回の申し出を受けさせてもらいました。趣味は特に無いッスね」

各々経歴などを述べる。

「じゃ!みんな自己紹介も済んだし乾杯しましょう!カンパーイ」

シュウカさんの掛け声で宴会が始まる。

侍女さん達が料理を次々と運んでくる。

早々に席を立つキンジ、恐らくタバコだ。それに続く様にPK出身の二人も席を立つ。

一般人二人には俺から声をかけに行こうと席を立つ。

するとユキも一緒に立ち上がりナナの方へ足を向ける。

「よ、お疲れさん。弟さんの学費の為とは言えこんな危険な仕事をよく受ける気になったね。」

「親父の借金もあるし、弟は優秀なんで大学に行かせてやりたいんす。」

「そりゃあ、大変だね。一つ先輩からアドバイスするなら。金のために命をかける奴は早死にするっていうジンクスがあるんだ。ありきたりだけど、俺達はチームだ1人でやれることには限界がある。上手く言えないけど仕事以外でも何かあれば俺たちを頼ってね。」

「うっす、よろしくお願いします。」

目を合わせてはくれない。

「うぇ!マジっすか!キクリさん!ナナちゃんもサメ映画好きらしいっすよ!」

酒が入っているせいか、ユキの声が馬鹿でかい。

「はいはい、聞こえてますよ。そっちいくから、あと俺が好きなのはサメ映画じゃなくてモンスターパニック映画だから。」

ビール瓶を持ち立ち上がる。

「ごめんねコウ君、呼ばれたからあっち行くけど一緒に行く?」

「自分はあんまり大勢ですごすの得意じゃ無いので。」

「わかった、それじゃあまた。」

ユキとナナの元へ向かう。

「やっぱりあれっすか!鮫台風っすか!」

「そうそう、あれ最高じゃないですか?」

ゆったりとした口調で話すナナ

「あれは邪道だろ台風に乗ってサメが本土を攻撃してくるは、サメをチェーンソーでぶった斬るわ、美女が台風の風に乗って主人公と戦うとか信じられないよ。」

「そうは言ってもしっかり観てるんすね。」

シュウカさんとショウカは何やら2人で話し合っている。アビーとミツカも談笑している。

さて喫煙組はどうしているだろうか。


ーーー


「タバコ吸うには良い時期になりやしたね。寒くなく、暑くなく」

そう切り出したのは塚沢ヒビヤだ。

「そうですね、でも寒い時のタバコは格別じゃないですか?」

「ハハッそれは確かに。」

マヒルがキンジの顔色を伺いつつ話を切り出す。

「潮キンジ少佐はPWT出身だと伺ってます。しかもご自身からV部隊に志願したとか。」

「この部隊じゃ階級なんて飾りみたいなものですよ。皆あだ名や、名前+ちゃん、くん、さんで呼ぶ様にシュウカさんからのお達でね。で、質問に答えるとキクリがいたからです。」

「キクリ大佐、じゃなかったキクリさんとはどの様なご関係で?」

「幼馴染なんですよ、アイツとは。でも、高校は別々で、そこから消息不明になって。それで数年後PWTに入隊してすぐに式典?かなんかでアイツがいるのを見つけてそんでV部隊に志願しました。」

「それだけ!?」

「急に俺たちの前からいなくなったのを問いただしたかったんですよ。それと、まぁセーブ役というかなんと言うか」

「あー、なんか女癖が悪いとかなんとかって噂は聞いたことありますね。そのためですか?」

煙をめいいっぱい吸い込む。

「それもそうなんですけど。例えばなんですけど、人間にいきなり金属バットを渡して上官からの命令で無抵抗の人間の頭を、フルスイングできる人間ってそういないでしょう?キクリは相手が老若男女問わず、それが命令なら躊躇いもなくできるやつなんです。その上差別主義者、まぁ例外はある見たいだけど。」

「うわぁ…」

マヒルさんはドン引きといった様子だ。

ヒビヤさんは表情ひとつ変えず、タバコを吸っている。

「英雄になる人っていうのはそういう人だでしょう。俺達は聖人君子を目指してるわけじゃ無いんでね。」

ヒビヤさんはタバコの火を揉み消し宴会場へと戻っていく。

「俺たちもこれ吸ったら戻りますか。」

「そうですね、他の人ともコミュニケーションとらないと」

2人は新しいタバコに火をつける。


ーーー


無事新人歓迎会を終え、それぞれが帰路につく。

シュウカさんと共に喫煙所へ向かう。

「5人のうち何人が1年を生き残れるか。」

「そうですね…アビーも入れれば6人ですね。」

1年生き残れる割合は5%更に1年となれば1%未満

ほとんどが死ぬ。

キクリは7年キンジは4年の歳月を最前線で生きている。いつ死神に首の縄を引かれるのかを待っている様なものだ。

「どう、たまには吸う?」

シュウカさんがタバコを一本差し出す。

「いえ、こいつで我慢しときます。」

ロリポップを口からだす。

するとシュウカさんはタバコを口から離すと俺の口から出したロリポップに齧り付く。

「ほら吸いなさいよ。」

強引にタバコを口元に押し付けられる。

仕方なくタバコを咥える、するとシュウカさんはロリポップを放り投げ再びタバコを口に咥える。

「ん。」

と顔を近づけシガーキスをする。

ゆっくりと煙を吸い込み、タバコに火をつける。

「どう?たまには息抜きするのもいいでしょ?」

「随分強引でしたけど…」

ひさしぶりのヤニを身体中に行き渡る様に吸い込む。

「ちょっとクラっときますね。」

「随分弱くなったじゃない、禁煙様々ね」

ふーと息を吐き出しながら膝を下ろす。

「じゃ先に部屋戻ってるからショウカにちゃんといってから来るのよ。」

シガーキスはシュウカからの、夜のお誘いだ、

さっと踵を返しシュウカは喫煙所から去っていく。

キクリは残ったタバコを大事に吸う。我ながらショウカの実験兼プログラムに感謝している。スライムの適合者になってから無駄に性欲が強くなった。見かねたショウカが対応策としてこのプログラムを考えた。既に木戸家の人間になった俺がところ構わず子種を落としていくのはよくないというのもあるだろう。男というのは我儘だ、1人の女性だけを愛することが出来ず、別の愛も求めてしまう。タバコを吸いきり灰皿に捨てる。

ショウカに報告しにいくか…


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