↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラライズ  作者: 柳
東京編
1/14

戦う理由

木戸キクリは東京都第五地区内のビルの屋上のヘリに立つ。


服は夜に紛れ、風が走る馬の尾さながらに碧色の髪を靡かせる。

鬱陶しいから切ろうとずっと思っていたが、めんどくさがり、遂に女性さながらのポニーテールになった。見かねた妻が少し整えてくれたこの髪型を気に入っている。

タバコに火をつけ、肺いっぱいに吸い込み、ため息のように煙を吐き出す。それから抗うつ薬を水で流し込む。

任務の前はすっかり、これがルーティーンになってしまった。今から2時間前、第5地区内で大規模なバイオハザードが発生。フロムスライムに寄生された寄生体、及び変異体と呼ばれる寄生生物の駆除と生存者の保護が目的だ。被害状況は、第5区内の三分の一を封鎖隔離。

生存者からの救難信号を受信している、区域内の保護シェルターに避難していると。

まずは保護シェルターに向かい生存者と合流、可能であれば一度撤退、避難させる。その後、寄生された人間を一掃出来れば万々歳だ。

タバコを半分ほど吸い携帯灰皿に捨てる。

「ふぅーー、さぁて行きましょうかね。」

そのまま15階建てのビルから一歩を踏み出す。体が重力に従い落下していく、この感覚が好きだ。

全身で空を切るのを感じながら両手に装着したSFGと呼ばれるグローブから、粘着性の糸を射出する。

某ヒーローの様にビルとビルの間を飛び回る。

常人の数倍のフィジカル、情報処理能力、その他もろもろのびっくり人間大集合といった特殊能力をもつ彼らはスライムに寄生されながら所謂、共生関係を築く事ができた者達、適合者と呼ばれる超人だ。

だが全員が超人になれるわけではない。フロムスライムが人間に寄生した場合、大抵はスライムに脳を乗っ取られる。そして体内で増殖し、それを他者へ襲いかかり穴という穴からスライムを流し込む。そうしてバイオハザードが発生する。今回はテロリストによるテロ行為だ。犯行声明は出ていないが、目撃者やSNSの情報からビルに激突したトラックから寄生体が放出された様だ。

自衛隊や、警察、消防あらゆる機関がこの事態の終息にむけ動いている。それらと連携し事態の鎮静化を図るため、木戸グループと呼ばれる大企業が創設した私設部隊PWTがある。会長を務めるのはキクリの義父の木戸ムサシだ。

『キクリさん、そこから3ブロック東のシェルターに多数の寄生体と変異体に囲まれeチームの救助が難航しています。早急に援護へ向かってください。』

アビゲイル・クーパー、普段は現場に出ているがここ1ヶ月は代理で情報統括部の指揮を取っている。ブロンドの髪と青目の15歳の少女だ。

「はいよ、アビー。他に動いてる部隊は?」

『南15ブロック先でαチームとbチームが寄生体と交戦中。cチームが救出成功。私たちV部隊はシュウカさんとキンジさんが暴れ回っています。』

V部隊、通称ヴァーディクスは独自の指揮系統下にある。

木戸家次期当主で、長女、木戸シュウカを筆頭に少数精鋭で組まれた部隊だ。

アビゲイルとキクリもV部隊の一員だ。

振り子の様に街中を飛び回る。

「寄生体と変異体の数は?」

『20体と3体です。』

寄生体はわかりやすく説明するならゾンビだ。

変異体はその名の通り、寄生した人間の姿から大きく変質した姿を見せ、知性や強靭なフィジカルを備えている。人間の形をしていないものが大半だ。

「見えた。eチームを目視、標的を確認、殲滅に移る。」

背中に担いだ大剣を引き抜き、空中で身を捩り1番大きな、変異体に勢いをつけ頭上から突き刺す。突き刺した大剣を身体全体で引き抜き、身を地面スレスレに屈み横回転しながら変異体の足を切り裂く。ついでに辺りにいた寄生体を剣圧で薙ぎ払う。

更に両腕が肥大化し、ゴリラのような変異体の腕を切り飛ばし首を刎ねる。だがその隙をつかれサイの様なツノを生やした変異体に背中から胸を貫かれる。

キクリの体は振り上げられた頭により、宙へと放り投げられ、シェルターの隔壁へと叩きつけられる。

勝利の咆哮をあげる変異体。

だが木戸キクリはこの程度で死ぬほどやわでは無い。

空いた傷口と言うにはあまりにも大きな穴が一瞬にし塞がり、立ち上がる。

「雑魚だと思って油断してたよ。危ない危ない」

サイの様なツノをもつ変異体の背中をゆっくりとキクリの大剣が貫く。

「喜ぶ前に、ちゃんと死んだか確認しないと」

キクリはそのまま大剣を上へと斬り上げ胸から頭部を真っ二つにする。

残った寄生体は携行しているハンドガンで練習がてら頭を撃ち抜く。キクリは射撃が苦手だ、だが仲間と連携することもある以上ある程度の腕前は必要となる。これでも上達した方だ。

『ターゲットを全ロスト完璧です。』

「eチーム直ぐシェルターの民間人を保護、負傷者も連れて撤退していいよ。」

「はっ!ご助力、感謝致しますキクリ様!」

「いいえ〜」

"様"呼びには慣れた。木戸家に婿養子として迎えられた頃こそ、やめるようにお願いしたが侍女さん達も頑としてやめてくれない。そもそも妻が自分のことをキクリ様と呼ぶのだ、嫌でもなれるしかない。木戸家三女、木戸ショウカ、キクリの妻だ。

彼女もまた、V部隊の一員だ。

今は出産を控えている為、任務には就いていない。

予定日まで指で数えるほどだ。

『キクリさん、お見事でした。立て続けに申し訳ないのですがキンジさんがテロの首謀者と思しき人物と戦闘になりました。至急向かってください。』

「はいよっと」

SFGで一気にビルの屋上まで飛び上がる。

『キンジさんはそこから北西に数ブロックと言ったところです。』

「ありがとう、すぐ向かう。」

ビルからビルへ数十メートルを飛び移る。

道路は車や寄生体が跋扈しており、これが1番速く目的地まで辿り着く方法だ。

キンジとは木戸家へ嫁ぐより前からの友人だ。

パッと見、カタギには見えないほど強面で髪の色はオレンジのツンツン頭だ。

「また派手に暴れてるなぁ。」

凄まじい破壊音が聞こえる恐らくビルの壁をぶち破りながら戦っている、かなり激しい戦闘になっていることがうかがえる。

スライム適合者同士の戦いは、超人同士の戦いだ周りへの被害はもはや災害といって差し支えないだろう。

『戦闘が激しすぎて、テロ首謀者の顔認証に時間がかかりました。名前はカリム・ジャハル、国際指名手配犯です。確保できれば大きな情報源になるかと。』

「相手が大物ならキンジも、手こずる訳だ。」

破壊音の元へ辿り着くと、キンジが瓦礫の中から這い出てきた。

「うわ、びっくりした。なにしてんの?」

キンジは部隊内、最強と呼ばれる男だ。その男をこうも簡単に吹き飛ばすとなると、相手の実力も相当なものだろう。

「問題ない」

頭についた埃を払いキンジは立ち上がる

「くっそヤニが切れた」

そういうと、煙草を取り出し火をつけ、みるみるフィルターまで吸いきる。

キクリは携帯灰皿をキンジに渡す。

「まだ元気そうで何より。」

キクリは背負っていた大剣を握り、肩に担ぐ。

ビルの瓦礫を掻き分け、1人の男が現れる。カリムだ。

「思ってたよりデカいな。」

「でかい上に素早い、1人で制圧したかったがこれ以上、街に被害を出すわけにもいかない。援護頼めるか?」

「いいよ、でもほどほどにね。確保したいらしいから」

「じゃあいつも通りだな。」

その言葉と共にキンジがカリムに殴りかかる。それに応えるかのようにカリムも拳を振り上げる。すかさず糸でカリムの腕を引っ張る。が、一瞬しかもたず、糸は切れてしまった。だがその一瞬で十分であるカリムの拳が届く前にキンジの一撃がカリムのミゾオチへと突き刺さる。

カリムはかなり上背がある。キンジも背が190センチと大柄だが、カリムはそれ以上2m以上は確実にある。恐らく戦闘時には自らの命を縮めてまで促進剤を多用しスライムの力を最大限引き出しているのだろう。

キンジの一撃が決まり形勢は一気にこちらに傾く。カリムも反撃に出るが、糸で再び動きを一瞬封じる。それを幾度となく繰り返す。一瞬の遅れが致命的なダメージをカリムに与える。ついに姿勢を崩す。その隙に、大剣を振り下ろし、腕を切り落とす。さらにキンジがアッパーで殴りつける。上に吹っ飛ばない様に糸で地面とカリムを固定する。更に蜘蛛の糸のように次々とSFGを絡ませていく。蜘蛛が獲物を捕食する時のように繭状になったカリムをキンジのラッシュが襲う。地面のアスファルトがキンジのラッシュに耐えきれず捲れ上がりカリムの体が中に浮く。キンジはカリムの頭を掴みそこから浮いた体をアスファルトへとめり込ませる。更にその上から両腕をハンマーの様に脊椎へとダメージを与える。スライムの適合者を倒すには3000度以上の熱、脳を破壊する或いは脳と体を切り離す、脊椎へのダメージだ。カリムはアスファルトにめり込んだまま微動だにしない。

キンジのラッシュで脳と脊椎へのダメージは相当なものになっているだろう。

「スッとしたぜ。」

糸でカリムの体を完全に拘束する。

「まだ生きてるか?」

「お前のラッシュで脳みそがスクランブルエッグになってなければな。」

脈を確認するまでもなく、先ほど切断した腕が再生の兆候を見せている。まだ生きている様だ。念のため抑制剤を投与できる手錠を斬り落としていない腕にはめる。

「気絶してるだけだね、上手いこと。」

「こいつどうするんだ?」

「俺は用は無いけど情報源になるらしいから確保してほしいってさ。キンジ運搬たのんだ。」

「あぁ!?なんで俺が」

顔が怖い、怖いうえに口調が強い。普通の人なら怯むだろうがキクリは怯まない。援護してやっただろと言うと素直にカリムを担いだ。根はいいやつだ伝わらないけど。

「アビー閉鎖区域内の様子は?」

『シュウカさんが駆け回ってくれているおかげで、事態は沈静化に向かっています。』

「よかったよかった、じゃ我々は退散しますか。」

『キクリさん大変です!』

「ん?どうしたアビー。」

『ショウカさんが産気づきました!!』

「「!!!」」

「と、と、りりりあえず。病院へ行かなきゃ。」

「落ち着け、まだ産まれてないって」

キンジから平手打ちを受ける。

平手打ちする必要はないだろ、いや落ち着いてないから助かったけど。

「すぐ向かうよ!」


ーーー


東京第8区の半分が、木戸家の私有地となっている。

規模にして、約48km2地下にも施設がアリの巣の様に広がっている。研究所、兵器工場、私設軍隊の基地などがある。この区画にはドームと呼ばれる防壁機能に守られている。人の出入りは、これにより逐次監視される。日光や雨などは通過するが外敵からの防御壁として機能している。フロムスライム研究の副産物だ。それらに囲まれる様に木戸家邸宅が存在する。和洋折衷の3階建ての屋敷だ。ここで義父と義母含む五姉妹のうち四姉妹と、住み込みの侍女長と常時5人以上の侍女さんが交代で泊まり込みで暮らしている。



ショウカの産院もこの私有地内に建てられた総合病院の一角だ。汗まみれ泥まみれもっと言えば寄生体の体液まみれで病院に着くと同時に警備に止められ、シャワー室へと連行される。木戸家の病院だ、面通りは出来ているらしい。誰が用意したのか洋服一色揃えられていた。

すぐにショウカのいる分娩室に入る。

「ショウカ!」

「キクリ様!っっっ!」

陣痛が短くなりもう産まれると看護師さんから説明を受ける。ショウカの手を握ることしか出来ない。

どれくらい時間が経ったろうか。

病室に大きな泣き声が響く。

「頑張りましたね、おめでとうございます。元気な女の子です。」

看護師が産まれたばかりの娘をショウカの横に連れていく。思わずスマフォで写真を撮りまくる。

「お父さんも抱っこしますか?」

「抱っこしていいんですか!?」

「えぇ!もちろん」

なんて小さな命なんだろう。

仕事を頑張る理由が増えた。この子のためにこんな血生臭い戦いは後世に残したくないと。

そう思ったのも束の間

「測定や検査に回るので、お父さん失礼しますねぇ」

優しく看護師さんが娘を抱き上げる。体重測定や検査に回る様だ。

その後はショウカの病室に移り、一晩を病室で過ごした。

何時間もの時間が一瞬の出来事の様に感じた。


ーーー


V部隊本部、屋上喫煙所

「とうとうキクリが父親で、アタシが叔母かー。」

ケタケタと爆笑しながら膝を叩き、タバコの灰が地面に落ちる。木戸家は女系家系だ現当主を除き、産まれてるくる子供は皆んな女だったが今回も女子だ。

「シュウカ先輩、随分嬉しそうっすね。」

斉藤ユキが膝を抱えながら煙草をふかす。

金髪に染めた髪はプリン頭になっている。目は三白眼で爬虫類っぽいが愛嬌のある21歳の女性だ。

V部隊のエンジニア担当で、ハッキングからトラップの解除、製作までお手のものだ。それ以外にもキックボクシングを体得している。

「姪っ子が産まれたって連絡があってね。そりゃ嬉しくもなるよ。」

「ショウカさん、現場復帰っすか?」

「いーや、ショウカには半年しっかり休ませるわ。その後、情報分析官の仕事に戻ってもらうわ。キクリには悪いけどアイツは休ませないわ」

「本心は違うって顔してますね。仕方ないっすよ、万年人手不足っすから。アビーちゃんもまだ、入って8ヶ月。優秀っすけどね〜。」

ユキは灰皿で煙草を揉み消すと、新しい煙草に火をつける。喫煙者には厳しい世の中だ寒空の下、煙なのか白い息なのかわからない。

ユキの歯と肩がガタガタいっているのが聞こえてくる。見れば短パンにタンクトップ姿に雪駄を履いている。腕にオイルがついているのを見るに恐らく部隊の車両の点検をしていたのだろう。それ以外にも恐らく隊員の装備の点検や雑務をこなしていたことが伺える。

「いつも、悪いわね」

「半分趣味見たいなもんす。」

ユキはニッと歯を見せて笑う。

「キクリさん、子供が産まれたら禁煙するって言ってたけど本当にするんすかね?」

「あいつはやるって言ったらやるわよ〜。」

「ここに来て駄弁る相手が減っちゃうっすね。」

「何言ってんのキンジやアタシがまだいるし、あんた達コンビじゃないの。」

「キクリさん聞き上手なんすよ。タバコ吸ってる時ならいろいろ話しやすいし。」

女泣かせな男だ。

人のことを言えた義理ではないか、と、ため息をつく。

キクリとシュウカは肉体関係を持っている。言い訳にしかならないだろうがショウカはこの事を知っている。というよりショウカから持ち掛けられた話だ。何かの実験だというが…他にも侍女長と数人の侍女にも声を掛けたと言っていた。我が妹ながら恐ろしい実験だ。ショウカは木戸邸を大奥と言うなの実験場にしようとしている。スライム適合者とそうでない人間の違いについてだ。無事スライム適合者同士での妊娠は可能である事を自ら証明してみせた。私が妊娠しないのには何か理由があるのか、侍女長の古川ミヤもスライム適合者ではあるが彼女もまだ、妊娠はしていない。他の侍女達はスライム適合者だが適合率が低いものから、適合者でないものまで様々だ。何がそこまで彼女を駆り立てるのかはわからない。まぁ姉妹だ男の趣味が似るのも不思議ではない、シュウカ自身もこの関係を楽しんでいるイカれ野郎に変わりはない。そしてキクリも。

「じゃ、私は書類仕事あるから戻るわ。ボランティアも程々にして帰りなさいよ。」

「ういっす!」

釘を刺したつもりだが、月に数度は車両の中で眠っているのが発見されている。この時間を考えると恐らく明日が月に数度の日になることだろう。


ーーー


「リカちゃん、お父さんですよー。」

キクリが娘のリカをあやしている。

ショウカはその尊い姿を残そうとシャッターをきる。

この為に1番綺麗に撮れるスマフォに買い換えた。

シャッターをきる手が止まらない

動画撮影用に購入したカメラも同時に回している

「キクリ様こっちを向いてくださいまし!」

「そうしたいけど、目を離すと落っことすんじゃないか不安で」

「もう首も座っていますし、そんなに怖がらなくて大丈夫ですわ。」

「そ、そうか任務以外はなるべく3人で過ごせる様に頑張ってたつもりだけど、未だにおっかなびっくりだよ…」

ふふふ、思わず笑みがこぼれてしまう。

「もう4ヶ月だもんな、あっという間に赤ちゃんらしい赤ちゃんになっちゃって。子供の成長は早いって本当だね。」

「リカちゃんは、とても育てやすい子ですわ。

夜泣きもあまりせず、授乳も、ミルクも沢山のみますし。侍女さん達に預けても人見知りせずぐずりませんもの。それにしてもキクリ様に似て垂れ眉なのが堪りませんわ。」

「アタシの睡眠を妨害する子はここかなーっと。」

シュウカが襖を開け部屋に入ってくる。リカの顔を覗き込みベロベロバーと普段のシュウカからは考えられない顔をする。

「悪いわね、家族の時間に割って入って。」

「何をおっしゃいますの、お姉様も家族ですわ。それに夜泣きの時も屋敷の奥から走ってくるじゃないですか。」

「こんな、可愛い姪っ子ほったらかしに出来ないじゃない。アタシにも抱っこさせてくれなきゃ不公平ってもんよ。」

そう言いながらキクリ様からリカを取り上げるも、リカはぐずる事なくシュウカの腕の中におさまる。

「ほんとお利口さんなんだから。」

「お姉様がこんなに、子煩悩だとは思いませんでしたわ。」

「子供はみんな、次代を担う大切な存在だもの。ましてや自分の姪っ子となれば尚更ねぇ。目はショウカにそっくりね、眉毛はキクリとおんなじ。」

お姉様はケタケタと笑声を上げる。

それをみてリカも嬉しそうに手を伸ばして笑っている。

「さてと、アタシは本部に行ってやることがあるから。また帰ってきたら叔母ちゃんにその可愛い顔を見せてね〜」

キクリにリカを渡す。

「いってらっしゃいまし〜。お気をつけて〜」

シュウカを玄関まで見送る。シュウカのの配慮もあり、家族3人でしばらくは平穏にすごせそうだ。


ーーー


「なぁキクリ」

キンジが珍しく眉間に皺を寄せ、いつにもまして真剣な口調で話しかけてくる。

「父親になるってどんな感じだ?」

「え?」

「いや、そのな、ウチも妻が妊娠してな。」

「へー…。え!?サキちゃんが?」

自分が父親になることも信じられなかったが、キンジが父親になるのも同じくらい信じ難い出来事に開いた口が塞がらない。思わずタバコの代わりに加えていたロリポップを落としそうになる。

「え、まじ?」

「まじで。」

「今何周目?」

「10周目」

「まだ人に話すのには早いでしょ〜安定期入ってからじゃないと。まぁ、言いたくなる気持ちもわかるけど。」

キクリは偉そうに言っているが、ショウカは安定期に入るまで誰にも言わずに黙っていた。急に夜這いが無くなっていたが、考えもしなかった。キクリもキンジの様に先にわかっていたら話していただろう。

「不安と期待でソワソワするのはわかるけど、まぁ落ち着きたまえよっ。」

キクリは肘でキンジの横っ腹をこずく。

キンジの苦悶の声と共に咥えたタバコの灰がポロポロと落ちる。

「この前、ビンタされたお返しだ。ありがたく受け取れ。」

「っもう少し加減しろや。」

「お前のビンタに比べたら優しいもんだ馬鹿野郎。」

お互い悪態をつきながらも笑い合う。

V部隊本部、喫煙所となっている屋上の手すりにもたれかかり、空を見上げる。今日は快晴、雲ひとつない青空が広がっている。

「俺もタバコやめようと思ってさ」

「やめとけって、どうせやめられないから。俺みたいに鬱の治療目的で1日3本〜4本吸ってたのと訳が違うんだぞ1日1箱すってるヘビースモーカーのお前には無理だって。しかもキッツイの吸ってるのにやめれんよ。」

「そう言われると自信無くすだろ。お前、俺の友達だよな?」

「うん、まぁこれでも?親友だとは思ってるよ?」

ロリポップを口から出してコロコロと指先で回す。

タバコの代わりに口寂しさに舐め始めたが手慰めにもなる。

「キンジさん、お疲れ様ッス。キクリさん頼まれてた缶コーヒー3本買ってきたっす。」

ブッカブカのパーカーを着たユキがやってきた。ユキとはコンビを組んでおり、かれこれ数年の付き合いになる。

「ありがとユキ、釣りはパシリ代としてとっておいて。」

「あざッス!」

嬉々としてショルダーポーチから小銭入れを取り出しチャラチャラとしまう。

「お前、いいように後輩使うなよ…」

ごもっともな意見、丁重に聞き入れよう。

体育座りのように腰を下ろし、パーカーで膝下を覆いユキもタバコを吸い始める。

こんだけ副流煙吸っていれば、吸っているのと大差ないと思う。だが同時に普通の人間でない事にも思い当たる。適合者の発癌率はどんなものだろうか。ま、そういうことは研究者が発見なりなんなりして既に論文とかになっているだろう。ひとつ確かなことがあるとするなら、精神疾患には効果はない様だ。

「あ、ユキ。キンジの奥さん妊娠したってさ。」

「お前がいうのかよ。」

「仕方ない、知っちゃったからには他の人に話したくなるもんだろ?」

「マジっすか!キンジさんおめでとうございます!」

「ここは缶コーヒーで乾杯しとくか。」

ユキが買ってきた缶コーヒーを開け空に掲げる。

「じゃ、キンジの奥さんと新しい命に。」

「「「乾杯。」」」


ーーー


シュウカは自分に母性本能があるとは思わなかった。

姪っ子をこんなに愛おしく思えるとは思っていなかった。

自分も子供を持ちたいとすら感じてしまっている。

ショウカの例の実験で、時間の問題だとも思う。

自分にその能力があればの話だが…

書類仕事を一通り片付け、カフェテリアでコーヒーを淹れすすると一枚の書類に目を通す。

入隊志願書 名前:木戸ミツカ 木戸五姉妹の末妹だ。

3ヶ月後の高校を卒業と共に入隊を希望している様だ。

基礎訓練や体力テストは勿論、知能テストも文句のつけようがない程、高得点だ。ただ心配なのは人間関係だ。

ショウカとミツカは姉妹の中では珍しく犬猿の仲と言うわけではないが、ちょっとした確執がある。ミツカはキクリにゾッコンなのだ。

だがショウカの例の実験に、ミツカは含まれていない。

この実験についてミツカは激昂しショウカへと詰め寄った。当然だが未成年をこんな爛れた関係に関わらせる訳にはいかない。…成人していればいいのかと言われればそうでもないと思うが。

そんなこともあり、ショウカとミツカは相性が悪い。

私と次女も微妙と言えば微妙だがそこは大人の塩梅で上手くやっている。

それはさておき入隊の件、頭痛の種になりそうだが入隊許可は出すのは決定している。ただしショウカと任務に支障が出るような衝突をした場合、即刻除隊にするつもりだ。姉妹で優劣をつけたくはないがショウカの才能はピカイチだ。情報分析官として、また発現している能力テレパシーは部隊の連携に欠かせない。

とてもではないが、ミツカにそこまでの実力は現状無い。だからといって実力不足なわけでは無い。実戦経験を積めばV部隊のニュービーとして活躍してくれるだろう。ちょうど、ショウカは情報分析官として復帰、ミツカはキクリ、ユキコンビの下で学んでもらうつもりだ。またアビーはキンジをつけ、前線で活躍して貰おうと考えている。

コンコンと壁を鳴らす音がする。

「シュウカ様、お時間よろしいでしょうか?」

「仕事中は様で呼ばないで、名前+さん、ちゃん、呼び捨て、あだ名で呼びなさいっていつもいってるでしょ?ちょうどいいわ話し相手が欲しかったところよ。適当に座って」

古川ミハル、V部隊の副隊長でスナイパーだ。2km先の的を数ミリ単位で撃ち抜く。階級は省くが部隊の中で放し飼いが出来る貴重な存在だ。V部隊は新人のアビー、忠犬だが危なっかしいユキ。復帰したてのショウカ。キクリ、キンジにいたっては手綱を繋いでおかないと制御不能に陥ることがある。それらを加味すると喜ばしい人材である。少々堅物だが。

「では、シュウカさん。ご依頼頂いた候補者リストをまとめておきました。」

「あー、あれねありがとう。ちょうど志願者リストに目を通してた所だから、それも見せてちょうだい」

何の候補者リストかと言えば一般人から的性が高いものを選出したものだ。PWTからは能力はあるが埋もれている、あるいは現状維持でノラリクラリと立ち回っている者達を擁立する。一般人から選出された者には、木戸グループから赤紙ならぬ青紙を送り賛同する者は木戸家の門を叩くことになる。現在V部隊は7名の小隊だ。PWTは大和全国に支部があるがV部隊はその特殊性や、純然たる力量から人材が限られてしまう。

ミハルから受け取ったリストに目を通す

「…やっぱりアビーみたいな逸材はそうそういないか。」

「一般人からの選出はあまり望めませんから、致し方ありません。徴兵の強制できませんから。」

アビゲイル・クーパー 15歳。ある事件に巻き込まれ瀕死の状態からスライムによる治療で驚異の適合率90%を叩きだし死の淵から舞い戻った。

「妹様も今年の志願者だとか。」

「うん、そう。ミツカの方はね。オウカは木戸グループの開発部門で働くってさ。」

木戸家五姉妹、四女と五女は年子だ。

姉がオウカで、妹がミツカだ。

「お二人共もう、そんな年齢ですか。時が経つのは、はやいものですね。」

「あんた赤ん坊の時から、見てるもんね。」

古川家は代々木戸家に奉仕する事を生業としている。

侍女長のミハルと古川ミヤとは従兄弟にあたる。

「あたしとミヤは、ショウカの例の件があるから諦めてるけどさ。あんたも早いとこ身を固めなさいよ。」

「生憎、その手の事には縁がありません。今度、父から縁談の話を頂いたら考えてみようかと。」

「いいじゃん、いいじゃん、あたしも早くキクリの子供孕みたいよ。…イカれてると思ってるでしょ?」

我ながら異常者の戯言だ何が倫理観だ。妹の旦那の子供を孕みたいなどと、どうかしている。そう思いつつも、ショウカと男の趣味は似てしまっている。キクリに恋愛感情がないと言えば嘘になる。ただ私の場合それに気がつくのが遅かった。キクリとショウカの祝言を素直に喜べない自分がいる事に気がついた。それもそうだ、キクリが15歳の時に木戸家に来てから1番時間を共にしていたと思う。毎日の朝稽古に、学校から帰宅してから許される限りの時間を稽古を共にしていた。

「はい、この件に関わる全ての人間への倫理観に疑問を抱かずにはいられません。」

それはそうだろう、わかっている。

「ですが、ショウカ様の実験、私自身興味があります。」

「意外な返答ね。」

「そうでしょうか?適合者から異様なほどの出生率の低さを考えれば一考するにあたるかと」

確かにミハルの言う通りだ。片方あるいは両者が適合者の場合、出生率は大幅にダウンしてしまう傾向にある。

だが、理由がわかれば将来的な戦力の増加。

はたまた、スライムに対する脅威は消え失せることになる。全員が適合者なら誰も寄生体や変異体にならず、日常生活を送ることができる。ある意味、人間の進化と言っても良いのではないだろうか。

「ショウカの思惑がどこにあるのか、アタシにはさっぱりだけどね。」

さてと、無駄話もこれくらいにして書類仕事に戻ろうと思う。ちょうど1人暇そうな奴が目の前にいることだし、溜まりに溜まった仕事を一気に片付けてしまおう。


ーーー


「お兄ちゃん、おかえり〜。」

義妹のオウカが帰宅を出迎えてくれた。

「ただいま。ひさしぶりに顔を見た気がするよ。」

「最近は部屋にこもって武器の設計図ずーっと描いてるからねー。トウカちゃんに入社前の宿題だされちゃって、割と焦ってる。」

トウカとは木戸家次女であり、木戸グループの開発、バイオ部門で主任研究員をしている。

「そのわりには余裕そうに見えるけど。」

靴を脱ぎ家に上がり、廊下を歩きながら話す。

「構想はバッチリだから後は時間との勝負って感じなんだ。物理的に時間が足りないって感じ。」

「で、わざわざ玄関で俺のこと待ってたわけか…」

「お願い⭐︎」

両手を合わせウィンクを繰り出してきた。

「あ、父親としての仕事はしばらくは大丈夫!侍女さんが代わり代わり手伝ってくれる様に話をつけたから。」

「そんなことしてる間に製図進めればいいのに…」

「それ込みで考えても、お兄ちゃんに手伝ってもらうのが早いんだよなーこれが。」

トウカが無理難題を出すのは理由があるとキクリは予想する。

「オウカ、多分トウカさんは社会人のホウレンソウが出来るか試してるだけだと思うよ。現状の進捗と間に合わないという事を伝えられるか見極めたいだけだと思う。」

キクリは助言を出したつもりだが、義妹に甘いせいか答えを教えてしまっている。

「そうなのか!確かに!社会人はホウレンソウ大事って聞いたことある!」

「そ、だから入社まで後3ヶ月?それまでこまめにトウカさんと連絡取りながら宿題進めてみな。」

「さっすがお兄ちゃん!的確なアドバイス!早速今から連絡を!」

「それはやめておきなさい。仕事の時間はお終い、今やることは俺と一緒に夕飯食って風呂上がりに一緒にアイス食べる事。報告、相談は明日にしな。」

思い立ったが即行動のオウカには、相手の時間帯や事情を察する力も教えてやらなければならないな、とキクリは思いオウカの頭を撫でてやり食卓へと向かった


ーーー


ショウカの出産から5ヶ月がたった。

いつもは静寂な木戸邸の中に大きな泣き声が響き渡る。

俺も父親として、3時間おきにミルクやオムツ替えをショウカと2人でなんとかやっている。極力2人の力で子育てをしたいと思っている。勿論任務で不在の時は侍女さん達も手伝ってくれている。

元々不眠症で1日の睡眠時間は4時間の為いつものと変わらないと、思っていたが。まとめて寝られないのはきつい。いつもの様に睡眠薬を飲んで寝る訳にはいかない。

育児というのは想像以上に大変だ。

そんなこんなで5ヶ月、生活リズムに慣れてきた頃だ。

部隊に招集がかかった。


V部隊のブリーフィングルーム 

7名中6名、キクリ、キンジ、ユキ、アビー、副隊長の古川ミハルさんがそれぞれ適当な席に座っている。そこへシュウカさんがパンパンと手を叩きながら入室してくる。

「はーい全員ちゅうもーく。」

声のトーンからしてあまり機嫌が良くないのがわかる。

「今から30分前、第六区の私立大学でバイオハザード発生。生徒のSNSから生存者は図書館にバリケードを築いて立て籠っているそうよ。」

「ならPWTを向かわせれば済む話しですよね?」

「察してるだろうけど、私たちに任務が回ってくるってことは、面倒な事情が絡んでるってことよ。アメリカのなんとかって議員の娘が留学してるそうよ。」

「勘弁してくれ。」 

キンジはコメカミを人差し指の第二関節でトントンと叩きながらため息をつく。

「生きてる補償はあるんですか?」

「そのSNSの発信者が、それらしいわよ。」

モニターにSNSの動画が映し出される。

英語で何か話しているが、相当テンパっている様で何を言ってるのかわからない。

「日本人だけだったら、絶対俺ら呼ばれてないぞ。」

「まぁそういうなって。逆におかげで俺たちがその他大勢の救助にあたれるって思っとこうぜ。」

キンジを嗜めつつも、キクリもキンジと同じ意見であった。

シュウカさんの機嫌が悪いのも納得だ。

「キクリさんのいう通りっす。プラスに考えるのが良いっす。」

「そういうことだから、さっさと現場に向かうわよ。キクリ、ユキの2人は先に向かいなさい。他は救出プランざっくり立てるわよ。」

「りょーかーい」

「了解っす!」

すぐに部屋を出てピットへ向かう。

戦闘服に着替える、SFGのグローブを両手に装着し、戦闘服に袖を通す。首元でボタンを止めて首が隠れるデザインになっている。スキーウェアの様に背中側から前のズボンにサスペンダーが付いている。SFB(スライムファイバーブーツ)に足を入れ足首で止める。フォトンブレード2本を腰に装着し、背中には大剣を背負う。

ハンドガンを足のホルスターに、SMGを腰に携行する。キクリはバイクに跨りエンジンをかける。このバイクは人工知能付きで会話することもでき、変形機構を搭載している。愛称はハヤテ、シュウカさんから譲り受けたものだ。

「準備できたっす!」

ユキがピットに入ってくる。

肩掛けのバックには、恐らく大量のガジェットが入っているのだろう。

ユキにヘルメットを投げ渡し後ろに乗る様指示を出す。

「しっかり捕まってろよ。」

「うっす!」


ーーー


大学は既に警察と自衛隊により包囲されており、人払いも済んでいる様だ。

到着するや否や、指揮官らしき中年の男性が駆け寄ってくる。

「PWT大佐、芦田と申します。」

「V部隊アサルト、キクリです。こっちは同じくエンジニアのユキです。」

「よろしくっす!」

ノリが軽い。

「早速ですが、私とユキの2人で生存者の捜索を行います。今わかっているのは図書館に数十名、まずはそこの救助から行います。対策チームの方々は救助した子達を保護する準備をお願いします。」

「承知しました。」

「後、数分でウチの部隊長が到着すると思うのでそこからは、彼女の指示に従ってください。それでは」

テントの外に出てユキと校内に足を踏み入れる。ユキは対寄生体HG、SN800を構える。殺傷力は低いが様々な特殊弾を放つことができるリボルバー式の物だ。キクリは手にしているSMGスノーピアサーを構える。火力は心許ないが装弾数が多く反動が少ないので重宝している。

図書館は校内の1番北側にあり、入り口からだとかなりの距離がある上に建物の中で繋がっているため、外から直接入ることはできない。

「ハヤテ、オートバトルモード、俺たちが踏み込んでいる間、前線の維持を頼む。」

《承知しました。》

するとバイクの形状から下半身がタイヤ上半身は人間の様な姿になり最前線へ移動する。

「一先ず図書館に向かおうシュウカさん達が到着するまで民間人の保護を最優先。やたら滅多に動いて犠牲者を出したく無い。」

「そうっすね。とりあえず図書館と本館を繋ぐ通路までいってそこの壁、爆破して突入する感じでどうっすか?」

「いいね、その案でいこう」

「了解っす!」

ユキは敬礼し、ニッと歯を見せ笑う。愛嬌の塊である。

シュウカが可愛がるのもわかる。

抗うつ薬を口に入れ水で流し込む。

「さぁて、いきますかね。」

「うっす!」

構内に侵入し、なるべく壁沿いをユキと走る。

寄生体は校舎内にいるのか、外にはあまりいない。

順調に事は進んでいる、なんなく通路まで辿り着いた。

通路の窓から中の様子を確認する。

「学生がバリケード張って耐えてるって話だったっすよね?」

「SNSにはそうなってたみたいだけど。」

「対寄生体用の隔壁が降りてて突破できないだけっすね。図書館だから窓も設置されてないのが幸いして立て篭れた感じっす。」

「アビー、シュウカさん達は、もうこっちに着いた?」

『後10分ほどで到着します。』

そうなるとここで、下手に爆破して事を荒立てずともいい。なんなら校舎内に生存者がいないか捜索するのが先決かもしれない。だが、最重要人物がこの中にいるのは確実だ。そうなると、そちらを優先せざる負えない、か…

キクリは断腸の思いでユキに指示を出す。

「ユキ、隔離扉をこっちから操作して開けられる?」

「もちのろんっす。爆破しなくていいんすか?そっちのが手っ取り早いっすけど。」

「中の状況がわからないから、扉の近くに学生がいて怪我でもされたら、いろいろ面倒だし。」

「確かにそうっすね。5分頂ければ安全に解錠できると思うっす。」

「わかったそれでいこう。時間は俺の方で稼ぐ。」

ユキはバックの中から、爆弾を取り出し手際よく壁に貼り付ける。

「発破します。3、2、1」

ボンという音共に通路の壁が破壊される。

「思ったより静かだな。」

「試作型の消音機能付き爆弾だったんすけど、上手くいったみたいっすね。」

「だな。それでもあいつらには聞こえたみたいだけど。」

「扉の開錠に移るっす。」

キクリは迫り来る寄生体に備える。


ーーー


ユキは隔壁の開錠に移る。

キクリはそうそうに銃での戦闘をやめ、フォトンブレードで迫り来る寄生体を切り捨てていく。中には変異体もいるが意に介さず細切れにする。

動きが速すぎて目で追うことは、ほとんど出来ない。

シュウカと師弟関係と聞くが、シュウカの方が動きが目で追える程度には人間的な動きをしている。

そんなことを考えている間に解除が済んだ。

「キクリさん!解錠できたっす!うわ!」

隔壁を開いた事で、学生がバリケードに使用した椅子や棚が雪崩を起こす。

「ナイスだ!俺も中に入る援護してくれ。」

キクリさんはSFGで蜘蛛の巣状に通路を塞ぐ。

そこへブレイズ弾(火炎弾)で巣に着火し援護する。

弾倉を通常のものに切り替え、炎を飛び越えてきた変異体に弾丸を撃ち込む。

キクリはあっという間に入り口に辿り着く

「いいぞ!閉めろ!」

「うっす!」

ユキは隔壁の安全装置を解除し、雪崩を起こした棚と椅子を押しつぶす。バキバキガシャンとすごい音を立て閉まる。

「ナイス援護」

キクリとユキはハイタッチする。

「救助に来ました。生存者は両手を上にあげて出てきてください。」

生存者がいるという割には妙にしずかだ。

何かがおかしいと2人は感じ取る。

「反応がない、手分けして生徒を探そう。」

ユキは首を縦に振り、銃を構えながら一歩一歩踏み出す。

キクリもブレードをしまい、ハンドガンに持ち替えている。

真っ暗な図書館を一歩、また一歩と歩いていく。

ユキは突然何かに服を引っ張られる。

思わず振り返り銃を向ける、がそれは最優先保護対象のアメリカ議員の娘であった。

「《いかないで!助けてお願い!》」

ユキは英語のお勉強はそこそこ出来ても、英会話は苦手だ。

「アイ、ドントスピーク、イングリッシュ」

ユキは脳内をフル回転させ、単語でなんとかコミュニケーションを図ろうとする。

「タスケテ、イカナイデ」

渾身の英語は伝わった様だ。

そっと腰を下ろし大丈夫だと言わんばかりに背中をさする。

「キクリさん!最優先保護対象を見つけたっす!」

多分図書館のどこにいても聞こえるであろうものすごい大声を出した。だかそれがまずかった。

「ダメ、シズカニシナイト」

「え?」

直後目の前の本棚が数個吹き飛ばされる。スローモーションにみえた。目の前で起きている現象に一瞬理解が追いつかなかった。

「ぎゃぉぉぉおおおお!!!」

物凄い奇声を発したそれは、恐らく複数の変異体が合体した個体、短い兎のような足が2本、腕がゴリラの様に発達し、顔には巨大な眼球が1ついており、人間と同じくらいの口がついており歯茎を見せカチカチと音を立てている。

変異体が腕を振り下す。生徒を抱えなんとか避ける

「こっちっす!」

保護対象を抱え上げヨロヨロと走り出す。

ユキの脳内には、他の生徒達は無事なのだろうか、隠れていてくれているのならいいのだが、この戦闘で巻き込まれないか、色々なことが頭をグルグルと駆け巡る。

バックからスタングレネードを取り出し投げつける。物凄い音と光が当たりを照らす。その明かりで他に隠れている生徒が奇跡的に見えた。そこまで何とか歩を進める。キクリは変異体の背中を大剣で突き刺し張り付く。

「ぐぉぎぉぉおお!!」

変異体の凄まじい奇声が図書館中に響き渡る。

キクリが変異体の背中から振り落とされ本棚を突き破り下敷きになってしまうが直ぐに瓦礫から立ち上がる。大剣は変異体の背中に刺さったままだ。

キクリは腰につけたフォトンブレードを取り出す。SFGを巧みに操り、変異体に再び飛びつき脊髄目掛け突き刺す。

「浅いか!!」

SFGで天井に逃げ、天井から壁へと走り変異体の頭上から縦回転しながら斬りかかる。

「ぎゃおぉぉお!」

再び凄まじい声をあげる。

変異体の体液が頭から吹き出す。

巨大な目玉にフォトンブレードを突き差し、背に刺さった大剣へと手を伸ばす。

握り締めた大剣をキクリは一気に引き抜き、そのまま変異体の首を刎ねる。

ゴロンと目の前に巨大な一つ目の頭が転がって来る。

「ひっ」

生徒は小さく悲鳴を上げるとそのまま気絶してしまった。


ーーー


ユキはタバコに火をつけ腰を下ろす。

学生2人にもいるか?と促すがどちらも首を振り断る。

「キクリさん吸わないんすか?」

「あぁ、子供が産まれてからやめたんだ。」

「本当にやめたんすね。お子さん、お名前なんでしたっけ?」

「2人の名前の末尾を取ってリカって名前にした。」

「リカちゃん、呼びやすいしいい名前っすね。」

「そりゃ、どうも。ところでユキやっぱり一本もらっていい?」

「禁煙もう終わりっすか?」

ユキは笑いながらタバコを差し出し、キクリが口に咥えると火をさしだす。

「どうも、手持ち無沙汰になると欲しくなるもんだね。」

「3ヶ月は禁煙に成功してたじゃないっすか。」

「忙しくて吸ってる間もなかったからなー。」

「子育てって大変すね〜。でも、いいなーそう言う幸せウチもほしいっす。」

「彼氏とかいないの?」

ユキは深くため息をつく。

「生憎、ピットがウチの恋人っす。生活の大半あそこで過ごしてるんで。」

確かにと、笑い返すと同時に感謝の言葉を述べる。

ドォォンと隔壁から物凄い音がする。

「ユキは生徒を連れて奥へ、迂回して逃げる準備をしておいてくれ。」

再びドォォンと大きな音が響き渡る、隔壁を見るとかなり歪んでいるのがわかる。この隔壁を破ってくる程の脅威が迫っている。

大剣を構える。

3度目の轟音と共に扉が吹き飛ばされる。

キクリは隔壁を真っ二つにする。

「とうちゃく〜2人ともまったー?」

シュウカさんの応援部隊が到着した。隔離扉を吹き飛ばしたのはキンジだった。

「なんだ、よかった。」

「校内の寄生体排除と生存者探してたらこんなに時間かかっちまったい。」

「それはよかった。生存者はいました?」

「20人ほど。」

「こっちも、大臣の娘さんと生徒5人を保護しました。すぐに脱出しましょう。」

図書館奥に隠れたユキを呼び、無事任務達成の旨を伝える。生徒を引き連れ外へとあるきだすのであった。

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。