スライムと適合者
「はい、これでひと通りの検査は終わりです。特に問題はありません。」
「よかったわね、ハルカちゃん!」
「ですが、暫くは私の実家に身を寄せてもらいます。力のコントロールや所謂、超能力に目覚めることがあるので。言い方が乱暴ですがそれを押さえつけられる人達と過ごしてもらいます。それと学費も、こちらで負担します。」
「え、いいんですか?」
「調べたところお母様が1人で貴方を育てたのね。成績も奨学金には届かなかったけどバイトをしながらこの成績を維持するのも大変だったでしょう。それに将来有望な人材を易々と逃すわけにはいかないわ。」
ハルカはキクリの言葉を思い出す。「木戸キクリかな」あれはこういう事だったのかと納得する。
「ハルカちゃんがいなくなってしまうのは寂しいわぁ。」
「バイトは必要なくなりましたけど。落ち着いたらコバトさんのアパートに戻るので部屋はそのままでお願い出来れば…流石にワガママですかね。」
「いいのよ、それくらい、キクリくんみたいに、お仕事決まったらウチでいっぱいお金落として行ってね。」
コバトは指でお金のマークを作りニッコリと笑う。
するとトウカのスマフォが振動する。
着信者アビゲイルとでている。
「ちょっと失礼しますね。」
『トウカさん、キクリさんが、キクリさんが死んじゃいました。』
咽び泣く様な声で話すアビゲイルにトウカは問いかける。
「何があったの、いや、少し待って」
トウカはスタッフの1人にハルカを木戸邸に送り届け、コバトさんもお店に送り届ける手配をする。
「ごめんなさい、来客中だったの。それで死んだってあのゴキブリよりしぶといあいつが?」
アビゲイルは今までの経緯をトウカに話す。
「そんな…それで遺体は?」
『今、バンに乗せてそちらに向かっています。キクリさん生前から、死んだら研究に役立ててくれっていっていたので。』
「わかったわ、すぐに受け入れ態勢をとるわ。それと万が一に備えてV部隊数名は残ってちょうだい。私にはただであいつが死ぬとはとても思えないの。意図的に仮死状態になるようなやつがね。」
『まだ、生きてる可能性があるって事ですか?首も切断したんですよ?』
「流石にダメかもしれないわね…」
ーーー
「一先ずラボに運んでちょうだい。」
キンジが遺体袋を担ぎ、頭が入った木箱を抱えている。
「頭はこっちに置いて、体はそっちの台の上に乗せてちょうだい。」
トウカは手術用手袋をつけ、キクリの頭を取り出す。メスを持ちキラリがテレポートでナイフを取り出しにかかる。頭皮にメスを立て力を入れる。
パキンと音を立てメスが折れる。トウカはため息をつく。
「呆れた…こんな状態になっても死んでいないなんて…。」
一同驚愕の顔をする。
「死んでないってどういうことっすか?」
「このメス、オウカに特注で作らせたものなの頭蓋骨くらいじゃ折れることなんて、まずなありえないの。死んでいたらスライムの特性は消えるの、つまりこいつはまだ死んでないわ。」
トウカがキクリの頭をコンコンと小突く。
「目を開けたらどうなの、キクリなのかスライムなのかわからないけど起きてるんでしょ?」
キクリの生首がパチっと目を開ける。
一同ドン引きである。
「なるほどキクリの言う通り、鋭い女だ。待っていろ今キクリと話をつけているところだ。」
生首はそう告げると再び目を閉じる。
「どう言うことですか…?」
アビゲイルが目を丸くしてトウカに問いかける。
「わからないわ。困ったわねキクリを殺す手段が一つ減ったわよ。」
「首斬られて生きてるなんて、規格外ね。」
「3000度の溶鉱炉にでも突っ込んでみたくなるな。」
生首の切れ口がパチパチと触手が生え暴れ回る。
「うわ!きもちわる!」
それに呼応する様に体の方も触手が伸び始め頭を探す様なそぶりを見せる。
「くっつけてみましょう。」
「またコイツと戦うのはごめんだ。」
「キクリとの話がついたんでしょう。やるわよ。」
トウカはキクリの頭を体が乗った台に乗せる。
互いに生えた触手がさらに激しく暴れ始め、首と体がくっつく。
「…おわりっすか!?」
「試しにメス入れてみるわ。」
トウカがメスを構えたとき、頭からキラリのナイフの破片が勝手に摘出される。
「なんかでてきたんすけど…。」
トウカもそのまま体にメスを入れる。
体に傷を付けた部分は瞬く間に治る。
「トウカさん下がってください。」
全員がトウカを守る様に臨戦態勢になる。
バッと突然キクリの上半身が起き上がり、ゆっくりと目を開ける。
「おはようみんな。とりあえず服もらってもいいかな?」
ーーー
病院の検査着を着せられ、自分が起き上がった台の上に座りながらコーヒーをすするいつものキクリの姿がある。
《なんだこれ不味いな》
「不味くないよ美味しいよ。前線のコーヒー飲んでみなよ。」
キクリが1人で2人分話す。話をする度に瞳の色が赤色に変化する。
「結局キクリさんでいいんですよね?」
アビゲイルが恐る恐る尋ねる。全員が固唾を飲む。
《悪かったな嬢ちゃん、いきなり起こされたもんだからビビっちまってあんなことになって。》
「うん、俺だよアビー。びっくりさせてごめんね。あとナビア殴りつけてごめん。紹介するよ、俺のスライム、レイジーだよ。」
ナビア同様、レイジーは肩からニョキッと生え手を振る。
《ずっと夢うつつの状態で、アンタらのことは見ていたからな。全員よく知ってるぜ。》
「俺もいきなり主導権奪われてビビったけど、基本的にコイツはいいやつみたい。戦闘になったのもいきなり覚醒させられてびっくりして殺されると思ったらしくて口調のわりにビビりで面倒くさがりみたい。」
《そっちのお喋りと違って話すのも面倒だから俺はここいらでお暇するぜ。》
「はいはい、おやすみ。ってな感じ」
キクリは頭を掻きながらハニカム。
「因みに手術で適合したスライムの力もバッチリ残ってるよ。レイジーが本当に温厚でよかったよ。」
「温厚…」
全員が言葉に詰まる。
「それとレイジーの能力は重力制御ちょっとみてて」
そういうとキクリは台から立ち上がる。床に足をつけずに。
「マジシャンに転職できるな。」
キクリは再び台に座り直し、コーヒーをすする。
「私とナビアみたいに合体もできるんですか?」
「出来るけど、俺の細胞があちこち傷ついてるせいで今は出来ないみたい。今の所、細胞がボロボロで本当に困った時の奥の手って感じかな。」
「よかったぁ〜」
全員気が抜けた様にため息を漏らす。
「お騒がせしました。あと、首チョンパされたら次は死ぬから優しくしてね。」
キクリは頭を下げる。
ーーー
木戸邸にアビゲイルと共に帰宅する。
「お帰りなさいませ。」
侍女さんが出迎えてくれる。
「ショウカ様がお会いしたいそうです。帰宅次第お部屋へ向かう様に、との事です。」
「それじゃあアビーまた明日。おやすみ」
「はい!おやすみなさい。」
キクリは自室までの廊下を歩く。ひどく長い1日であった。ハルカちゃんの事件に始まり、一度死ぬ経験をするとは思っても見なかった。
「レイジー起きてる?」
返答はない、ナビアの様に会話を楽しむ様なことは出来なそうだ。
部屋の前につき襖を開ける。そこにはニコリとした顔で直立している妻の姿があった。そっと襖を閉めようとすると、物凄い力で襖を開けられる。笑っているが目尻が赤く擦り切れている。
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
ショウカはそのままキクリに抱きつく。キクリはそれを優しく受け止める。
「ごめんね心配かけたね。」
「いいえ、こうやって帰ってきてくれましたわ。ワタクシは嬉しくて涙が止まりませんの。」
涙が床に落ちボタボタと音を立てる。
「リカは、もう寝た?」
「えぇ、先程。」
「少し顔を見たいな。」
ショウカの手を引き部屋に入り、ベビーベットで寝ている娘の顔を見る。本当に大切なものが増えすぎてしまった。今まで軽く見ていた自分の命は日に日に重くなっていく。そこに希死念慮を抱くが振り払い今に向き合う。
「2人ともありがとう。」
《おい起きろ》
頭の中で話しかけられ突然のことに飛び起きる。
時計を見ると6時半、昨日帰宅したのがちょうど12時で、就寝したのが1時だ。珍しくそのまま眠りにつくことができたことを思い出す。
《大事な妹様を送り届けるのに間に合わなくなるぞ。じゃ、俺は寝る。》
レイジーなかなか親切なやつである。キクリの目を通し見たことを夢うつつの中しっかりと覚えている様だ。
ショウカはまだ寝ているがリカは目を覚ましている様だ。
「あうあう」
と、言葉にならずとも全身と顔が、お腹が空いた抱っこしろ!と物語っている。ベビーベットから抱き上げ、朝食をとりに向かう。
「おはようございます。」
聞き慣れない声に振り向くと、ハルカが背後に立っていた。無事、検査を終えて木戸邸に迎え入れられていた様だ。
「お子さんですか?かわいい〜。眉毛キクリさんにそっくりですね」
「アハハよく言われる。ハルカちゃんもこれから朝ごはん?」
「はい!居候の身で衣食住、全て面倒見て頂いて本当にありがとうございます。」
「そうだ、今日勉強一通り終わったら、ちょっとした運動をしよう。まだスライムの力加減わかんないでしょ?」
「はい、実を言うと勉強よりそっちの方が心配です。」
「だよねー、それじゃあ今日は俺が一日教官になるよ。」
「よろしくお願いします!」
ダイニングに着くとシュウカとアビゲイルが既に朝食を食べていた。
「おはようございます!」
ハルカちゃんが綺麗なお辞儀をする。
「そんな緊張しなくても大丈夫だよ。アビーを見習って」
スウェット姿で朝食を食べる様は、もはや家族だ。アビゲイルも箸を持った手で親指を立てグッドポーズをする。
「あなたがハルカちゃんね、アタシは木戸シュウカ。木戸家の長女よ。昨日は公用で外に出てて挨拶できなくて悪かったわね。さ、座った座った。あら、リカちゃん、今日は早いお目覚めでちゅねー、こちょこちょしちゃうわよ。」
朝食を食べ終えたシュウカさんが子守を代わってくれる。子供用の椅子にリカを座らせ、離乳食を口へ運んでくれている。
例の如くミヤさんが出してくれた朝食を食べ、戦闘服と諸々の装備を着けて、バイクに乗りオウカを送り届け、木戸邸へとんぼ返りする。時刻は9:00だ。
「ごめんハルカちゃんお待たせ。」
「キクリさん、お帰りなさい。」
そこには庭の小石を浮遊させているハルカの姿があった。
奥でアビゲイルがニヤリと笑っている。
「俺がいない数時間の間に何があった…」
「ふっふふ、ハルカちゃんは私の弟子になりました。力の制御も問題ありません。」
「アビーちゃんの指導がすごくわかりやすくて…。」
「それでサイコキネシスまで習得させるかねぇ…すげぇな2人とも…。」
天才少女は教えることも天才的だった。それだけ能力への理解がアビゲイルにはあるのだろう。
「あんたは感覚派だからね、アタシがアビーに教官任せてみた。上手くいったみたいで上々よ。」
ケタケタと笑いシュウカが現れる。
「結構張り切ってたんですけどね…」
「あんたは、ユキとナナに教える方が向いてるからそっちで頑張りな。」
「じゃあ、アビーあと頼むよ?」
「任せてください!ハルカちゃんを立派な超能力者に育て上げます。あ、あと勉強も教えますよ!」
キクリはため息をつきバイクに跨りV部隊本部へ向かい演習場へ赴く。新たに手に入れた重力操作。まだ制御は難しいが宙に浮くことは出来る。が、そこから移動となるとキクリの演算能力ではこれが精一杯だ。
《いざとなったら俺が演算肩代わりしてやるから。やれる事を増やしておけ、その数倍の力を発揮させてやる。》
「随分優しいじゃない。」
《暴走して、お前の仲間を危険な目に合わせた償いのつもりだ。それじゃあ必要があったら呼んでくれ、俺は寝る。》
「ありがとうレイジー。」
返事はない。ナビアはAIの様に淡々としているが優しいし冗談も好きだ、レイジーも面倒くさがりに見せてはいるが面倒見はいい。全てのスライムがこれだけ友好的であれば共存の道もあったと思うと、スライムを狂信するものがいることも理解できなくはない。わかりあうつもりはないが。信じるのは勝手だがそれを理由に攻撃手段として使いテロなどを起こすのは間違っている。
「さて他に何が出来るのやら…」




