第8区収容所
第8区収容所、地下へと13階層にわたって伸びている、反政府組織やテロ首謀者から大物から小物もまで情報をもっているものなどが収容されている。
キクリとアビゲイル、ウタハはカリムとの面会に来ていた。面会室への扉を開く。以前ショウカが訪れた時と同様、厚さ50mmの強化ガラス越しにカリムと対面になる。
カリムの両手両足には拘束具が取り付けられており、自由が制限されている。また拘束具から伸びたチューブから抑制剤が常に投与されている。
「いやー、久しぶり1年ぶりくらい?」
「女2人連れで随分といいご身分だな、そこの小さいのは以前の面会でも来ていたな。」
「え、そうなの?」
「そのーショウカさんの護衛でナイショの話でして…」
ゴニョゴニョとバツが悪そうにアビゲイルはキクリから目を逸らす。
「まぁいいや、っで本題だ。お前たちの残党。特に指導者と幹部の居場所がいまだに掴めていない。何か知ってる事ない?」
「教えて俺にどんな得がある。」
「うーん、名誉ある死とか?あの日の続きをしようか。」
「話す気にならんな。」
「素直に答えた方が楽になれるわよ。この人あなた達と同じくらい偏った思想持ちで、笑顔で無抵抗の人間殺すくらいにはイっちゃってるから。」
ウタハがキクリの肩を持ちガラス越しのカリムへ顔を近づける。
「今ならお前の独房、豚と犬だらけにするだけで済ませてやるよ。いや、流石に豚と犬が可哀想だなこれは無しだな。食事にランダムでポークエキス混ぜるとか?何がいい?」
アビゲイルは違和感を感じていた。以前ショウカと面会した時は差入れに豚肉を入れた物を渡し、それだけで逆上していたのに今回は静かなものだ。アビゲイルはキクリに耳打ちする。以前ショウカと訪れた一連の内容を説明する。
「2人はカリムに面会者がいなかったか、それと医療記録、なんでもいい、とにかく接触があった人間がいないか調べてほしい。」
「了解です。」
「2人だけで大丈夫?」
「流石に躾けられてない犬じゃないんだ、ガラスぶち破って殺しにかかるなんて真似はしないよ。」
2人は面会室を出ていく。
「お前の子供と妻を殺す。」
キクリは懐から端末を取り出しカリムに見せる。そこには3人の子供と顔を覆っている女性が写っている。
「これが3日前の写真、そしてこれが今朝撮られた写真」
カリムは表情一つ変えずにそれを見る。
「そっかー、これくらいじゃあなんとも思わないか。」
キクリは端末の画面をする。するとLive映像に切り替わる。キクリは笑顔のまま
「お前のして来たことのツケを払わせる。」
タンタンタンタンタンと乾いた音が何度かしたと思うと、子供達と女の屍の山が出来上がる。
「あー、助けられた命なのに。次はだれかな、お前の両親?従兄弟?まぁだれでもいいか。血の繋がりもない同胞を守る事こそが名誉なんだろ?」
キクリは端末の画面をスライドさせ、それらの人物の写真を見せ、懐に端末をしまう。
「っで、どうする?」
カリムは顔を手で覆うがその手の裏の顔は笑っていた。
「ダメみたいだな、また近いうちに来るよ。その時は死体の山がどれだけ積まれてるかな?」
キクリは面会室をでる。
「何か収穫あった?」
「キクリさんの言う通り、促進剤を多用したせいで脳に異常が見られるとのことで、医師と通訳が何度もカリムと接触しています。」
「流石、よくこの短時間でそこまで見つけられたね。あいつは日本語を理解している、通訳なんてまず必要ない。」
キクリはアビゲイルの頭を撫でる。
「ウタは悪いけど、この医師と通訳を見つけて俺の前に連れてきて。」
「はいはい、お任せあれ。キクリくんの方は何か収穫あった?」
「いやー、全然挑発に乗ってくれなくて困ったもんだよ。わざわざフェイク動画まで作ったのに。俺の8時間の作業を返してほしいよ。」
「ハハハ、ドンマイ」
「カリムのあの余裕、以前ショウカさんと訪れた時にはありませんでした。常に激情していたのが今日は嘘の様に落ち着いていました。」
キクリの懐に入れた端末が震える。そこには3人の子供に覆い被さる様に倒れた女性の姿、子供3人の顔と女性の顔写真が送られてくる。キクリは端末を操作する。端末の画面には送金完了、と…。
ーーー
V部隊屋上喫煙者
キクリとキンジは2人で一服していた。
キクリはあれから有言実行し、煙草を失敬することはなくなっていた。ロリポップを口に咥えキンジの横で腰を下ろす。
「今の任務が終わったらウタを隊長に抜擢しようと思うんだけど、どう思う?」
「うーむ、悪くはないと思うが部隊員はどうする?」
「天谷夫妻がまだシュウカさん付きになってるから、そこを解消したいなーって」
「そういえばそうだな、長々とそのままにしていたな…。」
「ウタの分の隙間はどうする?」
「ミハルさんを入れようかなって、ミハルさんもシュウカさん専属だったし」
「ミハルさんこそ先に隊長に抜擢するべきなんじゃねぇの?」
「ミハルさん、木戸家直属じゃないと嫌だからって昇格断り続けてるんだよ?名前だけでも木戸の姓を持つ俺のところなら言う事、聞いてくれるかなって。」
「私を隊長に据え置いていただいても構いませんよ。」
屋上のドアを開けて、ミハルが現れる。
「珍しいですね、ここにくるなんて。」
「ちょうどキクリくんにお話があったものですから。ただの世間話なのですが助言をいただきたいと思いまして。」
「えぇ、相談事ですか?いいですけど、隊長引き受けてくれるんですか?」
「えぇ、天谷夫妻をそのまま私の下に付けてください。ウタハさんはキクリくんに必要な人材でしょう?」
ミハルの言う通りウタハを手放すのは惜しい。ウタハには悪いが自分同様、汚れ仕事も喜んで引き受けてくれるイカレタ人材は手放しがたい。
「それで相談のほうなのですが、以前お話しした縁談の件を覚えていますか?」
「本交際になったら紹介してくれって言ったあれですか?」
「えぇ、キクリくんが九州に行っている間にプロポーズをしまして。」
「うお、随分話が飛躍しましたね。」
キンジが吹き出す。
「初耳でつい、ミハルさん結婚するんですか?」
「それ聞く前にプロポーズどうなったか聞くのが先だろ。それでお相手はなんて?」
「快諾を頂きました。」
おぉーとキクリとキンジは拍手する。
「まさか、結婚式でスピーチしてくれとかですか?それは勘弁してください。」
「それはシュウカさんにお願いしようと思っています。」
「へー、それは面白そう。それじゃあ、相談する事ないじゃないですか。」
「婿養子に行こうと思いまして。古川家は姉妹兄弟が多いのですが、長男である私が婿養子に行くのはどうなのかと思いまして。」
「あー、なるほど俺はいいと思いますけどね。ね、キンジ?」
「そうですね、ありだとは思いますよ。」
「そこで、太鼓判を押していただきたく、ムサシ様にお目通り願いたいと思いまして。」
「あー、そういうことでしたら、お義父さんに話しておきますよ。いつがいいですか?」
「ムサシ様のご予定が空いている日にお願いします。」
「じゃあ、今夜聞いておきますね。」
「ありがとうございます。」
「相手はだれなんですか?」
「キンジお前、高校生の恋愛じゃないんだから…」
「今川家のご令嬢です。」
「へー、今川家…ってあの今川中将の娘さんってこと!?」
「正解です。2人とハルナさん、オウカ様のおかげで式をあげる事ができそうです。本当にありがとうございます。それとこれを」
ミハルは本当に幸せそうな顔をしている。
懐から取り出したのは結婚式の招待状であった。
「本当は部隊全員を呼びたいのですが、お互いキリが無いので私は木戸家の皆様とキンジくん、ハルナさんをご招待しようと思っています。」
「ありがとうございます。是非参加させてください。」
キンジも頷きその場で開封し、出席に丸をつけ、ミハルに招待状を返却する。
キクリはその日の夜、義父の部屋を訪問しミハルの件を話もろもろ日程が決まっていった。
ーーー
カリムと面会を果たしてから3日後、ウタハから2人を拘束し木戸家所有の廃墟に連れて来たとの連絡を受けキクリは急行する。アビゲイルには何も言わずに木戸邸を出る。
「ごめんねー、なかなか通訳の方が見つからなくて医師の方を少し喋りやすい様にしちゃった。」
医師は椅子に両手を固定されていた、釘によって。
「両方見つかったんならなんでもいいよ。ほらこれ差し入れのコーヒー」
キクリは缶コーヒーをウタハに投げる。
「それじゃあ、2人とも話してもらおっか、カリムとの面会の目的を」
「私は本当に何も知らないんだ、そこの通訳に金を積まれて検診していただけなんだ。」
「その割には通訳の居場所から、スライムについて随分詳しかったよね。」
ウタハが医師の髪を後ろへ引っ張る。初老の医師には限界が近づいているのがわかる。こいつは話せる事はウタハに既に話しているだろう。キクリが尋問するのは通訳の方だ。中東系の顔立ちをしている。こいつが収容所のセキュリティに止められなかった事にキクリはため息をつく。突然の面会はお断り、医師の検診や面会者は身元調査をしっかり行った上で許可がおりる。それをすり抜けたと言う事はセキュリティが甘いか、この2人がよっぽど偽造が上手かったかのどちらかだろう。
「で、通訳さん本当は何を話していたの?」
あらかじめアラビア語がわかる職員に監視カメラの映像を見せ通訳の会話を聞いてもらったが、暗号化されておりめちゃくちゃな会話内容であった。
「ワタシニホンゴワカラナイ」
「ウタハ、ネイルガンヨコセ」
キクリはネイルガンを受け取り、不自然に指の部分だけ広がっている椅子の肘掛けに、通訳の手を押さえつける。
バスッと音を立て、悲鳴が上がる。親指が椅子と釘によって固定される。
「今から映像を流す、暗号を正しく教えれば命までは助けてやる。いいか、俺たちが嘘だと思えば、その度に椅子に固定される指が増えていくからな。」
キクリは通訳の顔をぺちぺちと叩き、監視カメラの映像を見せる。
「この時、なんの会話してた?」
「知らない!先生の話を翻訳しただけ!」
バスッと音と共に悲鳴が上がる。
「なんか腹立つなもう2発打ち込むか。ウタ、うるさいから猿ぐつわ。」
「はいはい。よっと。」
ロープで口を塞ぐ。オウカが子供時代に遊び感覚で強化したネイルガン。常人の骨くらいは簡単に粉々にする。キクリは掌部分に2発打ち込む。
「なんの会話をした。」
猿ぐつわを外され通訳は泣きながら矢継ぎ早に話し始める。
「収容所を襲撃する話!」
「いいぞ、その調子」
ウタハが猿ぐつわをする。
バスッ、再び釘が打ち込まれる。
「決行日と襲撃の規模、内通者は?」
「わからない、日本語、ケッコウビなに?!シュウゲキキボなに?!ナイツウシャなに?!」
バスッバスッバスッ
「右手打つ指なくなっちゃったよ。」
「待ってくれ私がアラビア語で翻訳して話す!だから私の命だけでも助けてくれ!」
この状況で医師はこのままでは命は無いと悟った様だ。
「ウタ」
キクリの指示にウタハは医師の座る椅子を引っ張り通訳の隣に座らせる。ウタハは銃を抜き医師の頭に突き付け耳打ちする。
「誤魔化したり、理解出来ないなんて口にしたらド頭ぶち抜く。いいかお前にはこの一回だけがチャンスだ。」
「わかった、わかったよ」
医師は首を激しく振り、通訳と会話を始める。
しばらくお互いの会話を聞く。
「よしわかったぞ!わかった!決行は今夜だ!時間はわからない!襲撃のき」
パンッと乾いた音が響く。ウタハが医師の頭を吹き飛ばした。
「こちらキクリから情報統括部へ、至急V部隊員を8区収容所に集合させてください。他区の収容所にもPWTを緊急配備、警察、自衛隊にも援護を要請。」
『承知しました。』
「いくよウタ。」
「わかったよー。」
再び乾いた音が響き渡り、廃墟に静寂が訪れた。
「収容所のセキュリティ見直さないとなザルすぎる。」




