適合者
キクリはアビゲイルとウタハを伴って喫茶店小鳩を訪れていた。
「あら、ウタハちゃん久しぶりね!」
「ご無沙汰してます。」
「アビーちゃんもまた来てくれて嬉しいわ、今日は何にする?」
ウタハとはこの喫茶店に何度も通ったものだ。
それぞれ注文を済ませ4人がけのテーブルに座る。
「今日はハルカちゃんお休みですか?」
「そうなのよ、ここのところ体調がずっと悪かったみたいで、1週間学校にも行けてないみたいなの。」
「それは心配ですね、」
キクリはコーヒーを啜りながら、前線で飲んだコーヒーの味を思い出し、これがいかに洗練されたものなのかと唸る。
「部屋に行って見たんだけど、大丈夫ですって言うものだから私も困ってて。」
「1週間部屋に篭りきりですか…キクリさんちょっとハルカさんの部屋を訪ねてみませんか?」
「私もその方がいいと思う。嫌な予感しない?」
「まさかハルカちゃんがスライムに寄生されてるとか考えてるの?8区にいるんだよ?」
「なので、尚更心配なのです。ハルカさんなら本当にダメな時はちゃんと大人を頼れる人だと思うんです。それがコバトさんに助けを求められない様な状態だとすると」
ウタハは黙って銃をコッキングする。
「ウタ、それはまだしまっておけ。コバトさん部屋のマスターキーか合鍵はありますか?」
「あるわ、これよ」
コバトはキクリに部屋のマスターキーを渡す。
「アビー鍵と扉を開けてくれ俺が中に踏み込むウタは援護頼む。」
「「了解」」
アビゲイルが慎重にドアをあけキクリが一気に踏み込む
「マジか…」
キクリの目に飛び込んで来たのは九州で見た、繭をちょうど高校生の女の子が膝を抱えて丸くなっている大きさにしたサイズだ。
「これがどう言う状況なのかわからない。ウタ、コバトさんと住民の避難を進めてくれ。アビーは現場の確保を。」
キクリは情報統括部に連絡する。
「こちらキクリ、変異体βと酷似した繭を発見。回収班とトウカさんのラボに運び入れる用意を頼む。」
『承知しました。』
「キクリさん!繭が!」
アビゲイルに呼ばれ繭の状態を確認しに再び部屋に入る。
「ナビア戦闘モード」
『承知しました。』
「え、ちょキクリさん!?」
ナビアがアビゲイルを包み込み、主導権をナビアに移させた。
繭が動き始め孵化が始まった。
キクリは銃を構えそれが姿を現す。
「…っ!」
キクリは銃を下ろし中から出てきたものを抱き止める。一糸まとわぬハルカの姿であった。
「適合者ですね」
「ナビア、わかるの?」
「はい、キクリ様はわかりませんか?」
「うん、わかんない。」
「アビーやキクリ様と同じ。手術を必要としない、謂わば天然の適合者です。」
「え、なにそれ初耳なんだけど…アビーの話は聞いてたけど俺も?でも手術受けてるよ?」
「キクリ様その話は後ほど対象が動き出します。」
ナビアは右腕をスタンガンの様に変形させる。
「ん…あれ?ここ、キクリさん?あれ!?私の服は!?」
ハルカは慌てふためき、部屋の奥へと引っ込んでいく。
「危険はない様ですね、主導権をアビーに返却。」
「危険はないじゃないですよ!何ですか今の!」
《アビー後で説明します。今は対象の保護が最優先です。》
「アビー俺がハルカちゃんの保護に行くの、なんか絵面的にまずい気がするから保護してきてくれる?」
「了解です。」
アビゲイルは頬を膨らませプリプリ怒りながら部屋の奥へと向かう。
『ウタ、コバトさんと一緒に来てくれ、問題ないみたいだ。』
平日のため、アパートには誰も残っていなかったようだ。
ウタハとコバトは急いで2階にあがってくる
「コバトさん、申し訳ないですがハルカちゃんはこれから木戸家の管理下に置かれます。それを伝えてもらえますか?本人も動揺していると思うので。専門的な話はアビーが詳しく話をしてくれます。」
「わかったわ」
コバトも部屋の中に入っていく。
「結局どうなったの?」
「詳しい話は俺もよくわからないんだ、だけどハルカちゃん、この部屋の住民は適合者だった手術なしでね。」
「それって宝くじが当選する並みに確率低いでしょ?そんな簡単に信じちゃって大丈夫?人間のフリをしてるだけかもよ。」
「そうかもな…」
しばらくしてハルカはコバトに支えられる形で姿を現す。
「キクリさん、私どうなっちゃうんですか?」
「少しの間、木戸家で過ごしてもらうことになるかな。逮捕とか収容とかはしないから安心して。そこにいるアビーもハルカちゃんと同い年でウチに居候してるんだ。」
「そうだったんですか…」
「問題ない様ならまたここに戻ってこれるから、高校は休学って形になるけどウチで勉強してれば大丈夫、頭いい人ばっかだから。復学も問題なくできるよ。」
「そうですか…」
ハルカの顔の強張りが徐々に取れていくのがわかる。
「安心したところ悪いんだけど、一先ず身柄は確保させてもらうね。検査とか諸々したら解放されるから、もう少し我慢してね。」
すると階段をドタドタと駆け上がってくる音がする。
どうやら回収班が到着した様だ。防護スーツに身を包んだ数人が現れる。
「丁重にお連れしろ俺の友人だ。」
「はっ!」
「コバトさんも、もしよければハルカちゃんと一緒にいてあげてください。」
「えぇ!そうさせてもらうわ!」
2人は回収班に連れられ部屋を出る。
2人を見送り思わぬ事件とナビアによる謎が残された。
ーーー
「それで!キクリさんナビアとの件はどう言うことですか!」
木戸邸の談話室でアビゲイルは声を荒げて、キクリに問いただす。
《アビー、申し訳ありません。私がキクリ様にご提案しました。》
ナビアがニュルッとアビーの肩から生える
「アビーがテレビ見て寝落ちしてる時にナビアと秘密で協定を結んだんだ。」
「協定?なんの事です?」
「アビーに危険が迫ったとナビアが判断したとき、又は俺が危険だと感じた時、体の所有権を一時的にナビアに移すっていう協定」
「私にメリットは!?」
「好きなアイス何でも1個買ってあげる。」
《最良の選択かと。》
アビゲイルはムキーっと頭を抱え地団駄を踏む。
「ガディバのチョコレート詰め合わせも追加です!!」
「お安いもんで。それでナビア俺も聞きたい事があるんだけど。」
《キクリ様のスライムについてですね。ご存知だとばかり思っていました。キクリ様も心当たりがあるのではないでしょうか?底の知れない食欲、異様な程の再生力、力を抑制しても人間以上の力を発揮してしまう、一瞬ではあるもののスライムと体の同一化の片鱗を見せた事です。これらはキクリ様に潜在的に生まれ持ったスライムがいる為と思われます。手術で手に入れたスライムの力。あくまで、お遊び程度の予知能力。今はまだ前者が休眠状態にあるため均衡が保たれていると言った状態です。》
「それ結構、やばい状態じゃない?時限爆弾だよね?」
《そうです。前者が覚醒した時どのような反応を見せるのかは未知数です。体を保てずに崩壊を迎えればまだいいです。最悪の展開として完全にスライムに飲み込まれれば人類の敵になります。》
キクリは深呼吸をしロリポップを口に入れる。自分の人生を思い返す。
「物心ついた時から施設で育てられていた。両親は事故で亡くなり引き取り手がいなかったと聞いている。その間、スライムに寄生された記憶はないし話も聞いたことないよ?」
《私の予測ですが、ご両親が適合者であったのではないでしょうか?》
「まさかスライムが遺伝とかしたってこと?」
《遺伝ではなくお母様から、なんらかの方法で胎児であるキクリ様に寄生させたものかと推察します。》
「ってことはリカも!?」
《リカ様にその様な反応は無いので問題ないかと思います。適合者になる素質はありますが。》
キクリは椅子に深く座り込み安堵のため息をもらす。
「まぁ、つまり俺は産まれる前から何かされていたのね。」
「でもナビア、私もキクリさんと一緒でスライムに寄生された記憶はないよ?」
《私がアビーに寄生したのは赤子であった貴方に傷をおった私が寄生し休眠状態に入っていたためです。そしてあの悲劇が引き金となり、私は覚醒し今に至ります。》
「疑問なんだけど、ナビアは地球を侵略しに来た側だよね?」
《正確には地球をテラフォーミングする為に送り込まれたウイルスとでも言いましょうか。ですが人間の適応力に負け私達の創造主は早々に地球を諦めました。》
「そっか、ある日突然宇宙船が空を埋め尽くしてバッドエンドは無いわけだ。ごめん話が逸れたね。因みに興味本位で聞くんだけど俺の休眠状態のスライムを起こす事ってできる?」
《可能です。》
ーーー
地下演習場ここでなら万が一自分が暴走しても、少なくとも街への被害が出ることはない。戦闘服も武器も持たない状態で休眠状態のスライムを覚醒させる。
V部隊は全員集合し、暴走した場合キクリを殺す為に。
「ナビアから説明は受けた、本当にやるのか」
「やるしかないよね、時限爆弾を抱えてどこで爆発するかわからないより、爆破処理ができて被害を最小限に抑えられるところで処理した方が安全でしょ?」
「わかった…」
「それでは、覚醒を促します。皆様よろしいですね?」
全員が頷く。
今はナビアが主導権を握っている。
ナビアはキクリに近づき両手を握る。数秒そうした後、ナビアは後ろに下がる。
「…終わり?」
「はい」
「特に何も…ッ!」
キクリは膝をつき、頭を抑え倒れる。
「死んだか?」
「覚醒を確認、来ます。」
殴り飛ばされたのはナビアであった、外装にヒビが入り壁に激突する。
「致命的な攻撃を感知、戦闘続行不可能」
「ナビア!」
意識がアビゲイルに戻る。
「アハアヒャヒャヒャヒャ!!」
「チッダメだったか!」
「こうなった以上、やるしかないっす」
最初に動いたのはハルナであった。誰よりも速く鎖分銅でキクリを拘束する。
「これがあのキクリくんのパワーだって…!」
ハルナはジリジリと引っ張られていく。
すかさずユキがバットで手榴弾を打ち込み、ミハル、ヒビヤ、マヒル、コウは展開して一斉射撃するが、皮膚で全て弾かれる。
「これじゃぁ埒があかねぇですぜ。」
「全く効いていないわけじゃない続けろ!」
ナナがキクリの懐に潜り込み、頸椎目掛け槍を突き出すが刺さらない。キクリの右膝がナナをとらえる。
「ッヤバ…」
「ほんとこれ凄く良く斬れる。でも連続使用向きじゃないね。」
ウタハがキクリの右足を切断しナナは九死に一生を得る。
一瞬で足が再生するが、それよりもはやくハルナが鎖分銅を操りビルに激突させ続ける。ハルナは途端に鎖が軽くなるのを感じた。鎖を引くとキクリの姿は無い両腕が使えない状態から、内側から腕力だけで鎖をちぎったのだ。
「なっはや…!」
ハルナの目の前に屈んだキクリが現れ右脚がハルナの顎を捉える。
そこへキンジが横から、右ストレートで右脚の軌道をズラす。
「お前の技術は、人型にこそ真価を発揮する。戦い方に囚われるな。」
「助かったよキンジくん。」
キクリが再び飛びついてくる。ハルナはそれをタックルで受け止め反対の壁まで激突する。ハルナはすぐに身を翻す。そこからはキンジのラッシュだ、手加減のない一撃一撃で壁が掘削されていく。
「キラリ!いまだ!」
「ごめんね、キーくん。」
壁にめり込み、相当のダメージを受けたキクリはピクリともしない。そこに必殺の一撃をキラリが喰らわす。
テレポートされたキラリのナイフがキクリの脳を貫通する。
「止まった…?」
「あぁ、死んだよ…。」
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