誕生日
ショウカとシュウカの出産まで後、約4ヶ月
12月15日この日は木戸家で誕生日会が催されている。
キクリの誕生日である。施設にいた頃も誕生日会は催されていたが、月毎に1回まとめて行われる物であって一人一人こんなに盛大に祝うことなのだと初めて知った。木戸家の規模なので普通より、盛大に行われているのは間違いない。クラッカーを浴びせられる。無事25歳から26歳になる事ができた。義父と義母も出席してくれている。木戸家以外では潮夫妻(キンジ夫妻)、天谷夫妻、ユキにアビゲイルが出席している。トウカさんはメッセージカードだけで欠席している。キクリにとってはそれを貰えるだけでも驚きであった。シュウカもつわりがようやく落ち着き今までの遅れを取り戻す様に食欲が暴走気味だ。だが体型は変わっていないあたり何かしらの対策はしているのだろう。ショウカも順調で遂に性別がわかり男の子だ。義父も義母もおおいに喜んでくれている。
「幸せってこういう事なんだろうな…」
「そうですわね。」
キクリは独り言を呟いたつもりだったが隣にいたショウカには聞こえてしまったようだ。家族や友人に囲まれて歳をとる事ができる幸せを噛み締める。
立食パーティー式で好きな料理を食べ、ケーキを食べる。
幸せな時間はあっという間に過ぎ、お開きの時間となった。友人達を見送り義両親にお礼を言い、侍女さん達にもお礼を言う。
キクリはそのまま風呂場に向かう。風呂から出ると、ちょうどオウカとアビゲイルと鉢合わせする。
「キクリさんも今あがりですか?」
「うん、ちょうど今あがり。」
3人で風呂を出てすぐの部屋、元は8畳の畳部屋があるだけであったが誰かがテレビを置き、誰かがソファを置き、誰かが冷蔵庫を置き、誰かがウォーターサーバーを置き、誰かがエアコンを設置した結果、風呂上がりの休憩室となった。
「キクリさんはいつものバニラ最中でいいですか?」
「うん、ありがとう。」
「アビーちゃん私もそれで。」
「了解でーす。」
アビゲイルは自分の氷菓の袋を口に挟み、両手に最中を持って振り向く。今日はケーキも食べ、食事も思う存分食べた。そのうえでの冬のアイス、なかなかに罪深い。
アビゲイルテレビのリモコンに手を伸ばし、チャンネル権を奪われる。テレビにデカデカと番組タイトルが映し出される。『実録!超常現象!未確認生物を追え!』
キクリがソファに腰を下ろすとその上に覆いかぶさるようにオウカが飛び込んでくる。
「うわ!おま!髪の毛びっしょびしょじゃん!拭いてすらいないのか!?」
「えぇー、拭いたよ?お兄ちゃんも長いからわかってると思うけどめんどくさい。」
「わかった、タオルとドライヤー持ってくるから降りてくれ。」
男湯の更衣室に行きタオルと櫛、ドライヤーを持って戻る。
「ほら、こっちに背中向けて」
「ありがとう、お兄ちゃん」
タオルであらかた水分を拭き取った後にドライヤーで乾かしてやる。
「ドライヤーうるさいです。兄妹でイチャつくなら別の部屋に行ってください!」
「まぁそう言わず、すぐ終わるから。」
櫛を通しながらドライヤーで乾かす。結局10分近くかかってしまった。
「アビーごめん。」
「アイス補充してくれるのはキクリさんだから許してあげます。それよりキクリさんのアイス多分溶けてますよ。」
オウカは人に髪をとかしている間にアイスを平らげていた。キクリは泣く泣く、アイスに自分の名前を書き再び冷凍庫にアイスを戻す。触った感触ではまだ形は保たれていたので復元可能だと信じる。
「お兄ちゃんありがとー、大好き」
「はいはい、そりゃどうも。」
アビゲイルは見逃さなかった、キクリからは見えない位置、オウカの顔が一気に真っ赤になったことに。
アビゲイルの思考はテレビよりも、え、そういうこと?
という疑問符で頭の中がいっぱいになってしまう。
キクリは冷蔵庫から炭酸水を取り出し、ソファに座るとボーッとアビゲイルと一緒にテレビを身始める。オウカはそそくさと部屋に戻って行く。
ーーー
「やっとここにこれた…」
九州奪還作戦後、1ヶ月の治安維持を行い、安藤はようやくV部隊へと配属された。
バイクの排気音が聞こえ、安藤は振り返る。
バイクに乗ったキクリが現れる。安藤は胸を撫で下ろす、いきなり知らない人であったらどうしようかと、朝8:00こんなところをウロチョロしていたら変質者だ。
キクリは安藤の横にバイクをつけ、ヘルメットのバイザーを上げる。
「おはようウタ」
「お、おはようキクリくん」
「何借りてきた猫みたいにガチガチに緊張してるじゃん…」
「いやー、九州の時は私のホームだったけどこっちじゃ完全にアウェイじゃん?それよりキクリくん随分早いね。V部隊は特に決まった勤務時間ないってきいていたけど。」
キクリはバイクを手で押しながら敷地に入って行く。
安藤もそれについて行く。
「最近、朝は妹を職場に送っていっててね。そんで今日はウタが来るって分かってたから皆そろそろ集まってくると思うよ。まぁ、中に入ってコーヒーでも飲みながら近況報告でも聞かせてよ」
キクリはバイクを駐車場に停める。
顔認証と登録されているスライム検査をしV部隊の玄関が開く。
「忘れる前に、ウタもこれ登録しちゃおう。着いてきて。」
安藤はセキュリティルームに通される。
「ちょっと痛いけど我慢してね」
キクリに手を握られそのまま手をパネルの上に置く。チクリと手全体に痛みを感じる。
「ほい、これで完了。顔認証はもうされてるから、これで自由にこの建物と、だいたいの木戸家の所有建物には入れるようになるよ。」
「なんか前線にずっといたから、すごいハイテクに感じちゃうけどこれが普通なの?」
「まぁそうだね、そんな浦島太郎じゃないんだからPWTにいた時も多少は経験あるでしょ?」
「そうだけどさー。」
そのままオフィスに向かい、安藤の机の位置を確認しコーヒーメーカーで2杯のコーヒーを作る。
「うわすご、おいしい!」
「前線のコーヒー激不味だったもんな…同情するよ。それでその後、九州はどうなった?」
「あらかた変異体とフロムスライム狩りを終えて各都市部に壁を設置して厳戒態勢で常に見回りしてる感じ。私としてはもうちょっと落ち着いてから、こっちに来ようと思ってたんだけど今川中将が、約束だから行きなさいって。」
「話持ちかけてくれたのは中将の方からだからね。約束を反故にするような事はしたくなかったんだと思うな。」
「おはようございます。」
アビゲイルがオフィスに入ってくる、マフラーを取り自分のデスクに置く。
「貴方が安藤ウタハさんですか?」
「うん、そうだよ。よろしくね?えーっと」
「アビゲイル・クーパー准尉であります。」
アビゲイルはビシッと敬礼する。
「めちゃくちゃ可愛い。何この子!歳いくつ!?肌ツヤツヤもちもち!」
安藤改め、ウタハはアビゲイルにハグをし頭をよしよしと撫でる。キクリは145cmの小人が175cmの怪獣にいいようにされている姿を微笑ましく眺める。
「おはよー」
「あれ、安藤中佐じゃないかい。久しぶりだね。」
天谷夫妻が出勤してくる。
「ハルナさん!久しぶり!また会えて嬉しいよ!」
「アタイもだよ。今川中将は元気かい?」
するとゾロゾロとV部隊のメンバーが揃う。みな一様に自分のデスクに着く。
「ショウカとシュウカさんはいないけど、全員揃ったみたいだから紹介するね。安藤ウタハ中佐です。特例で階級はPWTの引き継ぎになるよ。あ、給料とかはみんなと変わらないから。それで、シュウカさんから厳命されている、あだ名、ちゃん、くん、さん、呼び捨てで名前呼びなさいに従ってみんなもよろしく。因みに俺はウタって呼ぶことにしてます。九州奪還作戦は彼女無くして成功しなかったでしょう。っとまぁこんなところかな?ウタの方から何かある?」
「え?ないよ、紹介ありがとう!」
アビゲイルを頬をモニュモニュと弄り回している。
「何かウタに質問ある人いる?」
キンジが手をあげる
「班はどこに入れる。」
「…ミツカの後継として俺の部隊に入ってもらう。」
「そうか」
「じゃあ、各自いつも通り自由行動で。解散」
キクリがパンと手を叩くと訓練に向かうもの、書類作成に励むものと分かれる。
「ウタハさん、そろそろ離していただけないでしょうか。書類仕事が溜まっているので。」
「ごめんね!つい可愛くて撫でくりまわしちゃって!」
「いえ、お気になさらず。」
アビゲイルはヨロヨロ、しながら着席する。
「ウタ!出かけるよ!」
「え!早速!?」
「開発部門で、ウタの新しい装備を発注しておいたからそれを受け取りに行くだけだから身構えなくていいって。」
「つまりデートだね!」
「デートじゃねーよ」
アビゲイルが小声でキンジに質問する。
「お二人はどういったご関係なのですか?」
「あぁ、キクリの高校時代の元カノだ。」
「なるほどそれで、あの距離感。納得しました。」
ーーー
「っへーここが開発部、すごいね見たこともない機械だらけ。」
「朝話した妹がここの主任研究者してるんだ。」
「なるほどねー。」
オウカがラボから出てくる。
「え?ミツカちゃん?」
「ミツカは私の妹です。」
「ごめんなさい、あまりにも似ていたものだから。」
「ミツカの最後を看取ってくれたんですよね。ありがとうございます。」
「力及ばず申し訳ありません。」
ウタハは一礼しオウカに向き直る。
「オウカ頼んでた装備は出来た?」
「あたぼうよ!こっちきてきて!」
例の如くシーツで隠されている装備をジャジャーンと嬉しそうに披露する。
「大阪の開発部にデータ貰って製作したから服のサイズもヒールのサイズも鎌の大きさも違和感ないものにしあげたよ!」
「相変わらず注文通りで安心するよ。」
「へへん、大阪の開発部もすごいけど、私の方がすごいんだから!スーツは重さはそのまま!強度は爆あがりだよ!それにヒールはちょっと細工がしてあってピンと爪先からブレードが出るようになってるよ!あと、この鎌!こればっかりは重量そのままとはいかなかったけど、切れ味は段違いだよ、引くだけじゃなくて峰の部分でもこうげきできるようにして、刃はお兄ちゃんの大剣と同じスライムエネルギーの塊になっているからウタハさん次第で切断力が向上します!」
どんなもんだいと、オウカは胸を張る。
「ありがとうございます。こんな素敵に仕上げてもらって。」
「いいってことよ!大事に使ってね!あと、お兄ちゃんミツカの刀、刃の部分お兄ちゃんのスライムに反応するものに調節できたからこれも持って行って。」
「ありがとうオウカ。そういえば、例のシールド発生戦闘服の開発はどんな感じ?」
「よくぞ聞いてくれました!理論としては難しく考えることなかったんだ!家を覆ってるドームの・・・・・・っで!後はこれを小型化を目指しているところ!」
途中の説明はよくわからなかったが順調なようだ。
「そうだ、オウカもう一つお願いしてもいい?」
「おまかせあれ!」
「俺の左腕用アームカバー?ガード?シールド?みたいなのを作って欲しいんだけど出来そう?」
「全然できるよ!シールドくらいの大きさで良ければドーム状のエネルギーシールドを展開できるものを作れるよ!でもお兄ちゃんお得意の二刀流出来なくなるけどいいの?」
「うん、まぁ優先順位が変わったかなって感じ。」
「そっか!ちょい時間はかかるけど任せて!」
「いつもありがとう。」
キクリはオウカの頭を撫でる。嬉しそうに笑ってくれる。
ウタハの装備を受け取り、研究室を後にする。
「オウカちゃん髪の毛の色違うけど見た目、ミツカちゃんにそっくりでびっくりしたよ。」
「オウカも最近やっと立ち直ったんだ。」
「ごめんね私の力不足で」
「それ以上言うなよ、ウタはあの時できる最善の応急処置をしてくれたんだそれで十分だ。」
「ありがとう…」
ーーー
「ユキちょっといいか」
キンジがバッティングセンターに向かおうとしているユキを止める。
「な、なんすか…小銭とかもってないっすよ!」
「俺はチンピラか」
眉間にシワがより、強面がさらに強面になる。
「そんなことないっす!キンジの兄貴!」
「お前実は俺のことおちょくってるだろ。まぁいい頼みがあるんだ。」
「改まってなんすか?」
「俺にキックボクシングを教えてくれ。」
「へ?」
「いいっすけど、基礎しか教えられないっすよ?」
「十分だ」
ユキはキンジの心境の変化に戸惑う。全て自分の腕力だけで解決するデストロイヤーが技術を覚えようとしている、いったいどんな風の吹き回しだろうか…
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