3つ目の繭
第1回繭破壊遠征から3日後、第2回繭破壊遠征が行われた。2日間の道程を経て、無事終えることができた。PWTから負傷者は出たものの命に別状は無く山口0区の病院へ搬送された。発見された繭は残り1つここから1番遠い、ほぼ鹿児島との境だ。ざっと見積もって3日程度のスケジュールだろうか。
次の遠征まで3日、前哨基地では小さな宴会が開かれていた。PWTの隊員達はビール片手に仲間と談笑し、ひとときの平和を享受する。
キクリは少し離れた所でその姿を見ていた。キンジは隊員達の輪の中に入り1人だけウィスキーの瓶を握りがぶ飲みしている。
「邪魔するよ」
ハルナがビールを持ってキクリの前に現れる。
「輪の中には入らないのかい?」
「ここには日本酒ないですからね。ビールは苦手なんです。」
「そうかい、じゃあ2本共私が頂こうかね。」
「そういうことなら1本ください。」
ハルナからビールを受け取る。
キンと乾杯する。
「キクリくんは、キラリから聞いていた印象とは随分違うね。キンジくんはそのまんまだけど。」
「キラリが知ってる俺は、わかりもしない将来の不安を抱えて生きていた頃ですからね。その不安を周りに振り撒いて色々な人に迷惑かけたもんですよ。」
「その様だね、アタイには落ち着いた青年にしかみえないからねぇ。」
「キラリと初めて会ったのも、キラリがいじめられてるのを暴力の理由にして喧嘩したのがきっかけでしたからね。」
「よく聞いてるよ、だいぶ無茶な相手にも喧嘩をしてたって。それをキンジくんが止めるまでがセットだったって嬉しそうに話していたよ。理由はどうであれ、ウチの亭主の味方をしてくれてアタイは感謝しているよ。本人も自覚してるけど、自分が浮いている存在なのは理解してるからね。」
「ハルナさんとキラリの出会いは、なんだったんです?」
「馴れ初めかい?キクリくんと同じだよ。ナンパされて困ってる女の子を助けたと思ったら男の子でね。小動物みたいに懐いてきて可愛くてね、ついキラリに告白されてOK出したってところかね。」
「なるほど、すごい既視感あります。あ、煙草吸っていいですか?」
ハルナは無言で頷き、ビール瓶を傾ける。
キクリは煙を腹から吹き出す。煙がゆらゆらと揺れ空に消える。
「ミツカの葬儀終わったらしいです…義兄として参列できなかったのが悔やまれます。」
「この任務が終わったら花を供えてやればいいさ。」
キクリはビールを煽る。
「今までも沢山の仲間を失ってきたし、同時に沢山の命も奪ってきました。それなのに家族の死にだけ感傷的になるなんてずるいですよね。」
「何か気の利いたこと言ってあげたいけど、すまないね私にはかけてあげられる言葉がないよ。」
「いいんです、忘れてください。」
キクリは再びビールを煽る。
「ご馳走様でした。今日はもう寝ますね。」
「はいよ、おやすみ」
「おやすみなさい。」
ーーー
「おっはよーー!」
安藤が場違いなほど元気にテントに入ってくる。
ハルナとキンジはこれだけの大音量を無視して眠っている。
「うるさ…」
起床までにはまだ1時間以上も余裕がある。
キクリにとってはようやく寝付いて1番睡眠が深くなる時間に起こされ機嫌は最悪だ。
靴を履き安藤をテントの外へ押し出す。
「え、なにどうしたの急に」
「つい暇でキクリくんなら、ちょうどいい相手になるかな〜って思って」
「お前も不眠症なのはわかるけど、俺を巻き込まないでくれ…。」
「まぁそういわずに散歩に付き合ってよ。」
「わかった着替えてくるからちょっとまってて。」
キクリはテントに戻り、いつもの様に戦闘服を着て手足にそれぞれ装備を取り付ける。
「お待たせ。わざわざ起こしに来たのただの嫌がらせじゃないでしょ?何かあった?」
「お察しの通りです〜。」
安藤の声は何かに恐怖する様に震えている。
「今日が繭破壊の最後の遠征なんだけど中止しなきゃいけない事態になってしまってね。砦周りの変異体を駆除していた100人の一個中隊が、なんの痕跡も残さず行方不明になった。」
「そりゃ寝てる場合じゃないな。で、どう動く?」
「ここで大局を見誤ると、繭の破壊は愚か九州奪還自体が危うくなる。」
「なら、九州奪還に師団を動かす時じゃないの?」
「わかる、言いたいことはわかるけど。」
「その為の俺達だ。」
「くーっ、なんでこういう時は思いっきりがいいんだよー。明日、師団による全面抗戦に移行する!」
安藤は悔しそうな顔をし、キクリの元を去る。
今川中将に報告しにいくのだろう。
キクリは欠伸をし背を伸ばす。ポキポキと背筋が伸びる音を立てる。もう寝るのは諦めることにし、お湯を沸かす。まずいコーヒーでもコーヒーはコーヒーだ習慣化したその動きを止めることはできない。コーヒーを注いだマグを持ち、再びテントの外へ、煙草に火をつける。
「このタイミングで全面抗戦とは大きく出たな。」
キンジがテントからでてくる。
「何か不測の事態が起きたら俺達の出番だ、お前もバギーの手入れしておけよ。ハルナさんには此処に残って防衛に回ってもらおう。流石に全くの留守にするわけにはいかないし。今川中将も残るだろうし…そうは言っても、普通のおっさんのフリしてるけど相当手練れだよねあの人。」
「俺にはそういうのはよくわからん。」
キンジも煙草に火をつける。
「お前がそう言うならそうなんだろうよ。」
「みんな俺のこと信用しすぎでしょ。」
「人徳以外にお前の長所は他にあるのかよ?あ、足が速い、蜘蛛みたい、剣技は達人級。よかったな4つはあるぞ。」
「馬鹿力一辺倒のお前よりは長所があってよかったよ。」
「ふん、馬鹿みたいに硬いも追加しといてくれ。」
キンジは鼻で笑い煙草を吸う。
「しかし、4ヶ月の出張のはずが1ヶ月しないで終わりを迎えようとはな。」
「いやわからんよ全面抗戦が泥沼化したら、俺らの負けだよ?」
「そうならない為の俺達、だろ?」
「そうだね、その通りだ。」
キクリはコーヒーを啜り顔を顰める。
「そんなに不味いなら無理して飲むなよ…」
「カフェイン中毒なのかな、不味くても飲まないとやる気出ないっていうか」
「中毒だな」
「さてと、今日は明日に備える憂鬱な1日を乗り切りますか。」
起床時間となり一斉にテントから隊員達が駆け足で司令台の前に整列する。3人も勿論参加するキクリが隊長なので先頭なのだが自然と背の順になってしまう。兎の後ろに獅子と熊が待機しているような絵面だ。
今川中将が司令台に現れる。
「明日明朝より師団による全面抗戦を開始する!以下呼ばれた隊は前哨基地の防衛を任せる!」
キクリはヒソヒソとハルナに話しかける。
「ハルナさんは基地に残って防衛に回ってください。」
「今日の任務はどうするんだい?」
「防衛部隊とコミュニケーションをとってください。俺達は彼らにとって異物であるのは変わりません。ハルナさんの人柄、能力を存分に知ってもらってください。」
「了解だよ。」
「俺はどうする。」
「バギーと俺のバイクの整備頼む、俺は今川中将と安藤中佐と各隊の隊長達と作戦のすり合わせをする。」
「あいよ。」
朝礼が終わり各自打ち合わせ通りに動く。
キクリも今川の元へ向かう。
「さて、作戦会議と言ったものの生憎、自分は小隊は率いたことは、あっても師団なんて巨大な駒の動かしかたはわからないんですよね。すみません。」
「現場での指揮は通信係を通じて私が行うので細かい動きはお気になさらず、自由に動いていただいて構いません。安藤も好きな様に動かせます。」
「つまり作戦会議といいつつ、特に何も無いと。ご配慮、感謝します。」
キクリは今川に敬礼をする
「キクリくんもキンジくんもどうせ作戦立てても、その通りに動かないでしょ?まぁ私もだけど。」
「そういうことです。」
今川中将は豪快に笑う。
「失礼します!報告です!」
1人の隊員が作戦本部に飛び込んでくる。
「作戦会議中だけど、どう言うつもりかな?」
安藤の鋭い目つきが隊員を震え上がらせる。
「行方不明になっていた第3中隊が戻ってきました!」
「何!中隊は既に砦の中か?」
今川の顔が険しくなる。
「はい!」
「まずいですね。」
キクリは安藤と顔を見合わせうなづくと、作戦本部を飛び出し中隊の元へと向かう。既に周りは歓迎モードだ。
中には肩を組み喜び合う者もいる。
「今すぐ全員、第3中隊から離れろ!」
キクリと安藤はアサルトライフルを構え第3中隊の正面に立つ。
キクリは未来視を使用するが2分以内にことが動くことはなさそうだ。だがそれはあくまで自分に対しての敵意にのみにたいしてだ、隊員に対しての敵意まで視ることが出来ない。
近くにいた隊員は第3中隊の者に突然顔を掴まれ、スライムを流し込まれる。寄生体だ。
「ウタ撃て!」
「言われなくても!!」
キクリと安藤は銃撃を開始し遮蔽物に身を隠す。
寄生された第3中隊からも弾丸が飛んでくる。
キクリは武器を装備していなかったことを後悔する。
嫌でも銃で戦わなければならない。いつもなら必ずフォトンブレード1本は携行しているが、前哨基地の居心地の良さにすっかり油断していた。
前哨基地に警報が鳴り響く。隊員達が次々に集まり制圧が始まる。キクリは弾倉が空になるまで撃ち尽くすと、我慢できなくなりSFGを地面に射出し低姿勢で第3中隊の中に殴り込む。キンジやハルナの様な規格外ではないが、キクリの身体能力でも殴った人間の頭蓋骨を粉砕し脳にダメージを与えることくらいは出来る。脚力はキンジの拳にも匹敵する必殺の一撃となる。SFGを使い敵を引き寄せ弾除けに利用し、確実に敵の数を減らしていく。
「キクリ!」
キンジの声が銃弾の雨の中響き渡る。キンジは大剣をキクリに投げる。SFGでそれを手元に引き寄せる。強く握り込み、わかりやすく回転斬りを繰り出す。周りが一気にスッキリする。中隊の銃口が一斉にこちらに向けられる。だがそれらを吹き飛ばす様にキンジが両腕ラリアットでキクリの元まで突っ込んでくる。
「待ってたよ相棒。」
「うるせぇよ。」
キクリは大剣を構え、キンジは拳を握る。
互いに背中を預けて残りの第3中隊を殲滅していく。
銃撃が止む。
あたりは寄生体の体液で真っ赤に染まる。無論キクリとキンジは真っ赤である。放水車による放水で2人は地面にとんだ体液と一緒に洗い流される。
早速、内ポケットから煙草を取り出し火をつけジジジと音を立てて煙草の火がメラメラと燃えていく。
キンジも同様に煙草を吸うが一息で1本吸い切る、とんでもない肺活量だ。
「はぁ…助かったよ2人とも」
安藤が2人に歩み寄る。
「安藤の判断が速くて助かったよ。」
「大丈夫かい!」
ハルナがキクリ達の元へ駆け寄る。
「天下無双とはまさにこの事だね」
ハルナは関心したように、肩を落とす。
「こんな所で雑談してる場合じゃない。全員作戦本部に来てくれ、安藤は各大隊長を集めて。」
ーーー
キクリが話を切り出す。
「先ほどの第3中隊の話は皆さん耳に入っているかと思います。」
作戦本部に今川に安藤、V部隊の3名、大隊長9名が集まる。
「今回のトロイの木馬とでも呼べる襲撃、確実にこれを指揮した者がいるはずです。寄生体は本能、生前の行動に引っ張られます。ですが今回の襲撃から見るに隊列を組んでの前哨基地への侵入、あげく銃による攻撃。どれも統制の取れていたものでした。」
「適合者に寄生体や変異体を使役するものがいると聞いたことがあるがそれとは違うのか?」
キクリはどこの隊の大隊長か知らないが人を見た目で格下と見ているのが伝わってくると内心イラッとする。
「えぇ、ですがこれだけの規模を使役するのは不可能でしょう。」
「それでしたら、何故あの様な行動に?」
キクリは安藤と顔を見合わせ頷く
「自分と安藤中佐は恐らく最後の繭が孵化したとみています。」
安藤が補足する。
「私が持ち帰った映像はみんな見てもらったと思うけど、繭には大量の変異体を高周波で操っていることが確認されてるでしょ、最初に見つかった繭と二つ目の繭にも同じ特性が見られた。なら3つ目にも同じ能力があってもなんら不思議じゃない。だけどここまで正確にかつ第3中隊を寄生体に変貌させたのなら新たな脅威ってこと。あとこの子小ちゃいけど少将だからね言葉に気をつけな。」
安藤はキクリに抱きつきながら先ほど無礼な態度をとった大隊長を睨む。
安藤の言う様に第3中隊を寄生体に変貌させることは、変異体には不可能であると研究結果がある。
「キクリ殿の話から東京で確認された変異体αに次ぐ脅威、変異体βレベル3と称する。」
今川が話を綺麗にまとめる。
「しかし困りましたな、迂闊に部隊を展開できないですな。」
今川はわざとらしく腕を組み悩むふりをしていると、キクリは見抜いている。言わせたいのだV部隊に討伐を任せろと。
「我々と安藤にお任せください、今川中将。」
「ですが敵は九州に放たれた化け物どうやって捜索するおつもりで?」
「3つ目の繭が見つかった場所へ向かおうと思います。」
「帰巣本能を利用するってこと?」
安藤が問いかける。
「九州中を探し続けるよりは可能性は高いかなと。それでだめならいよいよローラー作戦になると思うけど…。」
「ここは一つキクリ殿の案で動いて見ましょう。各隊にいる適合者も数名同行させます。精鋭と呼ぶにはやや力不足ですが。安藤中佐、人選は任せる。」
「了解でーす!」
「助かります、決行は今から2時間後、速攻で動きますよろしくお願いします。」
各隊長達が部隊に戻っていく。
「っはぁつかれた…」
キクリはその場に崩れ落ち、ロリポップを取り出し口に咥える。慣れない頭を使って場を仕切るのは想像以上に力を使う。
「見事だったじゃないかキクリ少将」
ハルナがキクリの背中をポンと叩く。
今川も、ふむ、といいつつ葉巻に火をつけ、安藤は電子タバコのカートリッジを差し込む。
「いや、私はここで呑気に煙草吸ってる場合じゃないんだ人選してこなきゃ。」
安藤は慌ててテントを飛び出していく。
「ここ禁煙じゃなかったのか」
キンジが続いて煙草に火をつける。
全員が深いため息を吐いた。
この作品はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。




