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アズレイトの説明がとてもわかりやすかったのに理解できなかったのは、おそらくサーシャの脳がガチで拒否したからだ。
もう一人の自分も「深く考えずに、聞き流せ」と訴えている。ても再確認したい自分を止められない。
「え、あ、あの……あなたの首が……と、と、と、と」
「飛びます」
「と、飛ぶって……どこに?」
「さぁ、どこでしょう。刎ねられる勢いが強ければ、かなりの距離を飛ぶことになりますが……でも、そう遠くには行くことはないと思います」
「それってつまり……く、首と胴が離れるって……こと?」
「ええ、そうです。あ、申し訳ございません。こういう野蛮な言葉は初めて耳にされることでしょう。要は斬首刑に処されるということです」
そう言ってアズレイトは自分の親指を立てると、首の辺りを真横に引いた。
王族に似合わないその仕草のせいで、サーシャは彼の末路がリアルに想像できてしまう。
(なんていうえげつないカードを出してくれるんだ!!)
サーシャは、心の中で叫んだ。
だってコレ遠回しに「王都に一緒に行ってくれなきゃ、死ぬよ?」と訴えているのだ。これを恐喝と呼ばずに、なんと言おう。
そんな不満を抱えていてもサーシャの首は、今にも縦に動こうとしている。
しかし、サーシャは気合でそれを止めた。だって男泣きしている騎士たちが、指の隙間からチラチラとこちらの様子を伺っているのが見えたから。
「……ねぇ、ズバリ聞くけど、騎士さん達が演技してるっていう可能性は?」
「大の男が、人前でみっともなく涙を見せるとお思いですか?」
食い気味に答えたアズレイトの口調も視線も、真冬の湖みたいに冷ややかだ。
(けっ、どうだかね)
そんなふうに吐き捨ててみたい。
けれど、誰が首と胴が離れたイケメンを見たいと言うのだ。少なくともサーシャは見たくない。
ぐぅううっと喉の奥で唸りつつ、葛藤することしばしば。サーシャは悩みに悩んだ挙げ句、苦渋の決断をした。
「あああああっ、んもうっ、わかった。行く!行けばいいんでしょ!!」
サーシャがやけっぱちになって叫んだ瞬間、めそめそと泣いていた騎士達が「よっしゃー!」と声を上げ、全員ガッツポーズをした。
その勢いは止まらず、膝小僧をバシバシ叩く者、両手を太陽に掲げる者、謎の踊りを舞う者。感極まって更に泣き出す者……様々なリアクションをしながら喜びを全身で表している。
狭い自宅で急にお祭り騒ぎが始まった中、首の皮がつながったイケメン王子といえば、優雅に席を立つとサーシャの元に近づき跪いた。
そして脱力したサーシャの手を取ると、うやうやしくその甲に口づけを落とす。
うらぶれたあばら家で、騎士がはしゃぎ回り、王子が膝をつくその光景は、シュールを超えて滑稽だ。
でもサーシャは笑えない。それどころか苦々しい気持ちでいっぱいだ。
(この男の顔面平均値が人並みだったら……!)
サーシャはアズレイトを睨みつけながら、心の中で悪態を吐く。
しかし現実のアズレイトは、完璧に美しい。彼を見つめれば見つめるほど、敗北感が増していく。
だからもう、諦めた。恨むなら面食いの自分を恨むしかない。
でも、このイケメン王子に一言くらい文句を言っても、バチは当たらないだろう。
「あなたねぇ」
「アズレイトと申します」
「……失礼。アズレイト殿下」
「アズと呼んで下さいませ」
「アズ殿下、あなたねぇ」
「いいえ、アズと呼び捨てで」
「……アズ、あなたねえ」
「はい、なんでしょう」
真摯な顔つきで続きを待つアズレイトに、出鼻をくじかれ感は否めないが、サーシャはそれでも思いの丈をぶつけた。
「自分の顔が良かったことを、神様に感謝しなさいよね!!」
座ったままダンッと足を踏み鳴らしてサーシャがそう叫べば、アズレイトは100万個の勲章を貰ったかのような誇らしげな表情に変わった。
「お褒めにあずかり光栄です、聖女様。その言葉は、種馬冥利につきるものです」
「た、た、た、た」
この人、今……自身のことを種馬って言った?!
想像を絶する下品な言葉に、サーシャはぐらりと眩暈を覚えてしまった。




