↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放聖女の帰還  作者: 当麻月菜
聖女に接待は不要です

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/35

4

 謁見の間に乱入者が現れたというのに、驚いているのはサーシャだけだった。


 衛兵も含めた全員が、揃いも揃って「やれやれ、またか」という表情を浮かべている。


 おかげでサーシャは、知りたくもない王族の内部事情を瞬時に理解してしまった。


「お母様、納得できませんわ!アズが聖女様の世話係なんて!!」

「そうですわ!こういうのは公平に闘技場で決めていただかないと!!」


 ヴィクトリアとポリーナといえば、謁見の間が微妙な空気になってしまったことに気づいているのかいないのかわからないが、大声で異議を唱えている。


 二人とも父親譲りの金茶色の髪と母親譲りの赤紫色の瞳。背格好も似ているので、まるで双子みたいだ。


「……ねぇ、アズ。あのお二人……どっちがお姉さんなの?」

「サーシャ様、この状況で気になるところは、そこですか?」

 

 こそっとアズレイトに囁けば、恨みがましい目で睨まれてしまった。


 彼には悪いが、気になるのはそこしかない。


「で、どっちがお姉さんなの?それとも双子?」

「……右側のヴィクトリアの方が姉でございます」


 嫌々ながら教えてくれたアズレイトに短く礼を言って、サーシャはもう一度ヴィクトリアとポリーナを見つめる。


 意図したわけじゃないが、ヴィクトリアと目が合ってしまった。


「キャ、見て見てポリーナ!聖女様がこちらを見てくださってるわ」

「きっと、アズ兄様よりわたくしたちを世話係にしたいと訴えているのですわ、お姉さま!」

「そうね、間違いないわ!!」

「なんて光栄なことなのでしょう!!」


 勝手な解釈で勝手にはしゃぎだすヴィクトリアとポリーナにうんざりしたのか、エカテリーナはトンッと玉座の肘置きを指で叩いた。


 すぐさま謁見の間に、緊張が走る。


「二人とも黙れ。この母の言うことが聞けぬと申すのか?」

「はい!」

「ええ!」


 不機嫌そうに睨むエカテリーナを前にして、ヴィクトリアとポリーナは一歩も引かない。


 それどころかずかずかと玉座に進むと、サーシャを横切り父親であり王配のグレスロードの前に立つ。


「お父様、わたくし達を抜きにして聖女様のお世話係を決めるなんて不公平だと思いません?」

「アズは聖女様をお迎えにあがることができたのですから、お世話係はわたくし達の方が適任ですわよね?」


 娘二人に詰め寄られたグレスロードはタジタジだ。


「あー……まぁ、うん。そうだね。でも、聖女様のご意見も伺わないと……そうですよね?聖女様」

「えっ、わたっ、私!?」


 まさかここで自分に振られるなんて思ってもなかったサーシャは、思わず後ずさりする。しかし、すぐにアズレイトに腕を掴まれてしまった。


「サーシャ様、まさか逃げる気ですか?」

 

 口調こそ穏やかだが、アズレイトの目は笑っていないし、絶対に自分を選べという圧が半端ない。


(なんで張り合ってんの?)


 面倒な世話係などやりたくないはずだし、サーシャだってアズレイトに世話をされたくなんかない。


「えっと、私……」

「はい」


 神妙な顔で続きの言葉を促すアズレイトを直視できなくて、サーシャは玉座にいるエカテリーナに視線を向ける。


 期待に反して彼女は玉座で頬杖をついて、ワクワクを隠そうともせずこちらを見ている。サーシャを助ける気なんて、これっぽっちもないようだ。


「サーシャ様、誰をお選びになられますか?」


 アズレイトは待ちきれずグイッと顔を近づけるし、ヴィクトリアとポリーナは自分たちを選べと壇上から声を張り上げる。


 イケメンの首を守るために自ら王都へ向かうことを決めたサーシャだが、この時初めて自分の選択を後悔した。


 けれど今は、悔やむ時間すら与えてくれない。


(あああああああっ、もぉーーーーーーー!!)


 浄化の儀だけすればいいはずなのに、どうして次から次へと厄介事が増えるのか。


 ままならない自分の運命を呪いつつ、サーシャが選んだのはこれだった。


「三人で!仲良く!過ごしましょう!!」


 サーシャが、これしかない折衷案を口にした途端、ヴィクトリアとポリーナは喜びの声を上げ、アズレイトはこの世の終わりのような表情を浮かべた。

 

 エカテリーナとグレスロードといえば、これ以上ない難題を無事に解決できたような顔をしている。


 言っておくが二人は難題を丸投げしただけで、片づけたのはサーシャである。


* 


 それからサーシャは浄化の儀までの間、アズレイトとヴィクトリアとポリーナの三人に接待され続けた。


 王宮でのもてなしは贅の限りをつくしたものだったが、サーシャは一時も気が休まらなかった。


 毎日、豪華なドレスを着せられ、やれ宮廷楽団の音楽を聴けだ、やれ庭園の花壇を見ろだ、やれお茶を飲めだと、あっちこっちに引っ張り回されてしまいクタクタだ。


 しかも気を抜いた途端、お世話係となった三人は些細なことで兄弟喧嘩を始めようとする。その度にサーシャが仲裁役を買って出なければならなかった。


 血気盛んな3人が無傷でいられたのは、全てサーシャのおかげである。


 そんなサーシャは、もてなされている間、ずっとこう思っていた。


 『聖女に接待は不要です!!』と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。