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追放聖女の帰還  作者: 当麻月菜
聖女に接待は不要です

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14/35

3

 絢爛豪華な玉座には女王エカテリーナ。その傍に立つのは王配のグレスロード。段下には杖を手にした老魔導士と、衛兵が数人いる。


 サーシャはアズレイトのエスコートで玉座の前まで歩を進める。


 一歩一歩、絨毯を歩く毎に近づくエカテリーナに、サーシャは目を奪われてしまう。


 アズレイトと同じ見事なプラチナブロンドの髪なのに、彼の髪が雲から差し込む陽の光だとすれば、女王はまるで稲光のようだ。


 鋭い赤紫色の瞳と、年齢を感じさせない陶器のような白い肌。どれひとつ取っても完璧で、威厳があり、人を跪かせるために存在している人だ。


 そんなふうに食い入るように見つめているサーシャに、エカテリーナはニヤリと笑う。


「よく来たな、聖女よ」


 まさか礼を執る前に話しかけられるとは思わなかったサーシャは、ポカンとしてしまう。


(あ、やば……)


 チラッと隣にいるアズレイトを見れば、彼はちゃっかりスンッとした表情で最上の礼を執っている。この裏切り者!


 思わぬハプニングで、謁見の間で一人で不敬な態度を取り続けているサーシャは、今更だが礼を執ろうか悩む。

 

 しかし聖女は王族によって追放された過去を持ち、女王は国の危機のため追放した聖女を呼び戻さなくてはいけなくなった。


 いわば自分と女王は、気まずい事情を抱える者同士。回りくどい挨拶なんて不要だろう。


「どうも、初めまして。サーシャです。さっそくですが、浄化の儀を始めたいので案内してもらえますか?」


 用件のみを切り出したサーシャに、謁見の間は凍り付く。しかしエカテリーナだけは、声をあげて笑った。


「あはははっ、さすが聖女の末裔じゃな。肝が据わっておる」


 含みのあるエカテリーナ言い方は、間違いなく挑発だ。でもサーシャは、どうとでも取れる笑みを浮かべて聞き流す。


 たが次のエカテリーナの発言は、聞き流すことはできなかった。


「しかしこちらから呼びつけた手前、すぐに浄化をさせて帰路につかせるのは、わらわの流儀に反する。それなりのもてなしは受けてもらうぞ」

「いえ、結構です」


 サーシャが即答した途端、エカテリーナの眉がピクリと跳ねる。


「サーシャよ、まさか嫌と申すのか?」

「嫌というわけじゃなく、浄化の儀が最優先だと思っているだけです」


 この国は、わざわざ追放した聖女を王都に呼び戻すくらい切迫した事態なのだ。もてなしなんていう流暢なことを言っている場合ではない。


 そのことは、エカテリーナが一番良くわかっているはずだ。それなのに女王はサーシャの主張を鼻で笑って一蹴りする。


「この国の優先順位は、王であるわらわが決めること。そなたの意見など求めてはおらぬ」


 冷たい声に、サーシャはスカートの裾をギュッと掴む。


 この国の女王は、世代交代したって結局こうなのだ。いつも自分勝手で、聖女の言葉に耳を貸してなんかくれない。


 胸の中で暴れるこの言葉にできない感情を、追放された曾祖母も味わったのだろうか。


 お世辞にも良いとは思えないこの気持ちを、祖母と母が知らずに生を終えたのが唯一の救いだ。


「サーシャよ、不満か?」

 

 わざとそんなことを尋ねる女王に、サーシャは文句の一つでも言いたい。


 しかしその気持ちをグッと堪えて口を開く。


「では、儀式はいつ頃にされますか?」

「3日後だ」

「……それまで結界が耐えてくれますか?」

「はっ、王宮魔導士の力をなめるでない。おぬしが3日王宮で過ごすくらいは楽に持ちこたえてみせるぞ──そうじゃろ?ロガー」


 ロガーと呼ばれた、老魔導士は「勿論でございます」と即答したが、涙目だった。言わされている感がビシビシと伝わり、サーシャはこの老人に心から同情する。


 しかし、この国の法であり秩序であるエカテリーナが決めたことを覆せる者は誰もいない。サーシャも、先ほどのやり取りで説得を諦めている。


「わかりました。では、3日後に浄化の儀をします」


 サーシャがため息交じりに頷けば、エカテリーナは満足げにニッと片方の唇を持ち上げた。


「慣れぬ王宮では気心の知れた者を傍に置いた方が何かと便利だろう?アズレイトをおぬしの世話係にする。好きに使え」

「あ、ちょっと待った」


 片手を挙げて女王の発言に待ったをかけたのは、これまで傍観していた王配のグレスロードだった。


「えっと……アズレイトを聖女様の傍に置くのはちょっとマズイんじゃないかい?」


 頬をポリポリかきながらエカテリーナに尋ねるグレスロードは、アズレイトと同じ色の瞳を持つ、細身のイケオジだ。


 声音も表情も穏やかだし、話す内容も、まともだ。きっと息子を小間使いみたいに扱っちゃ駄目だと、エカテリーナに苦言を呈したかったに違いない。


 サーシャは、ようやっと人格者に出会えたことに安堵の息を吐くが──残念ながら、そうじゃなかった。


「うちの姫2人がさ、黙ってないんじゃない?独り占めするなんて狡いって、揉めるよ」


 は?どういうこと??グレスロードの意味不明な発言にサーシャが首を傾げた途端、謁見の間が勢い良く開いた。


「そうですわ!」

「狡いですわ!」


 同時に声を発しながら謁見の間に派手な登場をしたのは、女王の娘のヴィクトリアとポリーナだった。

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