【番外編】魂喰らい
※本日二回目更新となります、ご注意ください。
【要注意】
この番外編は本編とかなり違うものとなります。
シリアス 恋愛 BADEND
こちらの言葉に抵抗感を持たれる方は回れ右願います。
大切な人。
あまりにも短い生を世界に捧げ、立ち止まるという事を知らない人。
貴方は知らないでしょう。
――私がどれほどこの我が身より愛しい世界を憎んでいるか。貴方を失わなければ救えない世界なら、いっそ滅びてしまえと思っているかを。
* * * * *
相対するは、強大な存在。
この世界を混沌に落とすその元凶。
そこに辿りつくまでの道は険しく、その道を遮る強者は幾度も眼前に立ちはだかる。
血反吐を吐くほどの旅の最中、今代の勇者である青年は、そのたびに己の持つ最大の力を行使せざるを得なかった。
『魂喰らい』
そんな忌むべき銘を持つ剣。
剣の持つ力を引き出すために必要な代償、それは持ち主の魂だった。
一度その力を振るえば、主の心の欠片を喰らう。
喰らわれた者は魂の力――感情を少しずつ失って行く。
泣く事を忘れ、笑う事を忘れ、怒りを忘れ、最後には抜け殻だけが残る。
魔剣と、邪剣と呼ばれても差し支えないその剣は、代償の大きさ故に無類の力を持つ。
だがその剣を、誰一人魔剣と呼ぶものはいなかった。
なぜならば、その剣に宿る精霊を知っていたからだ。どの精霊よりも人を慈しみ。どの精霊よりも穏やかで。どの精霊よりも悲しい存在。
彼女は周りが畏怖するほどの力で辺りを薙ぎ払い、そして――涙する。
己が認めた唯一の主を自らが喰らう苦痛に。
声も出せず、ただ悲痛に喉を震わせ……頬を透明な雫で濡らしながら、主の力を喰らう。
「ごめんなさい……」
己が存在を嫌悪し、望まぬ所業に彼女の唇は声にならない懺悔を繰り返す。
「僕がわかっていて君の力を望んだんだ。君のせいじゃない」
そう告げる青年の声はもう、優しさも、悲しさも帯びる事はない。淡々とした口調で己の精霊を慰めながら、その手は壊れ物を扱うようにそっと長く美しい髪を梳く。
両手で青年に合わせる事が出来ない顔を覆い隠し、ふるふると首を振る彼女の姿は見るもの全てに痛みを与える。
彼女自身が望んだわけでもないのに、そういった存在として世界に在る精霊。
聖剣に宿る精霊は、自然と何らかの力を宿すという。
そこには精霊自身の意思は関係無いという。ただ、そういった存在なのだという。
過去に世界を救った勇者の傍らには、あらゆる聖剣と、その精霊がいた。
それら皆、剣に力を与えるために何がしかの力を世界より与えられる。その時代の求めに応じた力を。
今は、初代の時代に次ぐといわれるほど魔物が猛威を揮う世だった。
人々は皆恐怖に怯え、その脅威を退けるための力を求めた。
初代の聖剣は行方が知れず、今までの聖剣では力不足で。世界が求めたものは圧倒的な力。その呼びかけに応え現れた剣。それが『魂喰らい』。
その力は優しすぎる彼女には苦痛しか与えなかった。
「いいんだよ、これで、いいんだ……」
何度青年が自らが望んだと告げようとも、彼女の涙は涸れる事を知らない。
けれど、どれほど彼女が頬を涙で濡らそうとも、青年は再び世界を守るためその力を揮う事を躊躇わない。
「悪いのは、君を望んだ僕だ」
そんな青年の言葉に、優しさに、瞼を閉じた彼女の頬をまた一つ美しい光が滑り落ちた……。
* * * * *
愛しい人。
君は知っているだろうか。
少しずつ君の中に取り込まれてゆく至福を。
この心が君の糧になる歓喜を。
本当は世界などどうでも良かった。けれど、君という存在を得るためには世界を救う存在に成らねばならなかった。
その権利は誰にも渡さない。
どうせ君とは比べ物にならないほど短い生だ。
普通に生きていても、僕は大地に還り、いずれ時の流れに忘れ去られてしまうだろう。
それよりも、君の中に溶け込み、君という存在が消滅する直前まで共に在りたかった。
こうして僕の欠片を喰らい涙する君の姿を見るたび、その時が近付いている事を感じ、僕は心震える。
ああ、だけど……
僕が君に溶け込む最後の一瞬まで残しておきたいものが一つだけある。
――――君を思う、この心だ。
前話で何も考えず入れた設定が気になって……
書いちゃいました、過去の聖剣(・ω・)
申し訳ない だが後悔はない!(ぁ
初代勇者と教官な聖剣との三日間戦争の方も浮かんでたり
こちらは完全コメディでつ
……需要があれば形にする予定。無ければお蔵入り(・ω・)
改稿部分:どれほど、という単語が重複していたため表現変更