第12話 覚醒
分裂するなんて聞いてないし!
恐ろしい顔たちは、オレをめがけて何度も白い光のカーテンに突撃し、その度にバチンッともの凄い音がして、思わず腰が引ける。ダメだ、怖くても動いたらダメだ! 五芒陣から出たらダメだ! この結界から出たら……喰われる!
その時、両手で突き出したまま持っていた鏡の真ん中が青く光り、その中心に文字が見えた。真ん中に浮かび上がったのは、アルファベットの小文字の d を逆さまにし、ヒゲやハネのついたような文字。
「これって、不思議堂で見たあれだ! 不思議堂の五芒陣にも、真ん中にこの文字があった」
オレは咄嗟に鏡を五芒陣の中心へ置いた。すると白い光のカーテンが青色に変わり、不思議堂の時のように、すうっと気が遠くなっていくような感覚に襲われた。
「おわ、ヤバっ、ここで気なんか失ったら喰われる!」
オレは片膝をついたまま、倒れまいと歯を食いしばり、片手を地面に着いて、まっすぐ前を向いた。
……実は、覚えているのはここまでだ。恥ずかしいことに、オレはこの時もまた、しかも片膝をついたまま、気を失ってしまったらしく、この後の話は、後で小春さんとヒカリさんに教えてもらった。
オレが意識を失う前にかろうじて五芒陣の中心に置いた鏡は、表面が波のように揺らめいたと思った瞬間、青い光がパーンッと四方八方へ飛び散り、飛び交う無数の顔を捕らえ始めたらしい。その度にバチンッ、バチンッとショートしたときのような音がして、顔は次々と地面に落ちていったそうだ。
最初は飛び散った青い光を喰わんばかりに襲ってきた顔も、段々と青い光から逃げるようになり、何千、何万と飛んでいた顔がみるみる地面に落ちて数を減らし、かろうじて逃げ回っていた顔も青い光にどんどん捕らえられていった。そしてすべての顔が地面に落ちた時、青い光はまだ宙を舞っていた。
オレは気を失っていたのに、
「戻れ」
と呟いたらしい。何で呟けたのか、そして、なぜそう言ったのかわからない。ただ、飛び回っている青い光を五芒陣に戻してあげなくちゃと考えたのだと思う。
すると、飛び回っていた青い光と、地縛霊の顔を捕えて地面に落ちた光が一斉に、五芒陣の中心に置いた鏡に向かって飛んできて、吸い込まれていったそうだ。
そしてすべての光が吸い込まれた時、オレは、
「封じ、完了」
と初めて言ったとのことだった。すると地面の五芒陣が消え、鏡の真ん中のdを逆さまにした文字も消え、辺りに静寂が訪れた。
オレはそこでようやく憑き物が取れたようにハッと我に返った。周りを見ると飛び回っていた地縛霊は一つもいなくなっていた。鏡を拾い、ふらつきながらもゆっくりと立ち上がると、向こうから小春さんとヒカリさんが小躍りしながら駆け寄ってきてくれた。
トンネルの入り口上から事態を見守っていた憲章さんが驚いたような顔で言った。
「オヤジ、八瀬君の五芒陣に置かれた鏡の中の文字、見たかい?」
「あぁ、あぁ! あれは摩利支天の梵字だ! なんてことだっ!」
後で憲章さんに聞いたら、この時のご住職、憲政さんは、これまでに見たことがないくらい興奮していたそうだ。
「歴代最強の封じ屋――御門さんが使っていた鏡だ!」




