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デブ、部下を持つ。

翌朝。

「……来ちまった」

ギルドの中庭に立った俺は、すでに後悔していた。

なぜなら――

「遅い」

「いや時間ぴったりですけど!?」

目の前には腕を組んで仁王立ちするギルマス、そして――

「うわ、人多っ!?」

周囲をぐるりと囲み、ニヤニヤしてこっちを見ているギルドメンバーたち。

完全に見世物である。

「なんでこんなに集まってるんですか!」

「見学だ」

「公開処刑の間違いでは?」

「安心しろデブ、死ぬ確率は五分だ」

「安心できる要素どこ!?あと、デブって言うなぁ!」

「まずは基礎を見る」

ギルマスが地面に線を引く。

「ここから一歩も動くな」

「はい?」

「俺の攻撃を受け続けろ」

「いやシンプルに虐待では!?」

「よし、始めるぞ」

「ちょっと待――!」

ドンッ!!

空気が弾ける音と同時に、視界と腹が揺れる。

「ぐはっ!?」

気づいたときには俺は地面にめり込んでいた。

そして、後から腹から痛みが来た。

「今の何!?」

「軽いジャブだ」

「嘘つけ絶対ヘビー級だろ!!」

「立て」

「いや今ので普通終わり――」

「立て」

「……はい」

逆らえない圧ってこういうのを言うんだな。

ふらつきながら立ち上がると、ギルマスがじっとこちらを見ている。

「……なるほどな」

「何がですか」

「お前、“受ける”ことに特化しているな」

「攻撃できないだけですけどね!?」

再び拳が飛んでくる。

ドゴン!!

「ぐっ……!」

だが、さっきよりも耐えられている。

「……あれ?」

「気づいたか」

「ちょっとだけ軽い……?」

「違う。お前が慣れたんだ」

「そんな短時間で!?」

「あと――」

ギルマスが一歩踏み込む。

「回復もしている」

「え?」

確かに、さっきまでの痛みが薄れている。

「お前の体、攻撃を受けるほど強くなるタイプだ」

「なにそのドM仕様!?」

「よし、次だ」

「まだあるの!?」

「今度は攻撃しろ」

「え、いいんですか?」

「全力で来い」

「後悔しないでくださいよ!」

俺は思い切り踏み込む。

そして――

腹から突き上げるように拳を放つ。

「おおおおおりゃぁぁぁ!」

ドン!!

いい音がした。

手応えもある。

「……どうだ!」

「ふむ、なるほど。」

ギルマス、無傷。傷一つついていない。

「効いてないですね!?」

「蚊だな」

「せめて蜂くらいにして!?」

「だが悪くない」

「本当ですか!?」

「“当たれば”な」

「当てる難易度が高すぎるんですよ!」

次の瞬間、視界からギルマスが消える。

「え?」

ドゴン!!

「ぐえっ!?」

背中に衝撃。揺れる腹。

また地面に刺さる俺。

「今の見えたか」

「見えるわけないでしょ!!」

「課題は三つだ」

ギルマスが指を立てる。

「一つ、攻撃を当てる技術」

「はい……」

「二つ、逃げない判断力」

「逃げたいですけど!?」

「三つ――」

一瞬の間。

「“その体質の正体を理解しろ”」

「……それ、俺も知りたいんですけど」

そのとき。

「ギルマスー!」

遠くから声が響く。

一人のギルド員が慌てた様子で駆け込んできた。

「大変です!」

「どうした」

「そこのデブの賞金の件ですが――」

嫌な予感しかしない。

「懸賞金、上がりました!」

「やっぱりなああああ!!」

「しかも――」

ギルド員がこちらを見る。こっち見んな!と言いたくなったが我慢する。

「“捕獲優先”に変わりました」

「え?」

一瞬、静寂。

「……それって」

レナがぽつりと言う。

「殺さなくていいってことは」

「……生きたまま連れてかれるやつ!?」

「そう」

「最悪じゃねえか!!」

ギルマスが笑う。

「いいじゃないか」

「何がですか!?」

「訓練になる」

「ならねえよ!!」

「今日の午後から実戦だな」

「休みは!?」

「ない」

「ブラック企業かここは!!」

こうして俺は――

訓練初日にボコボコにされ、

懸賞金が上がり、

さらに“捕獲対象”にランクアップした。

「……人生ハードモードすぎるだろ」

「面白いね」

「お前ほんとそれしか言わないな!?」

翌日。

「というわけでだ」

ギルマスが腕を組んで俺を見下ろす。

「お前に預ける部下を紹介する」

「やっと幹部っぽいイベント来たな……!」

正直、ここまで理不尽続きだったせいで“まともな展開”に少し期待している自分がいた。

部下。つまり戦力。つまり――

「これで多少は楽になる……!」

「ならんぞ」

「即否定!?」

何だかとても嫌な予感がする。

中庭の一角に移動すると、そこにはすでに20人ほどが集められていた。

「……あれ?」

最初の違和感は“統一感のなさ”だった。

装備もバラバラ、年齢もバラバラ、雰囲気もバラバラ。体格もバラバラ。

「なんか……クセ強そうだな……」

「精鋭だ。感謝しろ。」

「嫌な予感しかしない言い方やめて」

「まずは一人目だ」

前に出てきたのは、全身ローブの細身の男。

フードの奥でニヤニヤしているのが見える。

「どうも〜、“観察者”のリンクです」

「観察者?」

「あなた、昨日の戦闘中に右足の踏み込みが0.3秒遅れてましたよね」

「こわっ!?」

「あと寝る前に三回寝返り打ちました」

「なんで知ってんの!?」

「見てました」

「やばい奴きた!!」

完全にストーカーである。

「次」

出てきたのはやたら筋肉質な女。

というかほぼ鎧着てない。

「グラだ。殴るのが好きだ」

「シンプルだな!」

「隊長、殴っていいか?」

「初対面で何言ってんの!?」

「強さ確認だ」

「やり方が野蛮すぎる!」

「次」

小柄な少女が前に出る。

ぺこりと頭を下げる。

「ミルです。毒が得意です」

「かわいい系きたな……安心……」

「さっきのパンに軽く仕込んでおきました」

「は?」

「30分後くらいに軽くしびれます」

「なんでだよ!!」

「味見」

「対象が俺なの!?」

「次」

ボロボロのマントを羽織った男。

目が死んでいる。

「……死神って呼ばれてる」

「物騒だな!?」

「近づくと不幸になる」

「能力なの!?」

「さっき転んだだろ」

「お前のせいか!!」

「次」

なぜかメイド服の女性。

「お掃除担当のエルナです」

「普通っぽい……!」

「死体処理も任せてください」

「普通じゃなかった!!」

「次」

めちゃくちゃテンション高い少年。

「ボクはトル!爆発が得意!」

「嫌なワード!」

「さっきも一個試しに――」

ドンッ!!

遠くで爆発。

「なにしてんの!?」

「成功成功!」

「何が!?」

「次」

無言で立つ大男。

「……ゴン」

「それだけ!?」

「強い」

「雑すぎる説明!」

「昨日、岩山壊した」

「スケールがおかしい!」

「次」

ずっと笑ってる女。

「ヒヒヒ……」

「怖い怖い怖い」

「痛いの好き?」

「質問がやばい!」

「私は好き」

「聞いてない!」

「次」

なぜか商人風の男。

「情報屋のカインです」

「まとも枠きたか!?」

「あなたの弱点、もう売りました」

「なんで!?」

「商売なので」

「裏切り前提じゃねえか!!」

「次」

ずっと寝てるやつ。

「……すぅ」

「起きて!?」

「戦闘になると起きる」

「信用できねえ!」

「たまに起きない」

「致命的だろ!!」

ここまでで10人。

「……もう帰っていい?」

「まだ半分だ」

「うそだろ……」

後半戦。

「私は呪い専門です」

「味方に使うなよ!?」

「たまに間違えます」

「やめろ!!」

「透明になれます」

「便利そう!」

「たまに戻れません」

「欠陥能力!」

「剣が勝手に動く」

「どういうこと!?」

「私より強いですこの剣」

「持つ意味ある!?」

「回復役です」

「助かる!」

「でも痛みを共有します」

「意味ねえ!!」

「未来が少し見えます」

「有能!」

「でも外れます」

「ただの勘!!」

気づけば紹介は終わっていた。

俺は――

完全に疲弊していた。

「……これが、俺の部下……?」

「そうだ」

「終わってません?」

「面白いだろう」

「扱う側の難易度が高すぎるんだよ!!」

そのとき。

「隊長」

グラが前に出る。

「命令は?」

「え?」

全員の視線が集まる。

20人分の“やばい目”。

「命令……?」

初めて実感する。

自分が“上に立つ側”になったということを。

「……えっと」

考える。

普通なら――

訓練?

連携?

規律?

でもこのメンバーでそれをやるのは――

「無理だろ……」

「隊長?」

「……よし」

覚悟を決める。

「とりあえず――」

全員を見る。

「“勝手なことすんな”」

「「「無理です!」」」

即答。

「だよなああああ!!」

その瞬間。

ドンッ!!

またどこかで爆発。

「トルか!?」

「違う、私です」

「誰だよ今の!?」

「ちょっと試しに呪いを――」

「やめろおおお!!」

「ヒヒヒ……」

「笑うな!!」

カオス。

完全にカオスだった。

「……ギルマス」

「なんだ」

「これ、本当に使えるんですか?」

「使い方次第だ」

「その“使い方”が一番難しいんですけど!?」

ギルマスは笑う。

「いいか」

一歩近づいてくる。

「強いだけの部下は誰でも扱える」

「……」

「だが、“問題児”をまとめられるやつは少ない」

「……つまり」

「お前に向いている」

「なんで!?」

沈黙。

そして――

「……やるしかない、か」

腹をくくる。

どうせ逃げ場はない。

「よし」

全員を見る。

「とりあえず――」

深呼吸。

「今日は“爆発禁止”で」

「えー」

「不満出るな!!」

こうして俺は、

クセしかない20人の部下を抱えることになった。

戦力としては申し分ない。

だが――

「胃がもたねえ……」

統率難易度は間違いなく最上級だった。

そしてこのとき、まだ知らなかった。

この“やばい部下たち”が、

これから起こる騒動の中心になることを――


    (続く)

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