デブ、部下を持つ。
◇
翌朝。
「……来ちまった」
ギルドの中庭に立った俺は、すでに後悔していた。
なぜなら――
「遅い」
「いや時間ぴったりですけど!?」
目の前には腕を組んで仁王立ちするギルマス、そして――
「うわ、人多っ!?」
周囲をぐるりと囲み、ニヤニヤしてこっちを見ているギルドメンバーたち。
完全に見世物である。
「なんでこんなに集まってるんですか!」
「見学だ」
「公開処刑の間違いでは?」
「安心しろデブ、死ぬ確率は五分だ」
「安心できる要素どこ!?あと、デブって言うなぁ!」
◇
「まずは基礎を見る」
ギルマスが地面に線を引く。
「ここから一歩も動くな」
「はい?」
「俺の攻撃を受け続けろ」
「いやシンプルに虐待では!?」
「よし、始めるぞ」
「ちょっと待――!」
ドンッ!!
空気が弾ける音と同時に、視界と腹が揺れる。
「ぐはっ!?」
気づいたときには俺は地面にめり込んでいた。
そして、後から腹から痛みが来た。
「今の何!?」
「軽いジャブだ」
「嘘つけ絶対ヘビー級だろ!!」
◇
「立て」
「いや今ので普通終わり――」
「立て」
「……はい」
逆らえない圧ってこういうのを言うんだな。
ふらつきながら立ち上がると、ギルマスがじっとこちらを見ている。
「……なるほどな」
「何がですか」
「お前、“受ける”ことに特化しているな」
「攻撃できないだけですけどね!?」
◇
再び拳が飛んでくる。
ドゴン!!
「ぐっ……!」
だが、さっきよりも耐えられている。
「……あれ?」
「気づいたか」
「ちょっとだけ軽い……?」
「違う。お前が慣れたんだ」
「そんな短時間で!?」
「あと――」
ギルマスが一歩踏み込む。
「回復もしている」
「え?」
確かに、さっきまでの痛みが薄れている。
「お前の体、攻撃を受けるほど強くなるタイプだ」
「なにそのドM仕様!?」
◇
「よし、次だ」
「まだあるの!?」
「今度は攻撃しろ」
「え、いいんですか?」
「全力で来い」
「後悔しないでくださいよ!」
俺は思い切り踏み込む。
そして――
腹から突き上げるように拳を放つ。
「おおおおおりゃぁぁぁ!」
ドン!!
いい音がした。
手応えもある。
「……どうだ!」
「ふむ、なるほど。」
ギルマス、無傷。傷一つついていない。
「効いてないですね!?」
「蚊だな」
「せめて蜂くらいにして!?」
◇
「だが悪くない」
「本当ですか!?」
「“当たれば”な」
「当てる難易度が高すぎるんですよ!」
次の瞬間、視界からギルマスが消える。
「え?」
ドゴン!!
「ぐえっ!?」
背中に衝撃。揺れる腹。
また地面に刺さる俺。
「今の見えたか」
「見えるわけないでしょ!!」
◇
「課題は三つだ」
ギルマスが指を立てる。
「一つ、攻撃を当てる技術」
「はい……」
「二つ、逃げない判断力」
「逃げたいですけど!?」
「三つ――」
一瞬の間。
「“その体質の正体を理解しろ”」
「……それ、俺も知りたいんですけど」
◇
そのとき。
「ギルマスー!」
遠くから声が響く。
一人のギルド員が慌てた様子で駆け込んできた。
「大変です!」
「どうした」
「そこのデブの賞金の件ですが――」
嫌な予感しかしない。
「懸賞金、上がりました!」
「やっぱりなああああ!!」
「しかも――」
ギルド員がこちらを見る。こっち見んな!と言いたくなったが我慢する。
「“捕獲優先”に変わりました」
「え?」
一瞬、静寂。
「……それって」
レナがぽつりと言う。
「殺さなくていいってことは」
「……生きたまま連れてかれるやつ!?」
「そう」
「最悪じゃねえか!!」
◇
ギルマスが笑う。
「いいじゃないか」
「何がですか!?」
「訓練になる」
「ならねえよ!!」
「今日の午後から実戦だな」
「休みは!?」
「ない」
「ブラック企業かここは!!」
◇
こうして俺は――
訓練初日にボコボコにされ、
懸賞金が上がり、
さらに“捕獲対象”にランクアップした。
「……人生ハードモードすぎるだろ」
「面白いね」
「お前ほんとそれしか言わないな!?」
◇
翌日。
「というわけでだ」
ギルマスが腕を組んで俺を見下ろす。
「お前に預ける部下を紹介する」
「やっと幹部っぽいイベント来たな……!」
正直、ここまで理不尽続きだったせいで“まともな展開”に少し期待している自分がいた。
部下。つまり戦力。つまり――
「これで多少は楽になる……!」
「ならんぞ」
「即否定!?」
何だかとても嫌な予感がする。
◇
中庭の一角に移動すると、そこにはすでに20人ほどが集められていた。
「……あれ?」
最初の違和感は“統一感のなさ”だった。
装備もバラバラ、年齢もバラバラ、雰囲気もバラバラ。体格もバラバラ。
「なんか……クセ強そうだな……」
「精鋭だ。感謝しろ。」
「嫌な予感しかしない言い方やめて」
◇
「まずは一人目だ」
前に出てきたのは、全身ローブの細身の男。
フードの奥でニヤニヤしているのが見える。
「どうも〜、“観察者”のリンクです」
「観察者?」
「あなた、昨日の戦闘中に右足の踏み込みが0.3秒遅れてましたよね」
「こわっ!?」
「あと寝る前に三回寝返り打ちました」
「なんで知ってんの!?」
「見てました」
「やばい奴きた!!」
完全にストーカーである。
◇
「次」
出てきたのはやたら筋肉質な女。
というかほぼ鎧着てない。
「グラだ。殴るのが好きだ」
「シンプルだな!」
「隊長、殴っていいか?」
「初対面で何言ってんの!?」
「強さ確認だ」
「やり方が野蛮すぎる!」
◇
「次」
小柄な少女が前に出る。
ぺこりと頭を下げる。
「ミルです。毒が得意です」
「かわいい系きたな……安心……」
「さっきのパンに軽く仕込んでおきました」
「は?」
「30分後くらいに軽くしびれます」
「なんでだよ!!」
「味見」
「対象が俺なの!?」
◇
「次」
ボロボロのマントを羽織った男。
目が死んでいる。
「……死神って呼ばれてる」
「物騒だな!?」
「近づくと不幸になる」
「能力なの!?」
「さっき転んだだろ」
「お前のせいか!!」
◇
「次」
なぜかメイド服の女性。
「お掃除担当のエルナです」
「普通っぽい……!」
「死体処理も任せてください」
「普通じゃなかった!!」
◇
「次」
めちゃくちゃテンション高い少年。
「ボクはトル!爆発が得意!」
「嫌なワード!」
「さっきも一個試しに――」
ドンッ!!
遠くで爆発。
「なにしてんの!?」
「成功成功!」
「何が!?」
◇
「次」
無言で立つ大男。
「……ゴン」
「それだけ!?」
「強い」
「雑すぎる説明!」
「昨日、岩山壊した」
「スケールがおかしい!」
◇
「次」
ずっと笑ってる女。
「ヒヒヒ……」
「怖い怖い怖い」
「痛いの好き?」
「質問がやばい!」
「私は好き」
「聞いてない!」
◇
「次」
なぜか商人風の男。
「情報屋のカインです」
「まとも枠きたか!?」
「あなたの弱点、もう売りました」
「なんで!?」
「商売なので」
「裏切り前提じゃねえか!!」
◇
「次」
ずっと寝てるやつ。
「……すぅ」
「起きて!?」
「戦闘になると起きる」
「信用できねえ!」
「たまに起きない」
「致命的だろ!!」
◇
ここまでで10人。
「……もう帰っていい?」
「まだ半分だ」
「うそだろ……」
◇
後半戦。
「私は呪い専門です」
「味方に使うなよ!?」
「たまに間違えます」
「やめろ!!」
「透明になれます」
「便利そう!」
「たまに戻れません」
「欠陥能力!」
「剣が勝手に動く」
「どういうこと!?」
「私より強いですこの剣」
「持つ意味ある!?」
「回復役です」
「助かる!」
「でも痛みを共有します」
「意味ねえ!!」
「未来が少し見えます」
「有能!」
「でも外れます」
「ただの勘!!」
◇
気づけば紹介は終わっていた。
俺は――
完全に疲弊していた。
「……これが、俺の部下……?」
「そうだ」
「終わってません?」
「面白いだろう」
「扱う側の難易度が高すぎるんだよ!!」
◇
そのとき。
「隊長」
グラが前に出る。
「命令は?」
「え?」
全員の視線が集まる。
20人分の“やばい目”。
「命令……?」
初めて実感する。
自分が“上に立つ側”になったということを。
「……えっと」
考える。
普通なら――
訓練?
連携?
規律?
でもこのメンバーでそれをやるのは――
「無理だろ……」
「隊長?」
「……よし」
覚悟を決める。
「とりあえず――」
全員を見る。
「“勝手なことすんな”」
「「「無理です!」」」
即答。
「だよなああああ!!」
◇
その瞬間。
ドンッ!!
またどこかで爆発。
「トルか!?」
「違う、私です」
「誰だよ今の!?」
「ちょっと試しに呪いを――」
「やめろおおお!!」
「ヒヒヒ……」
「笑うな!!」
◇
カオス。
完全にカオスだった。
「……ギルマス」
「なんだ」
「これ、本当に使えるんですか?」
「使い方次第だ」
「その“使い方”が一番難しいんですけど!?」
◇
ギルマスは笑う。
「いいか」
一歩近づいてくる。
「強いだけの部下は誰でも扱える」
「……」
「だが、“問題児”をまとめられるやつは少ない」
「……つまり」
「お前に向いている」
「なんで!?」
◇
沈黙。
そして――
「……やるしかない、か」
腹をくくる。
どうせ逃げ場はない。
「よし」
全員を見る。
「とりあえず――」
深呼吸。
「今日は“爆発禁止”で」
「えー」
「不満出るな!!」
◇
こうして俺は、
クセしかない20人の部下を抱えることになった。
戦力としては申し分ない。
だが――
「胃がもたねえ……」
統率難易度は間違いなく最上級だった。
◇
そしてこのとき、まだ知らなかった。
この“やばい部下たち”が、
これから起こる騒動の中心になることを――
(続く)




