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デブ、ギルマスと出会う。

翌朝、目が覚めた瞬間に天井を見つめながら、俺は自分の置かれている状況を改めて整理していたのだが、整理すればするほど納得できない点が増えていくばかりだった。


「……なんでこうなったんだよ本当に」


昨日一日で起きた出来事を順番に思い返していくと、まるで誰かが意図的にイベントを詰め込んできたかのような流れで、まともに状況を消化する余裕すら与えられていなかった。


ギルドに加入したと思ったら、わずかな時間で変な通り名を付けられ、その日のうちに賞金首として扱われることになり、夜には実際に襲撃まで受けるという展開は常識的に考えておかしい。


「いや普通、こういうのって段階踏むだろ……なんでいきなり最終盤みたいな状況に放り込まれてんだよ」


ゲームで言えばまだ操作方法を覚えている段階のはずなのに、いきなり高難易度ダンジョンに放り込まれたような感覚で、理不尽さしか感じない。


「チュートリアルどこいったんだよ、まだ基本操作も怪しいんだけど俺……」


そもそも俺はこんな命のやり取りが日常になる生活を望んでいたわけではなく、もう少しこう、穏やかで順序立てられた成長ルートを想像していたはずだった。


「せめてスライムとか倒してレベル上げする期間くれよ……いきなりボス戦はきついって」


そんな愚痴をこぼしながら体を起こすと、ベッドがぎしりと音を立てて軋み、俺は少しだけ申し訳ない気持ちになる。


「……ごめんな、いつも負担かけて」



一階に降りた瞬間、昨日よりも明らかに増えた視線の数とその質に圧倒され、思わず足が止まりそうになるが、なんとか平静を装って歩き出す。


「……絶対増えてるよなこれ、気のせいじゃないよな」


周囲から向けられる視線は単なる好奇心ではなく、値踏みや警戒、さらには明確な敵意が混ざったものであり、その意味を理解するのに時間はかからなかった。


「完全に“狙われる側”として認識されてるなこれ……人として見られてない感じがすごい」


レナはそんな空気の中でも相変わらず落ち着いており、いつも通りにギルドの食堂のパンを食べているが、その精神状態にはもはや尊敬すら覚える。


「なあレナ、お前この状況で普通に飯食えるのすごくないか」


「お腹空くし」


「理由がシンプルすぎるんだよ!」


自分との温度差が大きすぎて、逆にどういう思考でこの状況を処理しているのか気になってしまう。


そんな中、背後から低い声が響き、嫌な予感が一気に現実へと変わる。


「おい」


「……はい、何でしょう?」


振り向けばそこにはかなり堅いがいい男が立っていた。


「おい、ギルマスが新入りに声をかけているぞ。あいつ終わったな…….」

周囲のギルドメンバーがコソコソと話している。今、ギルマスって聞こえたぞ?やばいんじゃないか?


ギルマスとはそのギルドをまとめるリーダーであり、その存在はこの都市でも上位に入るほどの実力者として知られている。


筋肉の塊のような体格をしており、鎧を着ていなくてもそれ自体が防具のように見えるほどで、ただ立っているだけで周囲の空気を変える圧を持っている。


また、単純な武力だけでなく判断力にも優れており、ギルド内では絶対的な信頼と同時に畏怖を集めている存在でもあった。


「来い」


「え?俺、問題起こした?」


「......」


ギルマスは何も答えずに奥の部屋へと案内した。分かっていたがやはり逃げ場はない。



最上階の部屋に入ると、そこには複数の幹部らしき人物たちが集まっており、完全に見世物としての空間が出来上がっていた。


「うわ、やっぱり人多いな……完全に公開処刑じゃんこれ」


「人気者だね」


「だから違うって言ってるだろ!」


ガルドが椅子に座ったままこちらを見下ろすように視線を向ける。


「……不正だな」


ギルドマスターが俺の記録が書いてあると思われる紙を見てそう言った。


その言葉には否定できない部分もあり、素直に受け止めるしかなかった。


「ダンジョンボスは本当にお前が倒したのか?商人から購入したのではないか?」


「いいえ、ダンジョンボスは間違いなく俺とレナが倒しました。」


「言葉ではやはり通じないか、では実力で証明してみろ。」


机の上に地図が広げられる。


「オークボスを単独で倒してこい」


「単独って強調しなくていいから!」


だが拒否する選択肢はなく、結局は受け入れるしかない。


「……分かりましたよ、やります」


「オークボスを倒すことができたなら認めてやらなくもないから、頑張ってこい!」


そして、俺はオークボスを倒しに行くこととなってしまった。



ダンジョンへ向かう途中、俺は何度も自分の腹を軽く叩きながら呟いていた。


「頼むぞ本当に、今回もちゃんと働いてくれよ……」


「腹に話しかけてるの?」


「これしか頼れるものがねえんだよ!」


レナの冷静なツッコミに対して反射的に返しながらも、実際それしかないのが現実だった。


「オークって強いのか?」


「強いよ、でも天使よりは楽」


「比較対象が悪すぎる!」


あの天使との比較で楽と言われても、安心材料にはならない。



ダンジョン内部は暗く、湿った空気が漂い、長時間いるだけで体力が削られそうな環境だった。


「ここ絶対健康に悪いだろ……」


奥へ進むと、巨大なオークが姿を現す。


「でかいな……」


「ボスだからね」


戦闘が始まると、オークの攻撃は想像以上に重く、腹で受け止めても衝撃が響く。


「ぐっ……やっぱり普通に強いな!」


押し返そうとしても簡単にはいかず、互いに力をぶつけ合う展開になる。


「これ長引くやつだろ……!」


何度も攻撃を受け、何度も押し返しながら、じわじわと体力を削られていく。


「きついなこれ……!」


それでも諦めずに体当たりを続け、最後は体重を乗せて押し倒し、何度も叩きつけることでようやく動きを止めた。


「……終わった、よな?」



戦闘が終わった瞬間、その場に座り込む。


「はぁ……はぁ……疲れた……」


「お疲れ」


「軽いな!」


立ち上がろうとしたとき、妙な違和感に気づく。


「ん?」


気づいた瞬間、顔をしかめる。何か口にネバネバしたものが入っているのだ。


「……最悪なんだけど」


どうやら戦闘中に飛び散ったオークの唾が、気づかないうちに口に入っていたらしい。


「なんで戦い終わってからダメージくるんだよ!」


必死に吐き出そうとするが、精神的ダメージは消えない。


「もう忘れたい今すぐ記憶消したい」


しかしその直後、体に変化が起こる。


「……あれ?」


腕に力を入れると、明らかに以前よりも強い。


「え、ちょっと待て……」


視界が高い。


「伸びてる……?」


「伸びてるね」


「なんでだよ!」


「たぶん唾の影響」


「理由が最悪すぎる!」


だが確実に力は増している。


「複雑すぎるだろこれ……」



ギルドに戻り、ギルドマスターにオークボスの一部を提出する。


空気が変わる。


「……認めてやろう」


ガルドの一言でようやく評価が確定する。


「よかった……」


ガルドはしばらく俺を見てから口を開く。


「面白いな」


「え?」


「普通じゃない。」


「それ昨日も言われました」


「普通では勝てん」


その言葉には妙な説得力があった。


「……当ギルドの幹部に任命する。部下20人を好きに使え!」


「え?マジ?やったぁ!」


ギルマスはわずかに笑う。


「力はある、あとは使い方だ。」


「プレッシャーかけないでくれます?」


「後で俺が訓練してやろう。」


「ギルマスが俺に直接?!」


ギルマスが直接指導するというのだから訓練は断れそうもないな。


「そうだ。明日の朝、ギルドの中庭で待ってるぞ。」



こうして俺は紅蓮の牙の幹部となり、状況はさらに意味の分からない方向へ進んでいった。


「賞金首で幹部で体質変化って、情報量多すぎるだろ俺の人生……」


「面白いね」


「ほんと他人事だな!」


それでも進むしかない。


「……まあいいや、やるしかないか」


こうして、俺はギルマスに認めてもらえた。


(続く)

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