デブ、ギルドに入る。
◇
「……帰りたい」
「無理」
「だよな!!」
そんな会話をしてから数日後。
俺とレナは森を抜け、ついに――
「うおおおお……街だ……!!」
石壁に囲まれた巨大な都市が目の前に広がっていた。門の前には人、人、人。鎧を着たやつ、ローブのやつ、明らかに強そうなやつ、そして俺みたいに場違いなやつ。
「ここが“ギルド都市グラディア”」
「名前からして強そう」
「実際強いよ。ここ、冒険者の中心地だから」
レナは慣れた様子で歩き出す。俺はその後ろをついていく。不審者だ。
門番に止められるかと思ったが――
「……通ってよし」
一瞬で通された。
「え、いいの?」
「見れば分かるでしょ」
「何が!?」
「“ヤバいの倒してきたやつ”の匂い」
そんな匂いあるの!?強者のオーラ的な?
◇
街の中は、活気に満ちていた。
武器屋、防具屋、露店、酒場。どこもかしこも活気に溢れている。
「すげぇ……」
「田舎者丸出し」
「うるせぇ!!」
だが一番目立つのは――中央にそびえる巨大な建物。
「……あれが?」
「ギルド本部」
でかい。とにかくでかい。学校どころじゃない。ほぼ城。
「ここにはいくつものギルドが入ってる」
「いくつも?」
「この街、ギルド同士での派閥争いが最も激しい。」
物騒!!
「え、仲良くしないの?」
「するわけないでしょ。依頼の奪い合い、縄張り争い、資源の独占……全部戦い」
世知辛い!!
「で、どこ入るの?」
「……え?」
「ギルド。入らないと仕事ないよ」
マジかよ就活かよ!!俺の弱点の一つ!
「俺面接とか苦手なんだけど」
「腹でどうにかなるでしょ」
「ならねえよ!!」
◇
ギルド本部内部。
中も広い。広すぎる。受付がいくつも並んでいて、それぞれ違う紋章が掲げられている。
「いい?ここには大小合わせて十以上のギルドがある」
「多いな」
「その中で“トップ3”が別格」
レナが指を折る。
「一位、“蒼天の剣”。王国直属レベルの超精鋭」
「強そう」
「二位、“黒牙”。超実力主義の戦闘狂集団」
「怖そう」
「そして三位――」
レナが少しニヤッと笑う。
「“紅蓮の牙”。一般騎士レベルの強者グループ」
なんかバランスいい!!
「そこに入る」
「え、三位でいいの?」
「一位と二位は面倒」
リアルな理由!!現実的!!
◇
受付へ。
赤い紋章のカウンター。そこにいたのは――
「いらっしゃいませ。紅蓮の牙へようこそ」
綺麗なお姉さん。
「加入希望?」
「はい」
レナが即答する。
「実力証明は?」
「ダンジョンボス倒しました」
――空気が止まった。
「……え?」
「このデブが」
「デブ言うな!!」
受付のお姉さんがゆっくり俺を見る。
上から下まで。
そしてもう一度見る。
「……本当に?」
「証拠は?」
レナが小さな結晶を取り出す。エリシア戦で出たやつだ。
それを見た瞬間。
「……っ!!」
受付の顔色が変わる。
「……確かに、ボスコア……それも上位……」
ざわざわざわ。
周りの冒険者たちがざわつき始める。
「マジかよ……」
「こいつが……?」
「嘘だろあの体型で……」
全部聞こえてるからな!!
「……分かりました」
受付が深く頷く。
「あなた方の加入を認めます。明日、会員証を発行しますね。」
「おおおおお!!」
「よかったね」
「就職成功!!」
こうして俺たちは――
“紅蓮の牙”に所属することになった。
◇
――だが。
問題はそこからだった。
「おい見ろよ……」
「あれが例の……」
「ボス倒したっていう……」
ヒソヒソヒソ。
めっちゃ見られてる。
「……なんか視線痛い」
「有名になったね」
「嬉しくねえ!!」
そして――
「おい」
ガタイのいい男が近づいてくる。あ、俺なんかやりましたかね?
「お前が“あのデブ”か?」
「名前で呼べ!!」
だが男はニヤニヤしている。
「通り名、もう決まってるぜ」
「え?」
「お前、“ブタエル”な」
「は?」
一瞬理解できなかった。
「ブタ+エンジェル」
「最悪のネーミングセンス!!」
周囲が爆笑する。
「似合いすぎだろ!」
「腹で戦って飛べない天使とか!」
「完成度高ぇ!」
うるせえええええええ!!
「やめろ!!その名前やめろ!!」
「無理だな」
「なんで!?」
「もう広まってる」
終わった。
完全に終わった。
俺の異世界人生、通り名“ブタエル”で確定した。
◇
だが――
本当の問題は、その夜に起きた。
◇
「……ん?」
宿屋で寝ていると、外が騒がしい。
「なんか外うるさくない?」
「……ちょっと待って」
レナが窓から外を見る。
その瞬間。
「……は?」
固まった。
「どうした?」
「……あんた、やばいかも」
「え?」
レナが怪しい紙を持ってくる。
そこに書かれていたのは――
『賞金首』
そして。
デカデカと描かれた――俺の顔(ちょっと美化されてる)。
「……え?」
「読んで」
震える手で読む。
『対象:通称ブタエル
賞金:1000000 Raul』
「は???????」
桁おかしい!!!
「ひゃくまん!?」
「うん」
「なんで!?」
「ダンジョンボス倒したから」
雑!!!
「裏ギルドに目つけられた」
「裏ギルド!?なんかカッケー!!」
「表に出ない連中。暗殺、誘拐、違法依頼専門」
最悪じゃねえか!!!
「つまり?」
「今この街にいる全員、あんた狙う可能性ある」
地獄!!!
「終わったかもな……..」
◇
「いやいやいや!!無理無理無理!!」
「落ち着いて」
「無理!!」
俺、今日加入したばっかだぞ!?
チュートリアル終わった瞬間に賞金首!?
難易度バグってる!!クソゲーやん。
「どうすんの!?」
「簡単」
「ほんとか!?」
「強くなるしかない」
脳筋!!
だが正論!!
「あと」
「まだあるの!?」
「私も巻き込まれてるから」
「ごめん!!!」
土下座。
即土下座。
「まあいいよ」
「優しい……」
「面白いし」
理由それかよ!!まあ、いいや!
◇
その時。
――ドン!!
扉が蹴破られる。
「へへへ。見つけたぜぇ……ブタエル」
黒装束の男たち。
「ブヒ?!」
「早速来たね」
早すぎる!!!今日、安心して寝れないかもな。
「賞金、いただくぜ」
ナイフが光る。
完全に殺る気。やべぇ。
「どうする!?」
「いつも通りでいいんじゃない?」
レナが軽く言う。
「いつも通り?」
「腹で殴る」
「それしかねえのかよ!!」
だが――
それしかない。
「……やるか」
俺は立ち上がる。
「ブタエルって呼ぶなよ……?」
「無理だな」
「だよな!!」
こうして――
賞金首“ブタエル”としての、
地獄みたいな逃走劇生活が始まった。
◇
その夜、街のあちこちでこう噂された。
「新しいバケモンが来た」
「脂肪でボス倒したらしい。」
「しかも飛べない天使」
そして――
「賞金100万のデブ」
やめろ!ほんとにやめろ。
だが。
誰も知らない。
このどうしようもない能力が、
この街の勢力図すら変えることになるなんて――
まだ、誰もデブが脅威になるなんてーー。
–––(続く)




