第33話-2 炉火
小屋に着き、二人でそれぞれランプや暖炉に火を仕込む。
小屋の中が明るく、温かくなった。
アレクサンダーは暖炉に火を焚べる作業も板について、手際よく部屋を暖められるようになってきた。
ミハエルは鞄の中身をすっかり片付け終わると、椅子に腰かけてホッとくつろいだ顔をしている。
アレクサンダーは、思わずその姿に見入る。
出会った最初の頃は常に緊張で体を強張らせていた彼も、最近はアレクサンダーの前でだけ、肩の力を抜くようになった。
級友たちと馴れ合わない様や、隙のない優等生ぶりを知っているだけに、外で普段いかにミハエルが神経を張り詰めているかが分かる。
テーブルの向かいでは、ミハエルがくつろいだ顔のまま、課題や文房具を並べている。
彼にとって、少しは心開ける相手になったということだろうか。
いいや、ミハエルの居場所であるこの小屋に強引に踏み入るようなことをしてきたのだから、彼のほんのわずかな憩いの場所や時間の一部を、アレクサンダーが奪ってきたのかもしれなかった。
秘密主義のこの友人の、普段見ない表情に触れるたびに、アレクサンダーはミハエルがどのような人物で、何を感じているのか、どこまでも知りたい思いに駆られる。
(ほら、あれだ)
人間、隠されているものは覗き込みたくなるのが性というものである。
(ミハエルが自己開示しない分、余計に興味を掻き立てられるんだ、多分)
アレクサンダーはそう思った。
アレクサンダーは、鞄から課題を取り出すと、腰かけ椅子に座り込んで、小屋の中をぐるりと見渡した。
相変わらず小屋の中は粗末だ。
漆喰の壁の汚点は消えようがないし、家具の隙間もふさがりようがない。
けれどもミハエルの手によって床はいつも掃き清められ、日用品は几帳面に管理されている。
初めて小屋に足を踏み入れた時は唖然としたものだが、アレクサンダーは次第にこの場所に居心地の良さを覚えはじめていた。
こうしてテーブルで向き合って課題をこなす時間。
一緒に紅茶やお菓子を楽しむ時間。
今まで人と賑やかに過ごすことばかりしてきたが、ミハエルと静かな時間を過ごすのは、秘密の隠れ処にいるような気分にさえなるのだった。
ただ、気になるのは、ミハエルはこの場所で時折、物憂げな顔をする時があることだ。
静謐さをまとい清らかさを漂わせながらも、時折、内気というには何か言葉が足りないような、その内面に何か複雑なものを抱えているのではないかと思う瞬間がある。
それが何なのかは分からないが―――……。
アレクサンダーはミハエルの繊細な部分に上手に触れる術を知らない。
性格が単純で強引に扉を叩き破ってしまう自分が無神経に触れてしまえば、前みたいにミハエルを傷つけるかもしれない。
アレクサンダーがこの場所にいることをミハエルが受け入れてくれることが、何かとても貴重なことに思われた。




