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金庫の中に入っていた紙にはこう書かれてあった。
私はこの村の村長をしている森田茂だ。
ここに書いてあることは信じられないかもしれないが、全て事実である。私は奇跡の子を救うために…
いや、ただの一人の子供を救うために、私が知った事実を世間に公表することに決めた。だが、もしも公表できなかった時の為に、公表する前に私が死んでしまった時の為に…ここに書き残して置くことにしようと思う。
奇跡の子は存在しない。
奇跡の子と呼ばれる男の子はいるが、
あの子は奇跡の子なんかじゃないんだ。
ただの普通の少年だったんだ。
ことの始まりは隣の村が火災によって多くの人を失ったことから生存者の方々をこの村に受け入れるか否かを村の人達と話し合いをしたことからになるだろう。
私は悩んだ。本当に受け入れてもいいのだろうかと…
だが、話し合いの結果、困っている人達を放ってはおけないと決断し、移住してもらうことにした。
だが、それは間違っていたのかもしれない。
隣の村には奇跡の子と呼ばれている子供がいたのだ。
父親の名前は影宮九次。そして、その息子の影宮恭次朗が奇跡の子と呼ばれていた。
村の人達は不幸や業を浄化してくれると言う話を信じていて、本当に救われたんだと嬉しそうに話していた。
不幸や業を浄化するとはどういう意味なのだろうか?
私にはわからなかったが、救われたと話す人達の生活環境が変わる訳もなく、ただ気持ちが楽になっているのだろうな…とだけ考えていた。村の人達の気持ちが少しでも楽になり、住みやすい環境になるのならそれもいいだろうと軽く考えていた。
だが、今考えるとそれがいけなかったのだ。
村の人達は徐々に奇跡の子がいなければ生きていけないような状態になっているように感じたのだ。
明らかにおかしい。
だから、影宮九次を調べることにした。
奇跡の子に浄化してもらう為には、お金がいる。
最初は少しの金額だが、回数が増えるごとに金額も上がっていくようだ。これは詐欺なのかもしれないと私は思った。
だが、浄化と言われているところを目撃して、
私は言葉を失った。
大人達が金を払い、ナイフで子供を傷つけていたのだ。
ナイフだけではなく、小瓶の液体を飲ませたり…
その姿は常軌を逸していたのだ。
影宮恭次朗は身体中から血を流し、苦しそうに地面に蹲っている。その姿を見て、ニヤニヤと笑いながら感謝している。
明らかにおかしい。狂っている。
私は信頼できる村の人に、あれはおかしいっ!狂ってるとしか思えないっ!と話をしたが、ニヤニヤと笑いながら浄化してくれてるんだよと言われてしまった。
もうこの村の中で正気を保っているのは私だけかもしれない。
そう考えると、隣の村で起きた大きな火災も奇跡の子が…いや、影宮九次が関わっていたのではと疑っているが、私では調べることができなかった。
影宮恭次朗は影宮家の中にある、檻の中で生活させられていることを突き止めた。
私がどうにかして影宮恭次朗を救うことができないかと考え、影宮家に忍び込み、影宮恭次朗と会うことができた。
私はこの村の村長であることを伝え、
ここから助けられるように動くことを伝えたが、
影宮恭次朗は私をただ見つめ、ニヤニヤと笑っていた。
どんなに必死に伝えても、私の気持ちは届かなかった。
影宮恭次朗に不思議な力があるのかなんてわからないが、一人の子供を犠牲にして救われることなどあってたまるか。
影宮恭次朗の心はきっと、もう壊れてしまっているのかもしれない。だが、あの狂った世界から救えるのではないかと考えている。もしも私が救うことができなかったのなら、これを見つけた方にどうかお願いしたい。
どうか一人の少年を…
影宮恭次朗をお救いください。
森田茂




