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カラコロカラン
「リンリンいる〜?」
黒川美沙がピョコンと効果音がつきそうな感じで入ってきた。この人は何かするたびに効果音がつきそうな動作をするなと思いながらも、タバコに火を灯した。
「いるなら返事しなさいよ!」
「おっ!ミサミサじゃん!やっほー!」
「タッちゃんもいたのね!なんか忙しそうにしてるじゃない?」
「んー?そうなんよ!依頼があってさ!今から調べに行くからさ!俺は行くんよ!」
「そうだったのね!気をつけて行ってきなさいよ!」
「あんがと〜。じゃあ、俺は行ってくるわ!」
橘は元気よくそう言って、事務所から出て行った。
カラコロカラン
「それで、リンリンは何してるの?」
「…見ての通りですが」
僕は天井に煙を吐き出してから、コーヒーを入れる。
「…住岡さんも飲まれますか?」
「コーヒーですか?」
「…そうですね」
「あの…いただきます」
僕は住岡楓の分をコーヒーを入れ、カウンターに置く。
「ミサの分はないわけ?」
「…美沙さんも飲まれるのですか?」
僕がそう聞くと、子供扱いしないで!と言われてしまった。黒川美沙の分のコーヒーを入れ、カウンターに置く。
「ミルクとか砂糖とかないわけ?」
「…ああ、必要ならそこにありますのでお使いください」
「あの、私も使っていいですか?」
「…もちろんですよ。ご自由にお使いください」
僕はコーヒーを一口飲み、天井に煙を吐き出す。
「この可愛い子は誰なの?リンリンってすぐに可愛い子と知り合うのね?」
「…住岡さんは依頼人ですよ」
「ふーん。そうなんだ」
「あ、あの…ミサミサですよね?」
「ミサのこと知ってるんだ?」
「は、はい!もちろんです!私は住岡楓です!神影さんには探して欲しい人がいまして…お願いしているんです」
「そうなんだ〜。じゃあ、カエポンね!カエポンって可愛いわよね?何かアイドルとかモデルとかしてないの?」
「そ、そんな!可愛いだなんて…私はただの大学生です…」
「え〜!そうなの!こんなに可愛いのに!そういうの興味ってないの?」
「そ、そんな私なんか…ミサミサみたいに可愛いわけじゃないし…そ、その…」
「カエポンは可愛いわよ!もったいないって思っちゃった!」
ガールズトークってこんな感じなんだろうか…
お互いをお互いに可愛いと言い合って、
何が楽しいんだろう…
可愛いというのは人それぞれ感じ方も違うだろうに、
何を基準として判断しているのだろうか?
僕にはわからない世界だなと思っていると、
黒川美沙がねぇ、リンリンさと話しかけてきた。
「リンリンはお仕事しなくてもいいの?」
「…そういう美沙さんはどうなんですか?」
「ミサはお仕事の合間にリンリンに会いにきてるんじゃない!そういうことは察してわかりなさいよ!もう!この間もそういう話したのに覚えてないの?」
「…そうでしたね」
「あの…神影さんはミサミサと仲が良いんですね」
「…そうですか?」
「そうですか?じゃないの!そこはそうですねじゃないの?ミサのことをどう思ってるの?面倒だなんて思ってないでしょうね?」
「…そんなこと…ありませんよ」
「その間はなによ!その間は!そんなこと思ってるけど、思ってるって言ったらもっと面倒だろうから…ありませんよって言っておけばいっか〜じゃないのよ!」
「ふふふっ」
僕と黒川美沙の会話を聞いて、住岡楓が笑った。
「あっ!ご、ごめんなさい!でも、本当に仲が良いんだな〜って思ってしまって…」
「ミサはリンリンと仲良しさんなんだもん!そうよね?」
「…そう…ですね」
「だから!その間はなによ!…もう!こんなに可愛いミサが仲良しさんだって言ったら喜ぶところじゃない!」
「…そうですか」
「そうですよ〜っ!」
カラコロカラン
「楽しそうな声が外まで聞こえてたけど?」
柚葉さんが微笑みながらそう言って入ってきた。
僕は返事を返さずに、コーヒーを一つ入れ、
カウンターに置いた。
「ありがと〜」
「お姉様!聞いてよ!リンリンったらね!ミサのこと面倒だって思ってるのよ!ヒドイでしょ?」
「あら?そうなの?」
コーヒーを飲みながらそう聞かれたが、
僕は何も返事を返さなかった。
住岡楓が柚葉さんを見て、誰だろうって表情をしている。
「あら?この子は誰かしら?」
「お姉様!カエポンよ!可愛いでしょ?」
「そうね〜」
「は、初めまして。住岡楓です」
「初めまして。楠木柚葉です。楓ちゃんは鈴にお仕事の依頼に来たのかしら?」
「は、はい!探して欲しい人がいまして…」
「そうなのね〜。見つかるといいわね」
「あ、ありがとうございます」
住岡楓は少し悩んだ表情をした後に、
あの、すいません…と僕に尋ねてきた。
「神影さんは…その…色々な呼ばれ方をしているんですね」
「…そうですね」
「リンタロウさんですか?スズタロウさんなんですか?」
「リンタロウでもスズタロウでも好きに呼んでください。どちらでも同じ名前に変わりはありませんので」
「そ、そうですか…」
「楓ちゃん。鈴はこういう人なのよ。変わってるけど、優しい人だから安心してね。そう言えば、橘くんはどうしたのかしら?」
「タッちゃんは調べに行く〜ってさっき出て行ったよ」
「そうだったのね〜」
「リンリンったら、タッちゃんに働かせて、自分はコーヒー飲んでるのよ!」
そういうなら帰ってくれないかな…
帰ってくれたら僕も調べられるんだけど…
「ミサちゃん。鈴はね、私たちの為にここにいてくれてるのよ〜。そうでしょ?」
「…そうですね」
「こうして鈴がいてくれるから、美味しいコーヒーが飲めるのよ?私は毎日飲みにきてもいいって言われているのよ?」
「…毎日とは言った覚えはありませんが」
「私は毎日飲みたいと思っているのよ。いつでも飲みに来ていいって言ってくれたわよね?」
「…毎日とは言っていませんが」
「だからね、私は毎日飲みにくるようにしてるのよ」
「お姉様!そうだったんだね!リンリンもお姉様の為に毎日コーヒーを入れてあげるなんて優しいじゃない!それならそうと言ってくれればいいのに!」
「…だから、毎日とは言っていませんが」
「そうなのよ。だから、ミサちゃん。鈴のことを責めないであげて。私の為に待っていてくれたんだから」
「わかった!もう〜リンリンったら!最初から教えてくれたらよかったのに〜!」
「…もういいです」
僕はコーヒーを一口飲み、天井に煙を吐き出した。
「神影さんのお知り合いの方は綺麗な方が多いんですね」
「…そうですか?」
「あら、楓ちゃんは嬉しいことを言ってくれるのね〜」
「お姉様は綺麗だもんね!」
「ミサちゃんも、ありがと〜」
柚葉さんは黒川美沙の頭を撫でた。
「でも、楓ちゃんも可愛いと思うわよ〜」
「あ、ありがとうございます!」
あー、またガールズトークが始まるのか…
どうか僕に話題を振らないでくれ…
そう思いながら、天井に煙を吐き出した。




