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第十九章、いざ開幕!
目が覚めた時、いつも感じることは
あー、僕はまだ生きているんだな。
ただそれだけだ。
生きている喜びもなければ、悲しみもない。
ただそれだけだ。
普通の人は生きているんだなと感じる瞬間は、
いったいどれだけあるのだろうか?
生きている喜びを感じる瞬間は…
生きている悲しみを感じる瞬間は…
僕は人間なのだろうかと考えてしまうこともある。
普通とはいったい何だろう?
一般的多数派の意見が普通だという事は、
理解しているが、人それぞれ感じることは違う。
だから、普通という言葉には全く別の意味にも捉えることができるのだろう。結局はその言葉を受け取る人次第なのだ。
僕は自分のことを考えるのをやめてしまった。
だが、柚葉さんの言葉と黒川美沙の言葉が、
頭をよぎってしまう。
僕は…僕のことを考えなければならないのだろうか?
そう思い、ため息をついた。
カウンターにはコーヒーが置かれている。
これはいつものことだ。
ここには僕しかいない。
そう生きている人は僕しかいないのだ。
だが、ずっと僕には見えている。
白い肌に、長い黒髪。
名前の知らない女性のことが…
「…貴女は僕に…何を伝えたいんですか?」
僕の言葉は何もない空間に消え去った。
カラコロカラン
「グッドモーニーング!!」
橘が大きな、元気な声で入ってきた。
「おーい。テンション低めだぞ〜」
そう言いながら、爽やかな笑顔で、さぁご一緒にと笑いながらグッドモーニーング!と言った。
「…元気だな」
「リンちゃんも体調はもういいんっしょ?」
「…そうだな」
「最近はなーんも依頼がないね〜」
コーヒーを入れて、タバコに火を灯す。
「リンちゃんさ〜。最近、なんかあったん?」
「…何で?」
「んー?なんとなくだけどさ…悩みとかあるんじゃない?」
「…悩み…ね」
「そんな感じがしただけだからさ!別に何もないならいいんだけどさ!なんかあったんなら話せよな〜。俺とリンちゃんの仲だろ?子供の頃からずっと一緒にいんだからさ!なんとなくわかるっての!」
「…そうか。僕は悩んでいたのかな…」
「んー?リンちゃんもよくわかってない感じなん?それなら、俺が言えることは少ないかもしんないけど…なんかあったら話せよ!たまにはタッちゃんを頼れっての!」
「…そうだな」
コーヒーを一口飲み、天井に煙を吐き出した。
橘はうし!と気合を入れて、ソファに座った。
何のために気合を入れたのかは、
全く意味がわからないが、橘らしいなと思った。
カラコロカラン
「あの…ここが神影探偵事務所でしょうか?」
「イエス!!ここが神影探偵事務所さ!」
「…どうかされましたか?」
若い女性が困った表情で入ってきた。
「あ、あのですね…」
「とりあえず、立ち話もあれっしょ?」
橘はこちらへどうぞ〜と爽やかな笑顔でソファへ導き、
素早くお茶をグラスに注ぎ、彼女の前に置いた。
まるで、ウエイターのような流れるような動きだな…
僕はタバコの火を灰皿で揉み消し、
コーヒーを持って、いつものソファに腰掛ける。
「俺の名前は橘龍生!リュウセイじゃないかんな!」
「は、はい…。橘さんですね」
橘は元気よく自己紹介をして、
タッちゃんって呼んでな!と言っている。
僕は静かに名刺を渡した。
「神影…リンタロウさんですか?」
「リンタロウでもスズタロウでも好きに呼んでください。どちらでも同じ名前に変わりはありませんので」
「そ、そうですか…」
彼女は困った表情で頷いた。
「…それで、どうかされたんですか?」
「は、はい…人を…探して欲しいんです」
「それって家族とか親しい人なんすか?」
「いえ…その…名前もわからなくて」
「…名前もわからない人を探しているんですか?」
「は、はい。調べてもらえそうなところには行って見たんですけど…どこも話を信じてくれなくて…。それに…見つけることなんて出来るわけがないって言われてしまって…その、ここなら探してもらえるんじゃないかと思って…その!お願いします!」
彼女は彼女なりに調べようとしてみたが、
調べることができなかったようだ。
名前の知らない人を探している…
詳しく聞いてみないことにはわからないな。
「…手掛かりもなしに探すことは難しいと思いますが」
「それはわかっています。でも、どうしても探して欲しいんです!」
「リンちゃん…とりあえず、話は聞こうぜ。それでどんな人を探してるん?」
橘がそう聞くと彼女は真剣な表情でこう言った。
「奇跡の子を探して欲しいんです」




