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第十八章、いざ開幕!
カウンターの方から声が聞こえて、目が覚めた。
これは柚葉さんの声だ。
誰と話しているんだろう?
「どうして何も話してくれないんですか?」
カウンターに座り、誰もいない方に話しかけている。
「…柚葉さん。誰と話しているんですか?」
「あら、起こしちゃったかしら?」
「…いえ、大丈夫ですよ」
僕はいつものソファから身体を起こし、
カウンターへと歩いていく。
カウンターにはコーヒーが二つ置かれていた。
「…柚葉さんがいれてくれたんですか?」
「…ん〜…そうね〜」
何とも言えない返事が返ってきた。
タバコに火を灯してから、コーヒーを一口飲む。
今日のコーヒーはいつもと同じ味がした。
カララコカラン
扉、壊さないでほしい。
「おい!神影いるか?」
山村さんがいつも通りに入ってきた。
そう…いつも通りに…
「…山村さん。いつも言ってますよね?」
「あ?なんだって?」
この人は…橘や僕を説教するくせに、
自分が注意されたことは本当に聞かない人だな…
「んだよ!元気そうじゃねーか!ばぁちゃんが見舞いに行けってうるさくてよ!ばぁちゃんまで押しかけようとしてたから様子見にきてやったけどよ、大丈夫そうじゃねーか!」
「…そうですね」
「おっ!なんだ!彼女さんもいるじゃねぇか!あれか?付きっきりで看病でもしてもらったか?ん?」
「はい。付きっきりで看病しましたよ〜」
「マジかよ!ラブラブじゃねぇか!」
山村さんは嬉しそうに笑っている。
あれから本当に彼女だと信じてるんだな…
「…柚葉さんは僕の彼女なのですか?」
「私は鈴の大事な人でしょ?」
「あ?なんだなんだ?痴話喧嘩か?ケッ!そういうのはな!二人きりの時にしやがれっ!」
「…痴話喧嘩に見えるのなら山村さんは重症ですね」
「あ?なんだって?お前喧嘩売ってんのか?」
「…いえ、事実を言っているだけですが?」
「んだよ!お前ら付き合ってんだろ?」
「私は鈴の大事な人なので」
「おら!彼女さんはそう言ってるじゃねぇか!」
「…それが付き合っていると判断した理由ですか?山村さんにとって大事な人と言うのは付き合っている人だと思っているのですね」
「あ?ちげーのかよ?」
「…大事な理由には様々あると思うのですが、家族や友人、恋人も含まれるかもしれませんが…それを恋人と断定するのはいかがなものでしょうか?」
「あ?まどろっこしいな!んで!どっちなんだよ!」
「私は鈴の大事な人ですよ?」
僕はタバコに火を灯してから、ため息をついた。
「…もうどっちでもいいです」
カラコロカラン
「リンリンいる〜?」
黒川美沙がピョコンと効果音がつきそうな感じで、
入ってきた。僕は天井に煙を吐き出した。
「あら、ミサちゃん?」
「あっ!お姉様!」
黒川美沙は柚葉さんを見ると嬉しそうに駆け寄った。
尻尾があったらフリフリと振っているんだろう…
「お姉様!元気にしてましたか?」
「そうね〜」
「おいおい、何だよ?この子娘は?」
山村さんが黒川美沙を見て、ビックリしているようだ。
まぁ、いきなりハイテンションな子犬系女子を見たら、
誰だってそうなるだろう…
「子娘ってなによ!ミサはミサよ!」
黒川美沙はキャンキャンと吠えている。
「あー!うるせぇな!ミサだって?」
「そうよ!おばさんは知らないの?ミサはアイドルのミサよ!リンリンの周りって本当に世間に疎い人が多いのね!」
「お、おばさんだとっ!私はまだそんな年齢じゃねぇぞっ!」
「ミサよりず〜〜っと年上なんだからおばさんじゃない!」
山村さんと黒川美沙がじゃれあっているようだ。
楽しそうで何よりだな…
僕はそう思いながらも、コーヒーを二つ入れ、
カウンターに一つ置く。
「ありがと〜」
僕は返事を返さずに、天井に煙を吐き出した。
「ねぇ、鈴?止めなくていいの?」
「…楽しそうにしてるじゃないですか」
「そうかしら?」
「…僕にはそう見えますね」
ふ〜んと言った柚葉さんは、
楽しそうにしている二人を見つめていた。




