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気がつくと事務所の天井が目に入った。

僕はいつものソファに寝ていたようだ。

身体中に痛みを感じるが、身体を起こしソファに座る。

コーヒーの香りがしたので、カウンターの方を見ると柚葉さんがコーヒーを淹れていたようだ。


「あら?起きたのね…勝手に借りてるわよ?」

「…大丈夫ですよ」


窓から外を見ると真っ暗になっており、

太陽も眠りについてしまったようだ。

タバコを吸おうと立ち上がろうとすると、

柚葉さんに止められた。


「鈴…まだ身体を安静にしていて」

「タバコが吸いたいのですが…」

「ちょっと待ってね。コーヒーと一緒に灰皿も持っていくわ」

「…ありがとうございます」


柚葉さんにそう言われたので、ソファに座ったまま、全身の力を抜きソファへと身体を預けた。

目を瞑りながら、座っていると柚葉さんがコーヒーと灰皿を持ってきてくれたようだ。柚葉さんは自分が飲む分のコーヒーも持ってきて、僕の隣に座った。

柚葉さんはコーヒーを飲んで、ため息をついた。


「やっぱり…鈴のコーヒーのようにはいかないものね」

「…そうですか?」


僕もコーヒーを一口飲む。苦味が強い。

だが、飲めないほどでもないなと思った。


「ほら、美味しくないでしょ?」

「…飲めないほどではありませんよ」

「でも、自分で淹れた方が美味しいでしょ?」


僕は返事を返さずにタバコに火を灯した。


「…あれからどうなったのでしょうか?」

「鈴はどこまで覚えているの?…もう身体は大丈夫なの?」

「…そうですね。痛みはありますが、動けないほどではありませんよ」

「嘘つき。動くのも辛いくせに…」


柚葉さんはそう言って、僕の左腕をつついた。

痛いからやめてほしい…


「…水晶玉が砕け散ったところまでは覚えていますが…。あれからどうなったんでしょうか?榊原家の方々とはどうなりましたか?」

「…そう。覚えているのはそこまでなのね…」


柚葉さんはそう言って、僕のことを見つめている。


「榊原家のことはもう大丈夫よ。水晶玉が砕け散った後は鈴と一緒に屋敷を出て、橘くんに事務所まで送ってもらったわ。あれから鈴は丸一日も寝てたのよ」

「…そうだったんですね」

「オババ・サマーがここにきたわ。私と鈴に謝罪をしにきたの。もう私達に危害を加えることはないと言っていたわ。鈴には治療費としてお金も置いていったのよ。あそこに置いてあるから後で確認しておいてね」

「…そうですか。橘は?」

「橘くんは昨日は一緒にいてくれたけど、今日は帰ってもらったのよ。鈴には私がついておくからと伝えたら心配しながらも帰って行ったわ」

「…そうだったんですね。柚葉さんは昨日もいてくれたのですか?」

「当たり前でしょ?私のせいで鈴がこんな目にあったんだから…ちゃんと看病しなきゃいけないでしょ?」

「…ありがとうございます」


頭を下げて感謝を伝えてから、

天井に煙を吐き出した。


「…柚葉さんのお願いを叶えることはできましたか?」

「そうね。思ってもいないことがあったけど…鈴のおかげで榊原家に戻らなくてもよくなったわ…。ありがとう」


柚葉さんは頭を下げて感謝をしている。


「…それならよかったです」

「でも、何でこんなに無茶したの?お願いした私が言うのも変かもしれないけど…」

「…無茶…ですか?」

「そうでしょ?こんなにボロボロになるまで頑張ってくれて…殺されるところだったのかも知れないのよ?」

「…そうですね。ですが、誰かの為に死ねるなら…それも僕の人生だったのではないですか?…まぁ、死にたくはありませんが…」

「私は鈴が死ぬのは嫌よ。鈴の為なら…そう思ったの…」

「…僕は自分のせいで柚葉さんが縛られた人生を送ることが許せませんでした。それに約束もありますからね…」

「…約束?」

「…はい。じいちゃんと約束したんですよ…。大事な人は絶対に守り抜くと…」

「…私は鈴にとって…大事な人なのね」

「…柚葉さんも…ですかね」

「他には誰がいるのかしら?」


僕は返事を返さずに天井に煙を吐き出した。


「まぁ、いいわ。私が鈴にとって大事な人だと思ってもらえてるのなら嬉しいもの…。でも、私にとっても鈴は大事な人なのよ?鈴が傷つくと私は悲しいわ…」

「…それは…申し訳ありません」

「謝らないで…。私の為にしてくれていたことはわかってるから…ありがとうね」


柚葉さんは悲しそうに微笑んでいる。


「いえ、結果的に僕は生きていますからね。柚葉さんのお願いも叶えることができて、よかったですよ」

「そうね…。ありがとう」


タバコの火を揉み消しながら、

僕は柚葉さんに尋ねた。


「…それで、柚葉さんは帰らなくていいのですか?」

「え?何を言ってるの?」

「…いえ、僕はもう大丈夫ですので…。柚葉さんにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないと思いまして…」

「逆に聞くけど、こんな夜道の中…1人で帰れって言うの?」

「…そういうつもりではなかったのですが」

「私は帰らないわよ?今日はここに泊まっていくわ」

「…ですが「泊まっていくわ」

「…そうですか」


柚葉さんは帰らないそうだ。


「鈴が元気になるまでは泊まるつもりで、着替えも持ってきてるのよ?鈴はここで生活してるんでしょ?」

「…そうですね」

「お風呂はどうしてるの?」

「…奥にシャワーがありますよ」

「あら、そうなの?借りてもいいかしら?」

「…どうぞ」


柚葉さんは荷物を見ながら、ありがと〜と言っている。


「あら…ねぇ、バスタオルはあるかしら?」

「…奥にありますよ。好きにお使いください」

「ありがと〜」


柚葉さんは笑いながら荷物を持って、

奥へと歩いていった。


「ねぇ、鈴。…覗いちゃダメよ?」

「…覗きませんよ」


ふふっ!と笑って奥へと入っていった。

僕は新しいタバコに火を灯してから、

コーヒーを一口飲む。

やっぱり、少し苦いなと思った。

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