11の6
僕は今、薄暗い廊下を歩いている。
ここか…と僕は思った。
先程、藤代亮太から聞いた話を思い出す。
「神影さん。お願いしたいことがあるのですが…」
「何でしょうか?」
「いえ、信じられないかもしれませんが…」
そう言って藤代亮太は話しはじめた。
この旅館には奥の間と呼ばれる部屋がある。
そこには藤代家が代々お守りしている、
お座敷様がいらっしゃるようだ。
「お座敷様のお力をお借りして、藤代家は繁栄してきました。ですが、妹の紗絵が言うのです…お座敷様が怖がっていると。父上も母上も構ってほしいだけの嘘だろうとおっしゃているのですが…私はそうは思えなくて…」
「…そのお座敷様が何を怖がっているのか…それを調べてほしいと言うことでしょうか?」
「はい。そうです」
「…その奥の間には入ることができるんですか?」
「神影さんが調べてくださるなら、父上に許可をいただこうと考えております」
「…そうですか。正直な事を申しますと、僕は専門外だと思うのですが…」
「それでも…神影さんにお願いしたいのです…」
「…わかりました」
その後、よろしくお願いしますと頭を下げて立ち去っていった藤代亮太を思い出して、勝手なことをしてるなと僕は思った。
許可を貰わずにここまできてしまったからな…
僕は奥の間だと思われる場所の前まで来ていた。
自分でもなんでこんなことをしているのか、
わからなかったが、奥の間の扉に手をかける。
チリン
左腕から鈴の音が聞こえた気がした。
僕はこの音が大好きだったが、
二度と聴きたくないと思うこともある。
「お客様」
僕が歩いてきた廊下の方から声が聞こえた。
だが、その声を聞いて全身に鳥肌が立ってしまった。
何だこの声は?
嫉妬なのか怒りなのか悲しみなのか…よくわからないがドス黒い感情が渦巻いているように感じるのに、無機質な声
声がした方を見ると、笑顔で仲居さんが立っていた。
「こちらは関係者以外立ち入り禁止でございます」
僕は何も返事を返さずにその仲居さんを見ている。
仲居さんは笑顔なのだ…笑顔なのだが…
笑顔のまま表情が固まっているような、
目が線のようになっていて瞳が見えない。
音もなくスーッと僕に近づくと手をと言われた。
てを?最初何を言っているのか理解できなかったが、
扉に手をかけたままな事に気付き、
ゆっくりと手を離す。
「どうぞ、お部屋にお戻りになられてください」
「…申し訳ありません。失礼します」
僕はそう言って、仲居さんの横を通り歩く。
喫煙所がある庭の端まで戻り、
タバコに火を灯す。
冷や汗をかいていたことに気付いて苦笑する。
空へと煙を吐き出した。
何だったんだ?
僕はそう思ったが、答えが返ってくるわけもなかった。




