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僕は部屋を出ると受付近くまで行き、
旅館の仲居さんに喫煙所はありますか?と声をかけた。
こちらですよと笑顔で案内してくれた。
喫煙所は庭の端にあった。
タバコに火を灯す。
空へと煙を吐き出した。
タバコを吸っていると足元に赤いボールが転がってきた。
何でボールが…と思っていると、
小さな女の子が近寄ってきた。
僕はタバコをもみ消し、灰皿に捨て、
屈んでボールを拾う。
「ごめんなさい!」
「お嬢さんのボールですか?」
「うん!さえのボールだよ」
どうぞとボールを渡してあげる。
「おにいちゃんありがとう!」
「どういたしまして」
「おにいちゃんはここでなにしてるの?」
「そうですね…お空に煙を出していたんですよ」
「おそらにけむり?」
「僕の口からは煙が出るんですよ?」
えー!うそだー!と少女は笑った。
「お嬢さん。そろそろ暗くなってきましたからね、ご家族が心配されてるかもしれませんよ?」
「そうかなー?あっ!おにいさま!」
少女はボールを抱えて、走り去っていった。
笑顔で少女に声をかけている藤代亮太
そうか…藤代亮太の妹か…
少女は少し話した後、奥の方へ歩いていき、
大人の女性と手を繋いで歩いていった。
藤代亮太がこちらに歩いてきた。
「紗絵のお相手をしてくださったんですね。ありがとうございます」
「いえ、たまたまボールが転がってきましたので、拾ってあげただけですよ」
「そうでしたか…神影様ですよね?」
「様付けはやめてください。藤代さん」
「それは申し訳ありません」
僕は新しいタバコに火を灯す。
「こちらのお庭は綺麗にされていますね」
「ありがとうございます。もう暗くなってしまいましたが、明るい時に見ていただいても、また違った良さがありますので、明日にでもお楽しみいただければ幸いです」
「そうなんですね…明日もタバコを吸いにきますので、楽しみにしていますね」
「はい。お食事は広間でよろしかったんですよね?」
「申し訳ありません。僕の分は用意されなくても大丈夫ですので…」
「そうですか…」
空へと煙を吐き出す。
「生きていたんですね…」
「…神影さんとまた、こうやってお話しができる日がくるなんて思っていませんでしたよ」
「…そうですか」
「橘さんは気付かれていましたか?」
「…似てると思っているみたいですが、本人だとは思っていないでしょうね」
「…話されなかったんですか?」
「僕も確信があった訳じゃありませんからね…」
「またまた…わかっていたでしょうに」
藤代亮太は笑いながら話している。
今は藤代亮太として生きているのか…
「あの後のことは聞かれないんですか?」
「…そうですね。藤代さんが生きていられた事がわかっただけで充分ですよ」
「そうですか。まぁ、…一言で説明するなら破滅…でしたね」
「…そうでしたか」
きっと色々とあったんだろう。
僕は彼のことを考えたが、
今、幸せならいいのではないかと思った。
「藤代さんは幸せですか?」
「そうですね。藤代家に入れてもらい…幸せだと思いますよ。妹の紗絵が大きくなってこの旅館を継ぐまで…私が支えると決めていますから」
「そうですか…素敵な人と巡り会えてよかったですね」
「はい。ですが…」
「…どうかされたんですか?」
「神影さん。お願いしたいことがあるのですが…」
藤代亮太は僕にそう話しはじめた。




