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「リンちゃん…その服どうしたん?」
橘が僕に話しかけてくるが、
僕は返事を返さずにコーヒーを淹れる。
タバコに火を灯し、煙を吐き出す。
「なんかオシャレな服じゃん!それさ!」
「…そうか?」
「うん!めっちゃいいじゃん!似合ってるよ!」
カラコロカラン
「やっほー!コーヒーちょうだい」
笑顔で入ってきた柚葉さんはカウンターに座る。
僕は返事を返さずに、コーヒーを二つ入れ、
一つカウンターに置く。
ありがと〜と柚葉さんはコーヒーを飲みはじめた。
「えっ!あ、あれ?なんか…リンちゃんの服と…」
「鈴、ちゃんと着てくれたんだ?」
「…貰いましたので」
橘が僕と柚葉さんを見て、
お揃いじゃないけど…お揃いっぽい…と
よくわからないことを言っているが、
僕は何も言わなかった。
カララコカラン
扉、壊さないでほしい。
「おい!神影!すまんっ!」
「…山村さん。何回言ったらわかるんですか?」
「すまんっ!私は謝ったからなっ!」
カララコカラン
扉、壊さないでほしい。
僕は何回同じことを思わないといけないのか…
「美咲ちゃん…めっちゃ焦ってたね」
「…そうだな」
「なんかめっちゃ謝ってたね…」
「…そうだな」
「どうしたんだろ?」
「…さぁ」
僕はコーヒーを一口飲み、天井に煙を吐き出す。
カラコロカラン
優しい笑みを浮かべながら一人の女性が入ってきた。
そういうことか…
「カー坊、元気にしてたかな?」
「…お久しぶりです」
「美咲には声をかけたんだけどね」
「先程、来ましたが、すぐに帰られましたよ」
「全く…落ち着きがないんだから」
「美里さん、今日はどうされたんですか?」
「カー坊が元気にしとるのか様子を見に来たんだよ」
「…そうですか」
美里さんは事務所内を見回して、
ここも変わらないね…と呟いた。
「ばぁちゃん!久しぶりじゃん!」
「おー、ター坊も元気そうだね」
「俺はめっちゃ元気だよ!」
「うんうん。それが一番だよ」
橘は美里さんと笑顔で話している。
美里さんが柚葉さんを見ながら話しかけてきた。
「カー坊。こちらのお嬢さんは…」
「…柚葉さんですよ」
「初めまして。楠木柚葉です」
「あー、美咲から聞いてるよ。カー坊のお嫁さんだね」
僕の知らない所で勝手に話が進んでいるようだ…
「カー坊には勿体ないぐらい綺麗じゃないか」
「そんなことありませんよ」
「カー坊とお揃いの服かね?…可愛らしいじゃないか」
「ありがとうございます。この間、一緒にお買い物に行ったんですよ」
「うんうん。幸せそうでなによりだよ」
僕は二人の話を流し聞きしながら、
タバコの煙を天井に吐き出した。
「こうして見ると…忠さんにそっくりだね」
「…そうですか?」
「その仏頂面以外はね」
「忠さんって、忠三朗さんのことですか?」
「そうだよ。ここは忠さんの喫茶店だったからね」
「そうだったんですね〜」
「カー坊に接客なんてできやしないだろうから…喫茶店をしなくて正解だったね」
「…そうですね」
「でも、やってることは忠さんと対して変わっちゃいないよ。あの人も困ってる人がいたらほっとけない人だったからね」
美里さんは笑いながら僕に話しかけた。
「ちゃんとご飯は食べてるのかい?どこに住んでるんだい?」
「…僕は大丈夫ですので」
「全く、カー坊は何も変っちゃいないね」
「…申し訳ありません」
「ばぁちゃん!俺はちゃんとモリモリ食べてるぜ!」
「ター坊も相変わらずだね。元気そうでなによりだよ」
「鈴はちゃんとコーヒーのんでるものね」
「…そうですね」
「カー坊は人が作った物は食べないんだから…お嬢ちゃんが作って食べさせてあげるんだよ」
「そうですね〜」
美里さんは子供の頃から心配してくれている。
気持ちはありがたいが…
僕はそう思いながら、タバコの煙を吐き出した。




