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「鈴、約束の日よ」
入ってきた楠木さんは笑顔で神影さんにそう言った。
「…何の話ですか?」
「この間、一緒にお買い物いく約束したでしよ?」
「…考えておきますと伝えましたよね?」
「私はよろしくねって言ったわ?」
「…そうですね」
「じゃあ、行きましょう?」
「…今日だと約束はしていませんが」
「今日は他に約束があるの?」
「…いえ、特にありませんが」
「なら、いまからでもいいでしょ?」
神影さんは返事を返さず、コーヒーを飲んでいる。
楠木さんは神影さんの腕をとって、
そのまま出て行った。
カラコロカラン
私は驚きながら橘さんを見ると、
橘さんも驚いた表情をしていた。
「し、栞ちゃん!今の見てた!?」
「は、はい!見てました!」
「り、リンちゃんが連れてかれちゃった!」
「そうでしたね」
「も、もしかしてだけどさ…」
「…はい」
「偽がとれちゃうのかな?」
橘さんは驚いた表情のまま入口の扉を見ている。
でも、神影さんはそういうことに興味がなさそうだからな…
「で、でも、神影さんですからね」
「…あー、そうだよね。リンちゃんだもんね」
「そういうことはなさそうですよね」
「うん。ないかも」
橘さんはそう言って笑った。
でも、こうやって橘さんと2人きりなるとは思わなかったな…
「栞ちゃん、どうしよっか?」
「えっ?な、何がですかっ!?」
「えっ!どうしたん?」
「い、いえ!何でもないです!」
2人きりだって意識しすぎて変な声がでちゃった…
「リンちゃん出かけちゃったからな〜。依頼とかもないから、俺らもどっか行く?」
「そ、そうですね…」
どうしようどうしようと考えていたら
扉が開く音が聞こえた。
カラコロカラン
「あのー探偵さん…いるっすかね?」
「おい!やっぱ、やめよーぜっ!」
この間、私に声をかけてきた男性が入ってきた。
「あっ!お前らっ!何しにきたんだよ!?」
橘さんが彼らに向かって歩いていく。
「え、あ、あの…探偵さんはいないんすか?」
「だから!やっぱ、やめよーって言ったじゃん!」
1人はオドオドした感じで橘さんに声をかけて、
もう1人は焦った感じでそれを止めている。
「…いや、リンちゃんはいないけど」
「…そ、そうっすか」
「迷惑になるからもう帰ろーぜ!」
「何かあったん?」
そう聞いた橘さんに彼らは話しはじめた。
強引な男性がモテるって感違いをしたまま私に声をかけたけど、全然モテなくてイライラした気持ちをぶつけてしまったのに神影さんが優しくアドバイスをしてくれて、そういう相談にはのれないけど困ったことがあればって名刺をくれたそうだ。
「そうだったんだ」
「…はい。この間はすんませんした」
2人は私たちに頭を下げた。
「それで、今日はどうしたん?」
「俺ら、やっぱりモテたいんすよ!探偵さんにはそういうのはわからないって言われたんすけど…それでも、アドバイスもらえないかなって思って…」
「俺は止めたんすよ!探偵さんに迷惑かかるからやめよーぜって!」
「そ、そうだったんだ」
…はいと声を揃えて2人は答えた。
橘さんは困った表情で彼らに話した。
「リンちゃんってそういうの興味ないからさ〜。正直、リンちゃんに聞いてもアドバイスもらえないかもよ」
「やっぱ、そうすよね!だから、言ったんだよ!」
「…で、でもよー」
「まぁ、俺もどうアドバイスしていいかわかんないけどさ…やっぱり、女の子には優しくしてあげた方がいいと思うよ」
「や、優しくすか?」
「そーそー。強引な男がモテるって言うのは、女性をリードしてあげるって感じなんじゃね?」
「女性をリードする…っすか」
橘さんは悩みながらも話し続ける。
「結局のとこさ。モテるモテないとか関係なくさ、一緒にいて楽しいってお互いが思えなきゃダメじゃね?だから、自分らしくいて一緒に楽しめる女性と出会えたらいいよね」
「そ、そうっすね!その通りっす!」
「や、やべっ!めっちゃいいこと聞けたなっ!」
「ほら!やっぱ、来て正解だったじゃねーか!」
「マジだな!」
大きな声で2人はあざますっ!と頭を下げた。
「いやいや、ただ俺が思ってること話しただけだからさ」
「それでも、何かわかった気がしたんすよ!」
「俺ら!がんばってみます!」
そう言って、笑顔で立ち去っていった。
カラコロカラン
「な、何だったんだろ?」
「そうですね」
橘さんは苦笑いしながら私に聞いてきたので、
イタズラしちゃえと思って話しかけた。
「橘さんは私をリードしてくれないんですか?」
「お、俺は…その…」
「もう!冗談ですよ!」
「そ、そっか!冗談だよね!」
そう言って笑う橘さんのことを可愛いと思った。
私は橘さんとこうやって過ごす時間もいいなって思った。




