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「どういう状況ですか?」
僕が事務所に戻ると橘と頭の悪そうな二人組の男性が今にも喧嘩しそうな勢いで睨み合っているのを見て、ため息をついた。
雨宮栞はアワアワ焦っていて、
柚葉さんはすごく機嫌が悪そうだ…
本当に何があったんだろうか…
「んだよ!テメーにかんけーねーだろっ!」
「そうですか。では、僕の事務所内で勝手に喧嘩をしないでいただけますか?」
「あ?」
「橘…どういう状況?簡潔にまとめて」
「…栞ちゃんにナンパしたやつらが、栞ちゃんについてきて、女性二人に迷惑をかけたとこかな」
それで、柚葉さんは不機嫌なのか…
雨宮栞が焦っている理由もわかった。
橘が簡潔に説明してくれたので、
おおよその理解はできた。
「それで、喧嘩ですか…」
「いや、だからテメーだれだよ?勝手に入ってきて邪魔すんじゃねーよっ!」
「僕は勝手に入ったのではなく、帰ってきた…というのが正解なんですけどね」
「は?意味わかんねーから!」
「そうですね。僕も意味がわかりません。勝手に入ってきたのは貴方達の方ですよね?」
「あ?」
「同じ話をしなければわかりませんか?」
「んだとっ!バカにしてんのか!?」
「いえ、もう一度言わなければ伝わらないのですか?と確認をしているだけですが」
「ちょーしのってんじゃねーぞっ!」
二人組の一人が僕の胸ぐらを掴む。
「…はぁ…正直、営業妨害なんですよね。そうやって居座られてしまいますと…申し訳ありませんが、お帰りください」
「リンちゃん!」
橘が心配そうに僕を見ている。
橘…頼むから手を出すなよ…
「聞こえませんでしたか?」
「テメー…マジで許さねー!」
彼が振りかぶった右手を橘が止めた。
僕の胸ぐらを掴んでいた手を離し、橘を見る。
「おい…お前、リンちゃん殴ろうとしただろ?」
「あ?って、離せよ!」
橘は彼の右手を掴んで離さない。
そのまま右手で胸ぐらを掴み上げ、彼の身体が浮いた。
「なっ!ちょっ!」
「何が…許さねーだっ!もう一回言ってみろっ!」
「橘…タイム、落ち着け」
僕は橘の肩をポンポンと叩くと、彼から手を離した、
すると彼はポスンと尻もちをついた。
「迷惑ですので、どうぞお帰りください」
「んだよっ!もう行こーぜ!」
「チッ…テメーら、覚えてろよ」
カラコロカラン
彼らはそう言って立ち去っていった。
本当にいるんだな…覚えてろよって言う人
「そ、その!ご、ごめんなさい!」
「何で栞ちゃんが謝るのさ」
「だ、だって、私がちゃんと断れてれば…こ、こんなことにはならなかったのにって…」
「いやいや、そもそもあいつらが悪いっしょ?逆によく断ってここまで来てくれたよね!俺はそれが嬉しいわ」
「その…迷惑…でしたよね?」
「迷惑じゃないよ!あー言うやつに声かけられた時はいつでも俺のこと呼んでよ!追い返してやるっ!」
「橘…手は出すなよ」
「わかってるよ!」
僕はコーヒーを淹れ、タバコに火を灯す。
カウンターにいる柚葉さんを見て、声をかけた。
「…不機嫌ですね」
「そうね〜頭の悪そうな人に声かけられたからね〜」
「そんなに嫌だったんですか?」
「…そうね。簡単に言うと、針と糸で口を縫い付けちゃって私に話しかけられないようにしたいと思うぐらいかしら?」
「…そうとう嫌だったんですね」
「そうね〜。鈴、コーヒーちょうだい?」
僕は何も言わずにコーヒーを二つ入れ、
カウンターに一つ置く。
「神影さんも…すみませんでした!」
「…雨宮さんが謝ることではありませんよ」
「えっ…でも、私が…」
「勝手についてきて、勝手に入ってきたんでしょう?雨宮さんには関係ないじゃないですか」
「そ、そうですけど…」
「あのような困ったことがあれば、橘に頼ってください。依頼していただけるのなら、僕もお手伝いはしますので」
「は、はい!ありがとうございます!」
雨宮栞はホッとした顔をしている。
柚葉さんはコーヒーを飲んで、
少し機嫌がよくなったようだが…
「鈴は優しいのね」
「そうですか?」
「いや、俺はあんたがこえーよ」
橘が柚葉さんに話しかけた。
「さっきの怖い発言も本気ですんじゃねぇかなって思っちゃったからね!」
「あら?冗談じゃない」
「いやいや!冗談とは思えんから!この間さ!たまたま見かけたから声かけたらさ!何て言ったと思う!?」
「さぁ?」
僕に聞いてきてもわかるはずがない…
「気安く下の名前で呼ばないでくれる?って言ったんよ!」
「本当のことを言っただけよ?」
「いや!リンちゃんが呼んでるからたまたま言っちゃっただけじゃん!」
「そうなの?じゃあ、もう呼ばないでくれる?」
「呼ばねーよっ!このリンちゃんの偽彼女っ!」
「偽はいらないわよ?」
「うるせー!うるせー!」
橘は子供のように喚いている。
そんなことがあったのか…知らなかった。
「あの、楠「柚葉」
「鈴はいいのよ?」
「…はぁ…柚葉さん、橘とも仲良くしてくださいね」
「あら?私は仲良くしてると思うけど」
「…そうですか」
ニコニコ笑っている柚葉さんにため息をついた。
雨宮栞は橘のことを慰めてくれているようだ。
僕はコーヒーを飲み、タバコの煙を吐き出した。




