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カラコロカラン
「リンちゃん知ってる?」
入ってきて突然、橘が聞いてきた。
「何が?」
「最近さ〜連続猟奇殺人ってのがあるんよ」
「そうなんだ」
「いや、マジで結構ニュースになってんのよ」
「ここにはテレビがないからね…」
あー…たしかにと橘は呟いた。
コーヒーを飲みながら聞き返した。
「それで?」
「いや!まだ犯人捕まってないらしいからさ!リンちゃんも気をつけなきゃいけないと思ってさ!」
「そっか」
「いやいや!そっかじゃないっしょ!」
そう話す橘はこんな事件なんよ!と話しはじめた。
とても残酷な事件なので、あんまり聞いていられない。
だから、要約して三行にまとめてみた。
へへっ!君に決めた!
蜂の巣にしてやんぜっ!
君にJマークを授けよう!
そういう話だった。
「ねーリンちゃん!ちゃんと聞いてる?」
「あー、聞いてる聞いてる」
絶対、聞いてないっしょ!と橘は唇を尖らせた。
僕はタバコに火を灯しながら聞いた。
「その事件って若い女性が狙われてるんだろ?」
「まぁー…そうだけど」
「気をつけなきゃいけないのは僕じゃなくて…柚葉さんと雨宮さんの方じゃない?」
「たしかに!リンちゃんの偽彼女には伝えたの?」
「…偽彼女って何?」
「だって、リンちゃんの彼女だって嘘つくじゃん!」
「…だとしても、呼び方があるでしょ…」
天井に煙を吐き出した僕に、いや、だってと口籠る…
「…柚葉さんとなんかあった?」
「いや…実はさ…」
カラコロカラン
「何か私の話してなかった?」
突然、入ってきた柚葉さんは笑顔で聞いてきた。
橘は素早い動きでソファに座る。
「ねぇ、コーヒーちょうだい?」
僕は返事を返さず、コーヒーを入れ
カウンターに置く。
柚葉さんはカウンターに肘をつきながら、
顎に手を置き、ニコニコしながら聞いてきた。
「ありがと!それで、私の話してたでしょ?」
「あー…最近、物騒な事件があるみたいじゃないですか?だから、橘が柚葉さんに気をつけてって伝えなきゃないけないねと話していたんですよ」
「ふ〜ん。そうだったんだ…」
タバコの煙を吐き出して、コーヒーを飲む。
「それで、私のことなんて呼んでた?」
「…え?柚葉さんのことをですか?」
「そう。橘くんはなんて?」
「…いつも通りですよ」
ふ〜ん、そっか〜と柚葉さんは微笑んだ。
橘…柚葉さんと何があったんだ?
カラコロカラン
「すみません…」
男性が悩んだ表情で入ってきた。
橘が元気に声をかける。
「どうしたんすか?」
「ここに探偵さんがいるんですよね…その…調べてほしいことがありまして…」
「そうなんすね!どうぞ!こちらへ」
橘は素早くソファへと導くと、
お茶を注いだグラスを彼の前に置いた。
僕はタバコの火をもみ消し、
いつものソファへと腰掛けた。
「それで、調べてほしいことってなんすか?」
「その…お二人が探偵さんなんですか?」
僕は静かに名刺を渡した。
「神影…さん。貴方が探偵さんなんですね」
「はい。こちらは助手の橘です」
「…そうですか」
「それで、調べてほしいこととは何でしょうか?」
「…実は…娘が自殺したんです」
「そう…なんすね」
彼の名前は南新一。
娘の名前は南靖子。
南靖子は大学生で一人暮らしをしていたらしい。
月に数回は実家に顔を出してくれて、
親子の仲はよかったと聞いた。
「私には靖子が何故自殺をしたのかわからないんです。いつも笑ってる子でした。靖子が自殺するなんて…信じられなくて…」
「靖子さんが何故、自殺をしてしまったのか…その理由を調べてほしいと言うことでしょうか?」
「…はい」
「正直な話…亡くなられた方の気持ちを知ることは難しいと思います…調べたとしても憶測の話になってしまう可能性がありますが…それでも依頼されますか?」
「それでも…私は…どんな些細な事でもいい…靖子の気持ちを少しだけでも知りたいんです。探偵さん…お願いします」
「…わかりました」
それから少し南靖子のことを聞いて、
南新一は帰って行った。




