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「国王陛下! 心配には及びません。女王の子供が現れ、しかも、その相手までわかったのです。もう知りたいという欲求で国の治安を乱す人はおりません」


 あなた以外は。と、言外に匂わせておく。

 それを嗅ぎ取った国王が、ぷるぷると青筋を立てて震えだした。

 ここで引き下がってくれると嬉しいけど、そんな感じはしなかった。

 冷静に考えて、この国の脅威はなにかと言えばゲスの勘ぐりでしかない。

 それがなくなった今、国王に打つ手はないはずだった。


「ほうっ……! 子供が名乗り出て、国の脅威はなくなり、万事を丸く収めるか!」

「はい」

「女王と顔が似ていて、髪が英雄と同じ色だからといって、すべてを信用することはできない。そこの英雄ピンクと同じでなぁ!」


 ああ、義父が往生際悪くて疲れる。

 結局、女王に見向きもされなかったことへの仕返しがしたいだけらしい。

 権力を握って、この国をよくするとかそういうものは一切ない。


「あいつ、変化の仮面のことを言ってんの?」

「そうらしいな」

「本物の王女かどうか。それを示す証拠なんて他にあるんですかね?」


 席の後ろでは、キュテラとグーナ、タニトがヒソヒソと話をしていた。

 真実であることを証明するにはどうしたらいいか。

 誰かの証言では弱い。

 なにか物的な証拠が必要だった。


「どうした? あるなら出してみるがよい! お前がこの国の王女である証拠をな!」

「なんでもかんでも知りたがる愚かな男だ。知恵をつけはじめた子供と変わらん」


 余裕を取り戻した国王の背中へ、鋭い言葉が撃ち込まれた。

 ダルファディルの女王、ゼルクレアが片腕に巨鷹グリンフィオを乗せて現れる。

 王宮前からは歓声と同時に悲鳴も上がった。


「女王陛下だ!」

「ああ、なんと鋭い眼差し。まさに勇翼女王!」

「グリンフィオも一緒だ。誰かを……、処刑するのか?」


 まだまだダルファディルの常識を知らなかった。

 グリンフィオは処刑まで担当しているらしく、一部の民衆から怖れられている。


「そこの娘、右腕を横に伸ばせ」

「……はい」


 ママンの命令で、私は右腕を持ち上げ、まっすぐに伸ばした。

 なんだろう。

 グリンフィオを腕にとまらせて、はい身内ですみたいなことをするのだろうか。


「グリンフィオ、外すなよ」

「……っ!」


 ママンの目が尋常ではなく殺気立っている。

 あれ、私、なんかヤバイ?


「行け!」


 女王の勅命に、鷹が音もなく翼を広げて飛び立つ。

 グリンフィオは両足を垂らして、迫る。

 最初は着地の姿勢かと思った。

 鳥足のかぎ爪は、獲物を捕まえるようにぐわっと開いている。


「ちょっと、マズイって!」

「大丈夫、だと思う!」


 キュテラに太ももをペチペチと叩かれて、危機感が募る。

 ママンが国王を助けるとは思えないけど、なにをするかわからない怖さがあった。

 猛禽の襲来にびびりながらも、ママンを信じて腕を伸ばし続ける。


 グリンフィオの爪が、私の肩口を掠めて、半袖を派手に引き裂いた。


「……え?」

「その娘は、確かにこの国で生まれた。その証拠に、女神の災害陣を持っている」


 またまた新常識だ。

 女神の災害陣を起動しつつ、私は理解する。

 女神の災害陣は、この国で生まれた人間にしか刻まれないらしい。


 私の腕に青い光が、曲線を描いて紋様となる。

 その青い光は、白昼にあってもはっきりと衆目に認められた。

 せっかく起動したんだから、国王のステータスでも見ておくか。


「本当だ。女神の災害陣だ」

「あの子は、ここで生まれたんだ」

「でも、一度も見かけたことがない」


 国民は、純粋に私の存在へ興味を持ってくれている。

 そんな中、私は国王の職歴を覗いていた。


 ダルタニス、三十歳。十六歳の時に婿養子でダルファディルにやってきて国王となる。

 ママンが相手をしなかったのは、若すぎたからだろうか。


 魔法使い、マスター。

 剣士、マスター。

 魔神官、7レベル。

 国王、2レベル。


 普通に達人級の仕事ができる人みたいで意外だった。

 国王派の首魁ではあるものの、災害陣を刻むような職業は経験していない。

 そのスキルを持っている協力者は、また別にいるみたいだ。


「青い災害陣は、この国で生まれた証。その娘は、この国に縁もゆかりもある。王宮へ招くのになんの不足もない」

「くっ……」


 国王があからさまに嫌そうな顔をした。

 嫌そうな顔をしたまま、王宮の入り口から退き、道を開けた。

 女王と英雄の遺伝子に加えて、女神の落款まであれば国王に反論の余地はない。

 私たちは、王宮へ迎え入れてもらえた。


 ダルタニスの隣を通ったとき、キュテラの言葉を思い出す。

 キンモクセイの香りがした。

 隣を見れば、キュテラがあからさまにグロッキーな顔をして気持ち悪さをアピールしていた。




 王宮のエントランスは、ダンスホールかと思うほど広く、無骨だった。

 魔獣や巨人の襲撃への備えで、武器や補給品が壁際に山積みされている。


「穏やかな時であれば、花や美術品で飾り、楽隊の音楽とともに迎えられたのだが」


 ダルファディル女王が、鉄面皮のまま心遣いができなかったことを惜しむ。

 それだけ非常事態であったことは身をもって経験しているので、私を含め、誰も女王へ不平を言うものはいなかった。


「い、いえっ! そんなことはありません!」

「そ、そうです。悪いのは国王派です!」

「……」


 キュテラとタニトは恐縮して答え、グーナは押し黙った。

 国王派を出したらグーナの肩身は狭くなるに決まってる。


「なるべく早く花を飾れるようにします」

「頼もしいな」


 私が魔法少女としてかなりの高得点を叩きだし、ママンがほんの少しだけ微笑んだ。


「こちらだ。謁見室がある」


 ママンはグリンフィを腕に呼び戻し、背を向けた。

 エントランスホールから扉一枚で繋がった場所。

 城の中庭を背にした自然光で溢れた大広間だ。

 三段ほどの階段の先に玉座が一つあった。


「改めて礼を言う」


 ママンがグリンフィオを高い天井へ離して玉座へ腰掛けた。

 グリンフィオは玉座の背もたれを止まり木とする。

 風切り羽根に守られた勇翼女王ゼルクレア・ファーグレウスが鎮座した。


「我が国を守ってくれた四人の英雄たちよ。褒美を取らせる。なんなりと申せ」


 私を除く三人が何も言わずに片膝をついて頭を垂れた。

 私も慌てて三人のマネをする。

 ご褒美が出るらしい。

 私は、王女の身分を捨てて自由気ままな人生を送りたいと思っていた。


「……どうした? 誰も望みを言わぬのか」


 キュテラはなにか言いたげに口をもごもごさせたまま固まっている。

 タニトも言いにくいのか、あーと唸ったまま続かない。

 そんな中、意を決したようにグーナが口を開いた。


「陛下。恐れながら、私は裁きと罰を望みます」

「訳を聞こう」

「私は、変化の仮面で姿を変えて国王派の幹部、スレイヤとして活動しておりました」

「スレイヤか。その者の活動は私も聞き及んでいる」

「私は、国王派の一人として陛下と国民を侮辱してきました」

「ああ、そうらしいな」

「どんな理由があろうと、この罪は消えません。私もまたこの罪から逃げるつもりもありません。どうか、私に厳しき罰をお与えください」

「聞き届けた。して、褒美はなにがいい?」

「え?」


 ママンが何食わぬ顔で問い掛け、グーナが呆気にとられ、私は吹き出しそうになる。

 ママンは、どうあっても功労者に褒美を取らせたいらしい。

 でも、それは無理な相談だった。

 だって、キュテラもタニトも物欲のために戦ったわけではないから。

 グーナに至っては、聖堂剣士として使命のために戦った。

 ママンの労い方が間違っているというしかない。

 ここもまた魔法少女としての腕が試されるところだった。

 グーナも困り果てて泣きそうな顔で救援を求めている。


「陛下。私たちをお茶会にお招きいただきたい」

「茶会か」

「はい。私の仲間はどうにも陛下と話したいことがあるみたいで」

「そうか。いいだろう。茶会の件、考えておく」

「ありがとうございます」

「お前はなにを望む」

「私は……」


 いざ自分の番となると、緊張で口の中が乾いてくる。

 第二の人生とはいえ、家族の繋がりや家業を捨てて魔法少女になりたいと望むのは、勇気がいることだった。


「私は、自由を求めます」

「ならん」


 ママンの目つきが険しくなり、怒っているような雰囲気になって私を見ている。

 私の体が、その目に対してオート反抗期を発動した。

 魂の部分では、ママンの立場や国の事情なんかも考えられる。

 魔法少女になるには、身分とか家族とかを捨てないと難しいとも思う。

 自分の人生か、周りの人の幸福か。

 葛藤はあるけど、自分の人生を優先したかった。


「いえ、なんと言われようと自由を求めます」

「ならんと言っている」


 謁見室の空気が、ピリピリと張り詰めていく。

 私もママンも視線を外さずに真っ向からぶつけ合った。


「私が自由でなければ、巨人を倒せませんでした」

「お前の父は、近衛兵という堅苦しい身分であっても巨人を倒したがな」


 くそー、ここでパパンの話を出してくるのはズルい。


「そうですか。では、ダルファディルの女王は英雄へ褒美を与えずに帰すのですね」

「そうは言わん。与えられるものに限りがあるだけだ」

「私の望みは些細なものですけどね」

「世間知らずの娘には過ぎたるものだ」

「嵐の中、娘を放り出す人が親のようなことを言わないでください」


 意趣返しのつもりで、反抗期の私は鋭さしかない言葉を口にした。


「っ! あの、陛下! 私たちの望みはお茶会でお願いします! 今日は、これで失礼します!」


 キュテラが私の口を押さえて、さらなる凶器が飛び出さないようにする。

 タニトが私を引っ張り出すのを手伝い、グーナが恭しくママンへ頭を垂れた。

 あの三人が連携するなんて、よっぽどの事だったらしい。

 私は、ピクリとも動かないママンの顔を睨み付けたままキュテラとタニトに引きずられて、謁見室を後にした。

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