表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/34

28

 広場へ近づくにつれて、喧噪が聞き取れるようになる。

 ただ、それは戦場の怒号や命令ではなかった。


「英雄ピンク! 巨人を倒してくれ!」

「お前こそ、シャルジャンに次ぐ本当の英雄だ!」

「頼むぞ! 英雄ピンク!」


 なんとまぁ、屋根に登って野次馬している住民がいる。

 彼らからキュテラへの応援が飛び交っていた。

 やっぱり腹が立つな。

 ああいうのは、私が引き受ける予定だったのに。


「団長! 避難の誘導は終りましたぜ!」

「これで思いっきり戦えるってもんでさぁ!」

「援護が必要なら、遠慮なく呼んでくだせぇ!」


 別の場所からは、女神団の雄々しいエールが送られている。

 タニトは、部下にかなり慕われているようだ。


「聖堂剣士グーナよ! 大司祭様の許可が下りたぞ!」

「遠慮はいらない! 思い切り戦えとのことだ!」

「民の守護は我らに任せよ! 休んでいただけの働きを見せるのだ!」


 白装束の神官たちからは、堅苦しい指示が飛んでいた。

 グーナは、どんな顔でこれを聞いているのだろう。


 三人は、南門前広場を一望できる民家の上に集まっていた。

 みんなピンクのリボンをつけていた。

 あそこに四人で並んだら、絶対アガる!

 そんな確信があって、急いで羽をばたつかせた。


「ぐぅああっ!」


 巨人の奮起する声にハッとする。

 投石機の一つを拾い上げて、王宮へ向かって投げた。

 私より前にいる三人は、なぜか動かない。

 放り投げられた投石機は、放物線を描いて王宮へ向かっていた。


「もうっ! 誰か止めてよ!」


 しかたなく魔神の脚で空間を蹴り、直上へ移動する。

 木造の投石機は、ボロボロになりながらも質量を維持している。

 王宮へぶつかれば、大きな損壊を引き起こすだろう。


「天魔! 炎翼斬!」


 聖なる翼へ魔法の炎を宿し、炎の翼とする。

 燃える双翼をピンと伸ばして、体をひねった。

 コマのように緋色の炎を吹き上げる翼が回転し、飛んできた投石機を真っ二つにする。

 その切り口にはしっかりと炎が飛び移り、一気に燃え広がる。

 投石機が、一瞬で燃え尽きて灰になった。

 灰が髪にくっついて鬱陶しい。


「うっわ! シンデレラじゃないって、元からプリンセスなの!」


 灰を振り払いながら地上へ向かって滑空する。

 髪についた灰を気にしていたら、すぐそこまで屋根が迫っていた。

 慌てて体勢を立て直して、屋根へ、三人の隣へ着地する。

 もっと格好良く、合流したかった。

 これは一生ものの後悔ポイントだ。


「遅いわよ」

「陛下と少し話してました」

「どうだった? 初めての親子の会話は?」

「微妙でした」


 私は正直に答えた。

 これは、なんでも話せてしまうキュテラが悪いと思う。


「みんな付けてくれたんですね。リボン」

「あんたにしては、なかなかの趣向よ。ピンクの近衛兵の復活なんて、希望の復活そのものなんだから」


 キュテラは嬉しさを堪えきれずに口角を釣り上げた。

 タニトも微笑み、無愛想なグーナもまんざらではなさそうだった。

 リボンの付ける場所もみんなバラバラで個性が出ていた。


 キュテラは胸に蝶を作った。

 英雄になりたいという思いが、その位置を選ばせたのだろう。

 キュテラの心は、完全に英雄と同化していた。


 タニトは大剣を担ぐ右肩とは反対の左肩へ蝶を作っていた。

 毒の大剣を振るう腕力こそが、英雄をリスペクトすることになるのだろう。

 それとも恋心の復活なのだろうか。

 だって、左腕の先には左の薬指があるのだから。


 グーナは、亜麻色の髪を束ねるために大きな蝶を作っていた。

 髪は女の命なんて言うくらいだから、特別な場所なのは間違いない。

 その髪をリボンで束ねるのは、正式にこちら側へ来たという意味だと思う。


 うん、やってよかった。

 こうやって四人でリボンを付けて屋根の上で並んでいるだけで、テンションが上がる。

 災害陣をどうにかする方法までたどり着けなかったけど、嫌な気分で戦わずに済む。


「そういえば、災害陣を解除する方法は見つかった?」

「見つけたけど、まだ手に入れてません」

「そう。巨人は殺すしかないわね」

「うん。そのつもりです」

「できるの?」


 魔法少女的にはアウトだけど、ここでしょげてもしかたない。


「やるしかありません」


 私はきっぱりと答えた。

 顔も髪も晒したのだ。

 英雄か王女になるしかない。

 ピンクを纏って、民衆の希望になるというのなら、巨人を倒してやろうじゃないか。


「私もそのつもりだけど、他の二人はどうだか」

「どこまでもお供しますよ、殿下」

「もう迷わん。国王派のおぞましい野望は叩き斬る」


 もう、全員、勝つ気しかなくて胸の奥が震える。

 魔神拳士に狂戦士、聖堂剣闘士、そして天魔拳士。

 火力特化の脳筋パーティなんて最高じゃないか。


「防衛隊が撤退した」


 グーナの報告が合図だった。

 巨人はフリーになり、再び王宮を目指す。


「私とキュテラで隙を作る」

「ええ。そのまま殴り倒してやるわ」


 相棒の頼もしさは底知れない。


「ならば、その隙に私が毒で殺します」

「いや、私の剣の方が毒より早い」


 女神団団長と聖堂剣士は、目を合わせもせずに張り合っている。


「じゃ、それぞれがやりたいことをやるって方向で」


 私は屋根から飛んだ。

 タニトとグーナも私に続く。

 屋根に残ったキュテラが、魔神の腕を二つ用意して技を放つ。


「烈風の拳よ!」


 私たちの頭上をごうっと風圧の塊が走り抜けた。

 キュテラの魔神の拳が、風の刃を纏って巨人の顔面を殴った。

 巨人の顔へ放射状に無数の切り傷が入り、自動治癒で煙が吹き出す。


「ごあああああ!」


 痛みに苦しむ巨人から魔力弱体の赤い光が放たれる。

 百パーセント筋肉の私には関係ない。

 魔力の大幅に下がったキュテラをあまり待たせちゃダメだけど。


「ぐおおっ!」


 翼を広げて正面から迫る私に気付いた巨人が、両手で叩きつぶそうとする。


「聖盾天翔翼!」


 翼を盾にして、巨人の両手を受け止めた。

 相手の攻撃を防いだことで、聖拳士の聖なる拳が発動する。

 反撃の一撃は、さらに強くなる。


「天魔! 光神拳! だああああああああ!」


 光属性を纏った真っ白い魔神の拳が二つ顕現する。

 強烈なワンツーパンチを巨人の顔面へお見舞いした。


「ぐぅ、がぁっ!」

「ざああああああんっ!」

「おらああああああ!」


 仰け反った巨人へ光の剣と毒の大剣が襲い掛かる。

 喉元を掻き切る必殺の一撃だ。

 それが死神の鎌のように巨人の首を切り落としに掛かる。


 二人の殺意に見ている私の背筋が寒くなった。

 私もあれくらいやらないとダメだろうか。

 いや、やらなきゃダメだ。

 それくらい巨人はタフなんだから。


「うぅっ、おおおおおおおお!」


 一瞬だけ怯えたように引き下がった巨人は、自分の首から癒やしの煙が出ているのを確認してから、鼓膜を打ち破る咆吼を爆発させた。

 加えて、ストレングス直撃の物理弱体の災害陣を発動した。

 私は耳を押さえながら、殺虫剤を浴びた虫みたいに地面へ落ちた。


「うるせえええええ!」


 巨大な氷槍が巨人の口へぶち込まれた。

 魔力の復活したキュテラのアイスランスだ。

 続けて、冷気を纏って巨大化した魔神の手が、巨人の頭を握りつぶす。

 潰しながら、冷気の魔力でガチガチに凍り付かせていく。

 魔神拳士の魔法と魔神の拳の二刀流だった。


「立てるか!」

「なんとか」


 巨人が凍り付くのを背に、グーナが私の体を立たせる。

 同じ弱体の災害陣を受けているのに、グーナにはまだ余力があった。

 前線を維持する戦士故の耐久力や耐性なのだろう。

 今度、暇があったら習得してみようかな。


「災害陣が切り替わるぞ!」

「私も全力でやる!」


 肩まで氷に覆われた巨人から、魔力弱体の赤い光が放たれる。

 巨人が魔法の氷を割るのと、私が聖なる翼を展開するのは、ほぼ同時だった。

 地面から浮き上がり、天魔の拳を発動する。

 拳に巨人にも通じるほどの質量が宿った。


「ふっ!」


 移動は魔神の脚だ。

 一瞬で殴るべき所へ移動して、天魔の拳を叩き込む。

 巨人の脇腹がくの字に曲がるほどの衝撃音が響いた。


「はっ! だぁっ! りゃっ! おおおおおおおお!」


 脇腹から顎へ。顎から鳩尾へ。鳩尾から横っ面へ。横っ面から体中へ。

 瞬間移動をしながら巨人を殴り続けた。

 巨人は防御が追いつかず、奇妙な踊りでも踊るようにきりもみ回転しながら浮かぶ。


「これで! どおおおだああああああ!」


 私は巨人の顔の前に現れて、最後の一撃を顔面に叩き込み、グーナへやったように地上へ殴り墜とした。


 巨人の体重と天魔の拳が合わさり、南門前広場がたわむほど揺れて衝突痕ができた。


 私は殴りつけた反動を利用して、巨人から距離を取る。

 赤い光が放たれた。

 嫌なタイミングだった。


 私は距離を取り切れずに巨人の胸の上に落ちた。

 巨人の手が私を潰そうと降ってくる。

 ああ、ムカつく。ほっぺ痛い。

 光るだけでこっちの動きを封じるんだから反則だろう。

 巨大な手が、空を隠した。

 あんなのに潰されたら、きっと痛いんだろうなぁ。


「寝てんな!」


 キュテラが魔神の脚で飛んできて、私を担いで巨人の胸から退避する。


「やっちゃって!」


 そして、空へ叫んだ。

 まるで巨人の手へ言っているみたいだ。

 でも、そんなはずはなくて。


「シャルジャンよ! 見ていてくれ!」


 筋力弱体の光があるのに、大剣を担いでどうやってその高さまで行ったのか。

 狂戦士タニトが、毒の刃を下に向けて落下してきていた。

 もちろん災害陣の光を背中から迸らせている。


 刃が、巨人の手ともろともに巨人の胸に突き刺さった。

 じゅわっと強酸かと思うような猛毒が巨人の肉を死肉へと替えていく。

 明らかに巨人の毒の無効化が追いついていなかった。


「そんで離れろ!」


 キュテラがタニトへ命じ、タニトが巨人の上から離れた。

 キュテラは再び凍てつく魔神の手を呼び出して、タニトの大剣を引き抜けないように氷漬けにした。


 巨人が災害陣の光を切り替える。


「斬!」


 それを待っていたのはグーナだった。

 大剣と氷で動かなくなった腕とは反対の腕を、光の剣で斬り飛ばした。


「がぁっ! ぐっ! あああああああああああ!」


 巨人は毒の大剣を引き抜けず、雄叫びを上げて広場を転げ回った。

 体に張り付いた氷を壊そうと、広場へ自分の体を何度も打ち付ける。

 私は、魔力弱体でぐったりしたキュテラを支えながら、巨人から離れた。

 苦しみ悶えていた巨人は、次第に動きを少なくし、動かなくなった。


「あれ、魔力が戻った」

「私も普通のまま。災害陣が発動してない」


 キュテラが自分の足で立つのを確認して、巨人の動きを静観する。

 頼むから、そのまま二度と動き出さないで欲しい。

 正直に言うと、殴り合いで勝てる気がしなかった。


「見ろ。巨人が戻るぞ」


 私たちの所へ来たグーナが、巨人の異変を指摘する。

 巨人の体がしぼむようにぺちゃんこになっていった。


「災害陣で巨人にされた人間が死ぬと、皮以外が元に戻るらしい」


 グーナの説明に背中がむずがゆくなる。

 グロい想像はしたくなかった。


「勝ったの?」

「そうだ」

「うぅ」


 キュテラの問い掛けにグーナが頷くと、いつのまにか合流していたタニトがどっかりと座り込んだ。

 顔を両手で覆っている。


「ぁあ……。やったよ。シャルジャン……。私……」


 タニトは、一人だけ静かに涙を流した。

 私もタニトのように泣けたら良かったと思う。

 仇を討った喜びには見えなかったけど、押さえ込んでいた悲しみの爆発という感じでもない。

 一緒に泣けないのが残念だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ