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巨人の災害陣が不気味に輝くと、キュテラの振り下ろした火球が途端に小さくなった。
「今度は魔力を抑える災害陣だ。もう、体に違和感はないはずだ」
グーナが、肩を回しながら解説する。
「やった! 動ける!」
軽くなった体で立ち上がる。
私は百パーセント筋肉由来の聖なる翼を展開して、巨人へ突撃した。
頭上から強襲するはずだったキュテラの勢いは弱まっており、巨人は逆に迎撃の態勢に入っていた。
「キュテラのやつ!」
弱くなった魔法を引っ込める気配が、キュテラにはない。
巨人にとってたこ焼きくらいの大きさの火球を振り下ろしながら、落下している。
魔力由来の浮遊の魔法も、魔神の脚も利かなくなっているのだろう。
巨人の手が火球をものともせずに手で払い除け、キュテラをわしづかもうとする。
私は魔神の脚で一瞬でキュテラまでの距離を詰め、巨人の手を迎え撃つ。
一本一本が巨木のような五指。
それが果物でもむしるように、無造作に握りつぶしてくる。
「殿下ああああ!」
城門から飛び出して来た影が、大剣を振り上げて巨人の腕に叩きつけた。
巨人がびくっと反応し、私とキュテラの捕獲を断念する。
良いタイミングで来てくれた。
私は、弱体化したキュテラを抱き留めて、巨人の頭上から離脱する。
「あれは、シャルジャンの大剣! なんでタニトが持ってるのよ!」
私より先に、シャルジャンオタクのキュテラが気がついた。
タニトは、シャルジャンと同じ狂戦士へ就職していた。
それを考えれば、念願の大剣使いになっていたとしてもおかしくはなかった。
「これは新たに作ってもらったものです! あ、こいつ! 毒が効きません!」
腕に深く刃を沈み込ませたタニトが叫んだ。
「シャルジャンとの戦いで、対策済みだ!」
地上のグーナが巨人のかかとを光の剣で切り裂きながら答えた。
いくら自動回復するからといっても骨格筋を切り離されたら身動きは取れない。
なかなかエグい攻撃だ。
「ふん、それなら!」
タニトが、巨人の腕から大剣を引き抜いた。
血しぶきの代わりに治癒の煙があがる。
タニトの背中からルビーを透かしたような真っ赤な光が迸る。
毒を強化する災害陣、ポイズンエキスパートが発動した。
毒を無効化する巨人と真っ向からぶつかり合う気だ。
「タニト! 狙われてる!」
「男に狙われるのは得意です!」
タニトは私の警告に不敵な笑みを返した。
巨人の手は、腕から飛び降りたタニトを追っていた。
「あ!」
タニトはあっさりと巨人の手に呑み込まれた。
「あ、出てきた!」
かと思えば、巨人の指の隙間からするりと抜け出して、セクハラをたしなめるように手の甲へ毒の大剣を突き立てた。
タニトが前世の世界で満員電車に乗っていれば、痴漢は毒殺されるかもしれない。
なんてことを思ってしまうほどに鮮やかな手並みだった。
「が、があああああっ!」
毒蜂と化したタニトに刺され、巨人が手を押さえて苦しみだした。
「へぇ、毒が効いてるのね」
私に抱きかかえられたキュテラが、冷静に戦況を見守っていた。
介護されているのに偉そうだ。
「あ、あの辺りで降ろしてくれる?」
「城郭の上?」
「そう。英雄ピンクは、やっぱり高いところが似合うのよ」
「あー、そうだね」
「あら、なにか侮蔑がこもってない?」
「ないよ。なにも!」
バカとなんとやらを連想してしまい、慌てる。
キュテラは最高のバカだった。
軽薄なバカと一緒にしてはいけない。
「あいつの災害陣、二つ同時には出ないみたいね」
「うん」
キュテラが、城郭の屋上へ降りると、ふらつきながらも知恵を振り絞る。
私は肩を貸しながら、その戦略を聞いた。
「私がダメなときはあんたが。あんたがダメなときは私が」
「巨人に二択を迫るんだ」
「そう。タニトの毒もあるし、スレイヤの中身もまぁまぁやる。勝ち目はあるわ」
「グーナだよ」
「仲間だと思ってない」
「今は協力しよう」
「利用できるだけ利用するけど、裁かれるべきよ。国王派なんて」
キュテラの意志は固い。
キュテラほどのベッドの持ち主でも、国王派に連なる者は許せないらしい。
「耳を塞げ!」
巨人と戦っていたグーナの警告。
私とキュテラは同時に耳を塞いだ。
「ぐおああああああああああああああ!」
絶叫の突風が押し寄せ、髪が引っ張られる。
巨人は、獣のように吼えながら城郭へタックルをした。
タニトの毒で苦しみ、グーナの剣で追い詰められた巨人の反撃だった。
城郭が爆弾で吹き飛ばされたかのように砕け散った。
横殴りの衝撃で、私は南門広場の上空へと飛ばされた。
巨人の顔は私たちではなく、広場を、その先の王宮を見ていた。
国王派の尖兵は、女王を狙い続けている。
「キュテラ? どこ!」
巨人の声が消え、耳から手を離す。
一緒に飛ばされたはずのキュテラの姿がない。
魔法を弱体化させる災害陣は、まだ光っている。
あの災害陣が光り続ける限り、キュテラは空を飛ぶこともできない。
無事が知りたかった。
巨人は、脚をもつれさせてシャルジャン公園へもろに突っ込んでいた。
私は、そんな巨人に目もくれず、キュテラの姿を探した。
「あれ? タニトもグーナもいない……」
城郭が破壊され、砕けた石の粉が煙になり、巨人とシャルジャン公園を包む。
「そこの冒険者! あとは我々が引き継ぐ! 下がるんだ!」
「え?」
「こちらは青の防衛隊だ! 女王陛下の命により、これより巨人を討伐する!」
ピンクの近衛兵がいるくらいだ。
青の防衛隊が出てきてもおかしくはない。
青い装束の兵士たちが、シャルジャン公園と巨人を包囲していた。
前線は鎧で身を固めた戦士たち。後衛には魔法使いの集団や弓兵、投石機などが配置されていた。
「えっと、少し待ってください! 友達がいないんです!」
聖なる翼を広げて訴える。
親友の安否確認が優先だった。
「そんな余裕はない! すぐに退避す……、え、その髪……、その顔は!」
指揮官らしき男は、私の言葉よりも髪と顔に反応した。
女王に顔がそっくりで、英雄と同じ髪で……。
「そうだ。英雄だ。英雄オタクだった!」
私は三人の居場所を閃いた。
「え、でも。石の像のためにそこまでする?」
閃いたはいいものの、自信が持てない。
それでもと思い、私はシャルジャン公園へ急降下した。
「もっと力出しなさいよ! スレイヤなんでしょ!」
「出しているとも! 文句ならそっちの貧弱な女神団に言え!」
「私は出してます! お二人ともシャルジャンへの愛が足らないのでは!」
三人をまとめて発見する。
シャルジャンの像を今にも潰しそうな巨人の後頭部を三人で押さえていた。
「な、なにをしているんですか! 早く離れましょう! 青の防衛隊とやらが、今にも攻撃しそうです!」
私の言葉に、三人はこう返した。
「「「シャルジャンが邪魔!」」」
そうか。
邪魔か。
私の父だけど。
愛故のやっかみだろう。
それにしても仲が良くて羨ましい。
言わんとしていることはわかる。
シャルジャンの像があるせいで、戦いに集中できないという意味だ。
なら、私がやることは決まっている。
シャルジャンの象の土台へ拳を叩きつけることだ。
台座は派手な音を立てて砕けた。
石像の父親を俵担ぎし、三人へ指示する。
「私はシャルジャンを安全な所へ運びますから、三人は一旦解散してください。どこかで合流しましょう!」
キュテラは背を向けたままこくりと頷いた。
キュテラが動けば他も動くだろう。
その確信は、あっさりと持てた。
石の父を担ぎ出し、私はシャルジャン公園を飛び立った。




