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 シャルジャン公園へ向かう道中は、ダルファディルの日常がひしめいていた。

 冒険者と商人が、馬車に乗って通りを闊歩している。

 それを最大の顧客とみるダルファディルの商人が、商売に精を出している。

 なんら変わらない冒険の中間地点の風景だった。


 シャルジャン公園は、そんな中で平穏のシンボルのように静まり返っていた。

 公園の中に一歩踏み入れても、そこに人がいないと思えるほどだった。

 シャルジャンの像がある広場まで行くと、像を見上げるグーナが一人、佇んでいた。

 像を見上げるグーナの表情は暗く、今にも泣き出しそうだった。

 殴って付けたはずの額の傷はなくなっていた。


「グーナさん」

「……来たか」

「はい。ニーナさんに聞きました。長くお待たせして申し訳ありません」

「いや、体調が悪いのにすまなかったな」

「グーナさんはずっと待ってたんですか?」

「まぁ、そうだな」

「聖堂剣士のお務めは?」

「無断で休んでいる」


 私はグーナの隣に立って、シャルジャンの像を見上げた。


「なにかありました?」

「最後に私のこれまでを話したくてな。それが誰かと考えたら、不思議とお前になった」

「最後?」

「今日がダルファディルの最後だ。巨人がやってくる」

「そうなんですか」

「……いやに落ち着いているな」

「そうでもないです。グーナさんが言うんですから本当なんだと思います」

「信じてくれるか」

「はい」

「国王派の言葉は誰も信じてくれないのにな」


 寂しさのにじんだ言葉だった。

 グーナは本当にすべてを打ち明けようとしていた。


「国王派、ですか?」

「ああ、私は国王派だった」

「神殿に仕える身でありながら、どうして……」

「私が女神に疑問を持ったからだ。英雄が死んだとき、熱心な信徒だった母に尋ねた。これからは、誰が都を守るのかと。母は女神様が守ってくださるとだけ答えた。幼いながら、それが気休めの嘘だとわかってしまった」

「それで女神派から離脱したと」

「ああ。とはいえ、貴族でない私には選べる仕事などそんなになくてな。母の勧めで神殿に勤めることになった。大人になる頃には聖堂剣士になっていたよ」


 悲しそうにグーナが笑う。

 つくづく思い通りに生きられていないと、人生を儚んでいた。


「あるとき、聖堂剣士として務めていて、国王派に出会った。彼らの目的はともかく、巨人や魔獣を支配下に置いているところは評価できた」

「もしかして、巨人や魔獣を味方につけようとしたんですか?」

「ああ。そうすればダルファディルの国民が傷つくことはないと考えていた。それはまったく勝算のない賭けだった。私は賭けに負けた。運任せの鍛錬が足りなかったらしい」


 聖者のユーモアに笑うべきか悩む。

 だって、笑えない話だから。


「国王派に志願して、幹部たちに頭を下げて、巨人や魔獣の危険さを民衆に訴えた。それなのに、私はなにも為すことができなかった。巨人や魔獣に対抗できないのに、のほほんと過ごす民衆にも愛想が尽きた。もうどうにでもなったらいい」

「ずっと一人で励んできたんですね」


 スレイヤは、グーナの苦肉の選択だった。

 そうとは知らずに英雄ピンクは、グーナの邪魔をしたことになる。

 キュテラには、巨人や魔獣に対して、ただ戦うという安直な対策しかなかった。

 先のことまで考えていたグーナこそ、本当にダルファディルのことを思っていた。

 キュテラやタニトとグーナの思いは、やり方が違うだけで同じだと思う。


「いや、一人じゃない」

「他に仲間が?」

「お前がいた」

「私、ですか?」


 はて、なぜだろう。

 国王派の手伝いをした記憶はなかった。


「ああ、お前と初めて会ったのはダルファディルの外周だったな」

「はい。街道でパトロール中のグーナさんに会いましたね」

「その時、女神団を名乗る強盗団を一緒に撃退した」

「そうです。で、そのあと、なぜか手合わせを願われました」

「そうだ。ダルファディルは新人の冒険者が集まるため、お前ほどの力を持った武闘家は珍しかった。そのときの私は、国王派に入ったは良い物の聖堂剣士の技を使わずに活動するにはどうしたらいいか悩んでいてな」

「あ、もしかしてそのときに武術を学んだんですか?」

「そうだ。お前から武術の勘所を盗み出し、それをスレイヤとしての活動に流用した。お前にとっては不名誉なことだろう」

「そうだったんですか……」


 魔獣を相手にしたとき、私のおかげだと言っていたのはそういうことだったんだ。

 武闘家と剣士をマスターしたことで、達人クラスの武人になれた。

 そういう意味でお礼を言ったんだ。

 納得半分、不満が半分だ。


「グーナさんは、私を仲間と思ってくれるんですね」

「……いや、敵だろう」

「なぜです?」

「とぼけてもしかたない。私はスレイヤで、お前は英雄ピンクだ。少なくとも最後に戦った英雄ピンクは、お前だった」


 気付かれているとは思ったけど、指摘されると心臓が跳ねる。

 隠し事を見抜かれるのは心臓に良くなかった。


「やはり、戦い方で気付きました?」

「ああ。お前と最初に手合わせしたときのことを思い出した。私の悪行を止めてくれるなら、お前が良いとさえ思った」

「私は、まだ敵ですか?」

「今は……、どうだろうな。正式に国王派を抜けたわけでもないし、かと言って国王派に戻ろうとも思わないし。難しいところだ」


 魔法少女モノでお約束になっていることがある。

 敵側にいたライバルを味方に引き込むという展開だ。

 今、グーナは敵側にいる。

 ここで引き込めと、私の中の魔法少女が訴えていた。

 今日、巨人がやってくるというなら、ここしかチャンスはない。

 私は迷わず、目深にかぶったフードをまくり上げた。

 周りに人はいないから大丈夫とふんでのことだった。


「その髪……」


 グーナが私の顔を見て、目を見張る。


「私が誰だかわかりますか?」

「あ、ああ。噂の一つにあった。女王の子供は、英雄との間にできたのではないかと。だが、あれほど強くなって……。いや、英雄の子供であれば当然か……」


 グーナは冷静なようで少し混乱していた。


「私は、この髪に恥じないよう、巨人や魔獣と戦うつもりです」

「だが、私は……」

「グーナさんの心が、ダルファディルを思っているのは間違いありません。どうか一緒に戦ってくれませんか?」


 私はグーナへ向き直り、真正面から見つめた。


「私だけじゃないです。英雄ピンクと女神団の団長も戦ってくれます」

「英雄ピンク……。なるほど、中身が二人いるのか。それに女神団の……」

「二人ともまだまだ戦う力を秘めています。神話級の巨人といえど、そう簡単にはやられないでしょう」

「一つ確認を」

「なんです?」

「私が斬ったのは、お前か?」

「いえ、もう一人の英雄ピンクです」

「ならば、私にはその二人と戦う資格はない。国王派を演じるためとはいえ、二人にはひどいことをした」

「ええ、心が軋むのは避けられません。それを承知で誘っています。国王派に頭を下げるより、二人に頭を下げる方がいいでしょう。それであなたの守りたいもののために、誰に恥じることなく誇りを持って戦えます」


 グーナは、私の言葉から目をそらさなかった。

 迷いを見せることもない。

 揺るぎない目で、じっと私の目を見返す。

 もう闘志が見えた。

 グーナは戦う気でいる。

 それでいて、その後をどうするか思案しているようだった。

 グーナなりの決着を自分で考えているのだろう。


「少し、考えさせてくれ」

「巨人が来るまでには」

「わかった」

「それでは、私も準備してきます」

「ああ」


 グーナはそういって、シャルジャンを見上げた。

 グーナの人生にもシャルジャンは大きな影響を与えていた。

 我が父ながら、罪作りな男だと思う。


 私はフードを目深にかぶり直し、魔神の脚で飛んだ。

 路地裏に戻って旅人のマントをかぶり、隠れ家へ飛ぶ。

 勝負服に着替えなければならなかった。

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