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「あんたは巨人と戦うの?」


 下着姿のキュテラが、珍しく真面目な質問をする。


「はい。一応、この国の王女ですし」

「そうよね。私も巨人と戦うわよ。そのために武術を学んだんだから」


 悲壮感が漂う。

 神話級の巨人がどれくらい強いかわからないし、勝てるかもわからない。

 希望があるのかないのか。

 もしかしたら無謀ではないか。

 そんな暗い予感がつきまとう。


「殿下は、巨人がどんなものかご存知ですか?」

「え? そういえば、よく知らないかも」

「巨人も魔獣も、元は人間です。災害陣を人為的に刻まれて人間に戻れなくなった人たちでもあります」

「はい。それは知って……」


 私は、タニトの話を聞いて、一つの魔法少女的課題にぶち当たった。

 魔法少女の使命の一つに、絶望的で悲劇的な境遇の人を助けるというものがある。

 これは私の個人的な研究によるものだけど、


「どうかした?」

「それって、本当にもう、人間に戻れないんですか?」


 気遣うキュテラへ尋ねる。


「災害陣は、女神や魔神がもたらした祝福だと考えられてたけど、一部の貴族は人為的に刻めることを突き止めた。それがどんな技術なのか見当もつかない。だから、彼らを人間に戻す方法があるのかどうかもわからない」


 キュテラは、悔しそうに答える。

 国王派だけが知っている技術。

 厄介だった。

 彼らは巨人や魔神を人為的に生み出して尖兵にできる。

 よくない状況だ。


「こっち側でも災害陣の研究はしてます?」

「してない。禁忌だから」


 キュテラの短い返答に、危機感が募る。

 勧善懲悪はどんとこいだけど、もしも救える人がいるのなら、それは救わないと魔法少女の名折れだった。


「研究しても、いいですか?」

「はい?」

「災害陣を研究してもいいですよね。それでもし、巨人や魔獣になった人を助けられるなら助けたいです」

「はいはいご立派なことね。してもいいんじゃないかしら。一朝一夕で奴らの技術に追いつけるとは思えないけど」


 なんだかんだでキュテラが背中を押してくれた。


「禁忌ということは、罰せられます?」

「まぁ、暗黙の決まり事だからね。研究したからってなにかの罪に問われることはないと思う。ただ、それを公然とやったら白い目で見られるわよ」

「わかった。そこは気をつけます」

「また秘密が増えたわね」


 さらには複雑な心境を映した不満そうな顔で心配までしてくれる。

 キュテラのベッドの大きさには助けられてばかりだった。


「殿下は、巨人になった者を救おうというのですか?」

「うん。知りたいという欲望を利用されただけということも考えられるから」

「それは、どうかしらね」


 甘い考えであることは重々承知している。

 それを体現するのが魔法少女だ。

 タニトもキュテラも、私のやりたいことに疑問を持っている。

 こればかりは仕方のないことだった。


「ま、災害陣のことはピセアに好き勝手やってもらうとして……。タニトにも協力してほしいことがある」

「なんでしょう?」

「ピセアの秘密が漏れた」

「……殿下の、髪やお顔のことですか?」

「そう」

「私ではありません! 女神に誓って!」


 容疑を掛けられたと思ったのか、タニトは立ち上がって訴えた。


「あんたを疑うとかいう状況じゃないから、落ち着いて」

「は、はぁ。でも、それはもっと良くないということでは?」

「そう、よろしくない。どうしてそうなったか、聞けばわかると思う」

「……聞きましょう」


 タニトは、ソファーへ座り、キュテラの語る、ことのあらましを黙って聞いた。


「なるほど、つまり……、カイルという男を始末すればいいんですね?」

「そういうこと!」

「違います! 私は望んでません!」


 ドヤ顔で通じ合うキュテラとタニトへ、きっぱり否定する。


「あんたは、どうしてなんでもかんでも助けようとするの?」

「それは……」

「厳しく罰すべき相手を見逃し、襲い来る相手に救いの手を差し伸べる。はっきり言って馬鹿げてるわ。秩序を守る善良な民を愚弄する行為だと思わないの?」


 ぐうの音も出ない。

 よくよく考えてみれば、私のやっていることは哀れな人間を救って良い気になっている偽善の顕示欲にすぎない。

 善行を湛えるべきは、秩序を守る国民だ。

 自業自得で不幸のどん底へ落ちた人間を救う価値は、自己満足でしかない。

 でも、私の中の魔法少女は叫んでいる。

 戦う相手にも事情はある、と。

 そこを理解して、救いを求めるならば救えと。


「仮面は返します」

「なに? ふてくされたの?」

「それと、スレイヤの正体について報告があります」

「……一応、聞いておく」

「スレイヤは、聖堂剣士のグーナでした」

「そう。彼女が……」


 キュテラとグーナに面識はない。

 ただ、私から神殿の仕事を紹介してくれた人というくらいの認識を持っているはずだった。


「グーナは、国王派でありながら、貴族と思われることを嫌っていました」

「たしかに、スレイヤは国王派の中でもとびきりの変人だったわね。奴らの中で唯一、言葉によって民から理解を得ようとしていた。魔獣や巨人を使った脅迫はほとんどしてないんじゃないかしら」


 私より先に魔法少女をやっていたキュテラが言うのだから、間違いないと思う。


「ま、こんど戦うときは負けないから」

「彼女は英雄級の力を持っています」


 手合わせした拳が、グーナの岩より岩じみた防御力を憶えていた。


「……それは災害陣も含めた私の実力と比べて言っているの?」

「はい」

「そう……」


 暗に伝えたかったことを汲み取り、キュテラが不機嫌な顔になる。


「まるで、あんたが私より強いみたいな言い方ね?」

「否定はしません。キュテラが自由を失っていたとき、確実に私との差を生みましたから」

「……これは返してもらう」


 キュテラが立ち上がって、変化の仮面を回収した。


「殿下は殿下のやりたいように。影ながら応援することしかできませぬ」


 恭しく頭を垂れ、キュテラは暇を告げた。

 この友人の気遣いは、影と呼ぶにはあまりにもまぶしくて暖かい。

 そんな友人に対して、嫌なことをした。

 キュテラの正論にみっともない反発をした結果だ。

 自分が嫌になる。


 下着姿の魔法使いはふわりと浮かび上がり、二階へ向かった。

 私とタニトは、下着に包まれたまん丸のお尻を見送る。


「良い形ですね」

「ほんと。同い年に思えません」

「え! そう、なん、ですか……」


 タニトの視線が私の胸元へ突き刺さる。

 私は、にっこりと微笑みを浮かべた。


「タニトさん、どこを見てるんです?」

「いえ、すいません!」


 背筋を伸ばしたタニトをジト目で監視する。

 表情は硬く、視線は上に反らして本心を隠していた。


 まったく、これだから素人は。

 魔法少女に無駄な女性らしさはいらないのだ。

 とにかく必要なのは筋肉だ。

 悪と戦うパワーがあってこその魔法少女である。

 見るところを間違っている。


「あの、殿下?」

「なにか申し開きが?」

「いえ、私もそろそろ下がりたいと思います」

「逃げるんですね?」

「ぐ、その、申し訳ありませんでした」

「……まぁ、いいでしょう」

「それから、カイルの件ですが」

「許しはしたけど、秘密をばらさずに行方知れずになったことは気になっています」

「……わかりました。行方を追うだけに留めます。それでは」

「はい。鍛錬も忘れずに」

「承知です」


 タニトは、兵士のようにキビキビした動きで隠れ家を後にした。


「さて、私も部屋に籠ろう」


 災害陣への対策をしないといけなかった。

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