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 エルフの森から隠れ家へ帰る。

 森の上に飛び上がって、エアウォールでけんけんぱしながらダルファディルへ戻った。

 路地裏へ行って、ティリアのマントを回収し、隠れ家へ魔神の脚で飛んだ。


「ただいま」


 スレイヤの正体がグーナだったこと。

 暴れ足りないこと。

 不完全燃焼を過剰摂取しただけだった。


「おかえり」

「な……」

「……え?」


 キュテラの隣にタニトがいた。

 ローブ姿のキュテラは下着が見えるほど着崩してソファーでくつろいでいた。

 タニトはその隣ででかしこまったまま、私を見て固まっている。

 私もタニトがいるとは思わず、英雄ピンクの格好をどうしたものか悩んで頭が真っ白になる。


 良く見ると、タニトは娼婦の格好ではなく冒険者風の格好をしていた。

 皮の胸当てに金属の籠手とすね当て。

 フード付きのマントを羽織っていた。

 貸し出した装備は、今は付けていない。


「あ、あの、王女殿下ですか?」

「う、えっと……」

「もう説明したわよ」


 タニトの質問にたじろぐ私。

 キュテラは人の秘密をバラして他人事。

 私は観念して変化の仮面を外す。

 陽炎が魔法少女の時間を終わらせる。

 部屋着姿で隠居王女の完成だ。


「さ、最近はじめたんですよ」

「は、はぁ」


 私は訳の分からない取り繕いをして二人の対面にあるソファーへ座った。

 スレイヤも困惑している。

 ごめんね、私もよくわかんないの。


「英雄ピンクがスレイヤとやりあっていると聞きましたが?」

「はい。ちょっと戦ってみました」

「どうだった?」


 食いついたのはキュテラだった。

 鋭い目で早く教えろと催促する。


「最後に一発、顔面に入れてやりました」

「復讐は虚しいだけよ」

「これは友人を傷つけられた個人的な恨みですから」

「……そう」


 キュテラは期待するほどの反応示さなかった。

 つまんない。

 もうちょっと感激したりしてもいいのに。


「タニトさんは、どういうご用件で?」

「私をあんたと勘違いしたのよ。あまりにもしつこいから連れて来ちゃった」

「い、いえ。殿下のローブを着ていらしたのでつい」


 私のローブは、特注品ではなく、他の助祭と同じものだ。


「よく私のローブだってわかりましたね」

「ええ、まぁ。職業柄、服やアイテムは憶えるようになってまして」

「そうだとしても、他の助祭と変わらないですよ?」

「そんなことありません。殿下のローブは、激しい動きをするせいか他の助祭と比べてよれているんです」


 ぐさりと心を抉られた気がした。

 確かに、ローブは仕事着だからとあまり大切に扱っていなかったかも。


「あっはっはっは! お転婆が過ぎますね、殿下!」

「いえ、そういうつもりで言ったわけでは! すいません殿下!」


 私が押し黙ったのを良いことに、キュテラが高らかに笑い、タニトはひたすら恐縮していく。


「とりあえず、キュテラはほっといて。私になにか用があるんですか?」

「あ、はい。殿下に言われたとおり鍛えてはみたんですが、行き詰まってしまって……」

「ふむ、転職の相談がしたいんですね?」

「はい」

「それじゃ……」


 私は女神の災害陣を起動しようとして思いとどまる。

 半袖じゃん私。

 半袖はまずい。

 変化の仮面をソファーへ置いて、キュテラの前へ行く。


「ん? なに?」

「ちょっと返してください」

「え、嘘でしょ?」

「本気」

「いやっ! やめて!」

「女同士でなにを今さら」


 私はキュテラからローブを引っぺがして着た。

 ローブを失ったキュテラは、ネグリジェよりも肌面積の多い下着姿になった。


「別にローブなくてもできるでしょ!」

「気分です」


 ということにしておく。

 タニトには災害陣のことを隠していた。

 他人のステータスをのぞき見できる力。

 それもプライバシーを尊重する女神による災害陣の力。

 矛盾する存在を説明することもできないし、その釈明に追われるなんて絶対やりたくない。


「こほん。では、改めて」


 私はソファーへ座り、タニトへ向き直った。

 すでに顔バレしているので、フードはつけていない。


「迷える者よ、ダルファディルは希望へ繋ぐ土地。女神に誓って希望を与えよう」

「それ、ここでも言うの?」


 キュテラの茶々入れは無視。

 魔法少女になりたかった私だけど、人を導く口上は好きだったりする。

 人が前を向いて、希望を抱いて、新たな門出を祝福されるための祈りだ。

 その祈りに合わせて女神の災害陣を起動すると、もう転職嬢モードになる。

 気分が乗るというのは、あながち嘘じゃなかったかも。


「お、お願いします」


 姿勢を正したタニトが緊張気味に答えた。


 女神の災害陣が、タニトの職歴とステータスを映し出す。


 斥候、マスター。

 剣士、マスター。

 戦士、マスター。

 酒好き、マスター。

 酒豪、マスター。

 武人、マスター。

 重戦士、マスター。

 暗殺者、マスター。

 狂戦士、レベル5。


 達人クラスも複合職もマスターしていて、英雄クラスの狂戦士まで習熟しつつある。

 体力と筋力も以前とは比べものにならないほど伸びていた。


「何を相談しますか?」

「はい。殿下に言われて鍛えるには鍛えたんですが、自分でも恐ろしいほど成長しているみたいで。このまま続けていいのかと思いまして」

「続けてください。スレイヤが白状しましたけど、神話級の巨人が、もうすぐ現れるそうです」

「神話級……?」

「かの英雄シャルジャンでも敵わないほどだと」


 私のもたらした情報で、タニトもキュテラも口をつぐんだ。


「……絶望的ね」


 キュテラが、かろうじてリアクションした。


「英雄シャルジャンは、狂戦士のマスターだったと聞き及んでいます」

「へぇ、よく知っているのね。彼が巨人と戦うために愛剣を捨てたことは?」

「知ってます! その剣は国の宝物庫に保管されていることも!」

「さすが斥候ね。盗賊並みに鼻が利く」

「それほどでも、ありません」


 国家機密を保持していることを褒められ、タニトがはにかむ。

 歳の割に可愛らしい。


 シャルジャンオタクが通じ合っていて、私は蚊帳の外だった。


「ええと、話を戻しますよ?」

「あ、すいません」

「それで狂戦士に転職しますか?」

「いえ、もう狂戦士になれました」

「すごい!」


 私は白々しくも驚く演技をする。


「本当にすごいわね。お酒強いの?」

「はい。幸いにして」


 キュテラとタニトの訳知り顔のやり取りを聞き、転職嬢として合点がいく。

 そうか。

 狂戦士に転職するには、酒豪をマスターしないといけないのか。


「でも、それで何を悩んでいるんですか?」

「私はシャルジャンに憧れていましたけど、彼を超えることはないと思ってました」

「超えることは悪いことではないと思いますけど」

「その……、憧れが色あせてしまうようで」


 タニトがシャルジャンに恋をしていたことを知っているので、それが複雑な感情であることは察した。


「タニトさんは、巨人と戦いたいですか?」

「え?」

「女神団を率いていたくらいだから、シャルジャンの意志を継いでくれるものだと思っていました」

「それはもう! その通りです! シャルジャンがいなくなってから、我が物顔でのさばる国王派は許せません!」

「なら、強くなってください。この国が、神話級の巨人に滅ぼされても生き残れるくらいに」

「そ……、そんなことはさせません! そんな悲しいこと、言わないでください」


 あれ、ベッドを大きく見せようとしただけなのに、なぜか励まされてしまった。

 そうか。

 生き残れって王族が言うと、そういう効果があるのか。

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